『先生、さようなら~』
「さようなら。トレーニング頑張れよ」
僕の名前はディープ……じゃなかった深井(ふかい)。ここ日本ウマ娘トレーニングセンター学園……通称トレセン学園の教師を勤めているウマ男だ。
生まれてから走れる体になるまで、幼かった僕は親の言うことを聴かず、人よりも早く走り過ぎていることが周囲の人たちにバレてURAに引き取られることになった。
連れていかれた先には同族の子たちがおり、そこで一緒に自分たちの置かれている状況を説明され、その後は10年くらい世間と隔離された場所で一般教養を学ばされた。
そして、教育期間を終えた僕らは選択がない選択肢を選ばされることになる。
1、ウマ男として素性を隠し"監視"されながら、地方でひっそりと生きていくか。
2、素性を隠しながらURAが仕切っているトレセン学園などの場所で職に就いて一定の"自由"を得ながら生活するか…のどちらか。
僕らは後者を選んだ。
それからトレセン学園の教師になった僕はバレないために支給された特殊な帽子で耳を隠し、尾は某戦闘民族のように癖になる難点はあるが腰に巻きつけることによって日々、ウマ娘たちと過ごしていた。
ここの生活は"人間"基準ならまあまあ充実している。
だが、ウマ男としてはたった一つだけ不満がある。
それは……レースに出れないこと。
忘れもしない。初めて彼女たちの……ウマ娘たちの本気で走る姿を観て僕は後悔した。
切っ掛けは教え子たちからレースに観に来てほしいと頼まれたのが始まり。
トレセン学園にいる身として関心がなかったわけではない。けれど、ウマ男としてバレる恐れがあったから抵抗はあった。
……しかし結局は彼女たちの勢いに圧されてしまい行くことが決まった。
……当日。
レース場に着いてまず驚いた。人が沢山いる。世界中には何十億もの人が居ることは知っていたが、その一端とはいえこんなにも居るなんて思ってもいなかった。
レースが重賞でそれも最高峰のG1である…東京優駿<日本ダービー>だからなのもあったのだろう。
だが、これだけの人……ファンが"ウマ娘"たちに期待していることの裏付けにも思えた。
席についてはトレセン学園の関係者ということもあって一番前。彼女たちが走る姿を間近で観ることが出来る好待遇。ファンには少し申し訳ない。
パドックを観たり、コースにウマ娘が入場するのを観たりして時間が経ち……
そして、出走するウマ娘たちがゲートに入り……レースが始まる。
ゲートが開きウマ娘たちが走り始めた途端、一気に沸き上がるファン。
声に驚いたものの僕は走るウマ娘たちを観ていた。
いつも無邪気に笑っている子たちが苦痛な表情を浮かべながら走っている。
どうして?
……いや、知っている。僕は知っている、この思いを。観たら気づいてしまう。現実を知ってしまう。解っていたはずなのに。
レース場で教え子たちがファンの声援に後押しされながら、ライバルと競い合う姿を観て……僕は気づいたら泣いていた。
ああ、僕は……ウマ娘たちと同じだ。
諦めるのは簡単。けど、苦しくても走り続ける。
その理由はちゃんとある。それは勝ちたいから。ターフを一番で突き抜けるあの快感。ライバルに負けたときはとても悔しい屈辱感。
だって、そうだろ?
僕らは"走る"ために生まれて来たんだ。
なら何故、そこに僕は居ないのか?
何故、性別が違うだけでここまで環境が違うのか?
走りたい、競いたい、限界を越えたい。
けれど、僕にその資格はない。
生まれた瞬間から僕の人生は終わっていた。
それに気づかされたとき、僕の心はあきらめていた。