精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた   作:平成オワリ

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第十二話 戦いの前に

 そして三日後――。 

 

 俺たちはコロシアムの入り口に立ちながら、巨大な入口を見上げる。

 左右には古のワルキューレのような美女の銅像が槍を合わせて門を作っていて、入る者を威圧していた。

 

 この二対の天使はこれから戦う精霊たちを表していて、大陸中のコロシアムでは姿こそ異なるが、どこでも採用されている形だ。

 

 ……この感覚、久しぶりだな。

 

 俺は普段あまり感じない高揚感に包まれていた。

 

 五年だ。最後にこの門を潜ったのは、それが最後。しかも最悪のときだった。

 

「大丈夫ですかマスター?」

 

 立ち上がって感傷に耽っていると、エメラルドから声がかかる。その顔はどこか心配そうで、どうやら俺が過去のことを思い出していることに気付いているらしい。

 

 ……まったく、この子は本当に優しい。

 

「……ああ。心配いらない。エメラルドこそ大丈夫か?」

「はい」

 

 力強く頷くエメラルドを見て心強く思う。

 本当は俺よりもずっとトラウマになっていてもおかしくないのに、彼女はそれを欠片も見せない。

 

 ずっと共に在った。エメラルドの強さは誰よりも知っている。だからこそ、彼女がいる限り俺に怖いものなどない。

 

 ふと、新しく契約した精霊であるダイヤを見る。

 

「あ、あわわ……」

 

 誰の目から見ても緊張しているのがはっきりとわかるくらい動揺していた。

 なんというか、小動物のような動きだ。超可愛い。

 

「不安かダイヤ?」

「え? あ、いや! そ、そんなことないよ! 全然大丈夫!」

 

 それが嘘だというのは一目でわかった。

 正直、強がる仕草は可愛いからこのままもう少し弄りたいところだが、さすがに可哀そうでもある。

 

「別に不安に思うことは、決して悪いことじゃない」

「え?」

「緊張するのもいい。緊張は己のパフォーマンスを下げるが、同時にそれを乗り越えた時、凄まじい力を発揮するからな」

「……そうなの?」

「ああ」

 

 緊張するということは、そのことについて真剣に考えているということ。さらに言えば、克服しようとする力だ。

 だからこそ、緊張に支配されてしまえば従来の動きが出来ないが、乗り越えた時に一つレベルアップ出来るのである。

 

「心配するなダイヤ。お前の本当の力を私は信じている。お前はそんな私を信じてくれ。そうすれば、私たちは誰にも負けないさ」

「そうですよダイヤ。貴方はマスターが認めた精霊。この街にいる誰よりも強くなれるのが道理です」

「……うん。ありがとうマスターさん、エメラルドさん。ボク、頑張る!」

 

 むん、と気合十分といった様子を見せるダイヤ。身体はまだ震えているが、それでも一歩前に踏み出せただろう。

 

「それでは行こうか」

「おい兄ちゃん!」

「む?」

 

 俺を呼ぶ声に振り向けば、そこにいたのは可愛い子ども精霊たちと、ガルハン、それに孤児院のシスターだ

 

 ……なんであのメンバーにあの禿げ頭がいるんだ?

 

「俺ら、応援してるぜ! 絶対勝ってくれよ!」

「ええ、ダイヤちゃんは今までずっと頑張ってくれてたもの! だから神様もきっと、貴方の行いを見ていたわ!」

「……ああ、そういうことか」

 

 どうやら俺の知らないうちにわだかまりは解けていたらしい。

 

 凄いガルハン。あの見た目とこれまでしてきたことがあるのに和解するとか、コミュ力の塊か?

 そういえばあいつ、初対面のくせに俺たちに当たり前のように話しかけてきたんだった。

 

 俺はどちらかというと誤解されやすいタイプなので、羨ましい。

 

 そんな風に俺が恐れおののいていると、小さい精霊たちがわー、とダイヤに近づいて抱き着いていく。

 

「ダイヤお姉ちゃんがんばってー」

「ねえたんのおうえん、してるよー」

「わ、もうみんな! ……うん、お姉ちゃん頑張るからね!」

 

 なんという美しい光景だ……一生保存したい。とりあえず目に焼き付けよう。

 特に幼い精霊の舌足らずさ、ヤバすぎる。持ち帰りたい。

 

「兄ちゃん、それで、その……本当に勝てるのか?」

「愚問だな。私は精霊たちと共に在る限り、負けはない」

「そうか……」

 

 俺が自信満々に言い切ると、ガルハンは一瞬だけ俺を見て覚悟を決めたような目をする。

 

「じゃあ俺は、兄ちゃんたちに全財産を賭けるぜ!」

 

 おいやめろ。勝手に自分の人生を俺に賭けるんじゃない。それをするなら俺とは関係ないところでやってくれ。

 

「……ふ。賭け事など碌な物ではないぞ?」

 

 だから止めなさい。ギャンブルは身を亡ぼす典型的なやつだから。特にお前みたいな裏家業っぽいのは失敗するやつだから。

 

「へへへ。こいつは賭け事じゃねえ。ただ落ちてる金を拾うだけの簡単なやつだぜ。勝つって分かってる勝負は、ギャンブルとは言わねぇからな」

「お前というやつは」

「……ガルハンさん」

 

 なんか隣のシスターがガルハンを熱い目で見ている。

 え? もしかして貴方、このダメ男に恋してる? 

 

 ちょっと待って欲しい。別にシスターが誰を好きになっても構わないが、しかし彼女はダイヤの育ての親。

 つまり彼女は将来的な俺のお義母さん。

 

 ということはである。このまま行くと、ガルハンは俺の……お義父さん?

 

「……おいガルハン」

「あん?」

「俺に全額賭けておけば問題ない」

「おお! アンタはやっぱ最高だぜ」

 

 今回は勝つだろう、それは確定事項だ。そして人は賭け事で一度勝つと病みつきになる。

 つまり、ここで大勝すれば気が大きくなって大金を賭け始め、いずれは破滅するという寸法だ。

 

 そうなればシスターも呆れてしまうに違いない。なにせ神に仕える身だからな。ギャンブルで身を亡ぼすような男に尽くすことはないに違いない。

 

 完璧だ。俺は俺の頭脳が恐ろしい。

 しかもこの悪魔の頭脳は更なる策略を思いついてしまった。

 

「ああそうだ。シスター、以前貸した金貨はあるか?」

「あ、はい。さすがに大金だったので、私が外に出るときはこうして持ち歩いています」

「そうか。それならそれを全額俺に賭けておいてくれ」

「え、えええ⁉ こ、これだって……金貨、ですよ?」

 

 シスターは一瞬驚いた顔をした後、周囲を伺うようにして声が小さくなる。

 

「自分で自分に賭けるのはルール違反だからな。だがシスターが俺に賭ける分には問題ない」

「そ、それは……」

「いいじゃねえかマリアさん。どうせこの街の領主から出る金だ。せいぜい、出来る限りの嫌がらせをしてやろうぜ」

 

 ……そっか、この人マリアさんというのか。まあシスターだしシスターでいいだろう。

 

「もう、ガルハンさん! そう言う問題じゃありませんよ。だって負けたらこれだけの額が一気に……」

 

 どうやら彼女は額の大きさに戸惑っているらしい。

 俺からしたら問題ない金額だが、彼女からすればとんでもない額なのか。

 

「もちろん謝礼はする。そうだな、賭けた金額は、そのままシスターと教会に寄付するとしよう」

「え? でもそれは賄賂というのでは……?」

「違う、『寄付』だ」

 

 賄賂、じゃない? と目を回しながら何度も呟いている彼女に、これまで相当苦労をしてきたのだなと少し憐憫な思いが湧いてくる。

 そんな彼女の後押しをするために、俺はちらっと小さい精霊たちを見た。

 

「これだけあれば、あの子たちにも美味しいご飯を食べさせられるぞ?」

「あ……」

「心配するな。精霊教会は精霊のためにある。あの子たちのためなら、神様も許してくれるさ」

「そ、そうですよね……神様だって、許して、くれますよね?」

「ああ」

 

 もし許さないという神がいたら、俺がぶっ飛ばす。

 

「さて、それではそろそろ時間か。ダイヤ、もういいか?」

「え? あ、うん! それじゃあみんな、お姉ちゃん、頑張ってくるからね!」

「お姉ちゃんがんばれー」

「ねえたん、がんあれー」

 

 舌足らずの子、超可愛いんですど。やっぱり持ち帰りたい!

 

「マスター、ご武運を」

「ああ。では行ってくる」

 

 エメラルドの微笑みに心を清め、俺は改めてダイヤを見る。

 先ほどのやり取りで緊張が解けたのか、彼女の顔はずいぶんと晴れ晴れとしたものだ。

 

「どうやら、乗り越えたようだな」

「え?」

「なんでもない。そうだな、せっかくの精霊大戦だ。存分に楽しもう」

「……うん!」

 

 そして門を潜って、他の精霊たちが待つ舞台へと向かって行くのであった。

 

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