精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた 作:平成オワリ
——解説席。
『な、ななな! なんということでしょう! ブラックダイヤモンドだ! ブラックダイヤモンドが強い! ブラックダイヤモンド、他の精霊たちを一蹴! つい先日までただ一度の勝利も手にしたことのなかった最弱精霊の逆襲劇が始まるのか⁉ このような展開、いったい誰が予想したということでしょうか!』
『これは……』
『解説のオーエンさん! これはどのようにみた方がいいのでしょう⁉ やはりあのマスターがなにかをしたのでしょうか⁉』
『少しだけ待ってください……』
実況の興奮気味な言葉に、オーエンは巨大なファイルを取り出す。そこにはこの都市に住む精霊たちの、精霊大戦の戦績表が書かれていた。
『やはり……』
『やはり? オーエンさんはなにに気付いたのでしょう? もしやあのマスターに秘密が……』
『これを見てください』
『これは……この地方都市における精霊大戦の戦績表ですね。これがなにか? やはりブラックダイヤモンドは全戦全敗だという事実が書かれているだけでは……』
実況の言葉にオーエンは恐ろしいものを見たと言わんばかりに顔を強張らせ、首を横に振る。
『精霊たちは戦えば戦うほど強くなると言われています。それは精霊界におけるマナを吸収することで、精霊としての格が上がるから』
『そうですね……それがいったい?』
『精霊大戦は一回参加するだけで精霊に凄まじい負担がかかります。そのためほとんどのマスターは参加すれば、精霊を二週間以上休ませます』
『ええ』
そうしてファイルをめくり、ある精霊を指さす。
『この都市で二番目に戦績がいい精霊、グランドダッシャー……通算35戦28勝』
『アマゾネスボルケーノがいなければ、間違いなく都市最強を名乗れる大地の精霊ですね』
『はい。マスターの実力ともに中央付近で戦っていてもおかしくない強さです。そのアマゾネスボルケーノの戦績は、通算48戦48勝』
『勝率百パーセント。彼女が出るとわかるだけで参加を取りやめるマスターも多い、名実ともにルクセンブルグ最強の精霊。登場してから二年間負けなし……改めて数字で見ると凄まじい戦績です』
他の精霊たちを順番に開きながら、10戦3勝、26戦10勝など説明していき——。
『そしてブラックダイヤモンド……264戦264敗』
『……え? に、ひゃく?』
『規模の大小はあるとはいえ、ほぼ毎日行われている精霊大戦。そのほとんどに彼女は休みなしで参加しています。この都市ではそれが当たり前になっている光景だった。ルクセンブルグの精霊大戦において、必ず負けるブラックダイヤモンドというのは日常だった。だから誰も気づかなかった。ですが……』
信じられない、とオーエンは天を仰ぐ。
『もっと早く気付くべきでした。ブラックダイヤモンドという精霊の異常性を。そしてこの都市のおかしさを……』
『これも、これも、これも! この都市の資料を見ても、百戦以上している精霊なんて、どこにもいない!』
『精霊たちにとって精霊大戦の負担はそれほど大きいのです。戦うという精神的疲労、そしてなにより精霊界からマナ吸収する行為そのものが、凄まじい負担となる。精霊たちが精霊大戦から引退するそのほとんどの理由が、マナの限界摂取です』
マナの吸収が限界を超えた精霊は、長時間精霊界にいることが出来なくなる。またそれ以上マナを吸収出来なくなるため強くなれず、そのため引退するのだとオーエンは言う。
『これまで見たところ、ブラックダイヤモンドはまだ過剰摂取状態にまで至っていない。つまり、限界に達していない成長途中です』
『なんと……』
『中央に進出する精霊たちはその圧倒的な強さから出身地方では様々な呼び名で呼ばれます。天才、神童、無敵、最強……しかしもし彼女を一言で表すとしたら私はこう呼ぶでしょう——』
――怪物、と。
オーエンは静かに興奮しながら、生唾を飲み込んだ。
そして思う。もしこれまで誰も目覚めさせることの出来なかった怪物を呼び起こしたのがあのマスターなのだとしたら、やはり——。