精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた 作:平成オワリ
まったく末恐ろしい。これでまだ成長途中だというのだから……。
やったー、倒したーと喜びながら飛び跳ねるダイヤ。
俺はそんな彼女の揺れる二つの丘を眺めながら、興奮を抑えられずに生唾を飲み込んでいた。
顔に出すわけにはいかない……冷静に、冷静に……。
「よくやった」
「うん! あとは……」
「グランドダッシャーとアマゾネスボルケーノの二人だな」
この都市最強と呼ばれているツートップ。その名を出した瞬間、ダイヤの顔が少し曇る。
「……二人とも、凄く強いから」
「心配するな。お前には私が付いている」
「そう……だね! マスターさんと一緒ならボク、誰が相手でも負けないよ!」
「言ってくれるじゃねぇかぁぁぁ!」
「っ——⁉ マスターさん!」
突然、俺とダイヤの足元から叫び声が聞こえてくると、地面が浮かび上がった。
すぐにダイヤが抱きしめながら躱してくれたから事なきを得たが、あのままあそこにいたら俺は死んでいたかもしれない。
「おいグランドダッシャー。不意打ちするのに声を上げるなよ逃げられたじゃないか」
「なんで俺様が雑魚精霊相手に不意打ちなんて卑怯な真似しなきゃいけねぇんだ。こういうのは正面からでいいんだよ」
「はぁ……人の魔力を使っておいて……まあいいや。別にあれで決まるなんて最初から思ってなかったし」
地面から出てきた二人組。グランドダッシャーとそのマスターが言い合いをしている。
――で、デカい……。
身長もだが、それ以上に圧倒的ボリュームな胸に俺は思わず視線を鋭くさせてしまう。
短く刈り上げたスポーツマンのような赤茶色の髪の毛。それに頬に入った鋭い傷。歴戦の戦士といった風貌。
なるほど……悪くない。
「へぇ……マスターのくせに中々鋭い殺気を放ってくるじゃねえか。うちのナヨナヨしたのも見習ってほしいぜ」
「誰がナヨナヨしただ。というか、どう見ても裏家業っぽいマスターにビビるんだけど」
「はっ、びびりかよ。まあそんなビビりのマスターを助ける健気な精霊が、その恐怖を振り払ってやるから、せいぜいサポートしろよ!」
グランドダッシャーが敵意ある視線でこちらを睨む。その瞬間、敵マスターが魔力を高めた。
「行くぞグランドダッシャー! 『フィジカルブースト!』『スピードアップ!』」
「おおお! きたきたきたー! 相変わらずお前の魔術は良い感じだぜー!」
マスターによる魔術支援。それは精霊の能力を底上げするものだ。
その補正値は魔力量に依存するといわれている。だからこそ、強大な魔力をもったマスターのランクが重要視されるようになっているのだ。
他にも精霊が強力な魔術を使うためには、マスターの魔力が必要になる。
つまり何が言いたいかというと、マスターの支援を受けた精霊の能力は一気に跳ね上がるということ。
「先ほどまでのように油断をしてくれて、手を抜いてくれていればいいものを」
「マスターさん! 来るよ!」
先に倒した五体の精霊たちは、いずれもダイヤの実力を見誤りマスターの支援を受ける前に倒した。
だからこそ彼女も感じているはずだ。あれは、先ほどまで倒した精霊たちとは違う、と。
「行っくぜー! 覚悟しやがれ雑魚精霊!」
すぐそこまで近づいてくるグランドダッシャー。その手には石で出来た巨大な斧。
あれで叩き潰されれば、俺などぺちゃんこどころか木っ端微塵に吹き飛ぶだろう。
「ダイヤ……私の支援がいるか?」
「……ううん。大丈夫! ただ見ていて。それだけで、いくらでも力が湧いてくるんだ」
「ああ……」
「死にやがれー!」
凄まじい勢いで振り下ろされる石斧。それをダイヤは正面から受け止め、恐ろしく鈍い音が周囲に鳴り響いた。
「んなぁ⁉」
「やあああああああ!」
「な、あ、ぐ……うわぁっ⁉」
グランドダッシャーの巨体をダイヤが一気に弾き返す。そうして上半身をのけ反らせてしまい、隙だらけだ——。
「う、嘘だろ⁉ グランドダッシャーのパワーはこの都市でも一・二を争うんだぞ! なんでブラックダイヤモンドなんかに!」
「喰らえぇぇぇぇ!」
「ヤッベェ! 避けられねぇ!」
「グランドダッシャー⁉ 間に合え、『マテリアルシールド!』
ダイヤの叫び声とともに、手に持った斧剣を一閃。
グランドダッシャーとの間に六角形の光の壁が突如生まれたが、それすら一撃で砕き、そのままグランドダッシャーの身体を切り裂いた。
「かぁッ⁉ シールド、ごと……つ、つえぇ……」
「グランドダッシャー⁉ くっそぉ……ここまでか」
精霊は敗北したら金色のマナに変わり、そして人間界へと戻って行く。そしてそれはマスターも同じこと。
彼らは光となり、キラキラと風に乗って消えていった。
「マスターさん……」
「あと、一人だ」
あのマスターの魔力量はCランクはあった。それにグランドダッシャーの精霊としても実力も低くはないのを俺は知っている。
それでも圧倒するダイヤは、やはり最高に可愛い。可愛いは正義、可愛いは最強ということだろう。
そうして俺たちは、こちらの戦いを少し離れたところから見ていたアマゾネスボルケーノとザッコスの方を見る。
「さあ、行くぞ。お前が前に進むために」
「うん!」
迷うことなく一歩を踏み出した。
これが、俺たちの最後の戦いだ。