精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた   作:平成オワリ

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第十七話 守る力

 迫りくるアマゾネスボルケーノの拳。人間相手に棍棒など必要ないということだろう。

 

 それを冷静に見ながら、俺は彼女の動きがあまりにも遅いと思った。まるで世界が俺だけを残してスローモーションになったようだ。

 

 周囲にはなにかイラストの描かれた大量の紙が舞っている。

 よく見るとそこに映っているのは俺の姿。それにエメラルドとの出会いやこれまでの戦いの軌跡、つい最近のダイヤとの出会いまである。

 

 ――なんだこれは。

 

 明らかな異常事態。俺は確かに鍛えてはいるが、それはあくまでも人間の範疇でしかない。

 

 超常の力を持つアマゾネスボルケーノの攻撃を見切れるわけもないのに、俺の目にははっきりと彼女の拳を捉えている。

 

 これならば簡単に避けることが出来そうだ。

 

 周囲に流れる紙やこのゆっくりと進む時の中、俺は一つの答えに辿り着いた。

 

「そうか、これがゾーンに入ったということか」

 

 どうやら俺は人間でありながら『覚醒』してしまったらしい。

 今なら誰にも負けないだろう。ふふふ、なるほどなるほど。

 

 今の俺は最高のコンディション! ここで俺が華麗にアマゾネスボルケーノをやっつければ、きっとダイヤも俺にべた惚れで――

『マスター、とっても格好良かったよ! 抱いて!』

『仕方ないなダイヤは。ほら、こっちに来るがいい』

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 

 最高だ、完璧だ、素晴らしい未来だ!

 

「その未来のため、アマゾネスボルケーノには悪いが、ここで決めさせてもらおう」

 

 そうしてゆっくりと近づいてくる巨大な拳。もし普通の状態の俺だったら、そのまま顔面陥没して悲惨なことになっていたことだろう。

 

 だが今は違う。しっかり見極めて避けてしまえば――。

 

「ところで、身体が動かないのはなぜだ?」

 

 迫る拳。それを見る俺。

 

 俺だってわかる。今ゆっくりに見えているのは錯覚で、現実のアマゾネスボルケーノの拳は普通なら見切ることなど出来るはずがないレべルのものだ。

 

 だがゾーンに入った状態の俺なら避けるのも容易い。そう思っていた瞬間が俺にもあり、そして現実を理解する。

 

「これ……走馬灯だ」

 

 周りの紙は俺の今まで歩んできた歴史。

 

 つまり、死の淵に世界がゆっくり見えるというあれである。

 

 そして残念ながらその世界に意識はあっても身体はない以上、動けるはずもなく――。

 

「あ、俺死んだ」

 

 そして、ゆっくり動く世界が現実を侵食し始めて――。

 

「駄目ェェェ!」

「ガァ⁉」

 

 愛らしい女の子の叫び声と共に、時が動き出す。

 

「おお……」

「マスターさんは、ボクが守る!」

「グワッ⁉」

 

 咆哮と共に現れたダイヤが、強烈な一撃を叩きこむ。

 

 とっさに防御をしたアマゾネスボルケーノだが、俺に攻撃しようとしたせいか態勢が整わず、遥か遠くまで吹き飛ばされた。

 

 そしてアマゾネスボルケーノを吹き飛ばしたダイヤは、胸を揺らしながら俺の前に立つと思い切り肩を掴み――。

 

「マスターさん!」

「む、なんだ?」

「なにやってるの⁉ いや本当になにやってるの⁉ マスターさんは人間なんだから、精霊と戦おうなんてしちゃ駄目に決まってるよね⁉ もう少しで死んじゃうところだったんだよ⁉」

「精霊界で死んでも、マナになって元の会場に戻るだけではないか」

「それでも恐怖は感じるでしょ⁉ 痛みだってある! たしかに人間界には帰れるかもしれないけど、普通に死ぬのと変わらないんだからね!」

「ふむ……」

 

 凄まじい剣幕で俺に迫るダイヤに、俺は内心タジタジだ。

 正直に言う。可愛いからずっと見ていたいけど、同時にちょっと怖い。

 

「もう一回聞くよ⁉ なんでこんなことしたの⁉ 死ぬのは、怖いんだよ⁉」

「だが、私は死ななかった」

「それはっ!」

「ダイヤが守ってくれたからな。もちろん私もアマゾネスボルケーノに勝てるなんて思っていないさ。ただ信じていただけだ。私の、大切な精霊のことをな」

 

 嘘ですごめんなさい。めっちゃ勝てるとか思ってました。ついで言うと、格好いい姿を見せられるとか妄想してました。

 

「ま、マスターさん……」

「そしてお前は見事、私の信頼に応えてくれたな。お前なら絶対に恐怖に打ち勝ち、私を守ってくれると信じていたぞ?」

「あ……そっか、マスターさんは恐怖に足が竦んでいたボクが立ち直れるように、わざと……」

「言っただろう、恐怖を感じることは決して悪いことではない、と。なぜならそれを乗り越えた時、更なる高みに立てるのだから」

 

 俺がそう言うと、ダイヤは真剣な表情で見つめて来る。そして己の震える掌を見つめて、それを握り込んだ。

 

「でも……もしボクの力が通用しなかったら、どうするつもりだったの?」

「そんな可能性は、万に一つもない」

「え……?」

「何故ならブラックダイヤモンドという精霊は『誰かを守るとき』、他のなによりも強い力を発揮する精霊だからだ」

 

 精霊は己が強くなることを、本能として刻まれている。それは己の意思でどうこうなるものではなく、だからこそ精霊大戦という戦いに勝つことを渇望していた。

 

 勝つな、というのは精霊に取って息をするなというのと同義だ。

 

 だが、この子はそれでも従った。戦い続けた。

 己の家を、家族を、居場所を守るために。

 

 ダイヤの頭を撫でるように、俺は優しく手を置いた。

 

「お前は凄い精霊だ。数多の精霊たちを見てきたが、お前のように『誰かを守るために』己を犠牲にして戦える精霊は見たことがない。だから信じた。お前なら、きっと私を守ってくれるとな」

「……うん。守るよ。これからも一生、ずっと、マスターさんのことは、ボクが守る!」

「ああ……」

 

 もう結婚する。絶対結婚する。だってこの子、超いじらしいし超可愛い。

 

 そう思ってダイヤの小さな身体を抱きしめようとしたところで、遠くから飛んでくるアマゾネスボルケーノが見えた。

 

 くそぉ……あと少しでこの柔らかい身体を堪能できたのに……。

 

「アンタラァァァ、このアタイを、舐めるなァァァ!」

「――っ!」

 

 瞳は真っ赤に血走り、筋肉は先ほど以上に膨張している。

 

 こちらを見る目まるで正気を失った狂戦士であり、彼女は咆哮しながら巨大な棍棒を振り上げてこちらに飛んできた。

 まるで活火山が噴火をしているかのような、鮮烈なまでの激怒。

 

 彼女が本気でこちらを叩き潰そうとしているのが、はっきりと伝わってきた。

 

「行けるな?」

「うん。もう、怖くないよ」

「なら行くぞ。敵は荒れ狂う暴虐の化身となったアマゾネスボルケーノ。だが、ダイヤの『守る力』にはある」

「うん……」

「私を守ってくれるのだろう?」

「うん、見てて。ボクの背中を、すべてを!」

 

 そうしてダイヤは空を飛ぶ。精霊たちの花形と言ってもいいであろう、空中戦を仕掛けたのだ。

 

 彼女が飛び立った瞬間、一陣の風が吹いた。

 そして揺れる彼女の精霊装束。

 

「ああ……すべてを見ているとも」

 

 やはり、モニター越しではなく生で見るのは最高だ。色々な部分がしっかり見れる。

 

 そうして俺は瞬き一つせず、ただただブラックダイヤモンドを見続けていた。 

 

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