精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた 作:平成オワリ
精霊大戦が行われているコロッセウムは老若男女、多くの人で賑わっていた。
この場所で精霊とマスターが集い、特別な門を通って精霊界へと入ることになる。
そして観客たちは、映像魔法によって精霊界で行われている精霊たちの戦いを見て楽しむという方式だ。
今俺たちがいる地方都市ルクセンブルクは、精霊大戦の盛んな街であるという噂は以前から聞いていた。
たしかにこれまで見てきた地方都市の中では活気のある都市だと思う。
コロッセウムにはほぼ満員と言っていいほどの人が集まっているし、それぞれ推しの精霊がいるからかサポーターらしき人たちが多く見られ、横断幕なども並んでいる。
「どう思うエメラルド」
「残念ながら、マスターがスカウトするに値する精霊は出ていないかと」
「そうか」
俺は改めてモニターを見る。
コロッセウムはあくまで観客を一ヵ所に集めて見やすくするためにあるだけの場所に過ぎず、実際の戦場は神によって作られた精霊界。
精霊大戦の舞台は、俺たちが住む世界とは違う異界で行われる。
コロッセウム中央上空部。そこに映っているのは八人の精霊たちが宙を舞い、地面を疾走し、武器を構え、魔法を放ち、たった一人で人間の軍隊以上の力をもって、己の最強を賭して戦っていた。
まるで古の英雄たちのような動き。
普通の人間では絶対に勝てない、神に選ばれし最強の種族たちの戦いというのは、見ているだけで心震えるものだろう。
すでに今回の精霊大戦が始まってから数時間。そろそろ決着が着きそうな頃合いだが――。
「私の目には、どの精霊も素晴らしく映る」
「もう、マスターはそればかり。いいですか、精霊には己に見合った格というものがあります。優れたマスターの下には当然、優秀な精霊を集めるべきなのです。そう、マスターのような……」
俺がこういうことを言うと、いつもエメラルドが少し拗ねたように言い返してくる。
この子はどうも、俺がとんでもなく優秀なマスターだと思い込んでいる節があるのだが、実際は平凡なマスターだ。
ただエメラルドティアーズという、世界最高峰の精霊とたまたま出会い、たまたま波長が合い、そして共に在ることを許されただけの存在。
「ちなみに、マスターの目にはどの精霊がどう素晴らしく見えるのですか?」
俺が他の精霊を誉めたからか、エメラルドが少し意地悪な質問をしてきた。
「そうだな……」
改めて精霊たちの映っているモニターを見る。
精霊たちが戦う際には精霊装束という物に着替える。
それがまたそれぞれの特性を表していて、とても映えるものだ。
今映っている精霊たちもそれに漏れず、それぞれ可愛く、そして美しい精霊装束で着飾った美人や美少女たちばかり。
時折モニターでは際どい角度で映し出される太ももや、時折揺れる胸はまさに眼福モノである。
「やはり、潜在的に良い物を持っているな」
「潜在的に? たしかに精霊はマスターとの相性や、精霊大戦を繰り返すことでより強くなりますが……」
「表面的な部分は簡単に見れる。しかしその奥まで見通すことが出来れば、その精霊たちの本当の姿が見えてくるものだ」
「マスターには……それが見えているのですか?」
「……いや」
くっ、スカートの奥が見えそうで見えない! あのモニター1もうちょっと頑張れよ! いける、お前ならいけるって! なんであんな空中をヒラヒラ動き回ってるのに、ギリギリで見えないんだ! 絶対なんか変な力働いてるだろこれ!
「精霊たちの本質を知りたければ、やはり契約するしかない。ただ、そうではなくても、見える部分という物はある」
よしいいぞ! その角度からなら胸の揺れが良く見える! モニター2、お前はやれば出来る奴だ! それに比べて下から見上げるモニター1! お前は本当に駄目な奴だな!
「見える部分……」
「ああ、例えば勘違いをしているやつが多いが、最初から強い精霊たちだってトレーニングをしなければ本当の意味で強くはなれない」
「それは……そうですが」
「そしてそのトレーニングにおいて、足を見ればだいたいどのレベルまで鍛えているかわかるというものだ」
モニター3! いけ! もっと近づけ! そうだそこだ! その太ももをもっとアップにして……ああクソ遠ざかっちまった! せっかくいい角度だったのに!
「……しかし、どう見ても大した鍛錬も出来ていない精霊が多く見えますが」
「見ろ、あの黒い髪の精霊を」
「え?」
俺が一番注目しているのは、黒髪を両括りにした精霊だ。
見た目の年齢は少し幼めに見えるが、その実今飛び回っているどの精霊よりも美しい足をしていた。
「あれは一朝一夕で身に付くものではない。自身に過酷な負荷をかけ、努力に努力を重ねた証拠だ」
「……たしかに」
しかも、単純な見た目がとても可愛い。基本的に精霊はみんな可愛いし特徴的だが、あの黒い子はその中でも群を抜いていると思う。
クリッとした黒い瞳はあまり争いごとには向いていなさそうだが、それでも斧と大剣の中間のような武器を持って一生懸命戦っている。
黒をベースに緋色のラインが入った東方の民族衣装に近い精霊装束からは谷間が少し見えていて、時折揺れるそれが俺の心を刺激していた。
もし自然にあれだというのなら、間違いなく逸材! 俺が全力で金を払い、あらゆるプロというプロを呼んで磨き上げなければ! そして最後はベッドにイン! 俺がすべてを教えてあげなければ!
ただ、唯一気になることと言えば――。
「しかし、明らかに一番弱い」
「そうだな。しかしあれはマスターが悪い。あの精霊に対して、碌な支援も出来ていないのだから」
精霊界に入れるのは精霊とその契約者であるマスターだけ。
そのマスターがへっぽこであると、優秀な精霊も途端に弱くなってしまう。
例外は俺みたいにへっぽこマスターでも圧倒的な力を発揮した、エメラルドティアーズのような精霊だけだ。
「せめて相性が良ければまた別なのだが……」
「相性も実力も揃っていないのでは、勝ち目などあるはずがないです」
エメラルドの言う通り、あの黒い精霊少女の実力はほんのわずかも発揮できていない。そのせいで他の精霊たちと比べてもまともに戦えておらず、すでにボロボロになっていた。
俺はふと、モニターの横に映っている人気を表す掲示板を見る。
「……ブラックダイヤモンド、八番人気か」
つまり、最下位ということ。倍率も一人だけ飛び抜けていて、彼女がこの地方都市ルクセンブルグの精霊大戦において、これまで勝利を得られていない証拠だ。
「可哀そうに……良いマスターが付けばきっと、彼女の努力は報われる」
「そうだな。しかし精霊との相性、こればかりは神のみぞ知る。我々にはどうしようもないだろう」
もしも、俺との相性が良ければ手取り足取り、もちろん夜のベッドで教えてやるというのに。
精霊大戦の戦略的な話? それはエメラルドに任せた。だって同じ精霊同士で教えあった方が絶対有意義だし。
「他の精霊たちの質も決して悪くはない。ただマスターの質がどうにもいまいちだな」
「そうですね。とはいえ地方都市であればこれくらいが普通ですよ? マスターのような人は、そうそう現れるものではありません」
「私のような者……か」
……いったいエメラルドの中での俺はどんなマスター像となっているのだろうか? 怖くて聞けないのだが。
「……今回の精霊大戦も、そろそろ終わるな」
「はい。人気投票通りの結果になりそうですね」
すでに目を付けていたブラックダイヤモンドは敗北し、光の粒子となって精霊界から追放されている。
精霊界ではアストラル体のため、どれだけの攻撃を受けても死ぬことはないが、恐怖はその身に刻まれたことだろう。
もし、俺がマスターだったらめちゃくちゃ抱きしめて、そのまま慰めるという名目で色々とするのに!
「歯痒いな……」
「マスターは、彼女をスカウトしようと思ってるですか?」
「……いや、今は止めておこう。きっと、その時じゃない」
たしかに俺は精霊ハーレムを求めている。しかしそもそも精霊たちには『他の精霊たちよりも強くなる』という本能がある。
今の弱い彼女が、弱い俺と組んで強くなれるとは思えなかった。
「己の壁は、己でしか崩せない」
「……心に刻んでおきます」
いや、そんな大層なことを言ったわけじゃないので刻まないでくださいエメラルドさん。
そうこうしている内に、精霊大戦が終了する。最後に立っていたのは、紅い炎をまき散らしいているアマゾネスボルケーノという精霊だった。
コロッセウム内では歓喜の声、失望の声、様々な声が響き渡り、賭けに使われた精霊券が飛び交う。
精霊を賭けに使われること自体は構わないと思うが、最後まで一生懸命戦った精霊たちに大しては、勝っても負けても同様に扱ってあげて欲しいと思うのは、俺のエゴなのだろうか?
「マスター?」
「……問題ない。行くぞ。とりあえず今後はしばらく、ここで対戦を見ながら考えよう」
「はい、マスター」
俺のハーレムに入ってくれるような可愛くて気立てのよくて、俺のことを愛してくれるような精霊と出会えるまで、俺は止まらない。
絶対に作って見せる! 精霊ハーレムを!