精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた   作:平成オワリ

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第十九話 魔物襲来

『決まったー! ブラックダイヤモンド、ついに都市最強にして無敗の精霊アマゾネスボルケーノを撃破ァァァァ! 解説のオーエンさん、如何だったでしょう!?』

『素晴らしい戦いでした』

『いい感じに淡々としたコメントありがとうございます! さあそれではこれより勝利したブラックダイヤモンドへの勝利インタビュー……を?』

 

 実況の声がそこで止まり、そして周囲の人間たちも何事かとモニターを見る。

 そこに映っていたのは、まるで火山を支配しているような、巨大な緋色のドラゴン。

 

 オーエンが呆然とした様子でぽつりと零す。

 

『魔物……それも、よりによって……』

「ドドド、ドラゴンだー! た、大変です皆さん! 精霊大戦の舞台にドラゴンがやってきました! これは不味い! 緊急事態、緊急事態です! 今すぐ戦える精霊とマスターはコロシアムに集合してください! あんなのが人間界に現界したら、この街が壊滅してしまいます!』

 

 その瞬間、コロシアム中に悲鳴が響き渡る。

 大慌てで逃げ出すもの、腰を抜かすもの、ただ諦めの境地に立ってモニターを見上げる者。

 

「――」

 

 コロシアム内はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

 そんな中、ただ一人颯爽と動く者がいることに気付けた者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 古の時代、大陸を支配していたのは人間ではなく、強大な力を持った魔物たち。

 人はただそんな魔物たちに恐怖し、日々を生き残るために大地にかぶりついてきた。

 

 そしてそんな魔物たちを人間界から追い出したのが、神より遣わされた『精霊』という存在。

 

「な、なんでよりによってこのタイミングで魔物が出てくるんだよ! おかしいだろこんなの!」

 

 ドラゴンに気付いたザッコスが大きく喚く。どうやら俺の予想外にアマゾネスボルケーノの耐久力は高かったらしく、あの一撃を受けても致命傷ではなかったらしい。

 

「こ、このままじゃ街が、僕のルクセンブルグが……」

 

 だんだんと諦めたように力なく、情けなくドラゴンを見上げていた。

 

 精霊界にいる魔物たちは、基本的には人間界に干渉することは出来ない。

 

 過去に精霊たちに敗北した後、この精霊界に押し込まれて神の手によって精神体《アストラル》にされたから。

 

 だがしかし、魔物たちは今でも人間界を狙っている。精神体でしか生きられない精霊界ではなく、実際に肉体を得られて活動ができる人間界を。

 

 だからこそ、人間界と精霊界を繋ながっている、この瞬間を狙おうとしているのだ。

 

 だが――。

 

「くそ……精霊界は広いんだぞ。なんでこんなピンポイントで魔物が、しかもドラゴンなんてヤバイのがいるんだよぉ……」

 

 ザッコスの言葉はおそらく、今モニターを見ている観客たちが全員思っていることだろう。

 

 それくらい、俺たちが精霊大戦で戦っているときに魔物と遭遇する確率は低い。

 

 百回に一度あればいい方だ。と同時に、現れてもせいぜい数の多いゴブリンなど、弱くて数の多い魔物。

 

 精霊たちであれば簡単に倒せる魔物たちばかりだ。

 

 ドラゴンのような一匹人間界にやってきたら、都市が滅ぼされる災害級の魔物との遭遇など、天文学的な数字だろう。

 

「マスターさん……」

「不安か?」

「ううん……感じるんだ。ボクたちは、この時のために存在してるから」

「そうか」

 

 こちらを見下ろす姿はまさに空の王者その威圧感は、人間が勝てる存在ではない。だがしかし、ここで退くわけにはいかないだろう。

 

 精霊たちが力を発揮できるのは精霊界のみ。

 このドラゴンが人間界に出現したら、たとえ街に多くの精霊たちがいても全滅を避けられない。

 

 つまり今この瞬間、地方都市ルクセンブルグを守れるのは、このブラックダイヤモンドだけなのだ。

 

「マスターさん、教えてくれたよね。ボクは『誰かを守るとき』強くなれる精霊だって」

「ああ……」

「だったら守る。マスターさんも、シスターも、孤児院の子たちも、そして――ルクセンブルグの街全部を、ボクが守る!」

 

 一歩、彼女は前に出る。その小さな身体は震えていて、恐怖が隠しきれていない。それでも今の彼女は、誰よりも強い心を持っていた。

 

「お前だけに戦わせないさ」

 

 そんな彼女の隣に、俺は立つ。

 

「……マスターさん」

「私に出来ることはない。だが、それでも共に在ることを許してくれないか?」

「うん、見てて。ボク頑張るから」

「ああ……見ているさ」

 

 ドラゴンがこちらを見下す様に笑っている。矮小な俺たちを見て、バカにしてるのが伝わってきた。

 

 このクソ蜥蜴、調子に乗りやがって。俺はともかく、ダイヤは最高の精霊なんだぞこの野郎!

 

「お、お前たちなにやってるんだよ⁉」 

「なにを? 決まっている。あの生意気な蜥蜴を叩き潰してやるだけだ」

「ば、バカなのか⁉ 相手はドラゴンだぞ! ゴブリンとかとは違うんだ! もうすぐ街から応援が来る! そしたら全員で戦えばいいだろう!?」

 

 ザッコスの言葉はある意味正論だ。だがしかし、それと同時に間違っている。

 

 これから応援が来るより早く、ドラゴンがゲートを通って人間界に行く方が早いのだから。

 

「っ……おい坊主。アタイも行くよ」

「ボルケーノ……お前馬鹿か⁉ もう動ける状態じゃないだろ!」

「だとしても、このまま黙って寝てられるわけないじゃないか。この街は、あんまり良い街じゃないけど、それでもアタイにとって故郷なんだからさ」

 

 ふらふらになりながらも闘志を隠さず立ち上がるアマゾネスボルケーノ。

 

「だいたい、嫌な思い出しかないこの子が立ち向かうのに、都市最強なんて呼ばれてるアタイが逃げてたら、一生の恥さ」

「そんなふらふらでなにが出来る! 『ベルセルク』の反動もあるだろうが!」

「だとしてもね、戦わないといけない時がある。それが今だってだけさ。だから坊主、もう一回アタイに『ベルセルク』を……」

「……くっ、この頑固野郎! どうなっても知らないからな! 『ベルセルク』!」

 

 その瞬間、アマゾネスボルケーノの身体に再び魔力が灯る。

 ただしそれが最後の力だというのは、誰の目にも明らかだった。

 

「さぁて、それじゃあ行こうか」

「アマゾネスボルケーノさん……」

「そんな顔するんじゃないよ。どうせ、精霊界で負った傷は人間界に戻ったら治るんだからさ」

 

 それが正確でないことは、この場にいる全員が理解していた。アマゾネスボルケーノは今、己の魔力をフル動員している。それは肉体の怪我とは違い、精神体にとって心に負う怪我となる。

 

 そしてそれは、人間界に戻った後も引きづることだろう。

 

 だがそれを指摘する者はいない。

 俺も、ブラックダイヤモンドも、そしてザッコスでさえ、アマゾネスボルケーノの覚悟に気付いたから。

 

 快活に笑うアマゾネスボルケーノの姿は、とても美しい。

 

「ダイヤ……この偉大な精霊をしっかり守ってやってくれ」

「うん!」

「ははは、最弱精霊なんて呼ばれてるアンタに守られる日が来るとは思わなかったね……だけどまあ、悪い気はしないよ。それじゃあ、ドラゴン退治と行こうか!」

 

 そうしてダイヤとアマゾネスボルケーノは空を舞う。

 

 この街を守るために、最弱と呼ばれた精霊と最強と呼ばれた精霊はこの瞬間、同じ心を胸に抱いて共闘するのであった。

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