精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた   作:平成オワリ

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第二十話 ドラゴン

『アマゾネスボルケーノとブラックダイヤモンド! 二人が、二人が一緒になってドラゴンと戦ってくれてる! 頑張れ! 頑張れ二人とも!』

『頑張れ……』

『あ、ああ! しかしドラゴンは強い! 圧倒的な存在感だ! あんなものがこの街にやってきたら、我ら人間には太刀打ちする手段などないことでしょう! 今二人が頑張っている間に、マスターと精霊たちは早く、早く!』

 

 

 

 

 

 過去の歴史を紐解いて、強大な魔物が人間界にやってきた事例は少ない。

 

 その理由として、精霊大戦中に魔物と遭遇する機会はほとんどないことが一つ。

 そして仮に遭遇しても、都市全体の精霊とマスターを総動員してその魔物を退治するからだ。

 

 しかしそれでも、それはあくまで『倒せるレベル』の強大な魔物。

 

 少なくとも、人間と精霊が共に歩むようになった歴史の中で、『ドラゴン』のような存在が登場したのは、過去数回ほどだけだろう。

 

「行け! やっちまえボルケーノ!」

「……ダイヤ」

 

 人間は、無力だ。

 

 たとえ魔力をその身に宿していても、物語に出てくるような魔物を倒す魔法は存在せず、ただ精霊たちが戦う姿を見ている事しか出来ない。

 

 今、ダイヤとアマゾネスボルケーノは空を支配するドラゴンを相手に善戦していた。

 

 火山の光を吸収した赤い空の中、華麗に宙を舞い、ドラゴンの牙を避け、攻撃をする。

 

 それはあまりにも幻想的な風景。俺はこの街のピンチにも関わらず、魅了されたように魅入っていた、

 

 ダイヤが襲われているときはアマゾネスボルケーノが攻撃し、アマゾネスボルケーノが襲われているときはダイヤが攻撃する。

 

 二人は初めて共闘したとは思えないほどのコンビネーションを見せて、ドラゴンを抑えていた。

 

「よし! これならいけるぞ!」

 

 興奮した様子のザッコス。だが俺の目には、薄氷の上を歩いているようにしか見えない。

 

「いや、このままでは時間の問題だ」

「な、なんでだよ! あんなに押してるじゃないか⁉」

「よくドラゴンを見ろ」

 

 まるで羽虫を鬱陶しがるように、尻尾を振り回したりするドラゴン。

 

 何度も攻撃を受けているはずなのに、まるで堪えた様子を見せない姿に、戦っている二人の精霊たちも焦りを隠せていなかった。

 

「き、効いてないのか⁉ 『ベルセルク』状態のアマゾネスボルケーノの攻撃だぞ! そんなの、今から来る精霊たちがいくら集まったって……」

「さすがはドラゴン、といったところか。ネームドクラスの怪物ではないとはいえ……」

 

 過去に何度か人間界にやってきた魔物たち。その中でも国を壊滅に追いやった存在は、名を付けられる。

 

 それらは今でこそ精霊界に追い返せているが、しかしいつまたやってくるかわからない人類の脅威。

 

 このドラゴンも人間界に現れたら、同じように名前が付けられるかもしれない。

 

 だが――。

 

「残念だが、そうはさせない」

 

 ブラックダイヤモンドの攻撃がドラゴンの額に入る。

 どの生物でもあそこは急所であり、普通なら強靭な鱗に覆われているドラゴンも、かなりのダメージが入ったようだ。

 

「い、いけー! 今だ叩きこんじまえ!」

 

 怯んだドラゴンにアマゾネスボルケーノが一気に空を駆けた。

 

 遥か空高くまで飛び、太陽を背にした彼女はそのまま一気に急降下。そのままの勢いでドラゴンに向かって突撃し、ドラゴンを地面に墜落させる。

 

 ダイヤとアマゾネスボルケーノの連撃を受けたドラゴンは蹲っている様子だ。

 

「よっしゃー! さすが僕の精霊だ!」

「不味い」

「え?」

 

 さらに追撃するべく、二人がドラゴンを追って地上に向かう。そんな二人に対して、ドラゴンはその巨大な口を開き――。

 

「逃げろ二人とも!」

『グオオオォォォォォ!』 

 

 それは、まるで神の怒りそのもの。空に向かって吠えながら放つそれは炎ではなく、閃光のような破壊の一撃。

 

 空すら斬り裂く『龍の咆哮《ドラゴンブレス》』

 

「ボルケーノォォォォ!」

「ダイヤ!」

 

 その光に飲み込まれた二人は、しかしギリギリのところで躱すことが出来たらしい。

 

 とはいえアマゾネスボルケーノがダイヤを庇ったことで掠ってしまい、こちらまで吹き飛ばされてくる。

 

「ぐっ⁉」

「おいボルケーノ! お前その傷!」

「まだ、まだぁ……くっ!」

「アマゾネスボルケーノさん⁉」

 

 掠っただけとはいえ、普通なら肉体など残らないような強烈な一撃。それを受けてなお、彼女の闘志は衰えない。

 

 とはいえ、元々身体の負担が大きい『ベルセルク』の連続使用。ダイヤとの戦闘。それらがあわさって、もはや戦える状態ではなく、膝をついて立ち上がれなくなっていた。

 

「無茶をするな」

「今、無茶をしなくていつするってんだい!」

 

 彼女の視線の先、そこには強大にして凶悪な緋色のドラゴンが、こちらを見下していた。

 

 その口には先ほど放った『龍の咆哮《ドラゴンブレス》』が残っており、さらに追撃をかける気なのは簡単に見て取れる。

 

「ひっ⁉」

「坊主! 早く逃げろ!」

「マスターさんも! 逃げてぇ!」

 

 精霊すら一撃で戦闘不能に至らしめる最強の一撃。当然ながら、俺たちただの人間が防げる代物ではない。

 

 そんな破壊の一撃から俺を守るようにダイヤが前に立つ。

 

 胸元が半分ほどはだけ、へそ当たりも破れていて、元々短いスカート部分など申し訳ない程度に彼女の下半身を隠しているくらい。

 

 アマゾネスボルケーノとの戦闘ですでにダメージが入っており、さらにこのドラゴンとの連戦ですでに彼女の精霊装束もボロボロだ。

 

 普段の俺なら、ダイヤのあられもない姿に興奮していたことだろう。だが、今の彼女があるのは、それだけ頑張ったから。

 

 そんな戦いの勲章のような姿に対して下卑た視線を向けるのは違うと、そう思った。

 

「ごめんなさいマスターさん。ボク、あのドラゴンを倒せなかった」

 

 ドラゴンが『龍の咆哮《ドラゴンブレス》』を放とうとしていた。

 それを見たダイヤが悔しそうに涙を流している。

 

「ボクが、ボクがもっと強かったら……」

「泣くなダイヤ」

「マスターさん?」

 

 ブレスをすべて一人で受ける気でいるのだろう。

 両手を広げ、せめて最後の最後まで俺を守ろうと立ち塞がろうとしている彼女の肩をそっと触れる。

 

「よく耐えた」

「え?」

「私たちの、勝ちだ」

 

 俺はこの戦いが始まってから、ずっと感じていた。それは心と心が繋がった、一人の精霊の存在を。

 

「あのドラゴンはこちらを舐め過ぎていたのだ。私たちなどさっさと片付ければ良かったものを、こうしてタイムリミットまで無駄に時間を使っていた」

「タイム……リミット?」

 

 俺の言葉を理解出来ていないダイヤが、不思議そうな顔をする。相変わらず愛らしい顔だ。この涙を優しく拭ってあげたい。

 

「そうだ。あのドラゴンは、こうなる前に私をこの場から退場させなければならなかった」

 

 マスターがいなければ、精霊はこの場に立つことも出来ない。

 だからこそ、ドラゴンは真っ先に俺を始末するべきだったのだ。

 

 ドラゴンを見る。

 俺の言葉が理解出来ているのか出来ていないのか、どちらにしても相変わらずこちらを羽虫かなにか、己の障害にはならないとでも思っているのだろう。

 

 そのブサイクな面、歪ませてやろう。

 

「ダイヤ、私はお前に言ったな?」

 

 ――最強の頂きを目指すために私と来て欲しい、と。

 

「見せてやろう。これがお前が目指すべき、最強の到達点だ」

「え? それっていったい……っ」

 

 ダイヤの疑問の声が終わる前に、ドラゴンがブレスを放ってくる。大地を削り、ありとあらゆる存在を消し飛ばすそれは、凄まじい轟音を立てて迫ってきて――。

 

「エメラルド!」

「はい、マスター」

 

 閃光とともに俺たちの前に現れた、若草色の髪をした少女。

 

 彼女の名はエメラルドティアーズ。あらゆる精霊たちの頂点に位置する、最強の精霊。

 

「斬れ」

「はい」

 

 彼女は手に持った細い二本の剣を煌めかせる。

 

 その瞬間、音が消えた。

 

 『龍の咆哮《ドラゴンブレス》』は、キラキラと輝きマナの粒子となって消えていき、最初からなにもなかったかのように世界は広がっている。

 

 そうして静寂が支配する中、俺は更なる指示を出した。

 

「十秒までだ。それ以上は許さん」

「いいえマスター、そんなに必要ありません」

 

 キン、と小さな音が一瞬だけ鳴る。

 

「もう、終わりましたから」

 

 エメラルドの言葉と同時に、ドラゴンの首が落ちた。

 

「え?」

「なっ――」

 

 ダイヤとアマゾネスボルケーノが驚愕の声を漏らす。

 

 そしてドラゴンはというと、断末魔を上げることも出来ず、最後の最後までなにが起きたのかわからないままだったのだろう。

 

 自分が死んだことにすら気付いていないような、凶悪な顔をしたままだ。

 

 少し遅れて、その巨大な身体を支えることも出来ず、地面に崩れ落ちていった。

 

「マスター……」

「ああ、よくやった」

 

 俺がエメラルドの頭を撫でると、彼女は心の底から嬉しそうに笑う。

 

 あれほど凄まじい強さを見せつけた少女と同じとは思えないほど、今の彼女は美しく、そして愛らしかった。

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