精霊少女に『カッコいい俺』だけ見せていたら、いつの間にか最強になっていた   作:平成オワリ

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第三話 精霊

 この地方都市ルクセンブルグにやってきてから、何度もコロッセウムには足を運び、精霊大戦を見てきた。

 

「おかしい」

「どうかしましたか?」

「あの精霊、ブラックダイヤモンドがだ」

 

 今日もまた、ブラックダイヤモンドは人気投票で最下位。

 それ自体は負けているのだから仕方がないとは思うが、しかし毎回マスターが違うというのは明らかに異常だ。

 

 映像の中の彼女はすでにボロボロ。美しいはずの精霊礼装も至る所が破れ、扇情的な格好になる。

 

 それはきっと、男にとって垂涎ものの光景だろう……本来なら! 

 

 彼女の服をベッドで破るという場面、俺は間違いなく興奮する! だがしかし、攻撃をされて痛めつけられるのはいたいけな少女だ!

 いくら俺でも傷付いて泣いている少女を見て悦に浸るほど男を止めていない!

 

 俺は『黄昏の魔王』レオン・ハート! 女を泣かせるのはベッドの上で喜ばせた時だけ!

 

「また負けてますね。これで五戦全敗。それどころか、ただ一人の精霊すら倒せずに、一番最初に退場してます」

「弱い、というのは確かに狙われる理由になるだろう。だがしかし、これまで見てきた限り、実力自体はそこまで極端に低いわけではない。だというのに、なぜあんな……」

「おうおう。アンタら中々面白い話してんじゃねえか」

「む?」

 

 俺たちの会話に割り込むように、一人の男が声をかけてきた。

 スキンヘッドに顔には一文字の傷。明らかに裏家業の人間です怖い。

 

「何者ですか?」

 

 エメラルドが俺を守るように間に立つ。やだこの子、超イケメン。思わず心臓がキュンとなる。

 

「おっと、こいつは失礼。アンタらがあの子の話をしてるから、つい割り込んじまった」

「あの子、というとブラックダイヤモンドのことですか?」

「おう。俺はあの子のファンでな。いつもいつも見ていて不憫で仕方がねぇ」

「ふむ……」

 

 どうやら怖いのは見た目だけで、実は良い人なのかもしれない。実際、ブラックダイヤモンドを想う気持ちは本物だと思う。

 

「聞かせてもらおうか」

 

 精霊が好きな人類みな兄弟。たとえ見た目が怖かろうと、心にはきっと俺と同じ思いを秘めているに違いない。

 じゃないとこの男、ただのロリコン変態野郎である。

 

「おう。実はあの子は孤児院出身なんだが、その孤児院が取り壊されそうなんだ。それで領主の野郎に壊されたくなければ、精霊大戦に出て負け続けろって言われててよ」

「なんだと?」

 

 スキンヘッドの男はガルハンと名乗り、そのまま話を続けていく。

 

 精霊というのは基本的に人間から生まれてくる。しかし自分の子どもが『人間じゃない』という理由で捨てられることは、実はそう珍しいことではなかった。

 

 そのため精霊で孤児院出身というのは珍しいことではなく、例えばエメラルドも孤児院出身の精霊だ。

 

 そしてこのルクセンブルグの領主、正確にはその息子がブラックダイヤモンドにある取引を持ち掛けたという。

 それは彼女か、他の孤児精霊たちの誰かがこの精霊大戦に出て、負ける役を担えという話だった。

 

「……許せません」

 

 普段は温厚であまり表情に出ないエメラルドが、ふつふつと怒りを隠せない様子だった。その気持ちは痛いほどよくわかる。

 

「精霊には他の精霊よりも強くなるという本能が備わっている。だというのにわざと負けろだと? そもそも、それになんの意味がある」

「あのブラックダイヤモンドっつー精霊はな、領主の娘なんだよ」

「なに?」

「領主が手を付けたメイドが生んだ子。つまり、今の領主の息子とは、異母兄弟っつーわけだ。それがどうしても認められないんだってよ」

「なんだそれは……」

 

 理不尽などという言葉では言い表せないほどの仕打ち。生まれて間もなく母からは娘として認めてもらえず、父には見捨てられ、異母兄弟からは徹底した嫌がらせを受ける。

 

「あの子と契約するマスターも、この街にはもういやしねぇ。だから毎回、旅のマスターが仮契約をして参加するんだが、当然勝っちゃいけないから契約までは繋がらねぇ。そうして、領主のクソガキがあざ笑うためだけに、こうして大舞台に立たされる」

「なぜお前はそんなことを知っている?」

 

 明らかにこの街に裏事情を話す男に、俺は訝し気に思わずにはいられなかった。

 

「あの孤児院から追い出す役目を担ってるのが、俺だからだよ」

 

 瞬間、エメラルドからとてつもない殺気が放たれて、飛び出そうとする。

 

「止めろエメラルド!」

「っ――! で、ですが!」

「私は止めろと言ったぞ?」

「……はい」

 

 俺の言葉には素直に従ってくれる彼女に、申し訳なく思う。俺も怒りを隠せそうにはなかった。だがしかし、この男が話した内容が本当だとしたら、何かしらの理由があったはずだ。

 

「なぜ、こんな話を?」

「あの子が不憫すぎるからだ。俺はたしかに人として最底辺なクソ野郎だがよ、それでも家族のためにいつもボロボロになってまで戦ってるあの子を見て、なんとも思わねぇほど落ちぶれちゃいねぇ」

 

 ガルハンは覚悟を決めたような顔をする。この話を誰かにした以上、死ぬ覚悟は出来ているのだろう。

 

「私たちは流浪のマスターと精霊だぞ?」

「アンタら、ここ最近毎日精霊大戦を見てるだろ? 悪いとは思ったが、そのうちの会話を何度も聞き耳立てさせてもらった。んで、アンタらなら信頼できると思ったんだよ。あの子を逃がす役割としてな」

「ふむ……」

 

 逃がす、ということはこの街からだろう。領主に睨まれている以上、勝つことは出来ない。万が一勝ってしまえば、孤児院が取り壊されてしまうから。

 

「それに、その漆黒のロングコート」

「ん?」

「昔、アンタみたいな恰好をしたすげぇマスターがいたんだ。たまたま仕事で王都に行く機会があってな。そこで見たそのマスターは、まるで物語に出てくる魔王みたいに精霊たちを使役して、素人ながらにスゲェって思ったもんだ」

 

 アンタみたいに銀髪じゃなかったし、サングラスも付けてなかったけどな、と笑いながら付け加える。

 

「まあ結果的には世間的には最強の精霊と契約したにも関わらず、最高の舞台から逃げた弱虫野郎ってなっちまったが……あの日見た光景は忘れられねぇ。憧れたんだよ、男として」

「そうか……」

「それ以来、すっかり精霊大戦に嵌っちまってな。こんな仕事をしてる俺がだ。笑けるだろ?」

「いや……そんなことはない。男なら、それを見て憧れないやつはいないだろう」

 

 というかそれ、俺のことだろ絶対! ガルハンこいつ顔は怖いけど超いいやつじゃん!

 

 あの日以来、色んな噂が流れるようになったから変装のために髪の毛の色を銀髪にして、目立つ金目は極力サングラスで隠すようにしたから気付かれてないが、俺のことだよそれ!

 

 いやー、照れるね。出来れば可愛い精霊の女の子にそう言ってもらえるとベストだけど、こんなイカツイ禿頭に言われてもちょっと嬉しくなっちゃうのは仕方ないよね。人間だもの!

 

 それに当時のエメラルドも髪の毛はセミロングくらいだったのだが、今は長く髪型を変えているから気付かれていないらしい。

 

 しかしまさか五年も経ってる今、このコート姿から昔の俺を連想させるとは思わなかったな。

 

 この格好はエメラルドがどうしてもって言うからずっとしていて俺の趣味じゃないんだけど、まあいいか。

 

「しかし駄目だな」

「……そうか。それじゃあ仕方ねえな」

 

 諦めたような顔をしてガルハン。しかし勘違いをしてもらっては困る。

 

「逃げるなどという、中途半端なことをする気はない」

「なんだと?」

「敵は徹底的に叩き潰す。もう二度と逆らう気が起きないくらいにな」

 

 なにせ俺はどうやら『黄昏の魔王』らしい。それなら魔王らしく、やってやろうじゃないか。

 

「あ、あんた……?」

 

 突然雰囲気の変わった俺に、ガルハンが驚いた様子を見せる。この男はこれから先の情報を得るうえで必要だ。

 

「エメラルド、いいな?」

「マスターの御心のままに」

 

 この五年間、決して遊んでいたわけではない。

 

 再びあの舞台を目指すために、俺たちは雌伏の時を過ごしてきたのだ。

 

「いくぞ。再び夢を魅せるために」

 

 そうして、俺はエメラルドとガルハンを連れて、コロッセウムを出る。

  

 待っていろよ領主の息子とかいうクソ野郎。

 

 可愛い精霊の女の子を虐めるやつは、全員俺の敵だ!

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