LastStand   作:カニほっち

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最近やってるゲーム(Apex)の大会に出るので更新遅れちゃうかもです 
すまね~~


07

 

「一分五十七……?」

 

 疲れすぎて聞き間違えたんだって、最初はそう思った。

 いくら全力で走ったとはいえ、二分を切るタイムが出るなんてあり得ない。

 それこそレコードに届きそうな、もしかすると更新できるくらいのタイムなのに。

 信じられない。今見ているこの景色が夢なんじゃないか、とすらも考えた。

 でも。

 痺れるような両脚の疲れは、確かに本物だった。

 

「……本当なのか?」

「俺が嘘を吐けないということは、君もよく知ってるだろう」

 

 オグリキャップの言葉に、アイツがそうやって答える。

 

「凄いな」

「……ありがと」

 

 現実味がない。褒められている感覚が無くて、そんな曖昧な答え方になる。

 

「正直、オグリキャップに勝てるとは思っていなかった」

「そんなの、アタシもだよ」

「……レースの感覚は掴めたか?」

「何となくは」

 

 終盤まで必死に耐えて、ラストのコーナーで全力を引き出す。

 試してみたらとんでもなく苦しくて、二度とやりたくない走り方だったけど。

 先頭を呑気に走ってる奴を追い抜くあの感覚は、気持ちが良かった。

 

「長めの休憩を取ったら、二周目にしよう」

「すぐじゃなくていいの?」

「君たちの脚を壊したくない」

 

 ……まあ、そうか。

 こんなところで脚を壊してレースに出られなくなったら、意味がない。

 本当はもっと速く走れるようになって、誰かを追い抜く練習をしたいんだけど。

 今は、アイツの言う通りにした方がいいんだ。

 

「時間があるから、何か飲むものでも買ってこようか」

 

 そうやって声をかけてきたアイツに、最初に答えたのはオグリキャップで、

 

「カレーがいい」

「残念だが、それは食べものなんだ」

「そうか……」

 

 コイツ、マジで言ってんの?

 

「タイシンは?」

「……普通のスポドリでいい」

「分かった。オグリもそれでいいな?」

「カレー……」

「それは夜まで待て」

 

 肩を落とすオグリキャップを後にして、アイツが校舎の方へ走っていった。

 そうして、二人で地面に座りながらアイツを待っていること、しばらく。

 

「………………」

「………………」

 

 き、気まずい……。

 何か話すにしても、初対面だからどういう話題振ればいいか分かんないし。

 かといってこのままってのも、向こうから暗いヤツだと思われるかもしれないし。

 あー、もう。こういうのホント苦手だから、勘弁してほしいんだけど。

 そもそも、初対面のヤツと二人っきりにすんなっての。

 アタシは向こうのこと知ってるけど、向こうは当然知らないだろうし。

 というか、私も知ってることと言えば顔と名前くらいだし。

 こんな状況で共通の話題だなんて、見つかるはずが……。

 ……あ。

 

「ねえ」

「うん?」

「アイツって、アンタのトレーナーだったんだよね?」

 

 思い立って口にした疑問に、オグリキャップはまあ、と一言置いてから、

 

「ああ。といっても、行く宛のない私の面倒を見てくれていた程度だが」

「さっきアイツから聞いた。大変らしいね」

「そうだな。あの人には感謝してもしきれない」

 

 言いながら、オグリキャップが力なさそうに笑う。

 それだけでコイツが、ある程度アイツのことを信頼していることが分かった。

 そんなヤツに、こんなことを聞くのはアレかもしれないけど。

 でもアタシのトレーナーになるんだから、そこだけはハッキリさせたいというか。

 まあ、ここまで話しておいて聞かないのも何だし。

 

「噂で聞いたんだけどさ」

「うむ」

「アイツ、金のためなら何でもやるって」

 

 アタシの言葉に、オグリキャップは少しだけ考えるような素振りを見せてから、

 

「確かに、そうかもしれないな」

「……そうなの?」

「私のトレーナーになるのを断ったのも、食費がかかるという理由だった」

 

 直接そのことを伝えるアイツも、どうかと思うけど。

 

「でも、仕方ないさ」

「割り切れるの?」

「そういった目的というのは、個人の自由だから」

「まあ……確かに、そうかもしれないけど」

 

 正論だ。アイツがどれだけお金にがめつくても、結局は個人の意思なんだから。

 それにアタシがどうこう言う方が、きっとおかしいんだ。

 でも、なんだろう。アタシが言いたいことは、そういうことじゃなくて。

 

「……アイツと初めて会った時、アタシの脚は金になる、って言われたんだ」

「そうか」

「嫌って言うより、ビックリしてさ。アタシのこと、そういう目で見るヤツいるんだって」

「うむ」

「でもなんていうか、それじゃ曖昧っていうか……」

 

 言葉が見つからない。アタシはアイツに何をしてほしいんだろう。

 お金のためにアタシのトレーナーになるのは、別にいい。

 そんなにお金に卑しくなるな、という気持ちもない。

 でも、どうしてそんなにお金が必要なのかは、少しだけ気になるのかも。

 ……あ、そっか。

 

「なんでアイツ、お金が必要なんだろう」

 

 ふと溢したアタシの言葉に、オグリキャップは、

 

「私にも分からない」

 

 アイツが帰ってきたのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 

 

「今日はこれくらいにしておこう」

 

 そう言ってから、アイツがストップウォッチを止める。

 

「タイムは……?」

「二分と九秒。オグリの勝ちだ」

「……そう」

 

 額に浮かぶ汗を拭いつつ、答える。

 

「連続で走っていた疲れもあるだろう。仕方ない」

「分かってるっつーの」

「それに、最初のタイムは奇跡にも近いから、二度と出ないと思ったほうがいい」

「……は?」

 

 何その言い方。

 そんなのまるで、アタシの限界があのタイムだったみたいじゃん。

 

「悪い意味ではない」

「どういうこと?」

「初めてオグリキャップと走っただろう」

「そうだけど」

「つまり、そういうことだ」

「…………意味が分かんないんだけど」

 

 イラつきも通り越して、だんだん呆れてきた。

 初めて一緒に走ったから、何なのさ。

 

「ナリタタイシン」

「何」

「今日で、私がどんな走り方をするか、ある程度理解できただろう」

「……まあ、そりゃそうだけど」

「だからきっと、君は私に()()()んだ」

「えーと……」

 

 頭を抱えながら、少し考える。

 最初に走った時が、一番タイムが良かった。

 でもコイツと走るうちに、タイムがだんだん遅くなってきた。

 つまり、アレか。コイツのペース配分が体に染みついて、それに走り方が合っちゃって。

 気づいたら、一番スタミナとスピードの効率がいい走り方になった、みたいな。

 そんな感じなのかな。

 

「……何となく、分かったかも」

「そうか」

「それは良かった」

 

 コイツら、説明が下手くそすぎる。

 特にトレーナーの方、説明が下手なのって致命的すぎるでしょ。

 ……あー、もう。

 

「アタシ、疲れたからもう帰る……」

「ああ、ご苦労。オグリも今日のところはいいぞ」

 

 なんて最後はユルい感じで各自で解散して、帰る準備をしてから、校舎を出て。

 帰りにどこか寄ろうかな、なんて考えたけど、体が疲れを実感したところで。

 

「……結局、アイツに聞くの忘れたな」

 

 トレセン学園の校門をくぐったところで、ようやくそのことを思い出した。

 

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