古今無双の竜戦士 作:クソザコ爬虫類
たぶんキラーマジンガのスキル取ってる
魔物とは、何だろうか。
ある時、一人の竜戦士はそんな事を考えた。
生きる喜びとは何なのだろうか。
生まれた時から魔王に仕えることを至上の喜びとして疑わなかった彼にとって、喜びという感情の在りかはいまいちつかみどころの無いものであった。
彼は多くの竜戦士の中でも特別に優れたいわゆるエリートであり、魔王直属の部隊の一員として来るべき勇者との決戦に備えて日々仲間との訓練に明け暮れていた。
そんな単調とした日々の中での、つまらない疑問だった。本来なら、そんな疑問は早々に意味の無いものであると放棄され、忘れられるはずのものだった。しかし、時間がたつ程にその疑問は彼の中で膨らんでいき、ついに彼はその疑問の答えに行き着いてしまったのである。
魔物とは、欲望に忠実であれ。
「貴様、気でも狂ったのかッ!」
「狂ってなどいませんよ。ただ、私の中の欲望に気付かされただけ。それだけの事です」
振り下ろした刃から、鮮やかな色をした血が滴る。
剣を握っていた腕を失い、わめき散らす上官だった男を前にして、躊躇う事無くその首を切り落とした。
まるで歯応えの無い相手だった。
欲望。尽きることの無い闘いへの渇望。
強い者と戦い、そして勝利する事の喜び。いずれ敗北し、死ぬ時が来るとしてもそれは本望。魔物らしく欲望に忠実に生き、欲望に従った結果であればどのようなものであれ満足する。
だが、戦った相手はどれもこれも骨が無い。
魔王直属の精鋭だと言うのに、まるで相手にならない。冷酷な殺人機も、偉大なる竜も、一つ目の巨人も、黄金の石像も、二本角の魔神も、どれも差が感じられないほどに弱い。誰も自身を満足させてくれやしない。
「ゲマ殿ならば、私を満足させてくれるだろうか」
我らが魔王に挑もうかと考えた事もあった。だが、あれはとんだ弱腰の老いぼれである。勇者が怖いからと魔界に引きこもり、魔物と心を通わせる力を持った人間を拐い、挙げ句部下を使っていずれ生まれてくる勇者を子供の内に殺そうなどと考えている。
魔王と呼ばれるだけの実力があるのならば、人間など恐れずに直接出向いて全て支配してしまえば良いのだ。なのにアレはそうしない。なぜなら自信が無いからだ。万が一を恐れるあまりに、自身を弱くし続けている事に気付きもしない。
だが、魔王軍一の実力者と名高いゲマ殿であればどうだろうか。
今も魔王の命令を受けて世界中を飛び回り、その力を磨き続けている彼ならば、自身のこの欲望を満足させてくれるのではないだろうか。
「それに、最近幹部に上がったという二人も気になるな」
確か、名はゴンズとジャミ。
一方はソルジャーブル族、一方はケンタラウス族の魔物で、あのゲマ殿からも目をかけられていると聞く。
ゲマ殿ほどでは無いにしろ、もしかしたらその二人も自分を満足させてくれるかもしれない。
「行くか」
ならば、善は急げだ。
世界中を飛び回っているゲマ殿は一定の場所に長居する事が少なく、中々出会うことが出きる御仁ではない。だが、自分も人間界へと下りて旅をすれば、いずれはゲマ殿に出会うことが出来るかもしれない。
彼との戦いを想像しただけでもゾクゾクと全身の鱗が粟立つのを感じた。
やはり、自分の持っているこの欲望は間違っていないのだと再認識する。
剣についた血を拭い、鞘へとしまってエビルマウンテンを出ていく。出ていく間も四方からあらゆる視線を感じていたが、襲ってこなかったと言うことは勝手に此方を恐れていたと言うこと。此方としてもつまらない相手を殺す手間が省けて都合が良い。
そうして、一人の竜戦士は誰に止められることも無くエビルマウンテンを後にした。
この旅立ちが、多くの人間と魔物の運命を狂わせる事になるとは、今は誰も知らない。