古今無双の竜戦士 作:クソザコ爬虫類
エビルマウンテンを出てからしばらく南下していった所に、人間界へと繋がる旅の扉は存在する。
竜戦士はそこを目指して飛び続けた。エビルマウンテンで散々暴れまわった噂はここまで届いていたのか、エビルマウンテンを出ても自分と戦おうとする魔物は現れない。それどころか此方の姿を確認したかと思えば身を隠す者すら現れる始末。ここまで来ると呆れすら感じてしまう。魔物としての闘争心はどこへ行ってしまったのかと。
そんな残念な事がありつつも、取り敢えず旅の扉へと到着したのでさっさと旅の扉に入った。途端に視界が渦巻き、吸い込まれるような感覚がある。次に気付いたときには人間界だろう。
確か、聞いた話によれば扉の先は神殿になっていて、外から開けるには特別な道具が要るとか何とか。自分はそんな面倒な事は出来ないので、内側からさっさと開けてそのままにするつもりだ。そうすれば魔界と人間界との行き来も楽になる。
そんな事を考えながら目を開いた、その時だった。
想像していた場所と、周囲の様子が違う。本来なら海と繋がっている洞窟内の神殿に到着しているはずだが、周りはどう見ても森である。その上、足元には旅の扉すら無い。
「もしや、旅の扉に細工をしたな」
旅の扉は遥か昔から存在する一種の道具であり、その仕組みはほぼ全てが不明なオーパーツのようなもの。そんな物に細工を出来る者が居るとすれば、一人しか思いあたらない。
そう、我らが大魔王ミルドラース様である。
おそらく、エビルマウンテンで散々暴れまわった自分の事を疎んで、二度と魔界に戻らないようにわざと神殿とは全く別の場所に飛ばすようにしたのだろう。
随分と面倒な事をしてくれた。これでは、勇者でも無いのに魔界に戻る為には特別な道具とやらを集めなければならない。何とも腹が立つ。あの老いぼれはいつかこの手で殺してやる。
それは兎も角、先程から周囲に妙な気配を感じる。
敵意の籠った視線だ。此方への殺意がひしひしと伝わってくる。
殺す気でかかってくるのならば、此方も殺す気で返すと言うのが礼儀というもの。鞘から使い込んだ鋼のつるぎを抜き放ち、静かに構える。
「私を殺したいのだろう。まとめて相手をしてやるから隠れていないで出てくると良い」
そう言えば、がさがさと辺りの藪が揺れてその奥から無数の魔物たちが現れた。見たところ、オークキングやパオーム、ドラゴンマッド、メッサーラといった魔界ではあまり見かけない魔物ばかりだ。
正直、まともに自分の相手になるような魔物かと言われれば首をかしげざるを得ない、そんな微妙な魔物達。だが、彼等は本気で此方を殺すつもりなのか、皆一様に強い殺意の炎をその瞳に宿している。
「魔王様からの命を受けて、貴様が来るのを待っていたぞ。裏切り者のシュプリンガーめ。ここで息絶えるが良い」
リーダーらしきオークキングが前に出てきてそんな事を言う。初めてエビルマウンテンで魔王軍の魔物を殺したのはそう昔でも無かったはずだが、短い間に自分も随分と有名になったものだ。
しかし、自分を殺す為に差し向けた兵がこんな雑魚の集まりとは。随分と甘く見られたものである。我らが大魔王は、私がエビルマウンテンで魔王直属の精鋭を大勢殺害した事は忘れてしまったのだろうか。普通なら、そんな相手を殺すにはこの程度の兵では足りないとすぐにわかるはずだが。
殺す気でかかってくるのなら殺す気で返すのが礼儀だとは考えているが、あまりにも実力がかけ離れているのなら別である。腐っても誇り高き竜戦士の一員として、弱き者を見逃す優しさぐらいは残っている。
「最初で最後の警告だ……死にたくなければここで引き下がれ」
「ほざけこの黄色トカゲめが! 我らがそのような脅しで屈するとでも思ったか!」
「ならば、お主から切り捨ててやろう」
だが、その相手が差し伸べた手を振り払うなら致し方無し。
その無謀さに敬意を表し、一思いに殺してやるのもまた礼儀。
次の瞬間、オークキングの身体は持っていた槍ごと袈裟斬りにされ、真っ二つに分かれて地面に崩れ落ちた。赤黒い水溜まりがそこからじわじわと広がっていき、心地好い生臭さが鼻を刺激する。
「さあ、他の者はどうする」
ぐるりと辺りを見渡す。
今、結構な実力の差を見せつけてやったと言うのに、集まった魔物達の目に宿った殺意に陰りは見られない。
雑魚の集まりだと侮ってはいたが、やはり彼等もまた魔王に忠実な僕であると言うことか。死ぬとわかっていて、命を果たすために戦いに挑もうと言うのだから天晴れだ。
誰が示し会わせるでもなく、一斉に飛び掛かってきた魔物達を前にして、僅かに喜びを感じた。正々堂々と、戦うと決めたのならば、例え負け戦であろうとも最期まで戦い続けるその心意気。
だが、同時に悲しくもある。彼等があと少し。彼等が最低でも魔界の腑抜け共ぐらいの力を持っていれば、この渇きを潤せたかもしれなかったのが、非常に惜しい。
それ故、魔界の腑抜け共にも使わなかった奥義を以て彼等を殺すのだ。
一人の戦いに生きる者として、それが彼等に払える最大限の敬意であると感じたが故に。
「奥義・森羅万象斬」
ぐっと剣を握り締め、放つは一寸の乱れすら無い水平の斬撃。森羅万象、あらゆるものを切り裂く究極の剣技が一つ。
放たれた斬劇は辺りの木々を薙ぎ倒しつつ、襲い掛かる数多の魔物を両断した。
辺りに血の雨が降り注ぎ、一時の静寂が訪れる。
生き残った者は誰一人として存在しない。
思わず溜め息が漏れる。
やはりこの程度ではこの渇きは癒えない。
「さて、行くか。ゲマ殿を探しに」
本命はまだまだこれから。
最高の獲物を探す旅が、これから始まるのだ。