「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」
「なんで名前じゃなくて年齢なんですか…」
唐突に年齢を聞いてくるこの不審者……いかにもファンタジーの旅人のような服装も不審者っぷりを加速させている。
「だって名前を聞いても余り意味がないだろうしねぇ……この国の言語は特別難しいだろう?」
「そうらしいですね。あと、年齢は言いませんよ。」
「う〜ん、しょうがないかぁ……」
この男に「やぁ、少し話をしないかい?」と話しかけられた時に、無視して帰るなり通報するなりすればよかっただろうか……そんなことを考えるくらいには俺は飽きていた。
「じゃあ、君の方から何か質問あるかい?」
服装やこの国の言語は特別難しい…ならば外国人かと俺は思った。難しいと言う割には流暢に日本語を話しているが。
「…どこの国から来たんですか?」
「エルドーサだね。」
エルドーサ……自分の頭が悪いだけかもしれないが知らない国名だ…
「そのエルドーサ?って国では何が有名とかあるんですか?」
「ドラゴンや…ドラゴンの素材とかで有名だね。」
「ん?」
「うん?あぁ翻訳魔術で上手く翻訳できなかったのかな…」
ドラゴンは……まだギリギリ…トカゲのことか?と考えることが出来たが、その後の言葉はどうやっても援護できない言葉だった。
「…魔術……っていうのは、なんですか?」
「魔術について知りたいのかい?……魔術っていうのは…魔力を使って発動する術の総称だね…魔力を使わない術もそう呼ぶことがあるけど…」
…少し間を空けつつ、不審者が答えた…魔力を使わない術というのは手品がバレた時の保険のつもりだろうか?もしやドッキリなのでは…などと考えつつ、周りを見渡しても特に怪しい物はない。
「魔術…って使ってみてもらってもいいでしょうか?」
「あぁ、いいよ!う〜ん…透明化の魔術なら危なくないか…よーし、見てろよ!」
急に不審者のテンションが上がった。やはりドッキリなのだろうか、これで興奮したらバカな奴だとテレビを観ている人達に笑われるのだろうか、などと考えていると不審者の体が透け始めた。何か手品の証拠、ドッキリの証拠はないかと目を凝らすが何も見つからない。
完全に見えなくなって少しすると今度は不審者の体が現れ始め…完全に元に戻った。
「どうだった?」
「……スゴイデス…あの、物質を作る魔術とかってないでしょうか?あったならそれを…俺の目に見える様にしつつ、ゆっくりやってほしいのですが…あっ作る物質はオレンジジュースで。」
もしドッキリだった場合を考え、余りテンションが上がっていると思わせないように答えつつ、魔術が本物だと確信出来そうな方法を言ってみた。
例え服の中に仕込んでいるにせよ、俺の目に見える様にしつつ、ゆっくりやってほしいと言えば、それを馬鹿正直にゆっくり取り出すなんてことはできないだろう。
…作る物質がオレンジジュースなのは仮に上記の手品が出来るにせよオレンジジュースを仕込んでいるとは思えないからだ。…もし本当にファンタジー世界の住人だったにしろ、オレンジジュースなら知っているだろうというのも少しあったが。
「うん?出来るよ……液体で、しかも水じゃないから凄い難しいけど…」
そう言って手をかざして何か言うとその少し先に見慣れたオレンジ色の液体が現れ始めた……しかも浮いている……
「はい、あーん。」
不審者がそう言うとそのオレンジ色の液体はふよふよと浮きながら俺の方に来た。別にオレンジジュースが飲みたかった訳でも、不審者から渡される物を食べたかった訳でもないのだが…オレンジジュースを作れと言ったのは俺なのだから仕方ないか。
そう思い、口を開けてそのオレンジ色の液体を飲み込むとやはりと言うべきか、オレンジジュースそのものだった。
……夢かと思ったが、頬をつねるまでもなく全身の確かな感覚が夢でないと言っている。
「ありがとうございます。」
「ハァ、ハァー、ま、まぁこのぐらいなら楽勝だよ!」
そう言う割には疲れているように見える。
「ふぅ…気づいているんだろう?私がこの世界の住人ではないことを。」
ついに不審者が核心をついたことを言った。
「…それは…まぁ。どうやってこの世界に来たんですか?」
「それはモチロン!宇宙船さ!」
「は?」
「え、あぁ、うん。ごめん。この世界の住人じゃないなら宇宙人だと思われてるのかなって…この世界には次元転移魔術で来たんだ。」
…宇宙船…確かにファンタジーな世界から次元を超えてやってくる存在より宇宙人の方が幾分か現実的だし、さっきの魔術も宇宙人特有の科学力やら超能力だかでできるかもしれない。だというのにファンタジー世界の住人だなんて…ファンタジー小説の読み過ぎか…。
「あっ!あ〜…そろそろ時間みたいだ。」
「えっ、じゃああの、魔術って俺にも出来ますか?」
「…君に会う前に色々この世界のことを調べていたんだが、どうやらこの世界には魔力がなくて、生物も魔力を肉体に留めておけないようなんだ。さっきオレンジジュースを飲んだろう?あれには私の魔力が付与してあったんだが…すぐに君の体から魔力が出て行ってしまったよ。…あっ私のことは秘密にしておいてくれよ。」
「…そうですか…あなたも俺のことは言わないでください。」
「分かったよ。じゃあ…バイバーイ!」
そう言うと不審者は…いや正体分かったんだしもう不審者じゃないか…その男は俺以外に誰か自分のことを見ていないか確認した後フッと消えた。
「やばいな…」
魔術を使えないと言われた瞬間、俺は落ち込むかと自分で思っていたが実際そう言われた時、俺は酷く冷静になった。
「やばいな…」
この世界滅ぶかもしれない。