それでは前回のあらすじ
黒葉&咲夜vs月刃。
2人で善戦を繰り広げるものの、月刃の方が上手だった。
やられる、そう思ったが間一髪のところで黒葉は威迅に天魔の方へと投げ飛ばされたことで難を逃れた。
それではどうぞ!
side三人称
「直ぐに治るのか。便利な能力だな」
「あぁ、だから君らが俺にどれだけ攻撃しても無意味ってことさ」
威迅が月刃の硬化を貫通してまで入れた斬撃の傷が一瞬にして治ってしまった。
そう、さっきから咲夜も黒葉も全くダメージを与えていなかった訳では無かった。だが、月刃がこの能力を持っているため、全てのダメージを回復されてしまっていたのだ。
(完全治癒か、あれが傷だけを回復するものなのか、はたまた体力まで回復するものなのか……。傷だけを回復するものならば必ずガス欠が存在するはずだ)
威迅が認識した月刃の能力は超スピードと硬化、超回復だ。
硬化であれば威迅の攻撃力で突破できるが、厄介なのは残りの2つ。超スピードと超回復である。
この2つだけは強引に突破できるものでは無い。
今までの天魔との戦いでは戦略という物は少なかったが、月刃に関しては力技ではどう頑張っても勝てない。
そう認識し、威迅は気を引きしめる。
「それにしても、強くなったようだ。驚いたよ。昔の君は俺の眼中には無かった。だけど、今俺は君を見ている。今は老いぼれに守られるだけじゃないってことか」
「あぁ、当たり前だ。俺はお前をぶった斬るために修行してきた。気をつけろよ。この刀はなんでも食らう悪食の狂犬だからなぁっ!」
言うと同時に威迅の刀は幾又にも別れ、それぞれがうねって伸び、月刃へと襲いかかった。
威迅の強みはパワーと手数。
双剣を使い、分裂した刀全てが双剣の対象となる。
その攻撃数は単純計算で倍。一撃当たれば2発貰うという相手にとっては地獄もいいところの攻撃だ。
だが、それは相手が月刃じゃなければの話だ。
月刃には神速の加護がある。当たる前に超スピードでくぐり抜けてしまえば良い。
「こんなものか! なっ」
「甘い」
威迅へ向かって走ってきたところで急に逆向きに霊力を噴射して急停止する月刃の目の前には刀が地面から生えてきていた。
このまま真っ直ぐ進んでいたら月刃は真っ二つになっていたことだろう。
「なるほど、1本地面に……」
「俺と戦っている時は地面すらも敵になる!」
「厄介なことでっ!」
「ちっ!」
月刃が威迅に集中している間に忍び寄った咲夜はナイフを突き刺そうと飛びかかるが、腕を硬化して防がれてしまった。
咲夜の力ではこの硬化を突破することは出来ない。
でも、協力することでその力も脅威と化す。
「メイド、大雨注意報だ!」
威迅の言葉にすぐ理解した咲夜は月刃の頭にかかと落としを決めて地面に叩きつけ、すぐさまその場から退避した。
叩きつけられた月刃は直ぐには動けない、だからこそすぐに空から降り注ぐ刀の雨に気がついたがその場から動くことは出来なかった。
大量の刃が大地、木々、そして月刃をも串刺しにしていく。だが、それだけじゃ満足出来なかったらしい。
地面からも大量の刀が飛び出してきて上から下からと月刃を串刺しにした。
これだけやれば致命傷になっているだろう、普通なら。
「やぁ」
「っ! ぐあああああああっ!!!!」
突如月刃の背後に出現した月刃によって硬化した拳で殴られた威迅はぶっ飛ばされて木に激突して止まった。
驚いた咲夜は串刺しになった月刃の方を見るが、その月刃はポフンという音を鳴らして煙となって消滅してしまった。
(っ!
さっきまで自分が戦っていたのは間違いなく本物だった。だと言うのにいつの間にか身代わりに入れ替わっていた。
頭がどうにかなりそうだった。
「ちっ、いってぇな」
間違いなく今ので骨が数本いった。
体に走る痛みを必死に堪えて立ち上がった威迅は刀を突きの体勢で構えた。
「メイド、離れてろ!」
何が何だか解らなくなった咲夜だったが、威迅の指示を聞いて威迅からかなり距離を取った。
それを確認した威迅は刀をぐるぐると巻き始める。バネ状だ。
「反発って言うやつだ。それを載せることで突きの威力は今までの何倍にも増幅する!」
瞬間、バネ状に変化した刀は一瞬収縮した後、反発してまるでただの光に見えるような速度で刀が伸び、突きが放たれた。
すぐに反応して回避した月刃だったが、何と月刃の後ろへと伸びて行ったはずの切っ先が木に当たると反射して月刃の右肩を突き刺した。
「ぐ、がはっ」
さすがにこれには月刃も反応出来ずにまともにダメージを受け、よろけながら右肩を手で押さえた。
もちろんこの程度のダメージ、月刃には治癒するのは造作もないことだが、バネ突きの凶悪さに思わず顔が引きつってしまう。
「お前なら知っていると思うが、斬りたくないもんを斬らないようにできるんだ。そしてそれに当たった時は俺の刀は反射する」
「そうだったな」
今のは威迅が木を切りたくないものに設定したため、木に直撃した瞬間に反射したということだ。
さっきまでとは違い、月刃はかなりキツイ戦いを強いられていた。
能力が優秀すぎるあまり、能力に頼りきっていた月刃にとっての1番の脅威は単純な実力者だ。
そして威迅の戦闘スタイルはまさにそれ、能力があまり強くない代わりに戦闘能力は高い。
威迅が月刃から刀を抜いたことによって大量の血が撒き散らかされるが、これまた直ぐに回復する。
「どうした? そんなものだったか?」
「いいぜ、やってやるよ」
瞬間、姿を暗ませた月刃。
しかし、この状況でもしっかりと威迅は月刃の動きを終えていた。
威迅の索敵範囲もそこまで広くはなく、その距離、およそ25メートル。だが、この感度は凄まじく高く、周囲の音なども取り込み、霊力を持つ相手だけではなく周囲の無機物の動きですら集中することで感じ取ることが出来る。
それもこれも月刃を倒すために培ってきた技術。
ガギィィィン。
現に月刃の攻撃を見事に防ぐことに成功していた。
「対応がはえーよ」
「てめぇが遅せぇだけだろ」
「そうか、そうかもな!」
その瞬間、月刃の腕に触れた威迅の刀がうねうねと独りでに動き出し、威迅へ向かって伸びた。
うねうねと動き出して直ぐに威迅は上体を反らしたため、その刀が威迅の顔面に突き刺さることはなく、その寸前で止まった。
「やっぱりお前の能力は使いにくいな!」
「お前が下手なだけだろう」
「お前の能力、『鉄を操る程度の能力』だったっけか? 触れている鉄を自由自在に操る能力。距離は伸びねぇし、触れた金属の刃を落とすことも出来ねぇし、散々だ。だからもっと血をよこせ」
「誰がやるかバーカ」
月刃が咲夜から摂取した血はわずか、それ故に数秒しか時間を止めることが出来ない。
そして威迅からは昔、血を摂取したことがあり、その量も極わずか。そのため、鉄を元の長さ以上に伸ばすことは出来ないし、触れた刃を丸めることも出来ない。
(もっと血が必要だ。もっともっと)
もっと血を摂取すればその分だけ能力が強化され、相手を弱体化させることが出来る。
「もっと、血を寄越せェェェッ!」
「なっ!」
「えっ」
月刃が叫び、両の手を地面につけた次の瞬間、周囲に沢山ある木々が突如うねうねと動き始め、木の枝がまるで鞭のように咲夜と威迅へと襲いかかった。
何とか威迅は向かってきた木を切り倒し、咲夜は回避することで対処しているが、この能力を使われたんじゃ周囲に数え切れないほど木があるこの場所じゃジリ貧になってしまう。
「『植物を操る程度の能力』だ! この大自然が広がっているこの場所では無敵の能力だ!」
「ち、キリがねぇ」
「えぇ……近づこうとしても木に阻まれる」
この状況では安易に時を止めることが出来ない。
時を止めた瞬間、咲夜は月刃とのタイマンが始まってしまい、さっきと同じ状況に陥ってしまう。
タイマンになった瞬間、豊富な能力と神速の加護を使える月刃に勝てる自信は無いのだ。
かと言ってこのままだと月刃に攻撃できない。ナイフを投げても全て木に阻まれる。
「いや、時を止めるのは
時を止めれば少なくとも木に攻撃されることはなくなる。
だが、どうやって月刃とのタイマンを避けて時を止めるか。
「……威迅君」
「なんだぁ? こっちは今忙しいんだ」
「前方に双剣を使って」
「はぁっ!? どういうことだ説明しろメイド!」
咲夜は威迅の抗議を聞いている時間も惜しいと判断し、威迅に説明をする前に時を止めた。
普通ならここで月刃と咲夜のタイマンが始まるだろう。
だが、咲夜はそうなる前に威迅の手を取り、思い切り月刃へと向かって投げ飛ばした。
一か八か! 1秒の《ザ・ワールド》!!
一瞬木が硬直、月刃も反応して動き出す前に月刃へと威迅を投げ飛ばして解除する。
正直これは咲夜にとっても賭けだった。
だが、これは――
「そういうことかよ!」
「なっ!」
状況把握能力が高い威迅だからこそ出来た離れ業。
《ザ・ワールド》が解除されてから1秒にも満たない月刃へと到達する時間の間に状況を把握し、刀を構える。
咲夜も1秒の間に木が塞いでいないルートを見極めて投げ飛ばした。抜かりは無い完璧な動き。
「俺たちを侮るなよ月刃!」
「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!」
威迅の刀は月刃の右腕を切り飛ばし、振り返って背中も斬りつける。
油断していた月刃にはこの攻撃を防ぐ手段などなかった。
さらに、月刃を前方に蹴り倒すと背中から杭のような形に変形させた刀を胴体を貫通して地面に届くまで一気に伸ばして突き刺した。
完全に胸のど真ん中を貫かれた月刃。まず間違いなく心臓は貫通している位置である。
右腕は無くなり、背中に大きな傷をつけ、体は貫通。
普通の人間はこれだけのダメージを受けて生きていられる筈がない。
「ち、こいつの霊力が無くならねぇ。死なねぇ!」
何と死なない。
胸に風穴が空いたというのに銀河月刃と言う男は死なない。
そこで威迅はついに気がついた。
激しく脈打っている左手、その形がおかしな形になっている。
まるで心臓みたいな――
「な」
気づいた時にはもう遅かった。
威迅は直ぐに周囲の木に絡みつかれ、拘束されてしまう。
どうやらこの木は絡みついている相手の霊力操作を阻害するらしく、上手く威迅は刀を伸ばすことが出来なくなってしまった。
直後、ゆっくりと起き上がった月刃はまず右腕を再生させ、それから胴体を治癒していく。それと同時に手の形が元に戻った。
「きっしょ、てめぇの体はなんでもありかよ」
「『臓器を移す程度の能力』。こんな能力、どこで使うんだよって思っていたが、こんなところで使うことになるとはな」
月刃は己の心臓を左手に移すことによって心臓を刺されるのを回避したという。
なんでもありの月刃の能力に疲れが見え始める威迅だが、その目は諦めてなどいなかった。
「集中力を欠いちゃダメじゃないか。しっかりと敵を観察しないと……」
「月刃、そんなことよりもさ」
「あ?」
「俺たちにばかり集中してていいのか?」
「は!?」
その瞬間だった。
月刃が気がついた時にはもう遅い。木の上から飛びかかってきた人影の攻撃を回避する術は月刃には無かった。
「そうだね、集中力を欠いちゃダメだよね! しっかりと敵を観察しないとさ!! 双剣《三枚おろし》」
「ぐええええっ!?」
飛びかかってきた人物――分郷茉衣の斬撃によって情けない声を発しながらその場に倒れ込む月刃。
所詮は茉衣の攻撃、だがそれが双剣ともなると凄まじいほどの威力へと変貌を遂げる。
そしてこのダメージによって思わず月刃が能力を解除したことによって威迅の拘束も解除。
一転して月刃がピンチに陥った。
「月刃、お前の負けだ」
「はぁ……はぁ……俺の負けだァ? んなけねぇだろ」
「そっか。降参しないならそれはそれでいい。今度は心臓を移せないくらいにミンチにしてやるからよ」
最後とばかりに威迅が月刃へ刀を振るうと、何と月刃は左手を硬化させることすらせずに刀を受け止めようとする。
さすがにこれには威迅も驚いたが、それならそれで好都合と思い切り刀を奮った。
パキィン
瞬間、切れたのは月刃の手ではなく、威迅の刀が折れてしまったのだ。
折れた場所はまるで錆び付いたかのように茶色く変色し、切っ先と持ち手の間にある月刃が触れた箇所は錆び付いて粉々に砕け散ってしまった。
「《
はい!第160話終了
咲夜の機転で月刃を追い詰めたかと思いきやまだ月刃の隠された能力が?
これは一体?
そしてようやくここに来て初めて月刃の技が明かされました。
果たしてどういう技なのでしょうか?
次回をお楽しみに!
それでは!
さようなら