それでは前回のあらすじ
咲夜、威迅対月刃。
月刃の猛攻は2人を苦しめるが、2人の攻撃も月刃へダメージを与えていく。
だが、月刃は一瞬でダメージを治癒する。
それでも咲夜の作戦で茉衣も交えて追いつめると、月刃は新たな能力を発動するのだった。
それではどうぞ!
side三人称
今から9年前。
鍛冶師の人里は基本的にどこも深い森に囲まれている。それは、武器を作る里が悪い奴らに狙われると困るから見つかりにくいところに里を作るという昔の人々の知恵からなるものだった。
だが、問題もある。
それは周囲の森には自我の無い妖怪が蔓延っているということだ。
それ自体は森に妖怪が居るのは当たり前だし、鍛冶師の人里の為、対抗はいくらでもできるが、それでも危険なので10歳未満の子供だけで森に入るのは禁止されている。
「よっと! ふぅ……この森はどこまで続いてんだ? ワクワクするな!」
分郷威迅、7歳。彼は今、森を探検しに来ている。紛れもなく違反だ。
だが、彼はこの年齢で既に大人と遜色ない程の剣術を身につけており、この森に出てくる妖怪くらいなら瞬殺できるため、ここに来るまでに何度か妖怪と戦ってはいたが、砂埃で汚れるくらいで攻撃を貰って傷が着くなどということは無かった。
それ故に今彼はかなり天狗になっていて調子に乗って森探索などと言う子供が行うにはご法度というべきことをしてしまっている。
でも、事実彼はこの辺りの妖怪なんか相手にはならないほど強いため、誰も止めることが出来ずにいた。
「グルルルルルル」
「お、また妖怪か」
またもや威迅の目の前に現れた妖怪。
この森に居たら妖怪が出てくることなんて珍しくもなんともないため見つけた瞬間、冷静に刀を抜いて臨戦態勢に入る。
だが直ぐに何かを感じとった威迅は刀を仕舞った。
「あれ、こいつ」
目の前に現れた妖怪、それは狼のような見た目の妖怪で、頭が3つもあるいわゆる地獄の番犬、ケルベロスという奴だった。
ケルベロスは主に地獄や旧地獄に生息している妖怪で、上級妖怪に分類される妖怪。
弱い妖怪しか存在しないこの森には居るはずがない妖怪なのだ。
今威迅が戦ったら瞬殺されてしまう。
だが、そんなことは今は問題ではなかった。
目の前のケルベロスからは敵意は全く感じられない。それよりも妖力がすごく弱々しくなってしまっていることに気がついた威迅はよく見てみることにした。
「っ」
何とそのケルベロスは足と右脇腹に深い傷を負ってしまっていた。
血を流し、フラフラと立っているだけでも精一杯といった様子。
残り少ない体力を使って必死に威迅に近づくなと威嚇するように妖力を放っているが、決して敵意は感じられなかった。
むしろ戦いを避けたがっているように感じた威迅はケルベロスに手を伸ばすと、その頭を撫で始めた。
「クゥゥゥゥン」
「酷い傷だな。差し詰め縄張り争いに負けてここまでたどり着いたって感じか」
言って威迅は自分の肩に下げていたバッグの中に手を伸ばすと、そこから医療用道具を取り出した。
この頃の威迅は今ほど強くなく、怪我も絶えなかったため、常日頃から医療用道具を持ち歩いて何時でも応急処置をできるようにしている。
それが今は功を奏し、ケルベロスの手当に使える。
「じっとしてろよ」
さすがは上級妖怪ケルベロスと言ったところか。消毒などをしても染みて痛がる様子は全く見せず、堂々とそこに立っていた。
手当は5分ほどで完了した。
と言っても威迅には獣医の心得なんてものは無いため、軽く消毒して包帯でぐるぐる巻きにしただけなのだが、それでも妖怪――中でもかなりの強さを誇るケルベロスには十分だった。
「くぅぅぅぅん」
「おいこら、やめろって、ははは」
威迅が手当をしたことですっかりケルベロスは威迅に懐いたようで、甘えた声を出しながら威迅を舐める。
ケルベロスとは非常にプライドが高く、人間には決して懐かないのだが、このケルベロスは威迅のことが気に入ったらしい。
すっかり2人は友達になったのだ。
「ごめんなぁ。さすがに里内に妖怪を連れていく訳には行かなくて」
「わふっ!」
威迅とケルベロスが出会ってから1年が経過し、威迅は8歳になった。
すっかりケルベロスはこの森に居着いたようで、威迅が森に入ると直ぐに喜んで威迅の前に姿を現す。
ケルベロスがこの森に居着いたからか分からないが、森での仕事中に妖怪に襲われるという被害が激減した。
この1年、威迅は毎日森へ通ってはケルベロスと遊んだり、修行したりしていた。
ケルベロスは妖怪の中でも強い方、そのため修行相手にはピッタリだった。
おかげでこの1年で威迅は著しい成長を見せ、今ではケルベロスと互角に戦うことが出来るまでになっていた。
「なぁ、お前は元の場所に帰りたいとか思わねぇの?」
「がふ?」
「だってよ、お前突然縄張りを追い出されて行くとこ失ってここにたどり着いてさ。お前、博麗の巫女に見つかってたら殺されてたかもな」
「わふっ!」
「ん? そうかそうか」
ケルベロスは返事の代わりとして威迅に飛びかかって必死に頬ずりをした。
ケルベロスはここには威迅が居るから問題ないって言いたかったのだ。だが、言葉が通じないのがもどかしい。
でも、この1年で友情を深めた威迅はその行為だけでケルベロスが何を伝えたいのか、はっきりと理解出来た。
そしてお互いに抱きしめ合ってそろそろ夜が老けてきた為、威迅が帰ろうとしたその時だった。
「随分と妖怪と仲良しみたいだね、君」
「誰だ!」
突如として威迅に声をかけてきた人物、今から8年前の、7歳の頃の銀河月刃だった。
彼はここら辺に鍛冶師の里があるという噂を聞き、視察に来ていた。
そこにちょうど威迅とケルベロスは居合わせてしまった。
(つ、強いっ!)
月刃の霊力量は威迅やケルベロスを大きく凌駕していた。
戦ったら間違いなく2人とも抹殺されてしまう。
ケルベロスも久しぶりの強敵に足をガクガクと震わせてしまっていた。
「ところで君、鍛冶師の里がどこか知らない?」
「……知らない」
威迅の勘が働いた。
今ここでこいつを里に行かせてはならない。
「うーん、嘘は良くないよ――」
月刃が言い終わる前に攻撃を仕掛けたのは威迅だった。
一瞬で抜刀し、月刃の首目掛けて刀を振るう。だが、それは上体を反らして回避されてしまった。
それに続いてケルベロスも攻撃を仕掛ける。
「しつこいね」
「ギャンっ!」
月刃は拳を硬化し、ケルベロスを思い切り殴りつけたことでケルベロスは前右足を粉砕骨折し、殴り飛ばされてしまった。
「ケルっ!」
「よそ見はいけないよ!」
「がっは!」
流れるような動作で威迅の頭へ膝蹴りを叩き込み、そのまま宙を舞った血液を月刃は口の中へ含み、飲み下した。
この時、威迅は自分の能力に気がついていない。だが、それでも能力があるのには変わり無かった。
「なるほどね。こういう力か……使えねぇ……」
威迅から勝手に能力を奪って能力を理解した月刃は勝手に使えないという烙印を押す。
圧倒的な力の差。それを見せつけられた威迅はもう心が折れそうだった。
「まぁいい。話す気がないなら、死ね」
「あううううううんっ!」
「ケルっっっっっっ!」
威迅に放たれるはずだった月刃のパンチ、それをケルベロスが庇って代わりに受けてしまった。
さっきのは上手く急所を外したが、今度のはモロに直撃。殴り飛ばされたケルベロスはぐったりと地面に倒れ込んでしまった。
それを見て慌てて威迅は駆け寄る。
「ケル、ケルっ!」
「くぅぅぅぅん」
「良かった。まだ息はある」
でも、明らかに妖力が弱ってしまっている。殴られた箇所も変色し、壊死してしまっている。
早く治療しないと命が危ない。しかし、それを月刃が許してくれるはずがない。
今ここで勝てないと、自分もケルベロスも共倒れだ。
「何とかしないと――」
ガシッ
「ケル?」
戦おうと立ち上がる威迅の足を突如として掴んだケルベロス。
もう今にも命の灯火が潰えそうなほど弱々しい力。
威迅を軽くいなしていた頃のケルベロスの面影はどこにもなかった。
静寂が辺りを包む。そしてようやくケルベロスが口を開いた。
「あいうい」
「け……る?」
それが最期の力を振り絞った言葉だったのだろう。
その言葉を最後にケルベロスからは力が抜け、その場に倒れてしまった。
今のはケルベロスが最後に威迅に伝えたかった言葉。
ケルベロスは人語を喋ることが出来ない。それでも何とかして威迅に言葉を、想いを伝えたかったんだ。
――
「お前、名前は?」
「あ? 銀河月刃だが」
「そうか、俺の名前は分郷威迅。てめぇを斬る男の名だ! 覚えとけ!」
「そうか、だがそれは叶わない話だな! なぜならお前は今ここで死ぬからだ!」
殺す、殺す、殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
殺す。
そんな思考で埋め尽くされた直後、威迅は脳のキャパをオーバーし、意識を失った。
最後に目にした光景は白髪の老人が月刃と対峙している光景だった。
はい!第161話終了
ずっと仄めかしていた威迅と月刃の因縁です。
この事件を機に威迅は変わってしまったって感じですね。昔はヤンチャな優しい男の子って感じでした。
初めは茉衣も登場させようと思ってましたが、茉衣と黒葉って年齢が近いんですよね。
なので、9年前や8年前って言ったら1歳や2歳になっておかしなことになるので出しませんでした。
次回は月刃戦再開です。
それでは!
さようなら