それでは前回のあらすじ
ついに威迅の中の獣、ケルと威迅が心を通じ合わせる。
2人の力が合わさり、強大な力へと変わる。
今こそ発動しろ、狂獣技!!
それではどうぞ!
side三人称
「……本当に面倒だな!」
「お褒めに預かり光栄よ」
月刃の背中にナイフはいくつか刺さったが、どれも致命傷にはならない。
致命傷にならなければ月刃は一瞬で回復してしまうと言うのに、決め手がない咲夜は困り果ててしまう。
月刃の防御力が高すぎるのだ。
硬化させられるし、ダメージを与えても回復する。これほど厄介な敵もそうそう居ないだろう。
「褒めてねぇよ!」
「くっ!」
次の瞬間には刺さったナイフを抜き去って回復した月刃が咲夜の目の前に現れ、拳を構えていた。
回避は間に合わない。
直撃を覚悟した咲夜だったが、その攻撃が当たることは無かった。
カキンっ
「な」
「え?」
月刃の拳が何も無いところで弾かれたのだ。
咲夜が何かをした訳では無い。咲夜からしたら突然月刃の拳が弾かれたことになり、混乱してしまう。
だが、これで助けられたことも事実。この隙に咲夜は飛び退いて体勢を整えた。
「なんだ。何がある、そこに!」
「《隠し包丁》だよ」
双剣の応用。
本来双剣は自分の刀に重ねることで1度に2撃与えるというのが強みだったりするが、この技は刀を振った時に霊力の斬撃をその場に置き去りにする。
そうすることでその場に霊力の斬撃を設置し、相手が当たると斬撃ダメージを与えるというトラップになる。
これは完璧な双剣を出来なくてもできる技のため、前から茉衣が使えた技だ。
「どう? 私も少しはやるでしょう」
ふっふーんとドヤ顔を見せる茉衣。
だが、茉衣の攻撃では切り傷は入ってもどうやっても致命傷にはならない。攻撃力が足りない。
でも、戦っている最中に急に斬撃を受けると言うのは月刃にとってかなり面倒なことも確かだった。
「まずはお前からやることにする!」
「っ! させない!」
月刃が動き始めたのと同時に咲夜も茉衣を守るために動いたが、それでもスピードの差がある。
咲夜が茉衣の元へたどり着く前に月刃が茉衣に届く。
茉衣は2人ほど戦い慣れている訳では無い。
でも、茉衣にも茉衣なりのプライドというものが存在している。
(そんな簡単にやられてたまるもんか!)
神速の加護を使って迫ってくる月刃、そんな威力の攻撃を茉衣が受け止められるはずがない。
そもそも触れようものなら刀だろうが破壊されるのだ。受け止められるわけが無い。
触られた時点で終わりなのだ。
茉衣の至高速度は今まで生きてきた中で1番の速さとなっていた。
そして導き出した結論は――
「《三日月》!」
「《桂剥き》」
月刃の《三日月》に一瞬だけ刀を触れさせて攻撃の軌道を逸らす。これが茉衣が打てる最善手だった。
《三日月》は手に霊力をまとわせて能力を発動させる。だから拳に触れなければ大丈夫。たとえ刀が壊れたとしても拳に肉体が触れなければ何とかなる。
そう考えて攻撃を受け流すと、予想通り月刃の拳は逸らすことに成功したものの、直後に茉衣の刀はさびて木っ端みじんに破壊されてしまった。
だが、おかげで茉衣は月刃の懐にもぐりこむことが出来たため、拳に霊力を纏わせる。
黒葉がやっていた《インパクト》を参考にした《インパクト》擬き。
普通に茉衣が殴ったところで月刃にはダメージが入らないことは分かり切っていた。だから茉衣は少しでも攻撃力を上げることが出来るように《インパクト》を使う。
だが、その攻撃が月刃に当たることはなかった。
「へ?」
茉衣の口から素っ頓狂な声が漏れ、その次の瞬間には茉衣は地面に顔面から突っ込むことになっていた。
すり抜けた。茉衣の《インパクト》擬きを使った拳はなんとはっきりと見える月刃の胴体をすり抜け、いつの間にか背後に移動していた月刃に蹴り飛ばされてしまったのだ。
茉衣は何されたかわからず倒れたまま呆けてしまうが、実は咲夜と茉衣の視界には別のものが映っていた。
茉衣の視界には拳が月刃の胴体をすり抜けたかのように見えたが、咲夜の視界には茉衣が攻撃し始める前に月刃はすでに茉衣の背後に回り込んでおり、茉衣の攻撃がただからぶったように見えた。
「うん、思ってたよりはやるね。だけど、及ばない。《
霊力探知が得意だったら光の屈折で視界が欺かれたとしても霊力が別方向から感じることですぐに気が付くことが出来ただろう。
これは茉衣が霊力探知がそこまで得意じゃないことが影響している。
「さぁてチェックメイトだ。《
立ち上がれない茉衣の右足を掴むと月刃は能力を発動してしまった。
先ほどまでの《三日月》とは違い、触った個所から徐々に"欠け"が広がっていくタイプの技。茉衣の足がどんどんと黒く染まっていく。
だが、咲夜がそれをただ黙って見ているわけがなかった。
「む、《
突然嫌な予感がした月刃は《月食》を中断して周囲に光の壁を作り出した。その瞬間、光の壁に大量のナイフが突き刺さって止まった。
茉衣を助けるために咲夜が放ったのだろうと考えられるが、すでにナイフが投げられた先には咲夜はいなかった。
1秒の《ザ・ワールド》を利用し、解除後に気が付かれないようにナイフでミスディレクションを行ったのだ。
そして――
パリィン
「がふっ」
真横からの飛び蹴りが月刃に炸裂。
ナイフを受け止めた光の壁だったが、至近距離からの衝撃には弱く、咲夜の蹴りでいともたやすく突破して月刃の顔面に咲夜の蹴りがクリーンヒットした。
威迅ではないが、咲夜も茉衣が攻撃されているのに黙って見ているような人間ではない。むしろ咲夜にとって茉衣は守るべき対象なのだが、守り切ることが出来ずに片足を壊死させることになってしまった。
もうこの右足は使い物にならないだろう。
「ごめんね」
「大丈夫です。それよりもあいつを倒してっ!」
「えぇっ!」
「《
蹴り飛ばした月刃に追撃しようと咲夜がナイフを構えたが、突如として周囲に霊力が充満した霧が出始めた。
この全てから月刃の霊力を感じ、咲夜の樹海による霊力探知が妨害されてしまう。
これではまともに霊力を感じ取ることが出来ない。月刃の神速の加護を予測できない。
「がはっ!」
突如受ける腹への衝撃。
月刃の膝蹴りだった。霊力を感じられなくなった月刃の攻撃はまさに突然に……。回避不可能対処不可能絶体絶命の三拍子そろった絶望的な攻撃だった。
だが、それでもカウンターを仕掛けようとナイフを構えるがそれよりも先に月刃の拳が咲夜の顔面へと迫る。
「《三日月》」
「くっ」
それは回避不可能だった。
何とか回避しようと体を動かすが、それでも顔面にかすってしまい月刃の拳が顔の右半分に当たってしまい、右半分の皮膚と眼球が壊死してしまったことで右目が使えなくなってしまったが関係ない。
それでも咲夜は不屈の精神でナイフを振るう。だが――
ガキン
「はぁ……はぁ……うそ……でしょ……」
肉を切らせて骨を断つ。その想いで右目を失ってまで繰り出したカウンターの攻撃は硬化した月刃の腹に受け止められてしまった。
忘れていた。
月刃の能力が強すぎてこれにばかり意識が向いていたが、ほかにも月刃は
咲夜は今度こそ死を覚悟した。
もうボロボロだ。これ以上は戦える気がしなかった。
咲夜の心は今この瞬間に折れてしまったのだ。
「はい、終わりだね」
諦めてしまい脱力した無防備な咲夜に月刃の拳が迫りくる。
(あぁ……勝てなかった……。申し訳ございません、お嬢様、妹様、黒葉。私は皆さんのもとへ帰れそうにありません)
死を覚悟した、その時だった。
肉眼では線に見えるほどの速度で何かが月刃へ飛んできてそのまま月刃はその何かにぶっ飛ばされたことで咲夜には攻撃が当たることはなかった。
その代わり、その何かが超スピードで動いたせいで周囲に衝撃波が発生し、咲夜と茉衣の2人は少し吹っ飛ばされてしまう。
「てめぇ、うちの妹に何してくれてんだ。万死に値するぞ」
「い、威迅!?」
その猛スピードで飛んできた何かとはなんと分郷威迅だった。
さっき気絶してしまったはずの威迅が咲夜の目の前に立っていて、今月刃を蹴り飛ばしてしまった。
しかも姿も先ほどまでの物とは全く違い、黒い鎧のようなものを身に着け、肩パッドが狼の頭のような形状になっている。
帽子もよく見たら狼の頭のような形状だ。
それに何より前よりも圧倒的に霊力が強くなっている。
――
「威迅、出来たんだね。よかったぁ……」
これなら勝てるかもしれない。
そう考えて威迅に助けられた命、死ぬその時まで必死にもう一度藻掻いてみようとそう考えなおして咲夜も構えなおした。
威迅の狂獣技、その恩恵は――超身体能力。
はい!第164話終了
ついに威迅の狂獣技の戦闘シーンが次回から始まります。
それにしても月刃戦のみんなの被害が凄まじいですよね。
威迅は左腕、茉衣は右足、咲夜は顔右半分が壊死してしまっています。
この戦い終わってもこの被害はでかそうですよね。
あ、もう少しで月刃戦終わります。
それでは!
さようなら