それでは前回のあらすじ
咲夜と茉衣は何とか月刃を対処していく。
だが、茉衣は右足が壊死してしまい、咲夜は顔右半分が壊死してしまうという絶体絶命。
周囲に月刃の霊力が込められた霧が発生したせいで樹海による霊力探知が不可能に。
回避不可能対処不可能絶体絶命の状態。
そこでついに威迅が狂獣技を発動させ、目を覚ました。
やっと希望が見えてきた。
それではどうぞ!
side三人称
(速い、あの男、異常に速くなった。それにあの姿、
周囲に衝撃波が出てしまうほどの速度。
月刃の速度も本来ならば周囲に衝撃波を放ってしまうほどなのだが、加護の恩恵で衝撃波が出ることは無い。
だが、衝撃波が出るということは加護の力とかでは無い身体能力での速度ということになる。
それにあれだけの速度を出せるということは筋力もそれ相応に強化されている。
今の威迅はフィジカルお化けだということだ。
「ソッコーでケリつける」
不安要素はすぐに片付けるに限る。
そう決めた月刃は神速の加護を発動させ、風を置き去りにする速度で威迅へ向かって走るが、月刃がたどり着いた時には既にそこに威迅の姿は無くなっていた。
代わりに背後から殺気を感じた月刃は背筋をゾクッと震わせたあと、慌ててしゃがむ。
その次の瞬間、風を着るような速度で月刃の頭上を何かが通り過ぎた。元々頭があった場所、そこを猛スピードで足が通り過ぎた。
今の一撃、回避が遅れていたら確実に月刃の頭は吹っ飛んでいた。
「マジかよ」
「ふぅ……」
威迅、さっきまで目の前にいたはずの男が月刃の背後に立って回し蹴りをしていた。
月刃がスピードに対応することが出来なかった。かろうじて霊力を感じ取って回避することが出来たが、月刃の樹海の精度が悪かったらこれで終わっていたのだ。
それを察して月刃は気を引き締め、拳に霊力を込める。
「《三日月》」
そのまま振り返りざまに威迅のみぞおち目掛けて拳を突き放つが、威迅はその拳に触れることはなく、腕を弾いて今度は逆に拳を月刃へ叩きつけた。
これは双剣ではない、ただの霊力をまとわせただけの拳。強化されただけの拳だ。
この程度なら硬化を破られることはない、そう思っていた月刃だったが、それはいともたやすく裏切られてしまった。
「ぐえっ」
拳を腹に叩きつけられた月刃は苦痛の声を漏らしながら宙を舞う。
まるでその衝撃は超巨大鉄球が振り子の勢いをつけて思いっきり直撃したかのような物。これもまた月刃が硬化していなかったら間違いなく月刃の腹のど真ん中に風穴があいてしまっていたであろう威力。
確かに威迅の狂獣技の恩恵は超身体能力強化。だが、その強化率は月刃の想定を上回っていた。それも大きく上回り、まるでカップ1杯では足りず、3杯ほどになってしまうくらいに想定というカップからあふれ出してしまっていた。
この身体能力はもともとのケルベロスの身体能力だ。
まだ赤子だったケルベロスは威迅の中で成長し、大人になった。この大人になったケルベロスの身体能力は月刃のそれを大きく上回っている程だった。
大人のケルベロスならば月刃にも負けない。
「くっ!」
月刃が殴りかかって威迅が防ぎカウンター、それを月刃は回避して隙を見て攻撃をする。
一進一退の攻防、威迅は月刃のスピードについて行けるまでになっていた。
神速の加護で距離を取ろうとも、それとほとんど同じような速度で距離を詰める威迅。
「だぁっ!」
「かはっ!」
だが、それでも威迅の方がわずかに上回っていた。
月刃は驕っていた。自分には戦いの才能が有り、
そう考えて修行を怠っていた。
対する威迅は常に修行を欠かさず、努力をし続けてきていた。そのため、この自分の力にもすぐに肉体が適応し、月刃を追いつめることが出来るまでになっていた。
これは明らかに努力の差。
この差が月刃の才能だけで埋められるものではなかった。
「がぁっ!」
威迅は月刃の拳には触れずにだんだんと月刃を追いつめていく、ダメージを与えていく。そのたびに治癒させていく月刃だったが、月刃の方はあんまり威迅にダメージを与えることが出来ず、地面に手を突くほどに疲弊してしまっていた。
(つ、強い。強すぎる。何なんだこいつは、こいつの狂獣技は! 負ける? この俺が? 冗談じゃない、巫山戯るな。勝てなきゃ意味がない。負ければすべてを奪われるんだ。この世界は勝者こそが正義。敗者に人権なんてないんだ。だから勝ち続けなければいけないんだ)
地面を這いつくばる月刃を見下ろす威迅とそんな威迅を睨みつける月刃。
そんな2人の攻防を見て咲夜は唖然としていた。
これで自分と威迅の2人で戦って互角になればいい程度に考えていたのだが、威迅1人で何とかなりそうになっているのだ。
だが、次の瞬間世界の時間が停止した。
咲夜は特に何もしていない、ということは残るは一人しかいない。
「月刃!!」
だんっ!
かきんっ!
月刃の拳と咲夜のナイフが競り合う。
威迅はこの時が止まった世界では指一本動かすことが出来ない。月刃の目的はこの世界で咲夜を引きずり出すことだった。
この世界に入り込んだら強制的に数秒間だけだが、月刃と咲夜のタイマン勝負となる。
「くっ!」
「お前を倒せばこの世界を使い放題だ。俺は負けねぇんだ!」
がっ!
月刃の膝蹴りが咲夜に入り、咲夜はぶっ飛ばされてしまう。そのタイミングで咲夜は衝撃で能力を解除してしまい、月刃の能力のタイムリミットが訪れる。
元の時間に戻った。だが、もうすでに月刃は威迅が回避できないくらいの場所にまで迫っていた。
拳には霊力を込めて《三日月》を構えている。
時が動き出したその瞬間、威迅の思考回路は常人の数倍の速さで動き始め、月刃の《三日月》を認識したその瞬間、威迅は口に刀を咥え、左手で心臓へと迫ってきていた拳を手で受け止めた。
神速の加護も載せた一撃、威力だけではなく月刃の能力による壊死の効果もある。
「捕まえた」
威迅が拳を手で受け止めた瞬間、直ぐに作戦を変え、威迅の手のひらから拳を離すと今度は腕をガシッと掴んだ。
「《月食》」
「っ!」
触れた場所からどんどんと壊死が広がっていく能力、一瞬にして月刃の腕は手のひらから肘までが完全に壊死してしまい、このまま握られていたらさらに壊死が広がっていってしまう。
だから威迅は咥えた刀を操作し、掴まれた左腕を切り落とした。
「躊躇いってもんは無いのか?」
「無い」
普通は躊躇うものだが、威迅にそんなものはなかった。おかげで威迅は月刃の手から逃れ、距離をとることに成功した。
だがこれで威迅は両腕とも使い物にならなくなってしまった。
「問題ない。俺が直接この刀に触れていれば能力は使える」
「強がり言ってんじゃねぇよ!」
月刃の猛攻が再開する。
だが、威迅は全く変わらないように腕の代わりに刀を使って、足も駆使して月刃の攻撃をいなしていく。
でも、さっきのように拮抗している感じではなく、やはり手ではなく刀を使うという点から反応が少し遅くなり、押されてしまっている。
(はぁ、はぁ、なんとかしないと)
咲夜は立ち上がり、2人の戦いへ目を向ける。
改めて見ても速すぎて自速では全く敵わないということを痛感してしまうほどだ。
なんとかできないか、そう考える。
そこである違和感に気がついた。
(そういえば、時を止めて相手を壊死させないのはどうして?)
もちろん時を止めて攻撃しようとしたら咲夜が全力で阻止するが、咲夜は何度も時を止めた世界で月刃の攻撃を受け止めているが、その時はナイフを破壊されることも、そして咲夜の肉体が壊死してしまうこともなかった。
気がつくのが遅かった。
もう既にみんなボロボロの状態、今ここで気づいたとしても、この状況を覆らせることが出来るか分からない。
でも、有用な情報だ。
(時を止めてる間、『満ち欠けを操る程度の能力』が使えない!)
咲夜は『時間を操る程度の能力』しか持っていないため、今まで気がつくことは無かったが、他者に影響させる系の能力は時を止めた時点で出力が止まってしまう。
何せ、
でも、これを利用するとしたら咲夜は月刃とのタイマン勝負で勝たなければいけない。
しかし、月刃はダメージを回復しているため、ずっとピンピンしている。
この状況をどうにかする方法。
「せめてこの能力を威迅が持っていれば……」
でも威迅は
けれども威迅が咲夜の能力を使えれば確実に勝てるだろう。
その時、咲夜の脳内に記憶が蘇った。
『ねぇ咲夜、私でも勝てない相手が現れた時、この紅魔館ってどうなってしまうのかしら?』
『……それは霊夢のことですか?」』
『いや、霊夢程の相手はそうそう現れはしないと思うけど、でも、現れるかもしれない』
『もし、そうなってしまったとしたら、お嬢様が敵わない相手に対抗出来る人はこの紅魔館には居ません。蹂躙されてしまうのでは無いかと』
『私はそうは思わないわ』
『と言いますと?』
『私がやられたら咲夜、あなたがこの紅魔館の最後の砦になるのよ』
『私が……ですか? お嬢様、お言葉ですがお嬢様が勝てないような相手に私が勝てるとはとても……』
『いえ、私はあなたならできると思っているわ。だってあなたは樹海の扱いに関しては私を超えているもの。期待しているわ』
『それにしてもお前は樹海が使えるのか。俺は才能がないから羨ましいことだ』
『……知っているのね』
『あぁ、昔白愛から聞いた。能力を使える人の中でもごく一部の才能がある奴にしか使えない力、樹海。それは自身の力を拡張することが出来る力だ。霊力を周囲一帯に散りばめて索敵範囲を広げたり、逆に集中させれば、大きな力を使える。それこそ
もし、お嬢様の言うように自分に樹海の才能があるのならば、もしかしたらできるのかもしれない。
でも、失敗したら確実に自分は死ぬ。
「ふっ、主人のことを信じるのも従者の仕事だものね」
紅魔館を出てしばらくもう会っていない自身の主人――レミリアのことを思い浮かべ、口角を上げる咲夜。
失敗したら確実に死ぬからなんだ、このままでも確実に死ぬんじゃないか。
どうせ死ぬなら後悔しない死に方を、悔いなく死んだとしても仕方がない、自分に出来ることはやりきったと胸を張ってあの世に行けるように。
死に方で後悔はしたくないから。
「これが紅魔館の完全で瀟洒な従者、十六夜咲夜の生き様だ! 幻世《ザ・ワールド》」
カチン。
時計の針が動いた音が聞こえ、時が止まる。
今度の時間停止は月刃を欺くためのものでは無い。月刃を倒すための時間停止、そして咲夜にとっての最後の時間停止。
今ここで決める、今までの全てを今ここに賭ける、その覚悟を持って時間を停止した。
「おい、てめぇは殺されたい、それであってるか? バカメイド」
「殺されるのはごめんよ。私は勝つのだから!」
「寝言は寝て言え、夢見女子!」
当然わかっている、勝てるはずがないって。
だから咲夜の今の役目は気絶しないこと、死なないことの2つ。
耐える、そうすれば希望が見えてくる。
だんっ!
「かっ!」
いきなり腹に一撃拳がめり込み、殴り飛ばされてしまう咲夜は吐血してしまう。
それを月刃は飲み込むことでさらに咲夜から能力を奪って時間を伸ばしてくる。
(まだ、まだよ。まだ、耐えるのよ!)
次に迫ってくる月刃の回し蹴りをなんとか腕で防御するが、次の瞬間には反対側から回し蹴りが飛んできてもろに食らって蹴り飛ばされる。
心が折れそうだった。
もう霊力が限界。
攻撃する度に出る咲夜の血液を摂取することでどんどんと時止めの時間を伸ばしていく月刃。
今までの戦いでも何度か血を奪っている為、もう既に1分以上は止められるようになっていた。
対する咲夜は万全の状態だったら10分ほど止められるのだが、体力の問題もあり、もう時間に猶予は無かった。
「威迅っ、助けて!」
「はっ! 自分から喧嘩売っといて他者に助けを求めるか! 無駄だ、そいつはこの世界には入って来れないんだからな!」
「ガハッ」
威迅の肩に手を着いて懇願する咲夜へ無慈悲なる攻撃が襲った。
殴り飛ばされた咲夜は力無く地面に倒れ、そこで両者共に《ザ・ワールド》のタイムリミットが訪れた。
もう咲夜は体力が残っていない。
体もボロボロで動けないだろう。そうなるとあとは威迅だけ。
今の状態の威迅は時間をかければ倒せる、そう思って月刃は高笑をした。
勝利を確信したのだ。
「あーっはっはっはっはっ! 俺の勝ちだァっ! やっぱり俺は最強だ!! 俺が負けるはずがなかったんだよ! その程度で俺に勝てると思ったかマヌケがぁ!! てめぇの頑張りは全て無☆駄。残念でしたぁ! そんじゃ、早く楽にしてあげるねぇ?」
ヘラヘラと高笑いをして勝利宣言をする月刃は咲夜へトドメを刺そうと1歩踏み出そうとした瞬間、それに気がついた。
「う、動かん」
そう、動かないのだ。
正確には動けない。まるで自分の体がガチガチのコンクリートに固められてるんじゃないかと思うほどにピクリともしなかった。
これには心当たりがあった。
時間停止。
これなら能力を持っている月刃と咲夜は時が止まってても意識を保つことが出来る。
でも、それなら動けるし、咲夜も月刃もタイムリミットが来て解除されたはずだった。
「な、何故」
「よぉ、随分楽しそうだったな」
はい!第165話終了
今回は書きたいところまで書こうとしてたらここまで長くなってました。
あの時の咲夜とレミリアの会話は伏線になってたわけです。
どうにも咲夜と月刃の戦いって時止め主体になるので、承太郎対DIOみたいになりますね。
そして勝利を確信して勝利宣言する月刃。今にもwryyyyyyyyyyと叫び出しそうですね。
最っ高にハイッて奴だ。歌でも1つ歌いたいようないい気分のようですね。
今までは咲夜達に絶望が降り掛かっていましたが、次回は月刃に絶望が襲い掛かります!
やれ、反撃の時間だ!
それでは!
さようなら