それでは前回のあらすじ
咲夜が樹海技を発動、ついに月刃を追いつめる。
あと一歩倒せなかったが、おかげで月刃はガス欠、治癒が出来なくなった。
そこで最後の一撃、これで倒したかと思いきや月刃はまだ倒れず咲夜と威迅は気を失ってしまった。
だが、最後に茉衣がスタンガンを月刃に突きつける。
そして月刃の脳内に失われたはずの記憶があふれ出すのだった。
それではどうぞ!
side???
10年前。
「君が、問題児君だね」
ここはスラムと呼ばれている人里。
ろくでなしのたまり場とも呼ばれており、この幻想郷で一番荒れている人里と言われている。
ごみは散乱し、至る物が壊れ、家なんて建てようものなら3日と経たずしてぶっ壊されるごみ溜めのような人里。
住民はもれなくぼろ雑巾のような衣服を着用しており、日々残飯の様に汚い飯を食らって日々命をつないでいるような里。
そんな里に一人の大柄で体格と身なりの良い男が現れたということはすぐに里中に広まった。そんな恰好をしているのだ。目立つに決まっている。
「相変わらずここはひどいありさまだな」
そんな奴は今、俺の目の前に立って一方的に話しかけてきている。俺が完全に無視を決め込んでいるというのに奴はお構いなしという様子。
正直、かなり腹が立つ。
だから奴から金目の物を奪ってやろうと考えた。
こんな里にそんないい身なりで来るやつが悪い。如何にも金を持っていてどうぞ襲ってくださいと言っているようなものだ。
これもこの里の厳しさだ。それを今教えてやろうと思って近くにあったナイフを手に取り、男に斬りかかった。
だが、思い知らされたのは俺の方だった。
俺が振ったナイフはいともたやすく人差し指と中指で受け止められてしまい、ピクリとも動かなくなってしまった。
瞬間、俺は悟った。このおっさんは凄まじく強い、殺す気で本気で攻撃しなければ倒せないと。
だからナイフから手を離した俺は超スピードでおっさんをかく乱することにした。俺は生まれつき足がとてつもなく速く、今まで誰も俺のスピードを捉えられた奴はいなかった。
だからこれで勝てると思ったんだけど、おっさんの背後から蹴りを放った瞬間、おっさんは振り向きざまに俺の足を掴んできた。
「まじかよおっさん」
「君の身体能力は素晴らしいね。だけど、君は井の中の蛙だ。このスラムしか君は知らないだろう」
「く、離せ!」
「そういうわけにはいかない。君のことは霊華のやつから退治するように指示されているんだ」
霊華というのは博麗霊華のことを言っているのだろう。
俺でも知っている、今の博麗の巫女のことだ。その巫女が退治するといったらぼこぼこにする。生死は問わない。というやつだ。
その指示で俺のもとへ来たということは――
「っ、俺のことを、殺す気か」
「それもなぁ……だって君まだ子供だろ? こんな子供を殺すっていうのはなぁ……」
「ガキ扱いかよ」
「だってガキじゃん」
イラっとしたが、いまここでもう一回殴りかかっても涼しい顔で受け止められてしまうことは分かり切っていたため、抵抗することはやめた。
「よし、決めた。お前は俺の養子にする」
「はぁっ!? 何言ってんだてめぇ」
「てめぇじゃなくてお父さんと呼びなさい。俺の養子になればさすがに霊華も何も言ってこないだろう。君、名前は?」
「……ない」
「まぁ、そうか。スラムでは親もいないというやつも多いし、名前がなくても仕方ないか……じゃあ、お前は今日から月刃、銀河月刃と名乗れ!」
「勝手に決めんじゃねぇおっさん!」
「お父さんと呼びなさい」
おっさんはすごく強引だった。
それからはすごくスムーズに物事は進み、俺は力で勝てないため抵抗することはできずにおっさん――銀河天魔の養子になることになった。
どうやら今回は博麗の巫女に指示されたという理由だけでおっさんが来たというわけではないらしい。どうやら今回の件はおっさんが自主的に引き受けたのだとか。
俺には生まれつき相手の体液を摂取することで相手の能力の一部を奪うことが出来るという能力、
というか、俺がこの能力を悪用していろいろな奴らから金品を奪って回っているということが博麗の巫女の耳に入って俺を退治するという話になったらしい。その時に同じ能力を使えるということで親近感を抱いたおっさんが立候補したんだとか。
俺を養子にしたと報告しに行ったときは博麗の巫女が何とも言えない表情をしていたことを覚えている。
あと、おっさんには奥さんが居た。その奥さんはニコニコしていたが、困惑しているというのは伝わってきた。
それと奥さんは身ごもっていた。もうすぐ出産するらしいというタイミングだったのだが、そんなときに俺という問題児を連れてきてよかったのかとツッコんだが、おっさんはへらへらと笑っているだけだった。
本当によくわかんないおっさんだ。
それからほどなくして銀河家に第1子が誕生した。俺は養子だし、1子にはカウントしないだろう。
名前は奥さんが太陽と名付けた。太陽の様に明るく周りを照らすような存在になってほしいという願いが込められているんだとか。随分とたいそうな名前だと思った。
太陽は物覚えがよかった。観察眼も鋭いし、言葉もすぐに話せるようになったし、歩けるようになるもの多分早かったと思う。
俺が養子だということは誰も告げようとはしなかった。
太陽が生まれるころにはもう俺のことを本当の子供の様に扱ってくれていたのだ。
1歳になるころには自分で考えて行動できるようになっていた。本当に成長が速い子供だと思ったことを覚えている。
「お兄ちゃん、あそぼー!」
「あ、あぁ……なにする?」
それよりも今まで俺は自分が一番下という環境で過ごしてきて慕ってくれる存在というのが居なかったため、太陽が俺のことをお兄ちゃんと慕って後をついてきてくれるというのが新鮮で、なんというかそこはかとなくうれしかったんだ。
だから俺は太陽の面倒をよく見るようになった。
おっさんたちはなにやらすごく忙しそうにしていたから家には基本的に俺と太陽だけということもあり、自然と太陽の面倒を見るのが俺の仕事になっていた。
とはいえスラムの奴らとは違って育児放棄をしていたというわけではない。しっかりと太陽のことも世話をしていて、俺たちの誕生日にはパーティーを執り行った。まぁ、俺の誕生日といっても俺には親が居ないため、正確な誕生日は分からないからおっさんたちが勝手に決めた誕生日なんだがな。
それからさらに1年くらいが経っただろう。
妹が生まれた。名前は天音という。
天に声が届くように、それくらいに大きい存在になれるようにという思いが込められているんだという。
それから、この間に博麗の巫女が戦死した。
この時に初めて俺は知ったんだ。おっさんたちがそれほどに強大な存在と戦っていたということを。
俺はそんなことを知らず悠々と過ごしていたんだ。
博麗の巫女が戦死すると同時に戦いは終結した。終結はしたんだ、だけど事件は起きた。
おっさんが仕事に行っている最中のことだった。
戦争の残党が俺たちの家に押し入ってきた。
当然俺は家族を守るために戦ったが、それでも守り切ることが出来ず、たまたま家にいた奥さんが俺たちを庇って殺された。
今でもその時のことは鮮明に覚えている。
直後、おっさんが血相を変えて帰ってきて残党を撃退したが、奥さんは即死だったため、助けることは叶わなかった。
それからだった、おっさんが変わったのは。
おっさんは何かにとりつかれたかのように自軍を強化しようといろいろとした。
強化プログラム、それを自分に行ったおっさんは良心というものを失ってしまったように見えた。今まであったやさしさというものが無くなって、無常な性格に変わってしまった。
今までのおっさんを知っているから、俺はもうその姿を見ていられなかった。
俺も力になりたい。
だから俺は自分から打診したんだ。
「俺も強化プログラムを受ける。少しでも力になれるなら、この命惜しくはない!」
「そうか、じゃあ、やるぞ」
この時初めて知った。
強化プログラムとは強大な力を手に入れる代わりに遺伝子を強制的に組み替えるのだから、代償というものがあるのだ。しかもそれは完全ランダム。何を失うかはやってみないとわからない。
そして俺が失ったものは――
全てを思い出した。
失ったはずだったのに……。
全てを思い出した今だからこそ、今までの俺は馬鹿だったなと客観視できた。
大切だったはずのものを全て忘れてしまって、大切だったはずのものを傷つけて……。
全ての記憶を失っていたとはいえ謝って許されることとは到底思えない。それくらいのことを俺はやってきてしまったんだ。
だから今更許してもらおうと思わないし、自分のやってきたことに責任を取るため、許してくれとも思わない。
だが、それでもこれだけは言わせてくれ。
太陽――
「ごめん」
瞬間、首筋に当てられたスタンガンの電源が入れられた。
すると瞬く間にスタンガンから発せられた電流が全身を駆け巡る。
もう体力が無い俺にこの衝撃を耐える術はなく、意識が刈り取られてしまう。
この雨だ。俺にスタンガンを使った小娘まで感電していた。
気を失う間際、俺の頭に浮かんだのは笑みを浮かべた太陽の姿だった。
いつかその光を俺にも分けてくれよ。太陽、お前は真に太陽のように輝ける男だ。
そして俺の意識は闇に沈んでいった。
【天魔組VS鍛冶師の人里
鍛冶師の人里、外周の森の戦い
勝者、十六夜咲夜、分郷威迅、分郷茉衣
ただし、全員気絶】
はい!第167話終了
これにて月刃戦終了です。
今まで明かされてこなかった月刃の強化プログラムの代償は記憶でした。
3人の中で1番重い代償ですね。
ようやく月刃を倒して残る大ボスは天魔のみ。
次回から黒葉、烈夏、雪姫、天音の4人で天魔に挑みます。
それでは!
さようなら