それでは前回のあらすじ
パチュリーの話を聞いた黒葉は一目散にレミリアを助けに行ってしまった。
だが、今の状況で龍に勝つことはできないと考えた咲夜はどうするべきかと葛藤する。
そこでパチュリーが咲夜を落ち着かせることで何とか咲夜が復活。
レミリア救出作戦に乗り出すのだった。
それではどうぞ!
side黒葉
俺は今、森の中を走っていた。
ここ、霧の湖の周辺は森が生い茂っている。だから紅魔館からどこかに行く時は必ず森の中を突っ切ることになる。
どこへ向かっているのか。それは分からない。
とにかく俺は姉貴の妖力の痕跡を辿って姉貴を助けに行く。
しかし、これはどこへ向かっているんだろうか?
少し前に図書館で地図を見た時は確かこっちの方向には人里があったはずだ。
だが、どういうところなのかは全くわかっていない。
俺も少し前に紅魔館に来たばかりだし、それからはかなり忙しくしてたから周りを見ている暇はあまり無かったんだよな。
それにしても確かパチュリーの話だと姉貴を連れ去った男、桑間龍は自分のことを五天魔王だと名乗ったんだよな。
俺が今回倒すように歩夢さんから頼まれた組織のナンバー2。
そいつが動いてきたということはもう猶予は無いのかもしれない。
まだ全然新生選抜チームを揃えることが出来ていないのにこの状況はまずいよな。
どうにかして姉貴を早く助け出してメンバーを集める必要がある。
しばらく森を走っていると漸く森の先に開けた場所が見えてきた。
どうやら人里の場所までたどり着いたようだ。思ったより距離はなかった。
恐らくやつはこの人里を拠点にしているんだろう。そう考えて森を出ると、俺はその先に広がっていた光景を見て唖然とし、足を止めてしまった。
そこには小さい小屋のようなものがあり、近くに船が鎮座していた。ただ、それだけだった。
地図で見た人里の影も形もなく、そこにあったのは人里を簡単に飲み込んでしまいそうな位に巨大なクレーター。まるで人里そのものがえぐり取られたかのような見た目だ。
そして、そこはまるでなにかの影になっているかのように日光が全く当たっていない。
不思議に思い、上空を見上げてみると俺は再び唖然としてしまった。
なんとそこには超巨大な浮島が存在していたからである。
ここにあった人里がそっくりそのまま浮き上がってしまったかのような感じだ。
いや、実際そうなんだろう。なにか凄まじく強い霊力のようなものが数百メートル離れたこの地上にまで届いて感じ取れる。
なにか強い力があの島をえぐり取って浮かせているんだ。
そしてよく考えてみると船にも同じ力を感じる。
つまり、あの船も浮かせようと思ったら浮かせられる、いわば飛行船のようなものなんだろう。
あんなもの見たことがない。
興味本位でフラフラと近づいていってしまう。そんな俺に近づく人物が居るということにも気が付かずに。
「君は聞いたことないかい? 天空都市『スカイ』」
「っ!?」
ゾワッ
突如背後から聞こえてきた声に全身を震わせ、慌てて前方にジャンプして振り返る。
間違いなくゼロ距離だった。その距離に近づかれるまで全く気が付かなかった。
「そんなに警戒するな。別に君を取って食おうというわけじゃない」
「なら、その殺気を仕舞えよ」
「おっと失礼」
黒マントを羽織って王冠を被っているというふざけた格好。
筋肉はあるように見えずにひょろひょろで弱そうに見える男。
間違いない。パチュリーが言っていた特徴と完全一致している。こいつが桑間龍だ。
こいつの目の前では少しでも言動を間違えたら死が待っている。そう感じさせるほどの殺気だった。
「ごめんごめん、そういうつもりじゃなかったんだよ。ところで君、あれを初めて見たのかい?」
「あ、あぁ、最近こっちに来たばかりなんだ」
「そうか、あれはまぁいわゆる人里だよ。まぁ、里と呼ぶには少々発展しすぎてはいるが、天空都市『スカイ』。それがあれの名前だよ」
天空に島があるって言うだけでも驚きなのにあれは人里なのか。
つまり、あの飛行船はあの島へ入るための乗り物と言ったところか。
説明されてはいるが、その間も俺は龍から目を離さない。というか離せない。
離したら殺されるのではないかという重圧が常に俺を推し潰そうとしている。
だが、どうしたんだろうか。
やつは今、姉貴と一緒にいない。この場所にいるって言うことはまだ姉貴をどこかに連れて行っていないんだと思うし、近くから姉貴の妖力を感じる。
俺は探知が苦手だから近くにいる程度しか分からないけど。
「レミリア・スカーレットはどこだ」
「ん? 君はあの屋敷の住人なのかい? なら、悪いことしたね。もう君の帰る場所はないよ。僕が破壊したからね」
「っっ!! もう一度聞く、レミリアはどこだ!」
龍の殺気に負けないように俺も全力で殺気を放つが、奴は涼しい表情をしている。
「あはは、小型犬でも吠えているみたいだ。でも、そうだね。それじゃあ、君には伝言を頼もうかな。おーい、レミリア嬢!」
俺の殺気を意に介さず、ニヤリと口元を歪めて笑うと、後ろの森へ向かって姉貴の名前を呼んだ。
やっぱり近くにいた。
木の陰からゆっくりと出てきたのは紛れもなく俺の捜し求めていたレミリア・スカーレットその人だった。
だが、この状況だからだろう。
雰囲気がいつもとはガラリと変わってかなりピリついていた。
多分姉貴もこの男を刺激しないように注意しているんだろう。
でも、目が会った瞬間、一瞬だけそのピリついた雰囲気が和らいだような気がしたが、気のせいだったのだろうか? すぐにまたピリついた雰囲気に戻ってしまった。
「姉貴!」
「無事に帰って来れたのね」
「ああ! なぁ姉貴、俺と一緒に帰ろう? みんな待ってるからさ!」
「…………」
「姉貴?」
「ごめんなさい、それは出来ないわ」
「っ!」
なにか事情があるから姉貴は龍に従って来たんだろうということは想像ついていたため、断られるというのは予測していた。
でも、実際に断られるとだいぶきついものがある。
でも、ここで諦めちゃダメだ。姉貴の帰る場所はあそこで、姉貴が居なくちゃそこは紅魔館じゃない。
みんな姉貴のことが好きなんだから。
ここで諦める訳にはいかない!
「なにか理由があるのか? 俺たちから離れなきゃいけない理由が! 俺たちは家族なんだろ? 姉貴、言ってたじゃないか。だから、な? 家族なら俺たちにも相談して――」
「おーっと、ストップだ。レミリア嬢が困ってるじゃないか」
「困ってる?」
「そうさ。レミリア嬢はもう君たちとは縁を切ったんだ。多分君らのことが邪魔になったんじゃないかな?」
「邪魔、だと?」
「そうそう、だからさ。君がレミリア嬢のことを思うなら諦めてくれないか?」
こいつは何を言ってるんだ? さっぱり理解できない。
姉貴が、レミリアが俺たちのことを邪魔に思ってる? いつも紅魔館で楽しそうに笑っていて、みんなが笑っているのを嬉しそうな顔して眺めて。
誰よりもあの紅魔館を愛していたレミリアが、みんなのことを邪魔に思っている?
そんなはず、無いだろ。知った風な口を聞きやがって。
「お前に、お前に姉貴の何がわかるんだっ、このクソ野郎!」
俺の怒りは限界を超えていた。
こいつは俺たちの絆をバカにした。
確かに俺は紅魔館に来てから日も浅い。だからお前も何知った風な口を聞いてるんだと言われるかもしれない。
正直俺も自分自身で何偉そうにしてるんだと思っている。
でも、それでも、姉貴が紅魔館のみんなのことを愛していたっていうのはよく知っている。
俺は姉貴の弟子であり、弟分なんだから。
それをバカにされたんだ。許せるはずもない!
俺は怒りに身を任せて刀を抜いた。今ここで戦う、それしか俺の中で選択肢はなかった。
龍を切り捨てて姉貴を連れ戻す。
「おーっ! 怖いねぇ。物騒だ。でも、大切な人を守るために死ぬ、うん。いいね! なら、君の最後は綺麗な花火を打ち上げてあげるよ」
余裕な態度の龍が気に入らない。
「切り捨ててその顔を苦痛に歪ませてやるよ!」
こいつが強いのはわかっている。だから短期決戦で長期の戦いは想定せず、最初から全力を出してやつを斬る!
刀に炎を纏わせた。
だが、やはりというか吹雪のように特別な力が宿っている訳では無いため、霊力への抵抗が凄い。
何度もやったら間違いなく破損する。
こいつを、龍を倒すまでは何とか持ち堪えてくれ!
――
親父と戦った時のような力を求めて狂獣技を使おうとする。
すると一瞬、俺の体は炎の鎧のようなものを纏うことに成功するが、失敗して蒸散してしまった。
「な、なんで」
あの時は出来たのに失敗してしまった。
俺は2度3度繰り返しトライしてみるが、全くもってできる気配がしない。
どれだけやっても霊力が安定しないのだ。
「くそ、なんで!」
「なんでってそりゃー、君が弱いからでは?」
「くっ」
確かに弱いさ。
だが、今はお前をギャフンと言わせることに全力を注いでやる。
たとえ狂獣技が使えなくとも俺には戦う手段がある!
狂獣技を諦めた俺は居合を構え、そしてダンッと音が鳴る程の力で地面を蹴った俺は一気に龍に接近する。
「《
地上で放てる俺の最高打点。これに双剣を合わせ、威力を底上げする。
どれだけ強くともこれを食らえばひとたまりもないはずだ。
何せこれは親父の筋肉すら切り裂けるんだから!
だが、この一撃が龍へ直撃することはなかった。
ズダンッ!
真上から凄まじい衝撃を受けた俺はそのまま龍へ届くことはなく、地面に顔面を叩きつけられてその場に倒れ込んでしまった。
何が起こったのか? それはすぐに理解出来た。
倒れた俺のすぐ隣に姉貴が居たからだ。
信じたくはなかった。だが、状況的にそれしか考えられなかったため、声を絞り出して問いかけてみた。
「なん、で……姉貴っ!」
「あんたが、私に勝てないあんたが、勝てるわけないじゃないの! 馬鹿じゃないの? ちょっと強い奴らを倒して無事に帰ってきて、調子に乗ってるんじゃないの!?」
初めてだった。
こんなに声を粗げ、俺に説教のようなものをしてきている。
見てみると、姉貴に殴り落とされなければ俺がいた場所には龍の頭のようなものが出現していた。
つまり、俺は姉貴に止められなければ今ので死んでいたかもしれないということだ。
確かに俺は思い上がっていたかもしれない。
親父を倒せたんだから俺は強くなれたんだと。もしかしたら龍にも勝てるんじゃないかと。
違った。
親父に勝てたのはみんなが一丸となって戦ったから。今俺が死ななかったのは姉貴が止めてくれたから。
確かにそうだ。俺は威迅の言うように基本雑魚だ。それは紛れもない事実。
俺はずっと誰かに助けられながら戦ってきていたんだ。
それを忘れかけてしまっていた。
「姉貴、ごめん」
「あっははは! 連れ戻すとか言っておきながら結局はその相手に助けられている。格好つかないね〜」
本当にその通りだ。
だけど、ここで諦める訳にはいかない。だから俺は再び立ち上がろうとしたが、龍は既に俺への興味は失せてしまったのか、飛行船乗り場へ向かって行ってしまった。
「待て!」
俺の静止の声も虚しく、龍はそのまま飛行船乗り場の小屋の中へ入ってしまった。
すぐに俺も追いかけようとしたが、叩きつけられた時に足を痛めたらしく、思うように立ち上がることが出来ない。
姉貴も同様に俺の事はもう気にもとめず飛行船乗り場へ向かっていく。
だが、姉貴は入口前で立ち止まって俺が、いや、俺たちが最も姉貴の口から聞きたくなかった言葉を言い放った。
「悪いけど、私は今まで一度たりともあなたたちのことを家族だなんて思ったことはないわ。それが分かったなら早く帰りなさい。そして早く私のことを忘れなさい」
あんなにみんなのことを大切にしていた姉貴の口から出てきたとは思えず、あまりの状況に思考が一瞬停止してしまい、姉貴はその間に小屋の中へ入ってしまった。
どうやらもう飛行船が出発する時間だったらしい。
龍と姉貴を乗せた飛行船はゆっくりと上昇すると、そのまま『スカイ』へ向かっていってしまう。
だが、俺は最後に喉が壊れようと関係ない。そう考えて天高く昇っていく飛行船に向けて言い放った。
「あんたが俺に姉と呼ぶように要求してきたんだ! これはあんたが始めた物語なんだ! そう簡単にこの呪縛から逃れられると思うなよ、姉貴ぃっ! 俺は必ず姉貴を見つけ出して、そして紅魔館に連れ帰るからなっっ!!」
姉貴にこの声が聞こえたかは分からない。
だが、この瞬間、固く決意した。
天空都市『スカイ』に乗り込み、必ず姉貴を見つけ出して、龍をぶっ飛ばして、そして姉貴を連れて帰る。
姉貴の居るべき場所、紅魔館へ!
はい!第188話終了
という訳で、2章で少し仄めかしましたが、3章は天空都市『スカイ』編となります!
龍に連れていかれてしまったレミリアを連れ戻すために黒葉たちは天空都市『スカイ』へ向かいます。
果たして黒葉たちは無事に龍を倒し、レミリアを連れ戻すことが出来るのでしょうか?
しかし、『スカイ』へ乗り込む前にも1悶着あるようで……?
では、次回をお楽しみに!
それでは!
さようなら