それでは前回のあらすじ
工場見学にやってきた黒葉。
そこにある光景に大興奮したのもつかの間、従業員の顔色が全員悪いということに気がつく。
そこで一人の従業員が倒れ、息を引き取った。
黒葉はそのことにひどくショックを受けたが、その直後に他の誰も人が死んだことを気にせずに仕事をしていることに気がつき、絶望のどん底に叩き落とされた。
それではどうぞ!
side黒葉
「おい! なんで見向きもしねえんだよ! 人が一人死んでんだぞ!」
俺は近くにいた一人の従業員の肩を掴み、訴えかける。
だが、その人からは何も反応がなく、虚ろな目で目的地を永遠と見つめているのみ。俺のことなんて認識していないとでも言わんばかりの反応。
そして何よりも力が異常に強い。まるで動いている機械を生身で止めようとしているかのような感覚にこれ以上止めていたら自分の身が危ないと考えて慌てて手を離した。
するとまるで何事もなかったかのように歩き始める従業員。
なんだ、何が起こっている。
ここでは何が行われているんだ。
「お、おい、そこの人!」
声をかけるが、一切反応されることはない。
そのことにやきもきした俺はその従業員の正面に立って無理矢理視界に入ってやろうとしたのだが、直後俺の体は宙を舞っていた。
「は?」
何が起こったのかわからなかった。
俺の体にとてつもない威力のものが衝突したということはわかった。だが、俺がぶつかるとしたら正面にいた人だけだし、歩いている程度の人に衝突されただけで人の体が宙を舞うわけがない。
2メートルほどの高さまで飛んだ俺は背中から地面に落下し、痛みで悶えながら俺のことをぶっ飛ばしてくれた従業員へと目を向けた。
「なんだよ、これ」
目を疑った。
さっきまで普通に歩いていた従業員、だが今見たらその人物の腕はあらぬ方向へと向いていた。間違いなくあれは折れてしまっている。
もし衝突して俺をぶっ飛ばしたのがあの従業員なのだとしたら、鍛えてもいない一般人があの威力で俺をぶっ飛ばしたら骨の1本や2本折れるのは当然のことだ。
俺は鍛えているし、半妖だからこれだけのダメージで済んでいるが、あのパワーは明らかに鍛えていない人間のリミットを大幅に超えている。あんな状態でずっといたら体がボロボロになるのも必然だ。
「まって、くれ。どうしてこんなことに——」
「やめておきな」
再び従業員の元へ歩き出そうとしたその時、後ろにいた風魔が俺の肩に手を置いて止めてきた。
「無駄だよ。君の言葉じゃあの人たちには届かない。ここに働いている人たちは機械のようなものだからね」
「機械? 機械だと? 今、お前人のことを機械って言ったか!?」
「機械と言って何が悪い! 君も見ただろう、あの人たちの様子を。自分の意思も持たず、指示されたことを淡々とこなす。自分の体がぶっ壊れようとも気にしない。あれを機械と呼ばずしてなんだというんだ」
人のことを機械と言った風魔に激昂し、掴みかかったが風魔の言葉に反論することができずに口をつぐんでしまった。
俺もだ。
俺もあの人たちのことを機械みたいだと一瞬でも思ってしまった時点で俺も風魔と同じなんだ。だから風魔のことを俺が責めることはできない。
「風魔、何が起こっているんだ」
「この工場はね、
「どういうことだ?」
「ここには特殊な催眠があってね、あの作業着を着ている人はもれなく催眠にかかってしまう。あの人たちは催眠によって強制労働させられているんだ」
「催眠!?」
説明されて思い返してみる。
確かにあの瞳には意思を感じなかったし、自分の意思で動いているとしたらあれほど自分の肉体の限界を超えたパワーを出すことができるはずがない。
意思がある人間は無意識のうちに自分の体の限界を超えない程度に力をセーブしようとするところがあるらしいから。
そう言われると急にこの施設が恐ろしいものに思えてくる。
意思もなく強制的に死ぬまで働かされて、抵抗することもできない。そんな奴隷みたいな扱いをされている。
こんな工場でこの街のいろいろなものを作られているんだ。
なんだよこれ。
この街は決して良い場所ではない。観光名所として知られているが、こんな場所はあっちゃいけない。
「風魔も洗脳されていたり、するのか?」
「僕は至って普通だよ。まぁ、ここでは僕の存在は異常かもしれないけどね」
俺がおっかなびっくり問うと自虐的に両手を天に向けて風魔は言った。
そのことにほんの少しだけ安心する。
「あの人たち、なんとかしてあげられないのか?」
「無理だよ。あの人たちに無理に触れようとしたら動いている機械に触れるように、巻き込まれて死にかねない。なんとかする方法もないわけではないけど……まぁ考えるだけ無駄だけどね。そんなことよりも早く隠れよう」
「え、風魔!?」
突如として風魔に腕を引かれ、機械の陰へと連れていかれた。
あまりに突然のことに驚き体勢を崩しそうになるが、とりあえず体勢を整えて風魔に手を引かれるままついていく。
着いて行ったら何かされるかもしれないという不安がなかったわけじゃないが、直前に風魔が言った「隠れよう」という言葉の真意が気になったため、素直に着いていくことにした。
機械の陰に着くと俺たちは室内を見ることができるように顔だけを機械の裏から出して覗き見る。
30秒後、俺は風魔の言葉の真意を知ることとなった。
「ま〜た死んだか。根性無しめが」
ゆっくりと入り口の扉が開くと、そこから筋骨隆々の筋肉ダルマ男が出現した。
黒のタンクトップが筋肉によってパッツパツではち切れんばかりに伸びている。白色の頭髪は短く切りそろえられており、触ったらチクチクしそうな見た目。目は鋭く、威圧感たっぷりの表情をしていた。
見ただけで理解した。あいつがこの工場のリーダー的存在なんだろうと。
だが、ひとつ気になるのはあの筋肉ダルマには正気を感じることだ。
今まで見てきたここで働いている従業員の目はもれなく正気を失った目だったんだが、あの男の目は明らかに違う。
あれは正気だ。
正気ではあるが、言葉がまるで正気だとは思えないものだった。
「仕方ねぇ。また補充するとするか。おい、お前ら! こいつを島の端から投げ捨てておけ」
人を人とは思っていない。まるで物に対する物言いのような乱雑なセリフ。
しかも死んでしまった人を島から落として処分しようとしている極悪非道。
アレは人間だ。俺の吸血鬼の血がアレをまごうことなき人間だと叫んでいるが、アレが真っ赤な血が通っている人間だとは到底思えなかった。
あの死んでしまった人は何かの罪人なのか? 何かひどいことでもしたのか? 奴隷としてこき使われた上に死んでしまった後に島から突き落とされなければいけないほど何か悪いことでもしたのか?
「風魔、ここにいる人って何か罪を犯した人なのか?」
「いや、ここで働いている人たちは全員外から来た一般人だよ。観光でここに来た人だったり、ここに連れさらわれてしまった人だったりが洗脳されて強制労働させられているんだ」
「じゃあ、あんな扱いされる謂れっていうのはないんだな?」
「無いよ」
俺たちの視線の先では指示を出された従業員たちが数人がかりで死んでしまった人を担ぎ上げ、工場の外に向かっていくところだった。
目的地は島の端の方だろう。
催眠で無理矢理からだを動かしてはいるが、今担いでいる数人の従業員たちもフラフラで今にも倒れてしまいそうなくらいに弱々しくて、それが見ていて悲しくなって、悔しくなって。
銀河の家に生まれ、虐待されて、冬夏の家に匿われたと思ったらゲンの襲撃で姉ちゃんを喪って、吸血鬼になって、波乱万丈すぎて不幸だなと自分のことを評価していたところはあったかもしれない。
だが、この人たちの境遇から見ると、俺の人生っていうのはかなり恵まれているなと感じた。
虐待されて魔理沙に助けられたけど、冬夏家の人たちはみんな俺に優しくしてくれたし、紅魔館に行ってからも俺は敵意をむき出しにしていたというのにみんな俺によくしてくれていた。
人生っていうのは浮き沈みがあると俺は思っている。
たった10歳のガキが何人生について語っているんだと怒られてしまうかもしれないが、苦しい時があるなら逆に楽しい時だってあって然るべきだと思う。
こんな風に奴隷のように扱われてこき捨てられていいはずがないんだ。
「え、黒葉君?」
気がついたら考えるよりも先に俺の体は動いていた。
威圧感たっぷりで、前までの俺だったら臆して動けなくなっていたんじゃないかと思うほどの相手。
だけど、今は不思議と恐怖を感じていない。それ以上に怒りが湧いて来て、どうにも己の衝動を抑えきれなくなり、思わず筋肉ダルマの前に出てしまった。
「なんだ、お前は」
「ここにいる人たち全員解放しろ、この筋肉ダルマ」
はい!第214話終了
さぁさぁ、やっと天空都市『スカイ』編が始まったと言っても過言ではありません。
だいぶ予定していた言い回しと変わっていたり、あと工場編がだいぶ駆け足になっていたりとプロットとは違う展開になっていたりしますが、向かう終着点は同じです。
ちなみにこの筋肉ダルマ、フィジカルで言ったら天魔に続くほどの相手です。
まぁ、戦闘技術とかを加味すると天魔の方が圧倒的に強いわけですが。
それと、前章で天魔を倒した黒葉ですが、なんども言いますが別に黒葉が天魔よりも強くなったわけではありません。威迅、烈夏、霊夢などの名だたる強者とのレイドバトルのようなものでしたからね。
さて、黒葉の運命は如何に!?
後何話かで咲夜視点に移ろうと思っています。
それでは!
さようなら