それでは前回のあらすじ
龍の加護について龍の口から語られた。
その名も『龍の加護』。
ドラゴンの身体的能力を引き継ぎ、ドラゴンの頭を出して攻撃に使うことも出来る攻防一体の完璧な加護なのだという。
ただ、だとしたら即死なら殺せるかもしれないと考えた咲夜は龍を切り刻むが、それでも倒せず、逆にカウンターをもらった咲夜は体力が尽き、動けなくなって絶体絶命の大ピンチに陥ってしまうのだった。
それではどうぞ!
side三人称
黒葉が落ちてしまった場所の真反対、その崖沿いに黒葉たちが乗ってきた船は斜めに地面にぶっ刺さっていた。
船首は粉々になり、見るも無残な姿へと変貌。船自体も真っ二つに折れてしまっている。
内部にあった様々な機械や道具などは凄まじい風圧にシェイクされ、あちらこちらに飛び散り、悲惨な状態だ。
これで船という原型は保っているものだから不思議でならないほど。
とてもじゃないが、再発進なんてできそうもない。スカイへの片道切符ということになってしまった。
「うぅ……目が回る」
「し、死ぬかと思った」
そんな船内で目を回して床に倒れこんでいるのはルーミア、あまりのシェイクに酔ってしまい、窓から胃の中のものを吐き出しているのは天音だ。
どうしてこんなに船内がめちゃくちゃなことになっているのに二人が無事なのかというと、天音が近くに飛んできたものを破壊しまくっていたからに他ならない。
天音の能力、『声を操る程度の能力』の技の一つ、《言霊》は生物には基本的に効果を発揮することはないが、この船内にあるものはすべて無機物。
"壊れろ"と一言命ずるだけで近くに飛んできたものはすべて破壊され、粉となる。そのため、二人は粉砕された粉まみれとなってしまってはいるものの、一応粉砕されることはなく生き残ることができた。
それでも一応奇跡と呼べるほどの状態ではあるのだが、それにはにとりの手腕も大きくかかわっている。
にとりはずっとこの暴風に揉まれ、あちらこちらに吹っ飛ばされそうになりながらも舵から手を離すことはなく、ずっと被害が最小限になるように奮闘していた。
結果、外にいた黒葉と咲夜こそ振り落とされてしまったものの、ルーミアと天音がミキサーされるような最悪の事態になることは何とか防ぐことに成功したのだ。
おかげでにとりは真っ白に燃え尽き、今誰よりもグロッキー状態。
とてもじゃないが動かせるような状態ではなくなってしまったのだ。
「人生初の船体験がこんなにデンジャラスなものになるとは夢にも思っていなかったよ」
「わ、私も」
まだふらふらするものの、一通り出すものは出して船酔いから復活した天音は未だに目を回して床に倒れているルーミアに手を貸して起き上がらせる。
見れば見るほど大惨事というもので、今は燃え尽きているから大丈夫だろうけど、あとで正気に戻った後にとりが見たら卒倒してしまうのではないかという光景が二人の目の前に広がっていた。
いくらにとりが妖怪で、その一生が長いとはいえ、長年を費やして完成させた船だ。そんな自分の子供みたいな船がこんな惨状になってしまったらショックを受けてしまうにきまっている。
後々のにとりのことを想って二人は手を合わせる――合掌。
「さて、とりあえず状況を把握してみよっか」
「天音、冷静だね。もっと慌てたらどうなの?」
「ルーミアだって冷静じゃん」
「だって私は経験豊富だから!」
「あー、妖怪だもんね」
ルーミアはこんな
天音に関しては今までの環境があれだっただけに齢八歳にして達観しすぎているのだ。
「まずはお兄ちゃんと咲夜の二人は振り落とされちゃってたね」
「え、そうなの? よくあんな状況で分かったね」
「あたし、目と耳良いから。音とあと窓から見えた光景で気付いたよ」
船内で振り回されている最中、天音はルーミアと自身のことを守る以外にも、周囲の状況を五感すべてを使って感じ取るということをやっていた。
天音は天魔に受けさせられた強化プログラムの影響で感情が薄くなってしまい、代わりに脅威の五感を手に入れることに成功していた。
そのため、振り回されていろいろなものが破壊されている爆音の中に居ても、その驚異的な聴覚で外の音だけをピックアップして聞き取ることができたのだ。
さらに、振り回されている最中でもその驚異的な視覚で窓の外の様子を完璧に把握、黒葉や咲夜が飛ばされていった小さい人影も見逃さず、そしてその埃のような影が黒葉や咲夜だと断定することにまで成功していたのだ。
超集中しなければ視力を限界まで高めることができない黒葉のお株が奪われた瞬間である。
その説明を聞いていたルーミアはそのあまりの超人っぷりに天音が人間だということに疑問視をしてしまっていた。
まるで宇宙を幻視しているかのようにぽかんと呆けた表情をしているルーミアの姿を見て天音は頭に軽くチョップを入れた。
「あうっ」
それで何とか正気に戻ったルーミアだったが、それでも天音が人間ではないのではないかという疑問が頭から離れることはなかった。
「そ、それで、これからどうするの?」
ルーミアは気を取り直して天音に今後の予定を問う。
そんな問いかけに天音は顎に手を当て、少し考えると思いついたと言わんばかりに人差し指を立てて自分の考えを述べた。
「とりあえずお兄ちゃんと咲夜を探さないとね。にとりにはこの船を見ていてもらわないといけないし、そもそもにとりは今動けるような状態に無いみたいだから、あたしたち二人だけでね」
「二人だけかぁ。咲夜も黒葉も居ないとなるとちょっと不安だね」
「あたしは戦いとか苦手だから、もし戦いになったらルーミアに期待してるよ」
「期待されてもなぁ……」
不安がるルーミアであったが、ここは妖怪であり、人間である天音よりも身体能力が高い自分が戦った方が堅実だと理解しているため、
一応鍛冶師の里では樹海を使えるようになり、それなりの戦力にまで達したという自信はあったが、それでもまだ不安を拭う事は出来ずにいた。
ここにはレミリアたちが戦っても勝てないような敵が存在する場所なのだ。
レミリアたちがかなりの実力だと知っているルーミアにとってここは地獄も同然、どれだけ強くなろうとも不安を払拭することができないのは当然のことだ。
「とりあえず、お兄ちゃんはかなり遠くに落ちちゃったみたいだからまずは近い咲夜と合流するのがいいかもね。お兄ちゃんは島の真反対に落ちちゃったみたい。うぅ……お兄ちゃんに抱きつきたいよぉ」
「そんな距離まで分かるんだ、凄いね。でも、その本音は胸の中に仕舞っておこうよ」
あいも変わらず天音の視力に感心しつつ、天音が零した本音にツッコミを入れる。
そういうルーミアも『自分も黒葉に抱きつきたい』と考えているので、あまり強くツッコめないのだ。
とりあえず、ルーミアはこの場に黒葉と咲夜の位置を特定することが出来る天音が居ることに感謝しつつ、天音の言葉に従い、天音が船から飛び降りた後に続いてルーミアも船から飛び降りる。
辺りは一面草原。視界に見える崖が無いとここが空島だと言われても信じられないのではないかと言うほどに地上に酷似している光景。
あまりにものどか過ぎて一瞬ここが敵の居る場所だということを忘れかけてしまう。
「あれ、すごいね。現実じゃないみたい」
ちょっと離れたところには大きな建物が見える。
天音はもちろん、妖怪として長年生きて来たルーミアでも全く見たことがないほどに凄まじい煌びやかな風景がそこには広がっていた。
すごく街の方が気になってルーミアは惹かれて行きそうになったが、足を街の方へと踏み出すと天音に服の袖を掴まれて止められる。
「咲夜が落ちたのはあっちの方だったはず。だからまずはあっちの方に行こう。街を探索するのは合流後でもできるから」
「うわわ、天音引っ張らないで〜」
意外と力強く引っ張っていく天音に手を引かれながらルーミアは咲夜の元へと向かっていくのだった。
はい!第220話終了
今回は飛行船組の話でした。
ルーミアと天音の二人が主役の飛行船組ですが、実は二章で天音を仲間にしていなかったら完全に詰んでいました。
そのほかにもルーミアが樹海を覚醒させていなくても詰んでいました。いや、詰みはしないけど最悪の結果になった可能性があります。
なので、二章はかなり大きなターニングポイントだったと言えます。
特に天音が居なかったらまず間違いなく詰んで居ました。龍の手で皆殺しにされてましたね。
さて、この先どうなっていくのか?
それでは!
さようなら