それでは前回のあらすじ
文から語られる真実。
椛と共にスカイへやってきた彼女だったが、椛は工場で洗脳を受け、囚われの身になったという。
助け出すために奔走しているが、未だに解決への糸口が見えない。
果たして咲夜とルーミアの二人はこの話を聞いてどんな反応をするのか?
それではどうぞ!
side咲夜
文の話を聞いて私は絶句してしまった。
聞き込みをしている間に工場の存在も知って居たが、龍に狙われている今の状況で身を隠すことができない草原へ出るのは危険すぎると考えて工場に行こうとはして居なかったけど、工場内に椛が居たのか……。
でも、文の話を聞く限り、私たちが工場に行ってどうにかなるとも思えないけど。
工場の人たちは間違いなくなんらかの力の影響を受けて自我を失っている。そして文の話を聞いて気がついたけど、おそらくこの街の人たちもそうだ。
だから私たちにも反応を示すこともなく、あらかじめ決められた動きしかできなくなって居たんだ。
どうしてこの可能性に気がつかなかったんだろう。そりゃー、私たちの言葉に反応するはずがない。
「私が椛を連れてこなければこんなことには」
今、文は自分を責めている。
だけど、椛が洗脳を受け、工場に囚われたことについては文が悪いとも思わない。
だって私たちの場合、最初から敵陣で警戒していたけど、そんなこともなくただこの島に来た人ならば警戒することはないだろう。
謎の機械の射線を回避したのは文の性だっただけだ。
「文、あなたのそういう真面目なところは美徳だと思うけど、あまり気負いすぎてもいいことないわよ」
「でも、私のせいで」
「文のせいじゃないよ。それよりも、今はどうやったら椛を助け出すことができるか」
「もう十分考えましたよ。考えて考えて考えて……でも、ダメでした。ダメだったんです」
文はおそらく一ヶ月前からここにいる。
スカイ行きの飛行船は半月に一回しか動かせないため、一月毎にこの島に入島するための飛行船が出発する。だから、一ヶ月前から幾度となく椛を助けるために奮闘して来たんだろう。
文の絶望の表情からもなんとなく読み取ることができる。
だから軽く言うことはできないけど——
「私たちが居れば、もっと何かできるかもしれないじゃない」
「そうだよ!」
「え」
私たちの言葉に弾かれるようにこっちへ顔を向けてくる文。その目には驚きと困惑の色が伺えた。
そして恐る恐るといった様子で聞いてくる。
「もしかして、私たちを助けてくれるんですか?」
「えぇ」
「いつもあなたたち紅魔館のスキャンダルを狙う厄介者の私を助けてくれるんですか?」
「わかってるならやめてちょうだい」
なんど追い返しても舌の根も乾かぬうちにまた挑戦してくる文のタフネスさにはほとほと呆れ果てているが、それはそれ、これはこれだ。
今ここで文のことを見捨てたら一生後悔する気がする。それに、お嬢様にも叱られてしまうことだろう。
だから私は文のことも、椛のことも助ける。
「でも、その代わりとは言ってはなんだけど、文には私たちのことを助けて欲しいのよ」
「交換条件、ということですか?」
「えぇ、おそらく私たちどちらの目的も互いの最終目標に大きく関わっている気がするのよね」
私たちのお嬢様救出、文の椛救出。
お嬢様の救出には龍の撃破が必須条件、そして椛の救出には椛にかけられた洗脳の解除が必須条件。
今までの様子を見るに、この二つが全く関わって居ないとも思えないのよ。だから、お互いのことを助け合っているうちに、目標に少しでも近づくことができるんじゃないかと私は考えた。
「なるほど……そう言うことでしたら、この射命丸文にお任せください! 戦闘能力は咲夜さんほどではないにしても、情報の収集力で言ったら私はダントツです! 大船に乗ったつもりで居てください!」
「えぇ、期待しているわ」
文といったらやっぱり鬱陶しいくらいのこのテンションの高さね。
私たちが手伝うと言って希望でも見いだすことができたのかしら。まだ何も解決して居ないと言うのに、元のテンションに戻ったわね。
さて、文の目標はわかった。だから今度は私たちの目標を文に話す番。
文も私たちの事情を知らないと手伝おうにも手伝えないだろうし、龍の攻略には文の手助けは必須条件となるだろうから。
だから私は今ここまでの経緯を一から順番に説明した。
紅魔館に帰ってきたらお嬢様が攫われていたこと、犯人である龍がこのスカイに逃げ込んだこと、にとりの力を借りて島に侵入したこと、そしてついさっき龍と戦ってボコボコにされてしまったこと。
これらを話し終えて文の顔色を伺って見る。
「……………………………………」
文は固まっていた。
さっきまでの意気込みはどこへやら。上がっていたテンションはどこかへ消え去り、再び膝に顔を埋めて絶望してしまった。
「無理、無理ですよ。お二人とも、龍と戦ったんですよね?」
「えぇ」
「えぇって……それでなおも勝つつもりなんですか!?」
「そうね」
「無理です、絶対無理ですよ!」
今日一番の大声を上げる文。
まるで頭がおかしい相手を見るかのような目をこっちに向けてくる。
「龍……フルネームは桑間龍でしたね。五天魔王第二席所属の正真正銘の化け物です。その攻撃はどこから飛んでくるかもわからず、攻撃をしたとしても全てが無効化される。第一席のカイ・スーガレンスが居なければ、間違いなく五天魔王最強とも呼ばれていた存在です。約八年前にあった運命の戦争では博麗選抜チームのリリルカさんと天魔さん、真理亜さんの三人がかりでも倒すことはできず、無力化することしかできなかったほどの相手ですよ? どこをどう考えたら勝てるなんて発想になるんですか!?」
「そうね、正直どうやったら勝てるかなんて見当もつかないわ」
「なら!」
「でも、それは諦める理由にはならない。ただそれだけのことよ」
この島に着いてから何も上手く行っていない。
飛行船からは放り出されるわ、みんなと散り散りになるわ、いきなり龍とエンカウントするわ。
でも、これらの理由全て、お嬢様と言う大切な方を諦める理由になんてなりはしない。絶対に諦めない。
「敵が強い? 上等ね。なら、私たちはそれ以上に強くなる、ただそれだけのことよ」
確かに龍は強かった。だけど、私が感じたのは、決して勝てない相手なんかじゃないと言うこと。
私の攻撃は何一つ効いている様子はなかった。どうやったら攻撃を当てることができるのかも皆目見当がつかない。
だけど、あの加護にはなんらかの秘密があると私は感じた。龍の説明だけでは納得いかない部分がいくつかあったからだ。
だから、それを解き明かすことさえできれば龍を倒せるんじゃないかって。
「文、お願い。龍の力の秘密を解き明かすためにはあなたの力が必要なのよ」
「……本当に椛を助ける手助けをしてくれるんですよね」
「えぇ、約束するわ」
ゆっくりと立ち上がり、凛々しい表情でこっちを見つめてくる文。
そんな文の目を見つめ返すと、一息ついて言った。
「わかりました。では、私たちであの憎っくき龍を倒してしまいましょう! 正直、あいつには同胞を何人も殺されてしまいましたからね、鬱憤が溜まりに溜まっているんですよ。なので咲夜さん、頼みましたよ!」
「えぇ、任せてちょうだい」
私と文はガッチリと握手を交わす。
文は椛を助けるために、私はお嬢様を助けるために。お互いがお互いの目標を達成する手助けをする、そんなwin-winな関係で私たちは協力することになった。
当初の目標通りに文と合流することができた。ただ、すでにチームがボロボロになってしまっていると言うのが難点ではある。
とりあえず話がひと段落したところでちょっと考えて見ることにする。
この島の住人たちは大なり小なり催眠を受けているのは間違いないだろう。それが一番強いのが工場というだけで、この島で働いている人たちは全員催眠を受けている。
だからこそ私たちの言葉には耳を貸さないし、なんだったら空から墜落してくる飛行船にも全く興味を示さない。
というか、私たちはダイナミックにこのスカイに墜落したんだったわね。隠密も何もあったものじゃないわ。
今更頭が痛くなってくるけど、ここで後悔しても仕方がない。
一つ気になることとしては、これだけの広範囲に能力をかけることができるのかという点だ。
催眠系の能力を相手に使うには二パターンある。一つは直接かけたい相手の前に行き、能力を発動するというパターン。
これが一番簡単だけど、制御は難しくて離れたり、多くの相手にかけようとすると乱れてしまって解除されてしまうことがある。
二つ目は何かをトリガーとし、自分の意思とは関係なく催眠をかけるというパターン。トリガーに能力を付与してしまえばあとは自分が関与する必要はない。
ただ、これをやるには——
「樹海……」
そう、樹海がなければ何かに能力を付与して自動で催眠を行うなんてことはできないはずだ。
でも、この島の現状を鑑みるに、パターンとしては二つ目のトリガーに能力を付与して催眠をかけていると考えた方が辻褄が合う。
だからおそらく相手は樹海を使うことができる相手。非常に厄介だ。
それにしても、トリガーは何を使っている? 何をトリガーとしている?
椛は入島した時はなんともなかった。だけど、工場に行ったら催眠の影響を受けてしまった。だけど、工場に入っただけでは催眠をかけることはできないはず。
樹海とはいえ、そこまで便利なものじゃないのだ。何か特定の行動ではなく、何か道具の影響で——
「検問所?」
文は言っていた。
怪しげな二人が見たこともない機械をこっちに向けてきていたって。
樹海を使うことができなかったら私も気がつかなかっただろう。機械を向けられた直後は影響が出ないけど、工場に入った瞬間にそれが発動する。
条件を二つつけたんだ。
機械の射線に入ることと工場に入ること。この二つを満たすことで樹海が発動する。
条件が多ければ多いほど、厳しければ厳しいほど樹海の成功率というのは上がる。そしてそれを利用して効果を遅延させ、機械に目を向けなくさせるという目くらましの役割もある。
「文、今すぐ検問所に案内して、早く!」
「え、あ、はい。わかりました、こっちにきてください」
樹海が発動されたあとだったら機械を破壊したところで意味はないだろう。あれはあくまでもトリガーに過ぎないんだから、根本的な解決にはならない。
だけど、確かめることは重要だ。
もう夜になる。
でも、寝る前にどうしても確認しておきたかったのだ。
もしかしたらこの街の謎に一歩迫ることができるかもしれないんだから。
はい!第231話終了
文が仲間になった。
実は洗脳のトリガーは検問所で文が向けられたと言っていた謎の機械なんですよね。形状のイメージとしてはドミネーターに一番近いですかね。
そしてどうして文が洗脳されていないのかというと、文が射線から逃れたため、トリガーが発動していないんですよ。
黒葉も同様で、黒葉の場合、検問所を通過せずにダイナミック入島したので、機械の影響を受けていないんですよね。
さて、どうやったら椛を助け出すことができるのか? そしてレミリアを助けることができるのか?
黒葉は合流できるのか?
次回も咲夜視点です。
それでは!
さようなら