それでは前回のあらすじ
ドラゴン像を調べ始めた寺子屋組だが、三十分調べ続けても一向に手がかりがつかめない。
そろそろみんな我慢の限界。こんなところには何もないのではないかと考え始める。
そして一番最初に音を上げたのはチルノだった。
チルノは帰ろうとするが、何とか大妖精がなだめようとチルノを引き留めるが、その時バランスを崩してしまい、チルノに倒れ込んでしまう。
すると二人は壁に倒れ込み、その壁が回転扉となって飲み込まれてしまったのだ。
ほかの三人はその様子を見ていたため、試行錯誤をして三人で回転扉を回すことで三人も内部へ侵入することに成功する。
そこにあったものとは――?
それではどうぞ!
side三人称
「なに……これ」
薄暗くて室内の視認性は非常に悪いが、明らかに部屋の中央付近には紫色のクリスタルが輝き、紫色で怪しげな光を放つ装置が見えた。
そんなどう見ても怪しい装置に近づこうとする友人二人。主に駆け寄ろうとしているチルノを大妖精が追いかける形だが、そんななにが起こるかもわからないような怪しい装置に近づこうとしている二人を見て友人であるミスティアとリグルが黙っているわけがなかった。
「ちょ、二人ともそんなに不用意に近づいちゃ」
「ここは敵の本拠地かもしれないんだぞ。もうちょっと慎重に動けって」
「だって、あたいたちはこれを調べるために来たんでしょ! なら、これも調べなきゃじゃん!」
「なら、危ないから様子見で離れたところからまず観察してみようよ」
「じゃあ、チルノと大ちゃんの二人で観察しててよ。私たちは他の場所を見てるからさ」
「うん、じゃあ、よろしくね」
大妖精も元々チルノを止めるために追いかけていたので、大妖精も加わって三人でチルノの暴走を止め、チルノと大妖精の二人で装置を観察してみることになった。
この二人で大丈夫なのかという心配こそ残るものの、一応大妖精がいるので大丈夫だろうと結論づけてミスティアとリグルは周囲を見回ってみることにする。
怪しげな装置以外にも周囲には色々な機械が存在しており、この施設がどうやらこの島の中枢を担っているらしいということをなんとなくで察していく。
角には階段があり、上に登ることができるようになっている。ただ、その階段は機能を果たしていないようで、なんと階段の先には天井が存在して上の階にはいけなくなっている。まさにあの階段はある意味があるのだろうかという珍妙な光景となっていた。
「なんかさ、ここら辺エネルギー濃くない?」
「確かに、外にいた時は全然感じなかったのに、霊力やら妖力やら魔力やらがぐちゃぐちゃに混ざったものが充満している感じがする」
この島は常に霊力に包まれており、この島にいる限りそこかしこからエネルギーを感じるようになっているのだが、この室内ではより濃く感られる。
どうしてこの室内にはこんなに濃く集まっているのか、樹海や探知能力などが優れていればなんとか探知することはできるのかもしれないが、この五人は誰一人として樹海を使える人はいないので、どうして集まっているのかを察知することはできない。
(わ、私も何か調べないと)
みんなの様子を見て結乃も慌てて近くに落ちていた本を手にとって開いてみることにした。
(う、読めない。なにこれ)
そこに書かれていたのは結乃が目にしたことがない文字。いやゆる魔法文字といったものだった。
魔法文字は基本魔道書などに使われている文字で、一般に普及はしていないため、魔法に精通していない一般人では読むことができないし、魔法文字は特殊なため、精神力が低く、魔力を持たない一般人が無理に読もうとしてしまうと最悪狂ってしまうため、取り扱い注意な代物なのだ。
読めないものは仕方がないため、結乃はその本を諦めて他の本へ目を通してみることにする。
だが、それも魔法文字で書かれているため、結乃では一文字足りとも読むことができない。
(多分、これって魔道書っていうやつだよね。聞いたことはあるけど初めて見た。でも、読めないなぁ)
結乃も重要なことが書いてありそうなことは理解できたが、読めないものは読めないのだ。そしてこの場に魔法に精通しているものはいないため、これを読むことができる人はいないから一応持ち帰って咲夜に見せてみようと考えて持てる分だけの本を抱えた。
手に持つことができない本にも軽く目を通したが、ここに置いてある本は全て魔法文字で書かれているため、この施設の管理者は魔法使いなのではないかという考察ができる。
しかも、出版者の記述などは一切なく、見たところ全て手書きで増版されたものではないということからおそらく持ち主が自分で書いたものだと思われる。
(もしかしたらこの施設に関して重要なことが書かれているかも)
結乃は臆病で妖怪恐怖症ということもあって今までみんなと関わることは避けて来た。
今だって怖いし、ちょっと気を抜いたら腰が抜けてしまいそうなほどに恐怖心はあるけど、それでも結乃はみんなの役に立ちたい一心で頑張る。
これを持って帰ることができればみんなの役に立つことができるかもしれない。黒葉を自分が助けることができるかもしれない。そう考えると結乃の心は自然と軽くなり、そして黒葉にお礼を言ってもらえることを想像して顔がほころんでくる。
「結乃、なんだそれ」
「え、あ、その……魔法文字、の……本。咲夜さん、に」
「あ、なるほど。確かに私たちだけじゃわからないものもあるもんなぁ。紅魔館には魔法使いもいるからもしかしたらあの人も読むことができるかも」
リグルに突然話しかけられ、しどろもどろになりながらも返すことができたため、結乃はほっと胸をなでおろす。
今までの彼女だったらリグルに突然話しかけられたら腰を抜かし、恐怖で声も出せず、指一本動かすことすらできなくなってしまっていたに違いない。
これは明確な彼女の成長だった。
それを自分自身でも感じ、結乃は心の中でガッツポーズをする。
「ねぇ、大ちゃん。これ触ると妖力が拡散されるのを感じるよ」
「ちょ、チルノちゃん! それは危ないから触らないようにって言ってたでしょ!?」
いつの間にか機械に触れていたチルノ。大妖精がちょっと目を離した一瞬の出来事だった。
チルノに約束させた四人がダメだったのだ。チルノなんか言いつけを守るはずがないのだから、問答無用で引き剥がすべきだったのだ。
だが、チルノのおかげで機械がどういう動きをしているのかということに関しては判明した。
「もしかしたらこの機械、エネルギーを吸い取って島全体に拡散しているのかも。あと、機械とかを動かす動力源なんかにも使われているんだと思うわ」
「となると、もしかしたらこの機械がこの島の核なのかもな」
「これを間違って壊しちゃったらこの島が崩壊して私たち全員落ちちゃったりしてね〜」
あははと笑うミスティアだが、流石に今の発言に笑うことができる人はこの場にいなかった。
妖怪と妖精の二人は飛ぶことができるが、室内にいては飛ぶことができないのと同じだし、結乃はもとより飛ぶことができない。
つまり、今スカイが飛行能力を失って墜落してしまったら五人はもろとも地面に叩きつけられてお陀仏ということだ。
「い、いやだ。いやだいやだ」
「ち、チルノちゃん?」
ミスティアの言葉を聞いた直後、パッと手を離して顔を青くするチルノ。
誰がどう見てもおかしいチルノの様子。
「いやだ、嫌だ。落ちるの嫌だ、死にたくない」
「お、落ち着いてチルノちゃん。落ちてないから、落ちないから大丈夫!」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ。ちょっとした冗談だったんだよ!」
「そ、そうだぞチルノ。落ちてないんだから落ち着けって」
錯乱状態に陥っているチルノの様子を見かねて一番近くにいた大妖精がチルノの両手を包み込むようにして握って安心させようとするが、全く効果がない。
それどころかチルノの様子を見る限り、四人のことを認識できていないのではないかと思ってしまうほどの様子だった。
声をかけたところでその耳には全く届いていない。時間が経過すればするほどにひどい錯乱状態になっていく。
(どうしようチルノちゃんが。どうやったら落ち着いてもらえるのかな)
大妖精は必死に考える。
誰に対しても強気でバカなチルノが今までこんな恐慌状態に陥ったことはなかった。むしろ相手の力量も測れず、手当たり次第に喧嘩を売って一撃で敗北して気絶する。これが今までの流れだったというのに、今のチルノはそんな強気な様子は微塵もない。
ただただこの島が落ちて死ぬということに怯えていると言った様子だった。むしろすでに落ちているかのような様子に大妖精は困惑してしまった。
その時だった。
「え、いや、いやだ!! 落ちる、死にたくない!」
「え?」
「リグル?」
次に響いたのはリグルの声だった。
大妖精、ミスティア、結乃の三人は驚き、弾かれるようにリグルの方へと目を向けて見ると、そこには地面に倒れ込み、何かに怯えている様子のリグルが縮こまっていた。
様子を見るにチルノと同じ怯え方。島が落ちるということに怯えていると言った様子だった。
直前まではリグルもチルノを落ち着かせようとする側だったというのに、突然同じように怯えたことで三人はさらに混乱してしまう。
——恐怖は伝染している。
そう感じたミスティアは一歩、また一歩と後ずさった。
この場所にいたら自分も同じようになってしまう。
「いや、いやだ」
「みすちー?」
ミスティアの怯え、それはこの状況に対する正当なものだった。チルノやリグルとはまた違う、落ちることへの怯えではなく、自分も同じような状態になってしまうのではないかという怯え。
心臓がばくばくと太鼓のような音を奏で、そして自分自身の中の恐怖が徐々に膨れ上がって言っているように感じた。
恐怖がどんどんと膨れ上がっている。
「だ、大丈夫? みすちー」
「いや、やめてこないで」
ゆっくりとミスティアの様子を確かめるように近づく大妖精。
「いや、いや、いやあああああああああああああああああああ」
目の前にきたその時、大妖精は恐慌状態に陥ってしまったミスティアに殴られてしまい、突然のことに対応できずにその場に倒れ込んでしまった。
大妖精も結乃もこの状況に理解が追いつかなかった。
一人、また一人と恐慌状態に陥ってしまい、倒れていく。すでにチルノとリグルの二人は恐怖のあまり気絶してしまい、ミスティアに至っては大妖精を殴り飛ばした直後、近寄るなら攻撃すると言わんばかりに周囲に弾幕を展開して威嚇してきている。
ミスティアの目には大妖精と結乃は二人ではなく、別の何かに見えているかのようだった。
「来ないで、来ないでよ」
「み、みすちー、どうして」
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ! いやああああああああああああああああああああああ」
まるで見えてはいけない何かが見えて、近づいてきているかのように怯えを見せたミスティアは周囲に向けて弾幕を放つ。
それを察知した大妖精はすぐに結乃を抱きかかえて近くの物陰の裏に飛び込んだ。
鍛えていない結乃が弾幕に直撃したら致命傷じゃ済まないかもしれない。
だから自分の身を鑑みず、結乃を助けることを優先したのだ。
「だ、大妖精さん。足……」
「う、大丈夫。このくらいなら」
結乃を助けるために飛び込んだ際、膝を少し擦りむいてしまったようだ。
大丈夫とはいうけど、実際は痛く、こんなところからすぐに逃げ出してしまいたいと考えるが、それでも大妖精は結乃を助けるという使命感と他のみんなも助けだしたいという思いからやせ我慢で頑張るが、それをあざ笑うかのような出来事が。
結乃の視線の先でまるで力尽きたかのように気絶するミスティア。
そして真横では立ち上がろうと膝をついた大妖精がバランスを崩したかのように前に倒れ込んで膝を抱え始めた。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「だ、大妖精さん大丈夫ですか!?」
「痛い、足が、私の足が!」
「足がどうしたんですか!? 痛みますか!?」
大妖精の様子を見て結乃はすぐに患部に手を触れ、治癒を施す。
傷は軽い擦り傷のため、霊力消費はそれほどでもなく、一瞬で傷を治すことができたため、これで大丈夫だと判断して結乃は手を離す。
だが、大妖精の様子が変わることはなかった。
「痛い痛い痛い! いやだ、私の足が!」
(え、どうして? 治癒が終われば痛みもなくなるはずなのに)
「足が、私の足が! 無くなっ」
「え?」
その台詞を最後に大妖精は失神してしまった。
台詞から察するに大妖精は足を斬られた痛みに悶絶していたようだが、大妖精の足はしっかりとついているし、傷に関しては結乃が治した。
そのため、大妖精の足は傷一つない綺麗な状態になっているのだが、それでもああして錯覚していたということは。
「集団幻覚!?」
恐慌状態、落ちていないのに落ちていると錯覚、そして自分たちを化け物か何かと見間違える、足が無くなったと錯覚。
これはもう間違いないだろう。
だが、それを理解できたからと言って結乃に何ができる。傷や病気を治すことができたとしても幻覚を見ている人を正気に戻すことなんてできない。
それどころかここにいたら自分も同じようになってしまうかもしれない。
「君たち、こんなところで子供が遊んでたら危ないじゃないか」
「っ!」
突然背後から響いてきた声。
おぞましい気配が背後から感じられ、結乃は全く動くことができなくなってしまった。
逃げなければいけない、そう脳では理解しているのに人間は真に恐怖した時、動くことも声を出すこともできなくなってしまうものなのだ。
「君たちにいいことを教えてあげるよ、踏み込んじゃいけなことがこの世には存在するんだよ。そんなに家探しみたいなことをして、君たちは何を知りたかったんだい?」
(だめ、だめ、正気を保って。じゃないと私もミスティアさんみたいにっ)
「話してくれないの? さみしいなぁ。君みたいな可愛い子たちを手にあげるのは本当は嫌なんだよ? でも、仕方がないよね、君たちが悪いことをしちゃったんだから」
「コヒューコヒュー」
呼吸を整えようとする結乃の口からは掠れたような音が鳴る。
(いやだいやだいやだ)
「でも、ここまでたどり着いたご褒美にいいことを教えてあげるよ。あの機械は島にいる全ての人のエネルギーを吸い取り、いろいろな機械に送り込むという機能がある。まぁ、それだけじゃないんだけどね、これ以上はひ・み・つ」
(こわいこわいこわい)
「それじゃあねぇ」
「いやああああああああああああああああああああ」
背後の人物がじゃあねと言った瞬間、周囲にどこからともなく自我の無い妖怪が出現し、結乃に襲いかかる。
妖怪恐怖症である結乃はチルノたちの様子を見てこの四人ならなんとか仲良くできそうだと感じていたものの、こうして恐怖の象徴たる自我の無い妖怪と対峙すると何もできなくなってしまい、ただ食われるのを待つのみとなってしまった。
自分が妖怪恐怖症となる原因である過去の
自我の無い妖怪に食べられそうになり、寸前のところで助けられたが、その時の恐怖が今も根っこの部分に根付いている。
「助けてええええええええええええええええええええ」
ここには助けてくれる人なんて誰もいない。
結乃はただ、捕食されるのを待つことしかできないのだ。
はい!第239話終了
えっとですね、この話の中で咲夜視点にもう一度戻そうかと思ったのですが、いつの間にか6000文字でした。
なので、ここで話を分けることにしました。
ここで終わらせるのもいいんですけど、咲夜たちの話も描きたかったんですけどね。
あまり長すぎると良くないですので。
さぁ、残酷な描写が出てきまして、仲間が次々と恐慌状態に陥って倒れていくというかなり強い曇らせ回でした。
特に一番最後まで残っていた結乃にとってはまた新たなトラウマが植えつけられてしまったのではないでしょうか。
ちなみに黒葉はここで腕を斬られて悶絶していましたが、状況的には大妖精に近いです。
そう、黒葉視点では腕が無くなっていましたが、周囲から見ると大妖精と同じ状態だったわけですね。
果たして結乃たちの運命は?
それでは!
さようなら!