それでは前回のあらすじ
送り出したチルノたちのことを心配する咲夜。
そんな咲夜の元へ現れたのは荷台に気絶したチルノたちを乗せた風魔だった。
咲夜は風魔を尋問する。
そこで風魔は龍の仲間ではないと言うが、明らかに詳しそうな様子。
だが、そこで逃げられてしまった。
そして風魔は咲夜に逃げるよう忠告して去るのだった。
それではどうぞ!
side咲夜
「咲夜!」
「何があったんですか!?」
「っ、そこの子たちは」
風魔が消えてすぐ後にルーミア、文、にとりの三人が飛び出してきた。
彼女たちの視界に移るのは呆然としている私と気絶して荷台に乗せられた五人の姿。私がついさっきまで怪しい人物と会話していたことなんて微塵も知らない三人からしたらよく分からない状況だろう。
顔から困惑が見て取れる。
正直、この状況を説明しろと言われても私とて困ってしまう。だって、私も全く状況を理解しきれていないのだから。
「よく分からないけど、お節介焼きな人がこの子たちを助けてくれたみたいよ。私もよく分からないんだけどね」
状況はよくわからない。
風魔が言っていた黒葉が魔導にやられたという発言。あれの真偽も気になるから色々と確認したいことができてしまった。
状況を理解し、龍への対策を練るどころか謎が増えてしまった。
タイムリミットは三日だというのに全然先に進めていない。
「とりあえず、その子たちが目を覚ますのを待ちましょうか。話を聞いて見たら何かわかるかもしれませんし」
「それもそうね。まずはこの子たちの話を聞かないことには何にも進まないわね」
何をするにもまずは情報が少なすぎる。
結局風魔から得られた情報は魔導という存在と黒葉の動向のみ。龍の力の謎なんかは全く解き明かされていない。
だから、まずこの子たちが像の内部で何を見たのか、そして何を感じたのか、それを聞くのが最優先事項だ。
ひとまず私たちは五人を船内に運び込み、起きるのを待つことにした。
二時間後、五人は目を覚ました。
だが、その様子はどうにもおかしかった。私たちが街で見かけた人たちとも違う、心ここに在らずといった感じの虚ろな目をしていた。
街の人たちとは違って声をかけると反応はあるため、意識はあって洗脳はされていないということは判断できるが、それ以上に精神的に壊れてしまっているように見える。洗脳されている方がマシなんじゃないかと思えるほどだ。
チルノとリグルは床に体をこすりつけ、地の感触を味わい、ミスティアに関してはずっと「ごめんなさいごめんなさい」と連呼するのみ。大妖精は壁に体を預けて座り込み、どこかあらぬ方向へと視線を向けている。結乃ちゃんは膝を抱えてうずくまってしまっていた。
反応はバラバラといった様子だけど、全員何らかの形で強い恐怖を植え付けられてしまったのだろうと想像つくため、みんなに像へ行かせてしまったことを申し訳なく思う。
関係ないはずのみんなを巻き込んでしまったのだから。
「これじゃ、話を聞くのは酷かもしれないわね」
「でもどうするよ。これじゃ、龍の情報をつかめないじゃん」
「……」
みんなには止められたけどやっぱりあそこには私が行くしかない。
もうこれ以上みんなをひどい目に遭わせるわけにはいかない。
私が私自身の手で確かめないと。
他の人に任せて自分だけ安全圏に居るなんて私の性に合わないから。
そうして立ち上がって像へと向かおうと歩き出したその時、弱々しい力で服が引っ張られたため、私は思わず足を止めて引っ張られた方向へと目を向けた。
そこには震えつつも、私のスカートをしっかりとつかんで私を引き止める結乃ちゃんと、深呼吸をして気分を落ち着かせている寺子屋のみんながいた。
ついさっきまで阿鼻叫喚といった状態だったのに、結乃ちゃんの目は覚悟が決まったという目。
「さ、咲夜さん。私たち、大丈夫ですから」
震えている。どこからどう見ても強がっているだけだ。
正直、あまりこの子たちに無理をさせたくはないし、恐怖を思い出させたくもない。だから私としては何も聞かず、今すぐ結乃ちゃんの細い腕を振り払って像へ走って行ってもいいんだけど、結乃ちゃんの強い意志を感じる眼を見ていると、そんな気も薄れて行く。
せっかく結乃ちゃんたちはこれほどまでに大変な思いをしながら情報を集めに行ってくれたのだ。それを無駄にしてしまっては彼女たちに失礼ではないかと。
だから私は踏みとどまって結乃ちゃんたちの話を聞くことにした。
「みんな、像で何があったの?」
「はい、私たちはまず内部へ入る方法を見つけました。どうやら一部的に回転扉になっているようで、二人以上が触れて押すことで回転させることができるという仕組みでした」
「二人以上……」
この中で一番しっかりとしていそうな大妖精が説明した。
確かに私とルーミアは同じ場所を一緒に確認したりはせず、大きい建造物だからって手分けをして調べていた。だから私たちは回転扉の存在に気がつくことができなかったのか。
その可能性は失念していた。
「なんか凄かったよ! なんか、ビカビカーって光ってる機械があってね! 霊力がびゃびゃびゃーって広がるんだよ!」
「えっと……」
「中には紫色に光ってスパークしてる怪しげな機械がありました。それに触れると霊力が吸い取られ、この島のあらゆる場所へ拡散されるようです」
チルノは元気一杯に話してくれたけど、全然わからなかったため、大妖精が補完して説明してくれた。
怪しげな機械、多分それがこの魔道具たちの動力源となる魔力を送り込んでいるものなんだろうけど、その魔力っていったいどこからきているのだろうか。
話によると触れると霊力を吸い取られるらしいけど、常に誰かが触れて霊力を送り込んでいるっていうわけではないだろうし、第一、たった数人が霊力を送り込んだところでこの街全体を賄うレベルの霊力を生み出すことは不可能だろう。
ならば、どうしているんだろう。
なんだかこれが龍らを打倒する鍵になっているような気がする。
「他にも色々な機械があったよ。地図が出ている機械だったり、矢印が書いてある機械だったり、色々な機械があった。調べる前にやられちゃったからあんまり調べることはできなかったんだけど」
「魔道書もありました! 私たちじゃ魔道書を解読することはできないので、なんとか持ち帰ろうと思ったのですが……すみません。やられちゃったので、取られてしまったみたいです」
残念そうに言うリグルと結乃ちゃん。
魔道書は私もパチュリー様に見せてもらったことがあって、色々と完璧にできるようになろうと思って魔力がないから魔法を使うことはできないけど、それでも魔法文字を読むことができるようになっていた。
だからもし、結乃ちゃんたちが魔道書を持ち帰ってくることができていたら何かわかったかもしれないのに、確かに残念だ。
やっぱり私も行って魔道書を回収してくるべきだろうか。
そんなことを考えていたらミスティアが不敵な笑みを浮かべていることに気がついた。
「ふっふっふ、あんまり私をなめないでよね!」
「なんだみすちー、いつになくテンションが高いな」
「刮目してみよ、私の大活躍を!」
妙にテンションが高いミスティアはそう言うと、服の中に手を入れ、一冊の本を取り出した。
それを見てミスティアがどうしてこんなにテンションが高いのかを理解した。
「そ、それって」
「魔道書ね」
ミスティアが取り出したのは魔道書だった。
持ち帰ろうとしたけど、やられてしまったせいで取り返されてしまったものだとばかり思っていた魔道書がミスティアの服の中から出てきたことには流石に私もびっくりした。
どうやら取り返される前に服の中に隠して持ち出したらしい。なんと大胆な子なのだろうか。でも、凄まじいお手柄だ。
「よくやったわね、ミスティア」
「えっへへ、なんとか服の中までは確認されなかったみたいです」
褒められて喜ぶミスティア。
ただ、荷台に積み込まれて気がつかれないものなのだろうか。いや、風魔のあの様子だったら気づいていたけど私たちに真実を伝えるためにわざと見逃したと言う線もありそうね。
本当に風魔の考えがよくわからない。
でも、これでこの魔道書を調べることができる。
早速私はミスティアから魔道書を受け取って中身に目を通して見た。
中に書かれているのは機械に関することばかり。魔法の類ではなく、他の人に見られても内容を見られないように魔法文字を使っているようだ。
だからこの魔道書自体に魔法の効果は存在しない。誰かが間違って開いて魔力を流し込んでしまってもせいぜい文字がキラキラと光るくらいなものだろう。
機械の表記が上矢印の場合は上昇、下矢印の場合は下降など、まるで説明書のようなもの。
私たちの欲しい情報はなかなか出てこない。
「っ!」
やがて気になるものを見つけた。
クリスタル——紫色に光って魔力を吸収する効果を持つ巨大な魔法石。多分、みんなが像の内部で見たと言う怪しげな機械のことだろう。
どう考えてもこれがあの施設の中で一番大事なものなのだろうから、これを注意して読んでみることにした。
「読み上げるわ。『クリスタルは周囲の霊力、妖力、魔力を吸い取り周囲に放つ効果がある。ただし、周囲から吸うエネルギー量と言うのは微量で、吸われている本人も気がつくことはない。ただし、触れたら一気に吸い取られる。我々はこれを有効活用し、街のエネルギー源にできないかと考えた』」
「でも、触らないとダメなら、あまりエネルギーを使えなくないです?」
「続きがあるわ。『僕はエネルギーを収集できる範囲を拡大し、一度に収集できるエネルギー量を増やすことができる装置を発明した。ただ、これを使うとあからさまにエネルギーを吸い取られてることに気がついてしまうため、対象者を洗脳済みのスカイにいる人に限定することにした。これなら大量に吸い取ってもバレることはない』なるほど、だからこの街の人たちを洗脳したのね」
「労働力にするためだけじゃなかったんですね。奴隷のように洗脳し、そして霊力を奪い取るなんて酷すぎます。今頃椛も同じように……」
書かれている残酷な真実。
これが今スカイで起こっている現実なんだろう。外からやってきた人たちを洗脳し、この島のエネルギー源とする。そしてエネルギーが切れたら捨てて新しい人を補充する。
おおよそ人間のやることとは思えないわね。
だからこの島には大量の魔道具を動かすことができるほどの魔力が秘められていると言うことなのね。
多分、このスカイもこのエネルギーで浮かせている。この島自体が魔道具だと言うことなんだろうけど、これほど巨大な魔道具を動かすには相当なエネルギーが必要となる。
洗脳されている人たちは一体どれほどのエネルギーを吸い取られているんだろう。考えただけで身震いがする。おぞましい。
「『それにこれがあればあの方は無敵になる』あの方ってきっと龍のことよね」
「つまり、あれが龍の無敵の理由っていうこと?」
「多分そうね。だからあれを破壊することができさえすれば、龍を追い詰めることができる。ということだと思う。どうしてなのか、どういう力なのかはわからないけどね」
ただ、一つ問題点がある。
今私が至ったこの島もクリスタルの力のおかげで浮き上がっているということ。つまり、クリスタルを破壊してしまったら、この島は墜落してしまうのではないかということ。
この島の下は森が広がっているだけだから下の方が悲惨なことになるということについては問題はないけど、問題としてはこの島に生きる人たちが全員地面に叩きつけられてしまう。そうなってしまっては機械のように動く洗脳を受けていたとしても死んでしまうことは間違いないだろう。
つまり、今私たちはお嬢様と椛の二人を助けるためにクリスタルを破壊して島の全員を見殺しにするか、島の全員の安全をとって勝てるかどうかわからない龍との戦いに挑むかという究極の選択を強いられている。
正直、今の龍に勝つことができる気がしない。
「どうしてクリスタルがあれば龍が無敵になるんだろう」
「龍の力は未来を見ることができることと、龍と同じ力を得ることができる龍の加護の二つのはず。全く検討がつかないわね、クリスタルの力なのかしら」
「そういえば、龍って言ったらドラゴンの頭がクリスタルにかじりついてたよ!」
ルーミアと私が話し合っていたらチルノが横から新事実を伝えてきた。しかも、それはおそらく最重要な事実。
「ど、ドラゴンの頭!?」
「確か、龍が使ってきた攻撃も——」
あいつも間違いなくドラゴンの頭だった。
もしこれが同じドラゴンの頭なのだとしたら、私たちは重大な事実に気がつこうとしているということになる。色々と間違えていて、見落としているようなそんな事実に。
だが、現状だと情報が少ない。ドラゴンの頭がクリスタルにかじりついていたからと言って何になるんだろう。
間違いなく重要なんだろうけど、その理由が検討もつかない。
「それなんだけどさぁ、咲夜に話を聞いて私も色々と調べていたんだけどさぁ。この加護辞典には龍の加護なんて加護、記載されてないんだよなぁ」
「にとり、それって本当!?」
にとりがバッグの中から取り出した分厚い加護辞典なる本。
私もにとりの横から顔を出して一緒に見るが、確かに龍の加護という加護に関してはいくらページをめくっても出てくることはなかった。
この辞典に載っていないだけ? 単純にそう考えてしまうのは危うい。私は間違いなく、何か見落としをしてしまっている。
「咲夜、私はどうにも龍が嘘をついているように見えるんだ。本命の加護を隠し、その対策を練られないために」
「そうね、私も今同じことを思っていたわ」
「それで、一つ、怪しいやつを見つけたんだけどさ、咲夜はどう思う?」
そう言ってパラパラとページをめくっていくと、辞典の後半のページで止まり、にとりは一つの加護を指差した。
そこに書いてあった加護は——
「悪食の加護?」
はい!第241話終了
色々一気に秘密が明かされましたね。
やっぱりあの魔法文字は大事なことが書かれていました。
そして龍の無敵の秘密。
龍は臆病なんです。少しでも負ける可能性もなくすため、本当の加護は隠し、偽の加護を相手に伝えて混乱させようとするところがあります。
あれほど傲慢に振舞っている彼ですが、心はひ弱だったということですね。
つまり、龍に関しては彼の加護の秘密さえ暴いて全てを解決することができれば敵じゃないですね。
ただ、その過程が月刃に勝つことよりも圧倒的に難易度が高いです。
さて、咲夜たちがどのように攻略していくのか、見ものです!
ちなみに五天魔王にはギミックボスみたいな敵が龍の他にもう一人います。
それでは!
さようなら