それでは前回のあらすじ
次々にわかって行く龍の秘密。
しかし、龍を倒すためにはクリスタルを破壊し、スカイを落とさなければいけないということがわかってしまった。
それすなわち、この島の人々の命を犠牲にする必要があるということだ。
悩む咲夜。
だが、そこに黒葉から通信が。
黒葉と相談すると、後のことは黒葉が手配するからクリスタルをぶっ壊せとのこと。
作戦決行は三日後の結婚式当日。
果たしてレミリアと椛を無事に救い出すことはできるのか?
それではどうぞ!
side三人称
黒葉たちがスカイで奮闘していた頃、ただ一人飛行船に乗船することなく一人で行動し始めたフランドール・スカーレットは全速力で飛行していた。
その目的地はつい先日まで滞在していた鍛治師の人里。
道中は森や小さい山などもあり、歩行環境は最悪だったため、永遠亭から鍛治師の人里へたどり着くまでは二日もかかってしまった。
だが、それは歩いて行ったらの話である。
あの時は飛ぶことができない人もいたため、歩いて行ったがフランやルーミアなど飛べる人だけで鍛治師の人里へ向かえば一日もかからない。
歩行環境なんて関係なく、山などはひとっ飛び。
ただ、彼女は吸血鬼であるがゆえに日中の飛行には日傘の携帯は避けることができず、日傘片手に飛行しているため、彼女の真の全力飛行には及ばないだろう。
それでも、急げば一日もかかることはない。
目的ははっきりしている。
(龍と戦うなら、あの刀じゃ黒葉は本気を出すことができない)
そもそも、剛志が鍛えたという白愛の愛刀、吹雪ですら黒葉の能力に耐えきることができずに折れてしまったのだ。それが普通の刀で耐えられるはずがない、必然的に黒葉は能力の使用を制限して戦わざるを得ない。
だからフランは鍛治師の人里にて黒葉の刀を絶賛製作中である威迅からもらうため、一人で動いている。
ただ、刀というのはそんなに直ぐに出来上がるものではなく、約一週間しか経過していない、しかもあまり刀を打ってこなかった威迅が剛志に教えを請いながら打っているのだ。一週間程度で完成するわけがないだろう。
だから今威迅の元へ行ったところで。
「そんな早く完成するわけねぇだろ。完成したら渡しに行くっつっただろうがゴスロリ」
「うぐっ」
当然の結果だった。
一応、試作段階の刀は何振りか出来上がってはいるが、剛志のように所有者の能力を最大限引き出せるほどの能力を秘めた刀はまだまだ未完成だった。
とにかく火力が高い黒葉の能力にも耐え切れるほどの頑丈さをまずは最優先しているため、強度が高く高温でも耐えられるほどのものはいくつかある。でも、全くこれっぽっちも満足のいくものは出来上がっていなかった。
そんな状態で威迅が突然フランに「黒葉の刀頂戴!」と言われたところで渡せるはずがなかった。
フランも甘く見過ぎていた。
フランはこう行った生産職系のことに関しては疎い。特にフランは長いこと地下室に引きこもっており、世情というより、ありとあらゆることに疎いのだ。
いっそのこと『ありとあらゆることに疎い程度の能力』を名乗った方がいいのではないかというレベル。
つまり、フランはここに来るまで黒葉の刀の完成がまだまだ先になることなんて想像もしていなかった。
完成していないことは想定の範囲内ではあったが、それももう少しで完成や仕上げの段階に入っているんじゃないかというかなり甘い見積もりだったため、フランの計画——黒葉の刀を威迅から受け取って持って行き、サポートをしようという計画は一瞬にして頓挫した。
「第一、なんだっててめぇがここに居るんだよ。お前は咲夜たちと帰っただろうが」
「そ、それは……」
事情を全て話してしまった方が早いかもしれない。だが、これを話してしまっては自分たちの危険な事情にまた鍛治師の人里を巻き込んでしまうかもしれない。
せっかく命をかけて里を守り、復興作業をして居るというところなのに厄介な自分たちの事情に巻き込んでもいいものなのか? 黒葉の故郷なのに勝手にこの里を巻き込むのは申し訳がない。
そんな考えがフランの中で渦巻き、口ごもってしまう。
そんな様子を見た威迅。
威迅も別に鈍いというわけではないし、一見荒々しく脳筋のように見えるが、意外と考える時は考えている。だから、フランの様子を見て何かがあったのだろうということは察せた威迅は軽くため息をつくと口を開いた。
「まぁ、てめぇらに何があろうが俺たちにゃ関係ないが、ゴスロリが一人で帰ってきたということはそれなりのことはあったんだろう。んで、至急強い刀が必要になったというわけだ。違うか?」
「うん、違わない」
「ったく……てめぇらは常に何かしらのトラブルを抱えてないと生きていけねぇのかよ」
ついこの間天魔組との戦いが終わり、やっと落ち着いてきたところだっていうのにすでに別のトラブルを抱え込んでしまっている黒葉たちに思わず頭を抱えてしまう威迅。
「言っとくが、今は里の奴らは誰も貸せねぇぞ。ただでさえ、今この里も復興に人手が欲しいくらいなんだ。てめぇらの問題はてめぇらで解決しろ」
「うん、大丈夫。そこまでは求めてないから」
「あ、そう。ならいい」
冷たく引き離すような言葉。
一縷の望みにかけてここにきたフランだったが、刀はまだまだ完成しないということで完全なる無駄足となってしまった。
こうしている間にも黒葉たちはスカイで戦っているのだと考えると居た堪れない気分になる。
今直ぐにでも黒葉たちを追って自分もスカイに乗り込まなければとこの場を後にしてスカイへと飛び立とうとするフラン。
そんなフランの背後から彼女を引き止める声が聞こえた。
「四日くらい待て」
「ふえ?」
「待てっつってんだよ。人手は貸せねぇが、ひとまず試作品を使えなくはねぇレベルにまでは整えてやる。これだけでも黒葉に渡した刀よりはマシだろ。じいさんにも及第点は貰ってんだ。それで我慢しろ、無理だっていうんならそれまでだ。てめぇらだけでなんとかしやがれ」
きつい口調だが、それすなわちフランの頼みを聞いて急ピッチで刀をなんとか見繕ってくれるということだ。
口調はきつく、フランのことを認めていないため、未だゴスロリ呼びではあるが、それでも威迅は鬼というわけではない。黒葉たちがピンチに陥っているというのならばできるだけ協力したいという気持ちはある。
だが、威迅はまだ本調子というわけではない。薬のおかげでどうにか壊死した腕や切り落とした腕は回復したが、それでも月刃戦で見せたほどの実力を出すことはできない。
だから刀を仕上げることで助けになるんだったら願っても無いことだった。
「うん、ありがとう。それと一ついい?」
「なんだぁ?」
「もうちょっと早めに仕上げられないかな」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ!」
フランは黒葉の刀があれば黒葉が龍を倒してくれるということを信じて刀の仕上げを待ち続ける。
side黒葉
「これでいいんですか? 紫さん」
「えぇ、上出来よ」
「ただ、僕としても師匠が龍と戦った方が勝機が見える気がするんですが」
俺は今、紫さんが作り出した異空間——スキマの中で紫さんと対面していた。
紫さんの力でスカイの魔力を俺の持っている通信機に無理矢理つなげてもらい、師匠たちに俺が龍と戦うという提案をした。
ただ、これは紫さんにそう言えと言われたもの。
正直な話、師匠が龍と戦った方がずっと勝率は高いだろうし、龍に一泡吹かせたいという感情論で動くような場合ではないというのも理解している。
とりあえず師匠には適当に理由をつけたが、俺も理解はできていないんだ。
決戦日時を指定したのも紫さん。そんな紫さんの真意が全く理解できていない。
「確かに像を破壊することができれば咲夜の力ならば龍を倒すことなんて造作もないでしょうね」
「ですよね?」
「ただ、あなたは番人を倒すことができるのかしら?」
「うっ」
「正直、あなたとあの番人は相性が悪いのよ。厄介度で言ったら龍よりもずっと上。だからあなたたちが一番信頼を置いている彼女に任せた方が懸命なのよ」
あの人物の力は全く把握できていない。それは紫さんも同じだろう。
紫さんは寺子屋のみんなが番人にやられるところを見ていたらしい。その後、風魔の手によって連れていかれるというところも。
だからなんとなくでわかってしまうのだろう。
「でも、だからといって俺を龍にぶつける理由は?」
姉貴にも忠告された通り、あの時龍と本気で戦っていたら死んでいたのは間違いなく俺の方だった。
確かにクリスタルの件もあったけど、あれ抜きでも俺一人で勝てるとは到底思えなかった。
「像の番人に当てるとしたら咲夜しかいない。でも、他のメンバーでは力にも龍にも勝てない。となったら答えは一つしかないじゃない?」
「……はい? 俺は紫さんの言っていることが全くもって理解できないんですが」
「あなたの義姉、レミリア・スカーレットに戦ってもらう。それしかないんじゃない? 現状、龍の未来視に対抗できるのは咲夜かレミリアくらいなんだし」
「はぁ……まぁ、わかりますが姉貴は色々と諦めちゃってるんで、そう簡単に物事が進みますかね?」
下にいた時に会話した時も思ったが、姉貴は全てを諦めてしまっているような気がする。だから姉貴は自分から戦ってくれはしないだろう。
不変の運命、それを覆すことができなければ運命に従ってきた姉貴は希望を見いだすことができない。自分から不変の運命に立ち向かおうという勇気を出させないと姉貴は戦ってくれないだろう。
姉貴は不変の運命に逆らえばもっと悲惨な未来が待っているということを知っている。だからそれら全てを覆さなければ。
「不変の運命を変えることが出来るのは彼女の力だけよ」
「でもそれじゃあ姉貴は多分立ち上がりませんよ」
「そう、だからそんな彼女を奮起させなければいけない。それが太陽くん、あなたの仕事よ」
「無理、無理ですよ! 俺が言ったところで何戯言をほざいてるんだ小童め。失せろ、二度とその面を見せるなって言われるだけですよ」
「あなたはレミリアのことをなんだと思っているのよ……。正直、レミリアの心を動かすことができるとしたらフランドール、咲夜、そしてあなたの三人の誰かしかいないのよ」
そこに俺を入れられても困るんだけどなぁ。
俺とずっと何百年も一緒に暮らしてきた妹と俺よりもずっと前から使えている大切なメイドを同列に語って欲しくはない。
俺なんて紅魔館に来てから日も浅い新参者だ。そんな俺の言葉で心を動かすことができるとは思えない。
それに、ずっと俺は姉貴に生意気なことばかり言い続けてきた。そんな奴を大切だなんて思えるはずがない。
「太陽くん、あなたが思っている以上にレミリアはあなたのことを大切に思っているわ。それだけは自信を持ってちょうだい」
「本当にそうですかね」
「そう、ただレミリアの心を動かすためにもまずはあなた一人で龍と対峙しなければいけない。幸いにも彼は慢心家だからあなた相手に本気を出すことはしないだろうけど、先読みして飛んでくる龍の攻撃を最低限捌けるようになっておかなければいけないわね」
「確かに……」
「つまり特訓よ」
そういうことか。
なぜ紫さんが今すぐの決戦ではなく、三日後の結婚式当日を決戦の日に指定したのかをようやく理解した。どうやら紫さんはその時までに龍の攻撃を裁くことができるまでには鍛えるつもりらしい。
ただ、いくら龍が慢心家だからといってそんな付け焼き刃が通用するのか? それに——
「さっき紫さんも居たのでわかってると思いますが、俺は決戦が始まるまで——」
「えぇ、わかっているわ。だから同時並行しなさい。あの子の約束と私の特訓、両方をこなすのよ」
「そんな無茶な……」
「これくらいできなきゃ龍には勝てないわ。それに何より」
紫さんがにやっと笑う。
すっごく嫌な予感がするんですが。昔から紫さんがこの顔をした時はろくなことを言い出さない。
「人は数日無理をした程度では死なないわ」
「鬼! 悪魔! 人でなし!」
「人じゃないもの」
「あんたには人の心がないのか! 体がぶっ壊れるわ!」
「あら、もし体がぶっ壊れたとしたら永琳特性の治療薬が火を噴くわね」
「いよいよ本性を現したな、この妖怪め!」
「妖怪はあなたもじゃない」
つまり、この人は俺がぶっ壊れようが永琳先生の治療薬で治してなおも限界を超えて動かそうとしている。
確かに今が無理のし時だということは理解しているが、体がぶっ壊れようが特訓させるという紫さんの狂いっぷりに震えが止まりません。
俺は大変な人に助けを求めてしまったのかもしれない。
ただ、俺はこの人に色々とお願いをしてしまったため、紫さんのいうことを聞かざるを得ないため、昼も夜も寝ずにぶっ続けで動き続けるのだった。
だれか……たすけて。
はい!第243話終了
えー、フラン視点と黒葉視点です。
二人ともひっさしぶりにちゃんと登場しましたね。
威迅もめちゃくちゃ久々の登場なので、記憶を頼りに書いていたのですが、この口調で解釈合ってますかね?
僕的にはこんな感じの粗暴な喋り方だった気がします。
というか、黒葉視点を久しぶりに描いた気がします。
そして残り三日なのですが、決戦当日までは特に書くことはないので、次回ついに天空堕とし編開幕です!
さて、スカイ上陸編は常に不穏な景色が広がり、さらには勝機が見えないという不穏な終わり方をしてしまったのですが、兎にも角にももう戦うしかないのです。
ちなみに龍は突然ありとあらゆる方向からドラゴン頭を出して攻撃できますが、紫も突然ありとあらゆるところにスキマを作り出し、そこから色々なものを射出できるので、結構同じような戦い方ができるんですよね。
つまり、龍戦のリハーサルとしては申し分ないというわけです。
頑張れ黒葉、負けるな黒葉!
ちなみに黒葉は特訓以外にもある人物と約束をしてしまったおかげで特訓以外の時間は働き詰めです。
さらに、その人物に心配させないように紫は黒い笑みを浮かべながらちょっとでも心配をかけたらその分特訓量を増やすと脅しているため、黒葉はこの現状を受け入れるしかないと……詰みなんですよね。
果たして黒葉は生きて龍戦に挑むことができるのか?
ちなみに永琳の薬には寝なくてもコンディションが整うというブラック企業もびっくりな薬が存在するため、紫は黒葉に戦いに行かせる前に飲ませるつもりです。
なんという鬼畜!
寝る間も惜しんで特訓をします。
頑張れ黒葉、負けるな黒葉!
それでは!
さようなら