それでは前回のあらすじ
ついに決戦直前。
咲夜たちはにとり作のイヤー通信機を手に入れ、準備完了。
一方の黒葉は紫に教会前に連れてきてもらい、スタンバイ。
そんな黒葉の前にある一人の男が現れた。
それではどうぞ!
side黒葉
「風魔」
俺の向かう先、教会の影から歩き出てきたのは、何度もスカイにきてからお世話になった倉風魔。
これは想定していた。最後に見た風魔の様子がおかしかったというのもあるし、風魔の目的は俺たちを龍と戦わせずに無事に地上へ送り返すことだからだ。
だからこうして現れるとは思っていた。
「やっぱり、来ちゃったんだね。なんでかな、どうして君たちはどいつもこいつも僕の忠告を無視して抗おうとするのかな。龍には誰も勝てないって言っているのに。特に魔導の目が黒い内は龍に勝つことはできない」
聞いた感じ、やっぱり師匠たちのところにも行って俺と同じような忠告をしたのだろう。だが、師匠たちも俺と同じように忠告を聞かずに戦うことを選んだ。
そりゃー、師匠は諦めるという選択肢なんてないよな。
師匠は自分の命よりも姉貴の方が大事というタイプだ。そんな無茶をしたら絶対に姉貴に怒られるということがわかって居たとしてもその無茶を止めることは絶対にできないタイプの人だ。
そんな忠告は無意味。
「君たちは大馬鹿だよ。自分の命以上に大切なものがあるわけないじゃん」
「いや、あるよ」
「無いよ。だって、助けようとして自分が死んだら本末転倒だ。自分が死んだら何もかもがおしまいなんだよ。たとえその犠牲で大切な人を助けられたとして、それによって君らが得られるものは何も無い。特に今回は相手が相手だ、諦める方が吉というものだよ」
確かにそうなのかもしれない。
合理的に物事を考えられるとしたら逃げて次の最大のチャンスを待つ方が賢いというものだろう。だが、人間というのはそこまで合理的に考えられるものじゃ無い。
大切な人を失ったら悲しいし、苦しい。それこそその辛さは自分が痛めつけられたり、自分が死ぬかもしれない、もしくは死ぬと考えることよりもずっと辛いことだ。
これは俺の単なるエゴで、自分勝手な考え方だっていうのはわかっているけど、もし自分が死んでしまったとしても大切な人には生きて居て欲しいんだ。
ただの自己満足で、もし俺が死んでしまったとしたら姉貴は悲しんでくれるかもしれない。それによって辛い思いをさせてしまうのかもしれない。
だけど、それでも自分勝手なもので、姉貴には生きて居て欲しいんだ。
姉貴だけじゃ無い。
ルーミア、師匠、紅魔館のみんな、寺子屋のみんな。俺の周りにいる人たちには俺が死んだとしてもその先も生きて居て欲しい。
「風魔、俺は死ぬことが怖く無いかと聞かれたら嘘になるし、合理的に考えるとしたら風魔が正しいんだと思う。でも、俺は姉貴に生きて居て欲しい。俺が死んだ後も紅魔館は前に進んで行って欲しい」
「随分と身勝手だね」
「そう、俺は身勝手な人間だ。だから俺は身勝手に姉貴を助ける。もう誰に止められたとしても俺は歩みを止めることはしない。たとえその先が地獄なのだとしても」
姉ちゃんならきっとそうしたはず。
だって姉ちゃんはあの時、大量の妖怪に囲まれて完勝できるほどの力はなかったはず。戦いに行ったらまず間違いなく自分は死んでしまうということはわかって居たはず。
でも、里を守るために戦って死んで行った。しかも俺に
本当に身勝手な人だ。残された人がどれだけ悲しむか。
でも、今なら姉ちゃんの気持ちは痛いほどわかる。あの時の姉ちゃん同様、負ける可能性が高いんだとしても、死ぬかもしれないんだとしても、それが諦める理由には絶対になり得ないから。
「風魔、そこを退いてくれ。風魔には色々よくしてもらったから戦いたくは無いんだ」
風魔はおそらく龍の陣営だ。だけど、風魔は動向を見ているとどうにも龍に背いているようにしか思えない。
俺に色々と案内してくれて、街では通信機をくれた。街で動きやすいように色々と整えてくれた。
俺にはあれが全て計算づくで龍のために行動して居たようには見えなかった。しかも俺が地下牢に閉じ込められた際には助けてくれた。
そんな風魔を俺は切り捨てることはできない。できることなら、風魔とは戦いたく無いんだ。
「そう……残念だ」
「風魔っ!」
俺の願いは当然聞き入れられることはない。
静かに「残念だ」と呟いた風魔は背負っている二振りの剣を抜き、俺と向き合う。
風魔とは戦いたくないし、できることならば穏便に風魔とは決着をつけたいんだけど、風魔はすでにやる気のようで、もう後戻りはできなさそうだ。
風魔がもう一度剣を鞘に戻す条件は俺が諦めるというただ一つのことだけ。
もう風魔との交戦は避けられないという状況になってしまった。
「っ!」
風魔が突然左手に構えた剣を振る。
距離的に風魔の剣が俺に届くことはないのだが、それでも警戒して飛び退くと、もともと俺が立って居た場所の目の前の地面がえぐられ、線が出来上がった。
どうやらもともと俺を狙っての攻撃ではなかったらしい。
そして俺に剣を向けて風魔は宣言した。
「そこから一歩でもこっちに足を踏み入れたら僕は黒葉君を斬る」
その顔は怯えが混じったような複雑な表情をして居た。
俺を斬り捨てると宣言した男の顔には見えない。どうにか俺にこっちに来ないでくれと懇願しているようにすら見える。
弱々しく、迫力のかけらもない。脅しにしては弱すぎて脅しになって居ない。
風魔は俺を斬り捨てる覚悟が決まって居ないんだ。本当は風魔も俺と戦いたくはないし、斬りたくはないんだろうというのは想像できる。
俺と同じなんだ。
風魔は俺に帰って欲しくて、俺はこの先に進みたい。その意見が食い違っているだけで、本質は同じ。
そう考えると安心できた。
やっぱり風魔は優しい人だ。
俺はゆっくり歩く。風魔の立っているその先を目指して。
「っ、来るなって言っているだろ!」
声が震えている。俺が尚も諦めることはせずに歩くというのを見て息を飲んだというのが見て取れた。
俺は刀を抜かない。風魔と敵対する意思なんてものは更々ないからだ。
刀を抜いてしまってはそこからは戦争だ。風魔と戦うしか選択肢は無くなってしまうし、俺は風魔を絶対に斬りたくないから刀を抜かず、戦闘の意思なんてものはないということをアピールする。
俺が一歩、また一歩と線へ近づいていけばいくほどに風魔の顔がどんどんと青ざめていく。
これほど無防備に近づいたらさっきの地面を抉った風の刃を使われてしまったら俺は一瞬にして首をはねられてしまうことだろう。
だけど、風魔は俺を殺すことはしないはず。そんなことをするくらいだったら最初から俺を殺しているだろう。落ちてきた俺を助ける義理なんてないんだから。
俺を殺すつもりならば助けずに放置していればそのまま太陽の光に焼かれて死んでいたのだから。
「そ、それ以上近づいたら本当に斬るぞ!」
後一歩踏み出せば俺はラインを超えてしまう。つまり、風魔が攻撃すると言った範囲に入ってしまうのだ。
斬られるかもしれない、無造作に入って行ったら防御する手段もないし、抵抗する間も無く殺されてしまうかもしれない。
だけど、それが姉貴を諦める理由には成り得ない。
ゆっくりと足を踏み出し、そして俺の足はラインの向こう側へ——
「来るなァッ! 疾風剣《突》」
俺の方向へ向けて両の剣で突く動作をした直後、その剣は俺に一切触れて居ないのだが、俺の腹には何かに突かれたような衝撃が走り、そのまま突き飛ばされてしまった。
あまりの衝撃に一瞬意識を飛ばしそうになってしまったが、なんとか地面に足をつけて倒れることは防ぐ。
確かに高い威力の攻撃ではあったが、これならば天魔の《雷神剣・地》の方が圧倒的に威力は高く、一瞬で意識を刈り取られるため、あれと比べたらまだ耐えられるほど。
それに、紫さんとの地獄の特訓と比べたらこの程度はなんということもない。
ただ、鋭さは無く俺の体はただただ突き飛ばされるだけで済んだが、さっきの地面を考えると本気で俺を切ろうと思ったらこの土手っ腹に風穴をあけることだって可能だった。
食らって見て気がついたが、これは風だ。風魔は風を操って攻撃してきている。
これはあの剣を見て攻撃範囲があの剣の届く距離と考えるのは危ないな。その気になれば風魔は風が届く範囲であればどこにだって攻撃できる。
この島には攻撃範囲が異常な奴しかいないのか?
「僕、来るなって言いましたよね。それを破るというのならば僕は黒葉君と戦わざるを得ません。なので、まだ来るというのならば覚悟してください。この僕、三龍騎士が一人、倉風魔を退けなければいけないということを」
はい!第245話終了
三龍騎士はその名の通り、三人存在します。
そして現在明かされている三龍騎士メンバーは越前力、倉風魔の二人。もう一人存在するのですが、すでに登場済みです。
まぁ、ここまで読んだ方ならわかっていると思いますが。
そうです、風魔が魔導と呼んでいる人物ですね。
そして風魔がついに敵対。
両者ともに戦いたくないと思っているが信念のために戦わなければいけないという最悪の戦い。
黒葉を守るために黒葉と戦う風魔と、レミリアを助けに行くために風魔を退けなければいけない黒葉。
しかし、黒葉は何が何でも風魔とやりあうつもりは無いようです。
果たして黒葉はどうするのか?
咲夜たちのパートはもう少し待ってください。この黒葉VS風魔はそこまで本格的な戦いにするつもりはないので、結構早く終わると思います。
それでは!
さようなら