それでは前回のあらすじ
黒葉の前に現れたのは風魔。
風魔は黒葉を龍の元へ行かせたくない、もうこれ以上犠牲者を出したくないという思いから黒葉と対峙する。
一方、黒葉は風魔とは戦いたくないため、刀を抜くことはせずに敵対せずに突破しようと試みる。
それではどうぞ!
side黒葉
ついに臨戦態勢に入った風魔。全力で俺をこの先に行かせないように食い止める気だ。
風魔は結婚式が終わるまで俺を食い止めることができたら俺が諦めるとでも思っているのだろう。そして、今の突き飛ばし攻撃は牽制で風魔の力を俺に示すには十分すぎるほど。
容易に俺の腹に風穴をあけることができるということを想像できた。
ただ、それは俺が姉貴を諦める理由には成り得ない。それくらいでビビって帰るくらいなら俺はそもそもこんな場所に来ていない。
ここに来た時点で命の危険は覚悟の上だ。死ぬことも覚悟の上だ。
だから、今の攻撃で俺の歩みを止めることなんてできない。
俺は再び歩き始める。刀には決して手を伸ばさない。
あくまでも俺は風魔と敵対なんてしたくないからだ。
「なんで、なんでこっちに来るんですか!」
今度はなぎ払い。
その攻撃も風となって俺に襲いかかり、そのまま胴体に直撃してぶっ飛ばされた。
だが、やっぱり風魔は俺を殺す気なんて無いようで、今の攻撃に関しても鋭さなんて無く、横薙ぎの鈍器にぶん殴られたかのような衝撃だった。
かなり痛いが、耐えられないというほどでも無い。だから足に地面をつけて踏みとどまった。
俺の歩みは止まらない。
攻撃に耐えることができたらまたすぐに歩き始める。
「どうして刀を抜かない! どうして戦わない! 僕が本気で君を殺すつもりになったらいつだって殺せるんだよ!」
「ぐぅっ!」
線を踏み越え、再び風によってぶっ飛ばされる。だが、俺は歩みをやめない。
「絶対に刀は抜かない」
「なんで! 僕は黒葉君にとっては目的を邪魔する敵のはずだ! 戦え!」
「嫌だ! 風魔と俺は敵なんかじゃ無い!」
「僕と黒葉君は紛れもなく敵同士なんだよ!」
風が凄まじい。
さっきまでの刀を振ることによる風ではなく、単純な暴風によって向かい風で俺の進行を拒んで来る。
この風を浴びてわかったことだが、この風には霊力がこもっていない。
能力を使うと少なからず霊力を込めることとなり、霊力の動きというものが感じられるはずだ。とはいえ、俺は霊力感知に関しては全然できないから確証を持つことはできないけど、もしかしてこれは加護だったりするのか?
俺は魔力完治ができないから気がつかなかったけど、鍛治師の人里から帰る道中に師匠から加護は霊力を込めることなく使用できるということを聞いた。
月刃の加護とは違う、汎用性が高そうな加護。
風をまとって刃として飛ばすこともできるし、今みたいに突風を吹かせることだってできるっていうことか。
「すごいな、その加護。もしかして、それがあれば龍を倒せるんじゃないか?」
「無理だ。絶対に無理だ。龍を倒すには魔力炉を破壊しなければダメだ。でも、その魔力炉を守っているのは魔導。あの人に勝てる人なんて存在しないから」
「へぇ、じゃあ師匠たちがその魔導ってやつに勝つことができれば龍を倒せるっていうわけか!」
「ん? ちょっとまて、もしかして君の仲間たちは魔力炉に向かったのか!?」
「あぁ」
「はぁ……」
俺の返答を聞くと風魔は頭を抱えてしまう。
多分魔力炉っていうのはあのドラゴン像のことで、その中に俺もやられかけた魔導っていう奴がいるのだろう。風魔はそいつの厄介さから俺たちの誰かが魔力炉へ向かうということを恐れていたんだろう。
確かに俺はそいつには訳のわからないままやられかけた。未だにどんな能力を持っているのか検討もつかないけど、かなり危険な相手だというのはわかっている。
でも、師匠ならきっと大丈夫だ。あの人ならなんとかしてくれると信じている。
「黒葉君、君の師匠にトラウマだったり怖いものとかってある?」
「え? いや……そんな話は聞いたことがない」
「……」
いったいこの状況で俺は今、何を確認されたんだろうか。
まぁ、今俺が魔導の能力について考えたところで意味はない。魔力炉の方は師匠たちに任せて俺は早く教会へ突入しなければいけないんだ。
この暴風にも慣れて来た。いつも居合一閃をしている脚力を使えばこの向かい風にも抗えなくもない。
だから一歩、また一歩とさらに歩みを進める。
「本当に君たちはバカだよ。自分が死んだら何にもならないのにさ」
いったいどうして風魔はそこまで俺たちを助けようとしてくれるんだろうか。どうして龍たちとは関わらないようにして来るのだろうか。
どうして風魔はそんなに怯えたような表情をしているんだろうか。
あれは龍たちに怯えているような、そんな単純なものではないはずだ。
言うなれば、俺たちを龍に挑ませることによって俺たちが殺されることに怯えているんだ。
俺たちはスカイに来てから初めて出会ったはず。そこまで俺たちを助ける義理なんて風魔にはないはずなんだ。
何が風魔をそうさせている?
「死んだら何にもならないってさっきから言ってるけどさ、風魔にも命をかけてでも守りたい存在っていなかったのか? 戦ったことで自分が死ぬとしても生きていてほしいって思うような相手っていなかったのかよ!」
「何を……言って」
「お前はどうしてそこまでして俺たちを助けようとするんだよ!」
風魔がどうして俺たちを異常なまでに地上へ送り返そうとしているのか。その理由を知りたくて、俺は叫ぶようにして風魔へ問いただした。
side風魔
僕は小さな小さな地図でも目をよく凝らさなければ見えないような小さな人里で生を受けた。
僕には兄弟は居らず、両親との三人家族。だから両親は僕に最大限の愛情を注いでくれた。僕は母さんと父さんのことが本当に好きだった。
母さんはとても優しい人だった。
声を荒げることもしないし、何か悪いことをしてしまったら優しく諭してくれる。でも、ただただ優しいだけではなく、厳しい時は厳しい人で、かっこよくて近隣住民の人たちにも顔が広くて多くの人たちに好かれるような人だった。
僕はそんな母さんのことが大好きで、尊敬していた。
父さんは警察官だった。
悪い妖怪や悪事を働いた人々を捕まえて懲らしめるのが仕事なんだって。かっこいい二振りの剣を背負い、悪人を捕まえたり、人を襲う妖怪を倒す姿は本当に尊敬したし、かっこいいとも思った。
父さんがかんばっているおかげで、この里の平和は守られているんだぞって考えるとまるで自分のことのように誇らしく思えた。
だから僕がこんな夢を抱くというのは必然的なことだった。
「パパ、ママ! 僕ね、僕ね! 大きくなったら警察官になりたい! それでね、パパみたいに悪い人たちをいっぱい捕まえるんだ!」
父さんと母さんは僕のその言葉を聞いて当然目をまん丸に見開いて驚愕した。
それはそうだろう。父さんも母さんも警察官の危険性というのは重々理解している。そんな警察官に我が子がなろうとしているのだから、当然いい顔をする親なんているわけがないだろう。
なにせ、我が子が死地におもむこうとしているのだから。
そして数秒の沈黙の後、母さんは表情を緩めていつも通りの優しい声色で言った。
「ふふふ、風魔なら絶対になれるわよ。ね、あなた」
「あ、あぁ、いやぁ〜照れるな〜」
母さんも父さんも僕の夢を否定するようなことはしなかった。なにせ、父さんも僕と同じように両親に夢を告げ、そして両親の反対を押し切ってまで警察官になったし、母さんは母さんでそんな父さんの元に嫁いで来たんだから、僕の夢を否定するということはできなかったんだろう。
それだけではなく、多分父さんと母さんは僕の夢が何であれ、悪いことじゃなければ否定はしなかったはずだ。
二人はそういう人だったから。
「よし、それじゃあ警察官目指して頑張るか!」
「うんっ!」
それから僕は必死に特訓をした。
現役の警察官である父さんと僕。どっちの方が上であるかは明白で、二振りある剣を裁くのは当時の僕では不可能というものだった。
いつしか僕は父さんの戦い方を真似し、二刀流で戦うようになっていた。
それに僕が元々持っていた疾風の加護を上手く使えば父さんに攻撃を当てられることも増えて来て、僕はこのままもっと強くなっていずれ立派な警察官になるんだって……そう思っていたんだ。
——二年前までは。
「ちょっと考えたんだけどさぁ。君の加護は非常に優良だ、誇るといいよ。だから君は僕らの組織に引き入れることにした。これからは僕のために働いてほしい。あ、もちろん功績が良ければそれだけ対価は出すつもりだ。僕は部下に対しても敬意を払うからね、当然のことさ。君のことを奴隷のような扱いをすることはしないから安心してくれよ。ただ、僕の命令に背いたら、もちろん賢い君のことだ。どうなるかわかっているよね? 僕は君に期待しているんだ。どうか、その期待を裏切らないでくれよ」
跪く僕の目の前で立派な椅子に踏ん反り返っているのは桑間龍。僕が一番憎み、できることならば僕自身の手で殺してしまいたいとすら思っている相手。
妙にヘラヘラとしていて腹立たしい態度。後にわかったことだが、龍があんな態度をするのは自分が相手に負けるはずがない。相手の方が自分より弱いと考えているからだ。
あそこで僕が反旗を翻して攻撃したとしても一瞬で僕を取り押さえることができる自信があった。ムカつくことにその通りなんだけれども。
僕は三龍騎士になった。とは言っても、越前力——コードネーム、全力と
龍は本当に僕を自由に行動させている。
自由に行動することができるのであれば、反旗を翻す準備なんて容易だと普通は思うだろう。でも、ダメなんだ。
僕の元居た人里は龍に襲撃された。目的は人材の略奪、天空都市建設に必要な初期人材を探してのことだったらしい。
父さんは必死に戦った。でも、敗北して僕ら家族三人は捕虜になった。
加護を持っていた僕はなんとか幹部にしてもらうことができて自由になったが、父さんと母さんの二人は今もなお、働き続けている。
僕の抑止力にするためだ。
僕が家族をどれだけ大切にしているか知っている。だから龍は僕が攻撃してくるわけがないと高を括っているのだ。もし僕が攻撃したら両親を殺すと、そう脅しているのだ。
だけど、僕も最初は父さんと母さんを助けたいがために、色々と策を打った。
例えば、外から来た人に助けを求めたり。
——結果は失敗だった。
十回中、魔力炉の破壊に至りそうだったのはたったの二回。しかも、その二回とも魔導が席を外していて、魔力炉の防衛に全力しか居なかった時だ。
魔導が居たらまず間違いなくクリスタルに近づくことすらできない。偶然と奇跡が重ならない限り、魔導を退けてクリスタルへ手が伸びることはないだろう。
僕は絶望した。どんな策を打ったところで、龍の命に迫ることすらできないのだ。
だから僕は助けを求めることをやめた。僕がこうして働いてさえいれば父さんと母さんは僕の抑止力のために活かされるだろうから。
せめてこの島から安全に脱出できる人たちは龍に目をつけられる前に脱出させようと、それが今僕ができる唯一の龍への反抗手段だから。
もう、龍たちにボコボコにされた挙句、その命尽きるまでボロ雑巾のように扱われる人たちを見たくはないと思ったから。
だというのに、黒葉君たちは僕の言うことを全然聞いてくれない。
彼らの大切な人、確か龍がレミリア・スカーレットとか言って居たような気がする。彼女は龍の結婚相手なんだから僕の両親のようにボロボロになるまで働かされるというようなこともないはず。
もう一生会うことはできないだろうけど、黒葉君たち自身が死んでしまうよりはいいだろうに。死んでしまったらもう全てが終わりなんだから。
いや、僕は黒葉君たちにこう言うことを言う資格なんてないのかもしれない。
僕は大概の人たちを帰すことにしているけど、僕は黒葉君たちのことは最初、犠牲にしようと考えていた。
龍に「次にこの島に来る人たちを全員始末することができれば、君を両親に会わせてあげるよ」って。
もう二年も会っていない。だから会いたいと考えてしまったんだ。
でも、僕の感情一つで他の人たちを危険な目に晒すわけにはいかない。特に黒葉君と出会ってからそう強く感じるようになった。
僕と似た境遇だけど、彼らだけは犠牲にしちゃダメだって。僕とは違って彼らはまだ引き返せる位置にいるんだから。
もうすでに何人も自分のために犠牲にしてきている僕だけど、彼らだけは絶対に生きて帰したいと思った。
だというのに——
「風魔にも命をかけてでも守りたい存在っていなかったのか? 戦ったことで自分が死ぬとしても生きていてほしいって思うような相手っていなかったのかよ!」
そんなことを言われたら求めちゃうじゃんか。
もうとっくに父さんと母さんを救うことを諦めた僕だけど、やっぱりまた会いたい、また一緒に暮らしたいって、助けたいって、黒葉君たちに泣きついて「助けて」って叫んじゃうじゃんか。
やめてくれよ。もうやめてくれ。
僕はもう諦めたんだ。だからせめて僕は人様の迷惑にならないために——
「なぁ風魔、お前の将来の夢ってなんだ?」
「こんな時に……なんだよ」
「いいからさ、なんだったんだよ。ちなみにさ、俺は小さい頃鍛治師に憧れていてさ、自分も将来自分で打った刀で戦うんだって思っててさ。まぁ、俺が鍛治師の人里で育ってきたから当たり前なのかもしれなけど。今はその夢からかなり遠ざかっちゃったと思う。天魔組の襲撃に遭って、姉貴に助けられてさ。色々あったよ、色々考え方も、物の見方も変わったよ。それでもやっぱり将来の夢が何かと聞かれたら自分で打った刀で戦うっていうことになるんだ。やっぱり夢っていうのは簡単に捨てきれないものだよな」
「……」
「なぁ、風魔はどうなんだ? 昔、何かなりたいって思っていたものとかないのか?」
「僕……は……っ!」
——パパ、ママ! 僕ね、僕ね! 大きくなったら警察官になりたい!
こんな状態になったから、もうこの夢を追うことはできないと思って諦めていた。龍にいいように使われて、父さんも母さんも守ることができなくて、二人に会わせる顔がなくて、もう光の世界で生きていちゃいけないんだと思っていた。
そんな時に黒葉君たちが現れた。
彼らは暖かくて、眩しくて。彼らを騙すつもりで近づいたというのに気が付いたら黒葉君の雰囲気に絆されていて。複雑に絡み合った僕の心の闇を優しく解いてくれるような、関われば関わるほど僕とは全く違う世界で生きる人で、それがすごく眩しくて、光で。
あぁ、そうか。いつの間にか黒葉君は僕の憧れとなっていたんだ。
僕の憧れていたものがなんだったのか、今ようやく思い出せたよ。僕は警察官になって黒葉君たちのようになりたかったんだ。
僕は今まで楽な方へと流されて行こうとしていた。だって龍に逆らうよりも従った方が辛くないし、父さんも母さんも殺されずに済むから。だから従おうとしていた。
僕だって最初からわかっていたさ。龍に従ったって何もいいことはないって、今回の件だって従ったからといって本当に面会をさせてくれる保証なんてなかったんだから。
でも、分かった上で、分かろうとしていなかった。考えないようにしていた。考えたら辛くなってしまって、怖くて怖くて仕方がなくなってしまうから。
僕は自分のことを可哀想な人だと言って、今までの行いを免罪符にしていた。今回だけじゃないんだ、龍に従っておけば大切な人が傷つくことはないからって、罪もない人の命を龍に捧げていた。
僕がやってきたことは龍がやっているのとなんら変わらないというのに、僕は龍とは違うんだと、それを否定して自分を守っていた。
父さんと母さんを守るためだとか、二人のことを免罪符にして、結局やっていたのは保身だった。
僕は最低だ。クズだ、ゴミだ。僕は——人殺しなんだ。
でも、そうだと分かったとしても黒葉君は僕に優しい表情を向けてくれる。まだ出会って少ししか経っていないのに、敵側である僕へと必死に手を伸ばしてくれる。この手を掴んでこっちに上がって来いと力強い言葉で招いてくれる。
それがとても辛くて、苦しくて、今までの僕の行いが申し訳なくて申し訳なくて、簡単にその手を掴むという行為を拒んでいる自分がいるんだ。
黒葉君はこんな僕でもあそこに上がったら仲間として歓迎してくれることだろう。でも、僕は僕自身がそれを許さない。今までの罪が、僕を地の果てに引きずり込み、離さない。
だから僕はその手を掴むことはできない。これは自分自身への戒めだ。
今まで僕がやってきた罪の清算の時が来たのかもしれない。こんなことで清算しきれる罪だなんて、そんな甘いことは考えていない。
でも、みんなに協力して、スカイの人を解放することができたとしたならば、この荷物をおろしても良いのならば——
「僕は、警察官になりたいです」
答えは最初から決まっていたんだ。
もう迷わない。もう黒葉君が差し出してくれた手を振り払うことはしない。
思い出してしまったんだから。
今日、今ここで全てにケリをつける。
はい!第246話終了
えー、とりあえず風魔編終了です。
短かったですが、ボスじゃないのでこれでいいでしょう。
そして風魔が仲間に加わりました。
初めての加護持ちが明記された仲間キャラクターですね。
この五天魔王編から加護持ちがいっぱい出てくるようになりますよ。
それでは!
さようなら