それでは前回のあらすじ
風魔を説得する黒葉。
風魔はそんな黒葉の言葉を聞き、昔を思い出す。
父と母のこと。昔抱いていた夢のこと。
昔のことを思い出した風魔は黒葉に夢を聞かれ——
それではどうぞ!
side黒葉
「僕は、警察官になりたいです」
崩れ落ち、俯きながらボソッと呟いた風魔。だけど、その声は確実に俺の耳へと届いていた。
瞬間、向かい風が止み、必死に踏ん張っていた俺はバランスを崩して前傾姿勢で倒れかけるが、手を地面につけることでなんとか体制を立て直し、風魔へ駆け寄る。
さっきまでの気迫は無くなっていた。このまま風を出さなければ俺は簡単に風魔の横を通り抜けて教会へ行ってしまう。
でも、俺は風魔の前で立ち止まった。
「どうした、風魔。俺はもうラインを超えたぞ」
「黒葉君……」
俺の言葉を聞き、ゆっくりと顔を上げた風魔。
崩れ落ちた様子から何か悪いことを言ってしまったのか、俺の言葉に何かショックを受けてしまったのかなどと考えたのだが、その心配はなさそうだ。
風魔の顔は何か覚悟が決まったようで、力強い瞳で俺の顔を見上げて来ている。
「黒葉君」
「なんだ?」
「僕、今まで罪を犯して来ました。自分のためにやっちゃいけないことをやって来ました」
「うん」
ボソリボソリと小さく語り出した風魔。
風魔も龍の仲間というポジションだった以上、色々と悪いことをして来たのだろう。それは容易に想像ができた。
今思い返してみると、俺を工場へ案内したのだって俺を工場に幽閉するためだったのかもしれない。
「そんな僕ですが、僕を仲間に入れてくれるでしょうか」
どうして思い直したのかはわからないけど、それでもそのあと俺は風魔に助けられた。
寺子屋のみんなだって助けてくれた。
俺は一度だって風魔のことを敵だなんて思ったことはない。それどころか、何度も助けてくれたんだから俺にとって風魔はとっくに——
「当たり前だ。風魔、お前は俺の仲間だ」
俺の言葉に安心したのか風魔は笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
風魔にはもう戦う意思はないようで、二振りの剣を背中の鞘に仕舞い、そして俺に手を差し出して来た。それが握手だとすぐに気がついた俺も風魔の手を握り返し、握手をする。
「ありがとう。今まで僕は他人に頼りきりだったんだ。でも、それじゃあダメだって分かったから、僕も戦うよ」
風魔の覚悟が垣間見えた。
風魔の闇がなんなのかはわからないけど、どうやらやっと全て吹っ切れたらしい。俺の目を見る風魔の目にはもう迷いがなくなった。
そうだ、俺たちが現状を打破し、最高の未来を目指すためには進むしかないんだ。迷っている暇なんてない。
風魔が一緒に戦ってくれるというのは予想外の助っ人で心強い。本来は俺一人で龍と戦わなければいけないと思っていたから少し心細かったんだけど、風魔がいてくれるなら大丈夫だ。
三龍騎士っていう力と同じ地位に居たんだからそれ相応に実力は買われているんだろう。
「頼りにするから」
「そんなに期待されると胃が痛いんだけど、僕も龍にはキレてるからね。そう簡単にやられる気は無いから安心してよ」
俺たちは必ず龍を打倒し、姉貴とこの島の人たちを助け出してみせる。
sideレミリア
「新婦様、どうぞこちらへ」
「えぇ、ありがとう」
ついにこの日が来てしまった。私と龍が結婚し、紅魔館のみんなとも完全に縁を切る日。
私はこれからどうなってしまうのだろうか。結婚をするということだから殺されたりはしないだろうけど、今までのような平和は絶対に戻ってこないことは確かだ。
真っ白なウエディングドレスに身を包み、自分の姿を鏡で見て、そしてここに来てから何度目だかわからなくなってしまったため息をつく。
今になって色々と思い出しては胸がぎゅっと締め付けられるような思いをする。
唯一の肉親となったフラン、ずっと私に忠義を誓って献身的に仕事をしてくれる咲夜、親友で私が困った時にはいつも相談に乗ってくれるパチェ、ちょっとサボり癖があるけど一生懸命仕事をしてくれる美鈴、そしてうざがらみをする私に構ってくれる義弟、黒葉。
全員私にとっては大切な人たちで、かけがえのない場所だった。
今更後悔したところでもう遅いけど、叶うならば最後にまたみんなの顔を見たかった。
でも、もうそれらが叶うことはないだろう。
失ってしまってからそれがどれだけ大切だったかに気がつくっていうのはよくある話だけど、本当にそうだと実感している。
紅魔館に居たときはみんなが近くにいるのが当たり前で、これからもこんな日々が続くんだろうと思っていたから。
考えれば考えるほどどんどんと気分が落ち込んで行ってしまう。だけど、いつまでもこうしていたって何にも事態は好転しないんだから私も腹をくくって案内人の後をついていく。
何度も何度も運命を確認した。もしかしたら不変の運命じゃなくなっているかもしれないって思って期待して確認した。
だけど、私と龍が結婚するというのは依然として不変の運命で、変化させようと試みたら確実に悪い方向へと向かってしまうため、私は龍に従うことしかできない。
もしかしたら私が抵抗したら紅魔館のみんなに被害が及ぶかもしれないんだから。
不変の運命には逆らわないのが一番いい。事態がよくなることはないけど、悪化するという心配もない。
結局、『運命を操る程度の能力』を持っている私が一番運命に振り回されているのかもしれない。この不変の運命の存在を知らず、能天気に生きることができたらどれだけ良かったことか。
生まれ持ってしまったこの能力を今は疎ましく感じてしまう。
少し歩くとついに式場へ到着。
すでにそこには龍と、多くの参列者が居た。
どうやらここは教会だったらしい。今まで私は部屋から一歩も外に出ることができなかったため、気がつかなかったけど階段を登って来たことから私の部屋は教会の地下に位置する場所だったようだ。
「素晴らしい。やっぱり僕の見立ては間違いじゃなかったよ。君は美しい、まさしく僕の嫁にふさわしい人だ」
ヤケにハイテンションで実に殴り飛ばしたくなる表情をしているけど、殴り飛ばしてしまったら激昂した龍が何をしでかすかわからないからグッとこらえて案内されるがままに龍の隣に立つ。
参列者へ目を向けてみると、ぼーっとそこにいると言った様子で、心ここに在らずと言った様子。まるで自分の意思がないみたい。
いや、多分ないんだろう。私を案内してくれた人もそうだけど、ここに数日居てわかったのはこの島の人たちは何らかの方法で洗脳を受けているということ。
目の奥に光がないというのが証拠だ。本当に趣味が悪い。
これからこんな人と結婚しなければいけないと考えると頭が痛くなってくる。
「みんな! 僕は今日、ここでここに居るレミリア嬢と結婚をする! 今まで僕を支えてくれていたみんな、ありがとう。僕はみんなに感謝するよ! 僕がここまで頑張ってくることができたのはみんなの支え合ってこそのものだからね。そして今日も来てくれたこと、本当に感謝する。素晴らしい結婚式にすることを誓うよ!」
龍の前口上、だけど洗脳を受けて居る彼らには盛り上がると言った感情は全くないため、参列者は誰一人声を上げることはない。
だけど、龍はそんな様子でも満足したように頷いて私へと向き直った。
狂気の沙汰だと思った。
こんな洗脳して人々を支配して何を得ることができるのだろう。何が楽しいのだろう。
なぜちゃんと人々の信頼を勝ち取ろうとしないのだろう。未来を見ることができる彼ならば私よりも容易に人々とコミュニケーションをとることができるはずだというのに。
まぁ、五天魔王はどいつもこいつもこんなものよね。
彼らは誰一人信用していない。自分の支配下に置かなければ気が済まないという人種だもの。
「さぁ、レミリア嬢。僕は君を愛そう。未来永劫、ずっとだ。さぁ、君はどうなんだい? 君の言葉を聞かせてくれ。なぁに、遠慮することはないさ。僕は君のどんな言葉でも受け止めるつもりだよ。どんなに重い愛だって受け止めてみせるさ。だから遠慮せずにレミリア嬢の愛を僕に聞かせてくれ」
なんで私はこんなところでこいつ相手に愛をささやかなければいけないのだろう。私は一体、何をやって居るんだろう。
自分と大切な人たちを守るためとはいえ、私は好きでもない人にこれから愛を伝えようとしている。
それは自分の気持ちを騙しているみたいで、そしてこれを言ったらまるで私じゃなくなってしまうみたいで、気持ち悪くなって来てしまう。
だけど、ここで引き返すことはできない。
私はみんなに酷いことを、思ってもいないことを言ってしまった。
私はみんなのことを大切に思っているし、本当の家族のように思ってる。
でも、その場所を捨てたのは私だから。あとはもう前に進むことしかできない。
本当ならこの言葉は本当に好きになった人に言いたかった言葉だけど、もう仕方がない。
私はゆっくりと口を開く。
「私、レミリア・スカーレットは桑間龍のことをお慕い」
「その結婚式、ちょっと待った!」
私が言葉を紡いでいる最中に声が響き渡った。
同時に扉が勢いよく蹴破られ、そして二つの影が教会内に姿を表した。しかも、そのうちの一つがどうしても見たくて、でも怖くて、謝りたいと思っていた人物。
驚きのあまり声が出てこない。
龍も龍で私の愛の言葉を聞くことができると考えていて浮かれていたのか、二人の接近に気がつくことができなかったようで、驚きのあまり私に笑みを浮かべて固まってしまっていた。
「いっててて、扉って初めて蹴破ったけど、結構足に反動あるもんなんだな」
「だから僕が突き破ると言ったのに」
「違うんだよ。そっちの方が格好つけることができるだろ?」
「それ今重要かなぁ」
今、扉を蹴破って結婚式に乱入して来た二人はこの状況だというのに緊張感というものがなく、二人で会話している。どれだけ今自分がやばいことをしてしまったのか理解できていないようだ。
次第に龍の額には青筋が浮かび上がってくる。
同時に不変の運命が揺らぎ始めた。この不変の運命は絶対に結末が変わることはない、だけど過程はより酷いものへと変化してしまう。
このままだと最悪の結末になる。
だから私は叫んだ。
「黒葉、どうしてここに居るのよ! あの時、私はあなたに家族じゃないと言ったのよ!」
「あ? なんのことだっけ」
「ふざけるのも大概にして!」
「ふざけてなんかないよ。俺こそ言ったよな『俺は必ず姉貴を見つけ出して、そして紅魔館に連れ帰るからな!』って。約束通り、迎えに来たぞ」
本当に来るとは思っていなかった。
ここまで来るのには色々な障害があるし、絶対にたどり着くことはできないって思っていた。それにあんなことを言ってしまったんだからもう探しに来るようなことはしないだろうって思っていたのに。
なんで来ちゃうのよ、おバカ……。
「ねぇ、君たちさぁ。なんの権利があって僕の素晴らしい結婚式に横槍を入れているのかなぁ」
「なんの権利があってってそりゃ、家族を助けに来ただけだけど?」
「レミリア嬢は君たちに家族じゃないってはっきり言ったはずだ。それなのに家族の権利を行使するのかい? それはあまりにも傲慢で自己中心的な考え方だとは思わないのかな? 彼女は助けに来ないでくれって言ったんだよ。その願いを無視して助けに来るって、君さぁ、彼女のことを大切に思っているように見せかけて、実のところ彼女の意思を尊重していないよね、彼女願いを軽視しているよね。ちゃんとレミリア嬢のことを思ってるんだとしたら君は今ここにいないはずさ。彼女はもうとっくに君たちとの縁は切っているんだよ。その意思を尊重せず、軽視するというのならば、それは本当に大切に思っているのか甚だ疑問だね」
「お言葉ですが、俺は姉貴からの絶縁状なんて受け取っていませんので。俺にとっちゃ家族なんですよ。確かに、俺は姉貴の願いを無視した。それは間違いない、だけど大切にしているからこそ俺は姉貴の願いなんか聞かない。独善的だとか、自己中心的だとかなんでもいうといいさ。俺は今から、姉貴の願いを無視して勝手に姉貴を助け出すからさ!」
本当に自己中心的で、私の願いを聞かずに助けに来たことには腹がたつ。ここまで頑張って来たのがこれで無為になるかもしれないのだから。
でも、なぜだかホッとしてしまっている自分がいる。
私は黒葉が助けに来てくれて嬉しいのだ。言葉で否定しようとしても、その事実だけは変わらない。
私は本当は誰かに助けだしてもらいたかったんだ。
「なんて傲慢な考え方なんだ。今まで僕はそこまで愚かな人は見たことがないよ。最低最悪の人だね君たちは。レミリア嬢も迷惑しているはずさ。早く帰って欲しいって思っているはずだよ。僕は優しいからさ、妻の元とはいえ家族に手をあげるのは心苦しいんだ。だからさ、今帰ってくれるっているんなら君たちの狼藉は不問にしてあげるよ」
「へっ、誰が帰るもんか」
「僕はここで逃げたら今までと何も変わらなくなってしまう。変わるって決めたんだ」
「風魔、ついに君は僕に楯突くというんだね。いいよ、わかった。そっちの考えは全部わかったよ。それじゃあ、殺す前に最後に改めて名前だけ聞いておこうか、君たちのような愚か者がいたということは僕の記憶の中にでも保存しておいてあげるよ」
「それじゃあ、遠慮なく。鍛治師の人里出身の紅魔館の執事であり、レミリア・スカーレットの義弟。冬夏黒葉!」
「三龍騎士が一人、倉風魔」
「「嫁さんをいただいていくぜ!」」
はい!第247話終了
久しぶりにガッツリと登場した龍さん。相変わらずですね。
そしてついに始まる龍戦ですが、その前に咲夜パートへ移ります。
果たして黒葉が奮闘したいた頃、咲夜たちはどのようなことをしていたのでしょうか?
それでは!
さようなら