それでは前回のあらすじ
レミリアは不変の運命に抗うことを異常に恐れている。
その事に気がついた黒葉だったが、それをどうやって乗り越えたらいいかがわからない。
とにかく今を乗り切らなければ後のことなんて考えていられない。
黒葉は龍の攻撃に対抗するため、
それではどうぞ!
sideレミリア
突如として冷気が漂い、雪が降る。
まだ真夏だというのに異様な光景で、すぐに能力によるものなのだということがわかった。
そして私はこの能力のことを知っている。
見てみれば黒葉の髪色は真っ白に変化し、瞳は吸い込まれるような碧眼になっていた。
初めて見る姿、だけどどこか懐かしく感じる。
それは、黒葉の中に友人の気配を感じるからだろう。
数年前に突如として紅魔館へ現れ、突如として姿を消した私たちの友人、冬夏白愛。
少し前に私が助けに行くのが遅れたせいで死なせてしまったと思っていた友人の気配が黒葉の中から感じる。
何度も手合わせをしたからわかる。
結局、私は一度も勝つことができなかったけど、あの力に勝とうと試行錯誤を繰り返していたから紅魔館の中では一番あの能力に詳しい自信がある。
だから私が間違えるはずがない。
あれは間違いなく冬夏白愛のものだ。
だけど、それをどうして黒葉が?
「《吹雪》」
黒葉が刀を逆手に持ち、力をためて振り切る。
瞬間、周囲に冷気がドバっと溢れ出し、そして氷の斬撃が放たれて次々とドラゴン頭を切り裂いていく。
――あぁ、間違いない。あれは少しの間だったけど、何度も見て何度も食らってきた白愛の十八番だ。
あの日、私は夜の散歩に出ていた。
お母様はほとんど私自身の手で殺したと言っても過言ではない状況だったし、フランは他人と関わることを恐れて引きこもる。
咲夜たちもお母様が死んでしまってからは数年たった今でもずっと大忙しでてんやわんや。
私も相当メンタルに来ていた。
お母様が死んでしまって突然主になって、責任が一気に私に降り注いできて、プレッシャーで押しつぶされそうだった。
だから私はガス抜きにこうして夜の散歩をするようになっていた。
散歩をしているときはすべてを忘れ、きれいな夜空のみを眺めることができる。
本来なら夜に散歩をするなんて、妖怪も居るし自殺行為にほかならないのだが、私は強いし何よりも妖怪だ。妖怪を食べようとする妖怪なんて聞いたことがない。
だから夜に散歩してもなんにも問題はない。
それに、こういう息抜きの時間もなければ私は壊れてしまうだろうから。
だから今日はいつも通りに散歩をして帰る。そんないつも通りの日々を過ごすつもりだった。
「うぅ……水……」
「……」
女の子が行き倒れていた。
真っ白な髪が月明かりに照らされ、お人形さんのような顔立ち。本当にきれいな女の子だった。
ただ、倒れているせいで体中に土埃がついて汚れてしまっている。
妖怪である私はこういうときどんな反応をしたらいいのだろうか。
見かけたのが私だったから良かったものの、普通の妖怪がこんな姿を見かけてしまったら食われてしまうのがオチだ。
でも、半分だけ妖怪の血を感じる。弱い妖怪には感じ取れないほどで、ほとんど人間と言っても良い気配しか感じないけど、もしかしたらこのおかげで私が見つけるまで死ななかったのかもしれない。
正直、今の私がこの少女を助ける義理なんてものはまったくないんだけど、いつもの散歩コースで野垂れ死なれてしまうと後味が悪くなってしまう。
今後、私はこの散歩コースを通る度に一人の少女を見殺しにしたことに苛まれてしまうかもしれない。
それはちょっと我慢ならない。
私らしくないというのはわかっている。だけど、今後の私の平穏のために私はこの少女を紅魔館に連れ帰って介抱することにした。
近くには刀が落ちていた。だからこそ今の今まで生き残ることができたのだろう。
もしこの少女が万全の状態のときに妖怪である私が近づいたらどうなっていたのか気になるところである。
「お嬢様、この方は……?」
「私の客人よ、丁寧に扱うように」
「御意」
私は少女を客室のベッドに寝かせるといつも通りどこからともなく咲夜が現れたので、適当に客人だから丁寧に扱うように指示をして自室に戻る。
今日は疲れてしまった。
吸血鬼なのにこの時間に寝るのはいかがなものなのだろうかとも思わないでもないけど、最近の私は昼夜逆転して朝起きて夜に寝るようになっている。おかしな話だ。
正直起きていても何もやる気が起きないのだから仕方がないのだけど。
次の日、起きたら見慣れない顔が私の寝顔を覗いていた。
真っ白な雪のような髪を携え、どこまでも引き込まれるような碧眼で私を見つめてきている。
そんな瞳と思わず目があってしまった。
「あ、起きたっ!?」
私は咄嗟にグングニルを振り抜いていた。
そう、このときの私は自分がこの少女を助けたということを忘れ、とにかく知らない顔が自分の寝顔を覗いてきていたのだから警戒しても仕方がないだろう。
だが、私はこのときのことを一生忘れないだろう。
私の不意をついたグングニルの薙ぎ払いがいつ抜き払ったのか、少女の持つ刀に受け止められてしまったのだから。
「危ない危ない……驚かせちゃってごめんね」
本来は私が謝るべきだっただろうに、私は呆気にくれてしまい、少女に謝らせてしまう結果となってしまった。
少女は冬夏白愛と名乗った。
とある人物を探して旅をしている最中、飲水を切らしてしまい、あんな森の中で行き倒れてしまっていたのだとか。
本人は笑いながら話していたけど、笑い事ではない。
最初にグングニルを止められたときから気づいてはいたが、彼女はすごく強かった。
襲いかかってきた妖怪を私の目でも見えないほどの速度で切り捨ててたし、私が手合わせを挑んだとしても一度だって勝つことはできなかった。
どうしても彼女に勝ちたい。そして強くなりたい。
強くなることさえできればもうお母様を失ったときのようなことはもう無くなるだろうから。もう誰も失わないためにもっと強くなりたい。
そんな一心で私はこんな提案をしていた。
「ねぇ、あなたの目的が達成できるまでここを拠点にしない?」
「え、いいの?」
「えぇ、もちろんあなたが良ければだけど」
「いやいや、それはこっちのセリフなんだけど……でもお言葉に甘えちゃおうかな」
そうして彼女は紅魔館を拠点にしてある男、銀河天魔を探すようになっていった。
彼女が帰ってきてからは毎日手合わせをしてもらい、その度に敗北して次の作戦を練り直す。
彼女が紅魔館を拠点にしていた二年間はそれが私の日課になっていた。
でも、終ぞ私が白愛に勝つことはできなかった。
ある日突然、天魔を見つけたと言って出ていったっきり、紅魔館に返ってくることはなかった。
あれほど強かった白愛が簡単に敗北するとは考えられなかったんだけど、その後一年間は白愛は死んだものだと思うしかなかった。
そして事件の日、魔理沙が私に助けを求めてきた。
どうして私に助けを求めに来たのかはわからないけど、最近は魔理沙も色々と忙しそうだったから、それを了承することにした。
結局、私は間に合わなくて白愛を助けることができなかった。白愛を弟である黒葉の前で死なせてしまった。
私は結局誰も助けることができない。
黒葉は変えられない運命なんて無いって言うけど、不変の運命は絶対に変えられないんだから。これは絶対だから。
これは例外なんて――
『変えられない運命なんてものは無いと思うよ』
例外なんて――
『運命に縛られている人生って面白くないよ』
例外――
『未来は自分で切り開くものだから』
………………
『私は抗うよ。絶対に』
例外は――居た。
人里を襲う大量の妖怪を白愛が一人で対処しにいったとき、彼女には不変の死の運命が見えていた。
だというのに、彼女はぼろぼろになりつつも、一人きりで人里を守りきり、生きて帰ってきたから生きてきて一番驚いたということを今でも覚えている。
そしてそんな弟の黒葉もそう。
黒葉にもゲンが襲ってきたとき、不変の死の運命が見えていたというのに、息を吹き返した。
あれは間違いなく死んでいたから不変の死の運命に抗ったというのはちょっと違うかもしれないけど、それでも黒葉が生き残ったというのは確かだ。
今まで不変の死の運命を変えて生き残ってきたのはこの二人だけ。
黒葉の白愛のような姿を見て今、思い出した。
この姉弟なら、冬夏黒葉ならもう一度奇跡を起こせるのかもしれない。もう一度奇跡を夢見ても良いのかもしれない。
でも、どうしても不変の運命を変えようとすると足がすくんで動けなくなってしまう。
黒葉たちが私を助けたいと思うように私も黒葉たちのことが大切なんだから。
はい!第259話終了
本当はですね、今回の話と次の話ってまとめてしまってたんですけど、合わせると9000文字になって過去一長くなってしまうんですよね。
なので、流石に分けました。
今回が3000文字ちょっとなので、次の話は約6000文字あるわけです。
龍との掛け合いを書いていたらめちゃくちゃ長くなっちゃいました。
というわけで、次回に続きます。
それでは!
さようなら