それでは前回のあらすじ
螺旋階段を上る咲夜はなぞの空間に迷い込んでしまう。
まるでサーカスのような雰囲気の場所に苦戦。
必死に登り続けるが、熱気によって体力がどんどん奪われてしまう。
咲夜の体力も限界が迫ってきており、咲夜は無事に由麻の元へたどり着くことが出来るのか?
それではどうぞ!
私は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜。
今までどんな仕事も完璧にこなして来た。そして今日も、お嬢様を狙う不届きなやつを掃除する仕事がある。
まだこんな所でくたばってる場合じゃない。今日も完璧に仕事をこなして完璧なメイド長を演じる。
早く、早く、掃除しないと。
お嬢様の役に立たないと。
だけど段々熱さと炎による二酸化炭素中毒で意識が朦朧としてくる。
階段を上り、障害物を突破する。だけど、最初の勢いは全くなくなっていて、ゆっくりとしたペースでしか上れなくなっていた。
多分私が上る速度よりも階段が崩れてしまう速度のほうが速いようにも思える。
このままじゃ私は奈落の底へと落ちてしまう。そうしたら龍や由麻の思う壺。みんな頑張ってくれているのに、あのクリスタルを破壊できないからみんなも勝つことが出来ない。
私が勝たないと……
『どうしたの? 上り始めてまだ五分も経過してないよ。もうバテてきたの? やっぱりお姉さんも僕には勝てなかったかぁ。でも、自分を責めることはないよ。僕に勝てないのは当たり前、普通のことなんだからさ、僕に勝てなかったからと言って落ち込むことはないよ。って、死んだら落ち込むも何も無いよね。ごめ〜ん』
さっきから頭に響くうざい声も気にならないくらいに体調が酷い。
走れないし、周りにだんだん注意を向けることができなくなってきている。なんとか《ザ・ワールド》のお陰で耐え忍んでいるけど、それもいつまで持つかどうか。
お嬢様、私は本当に紅魔館のメイド長をやれていたでしょうか。
私はお嬢様の役に立てていたでしょうか。
お嬢様、私はお嬢様の隣に居ても良かったでしょうか。
お嬢様……お嬢様……お嬢様……。
私は……私は……私は……。
「っ」
ついに身体を突然の浮遊感が襲った。
崩れていた階段がついに私に追いつき、私の足を奈落の底へと誘う。
だけど、なんとか踏ん張って次の階段に飛び移ることで耐え凌ぎ、力を振り絞って再びダッシュを始める。
落ちたら私は私で居られなくなってしまう。完璧なメイド長じゃ居られなくなる。お嬢様の隣にいる資格を失ってしまう。
お嬢様、私は私は私は……私はずっとあなたの側に――
『咲夜、あなたはもうクビよ。もう出ていってちょうだい。あなたはメイド長としての仕事を充分にこなすことが出来なかったのよ。そんな仕事の出来ないあなたなんて要らないから。もう、私に顔を見せないでもらえるかしら』
「お、お嬢様? 待って、待ってくださいお嬢様」
一方的に私に別れを告げて去ろうとするお嬢様。
そんなお嬢様に必死に手を伸ばして許しを請うけど、その手は絶対にお嬢様を掴むことは出来ずに空を掴むのみ。
そうだ、私は由麻に負けた。
私は完璧で、完全なメイドでなければならないのに。それだけが私の存在意義だと言うのに……。
私はその仕事を……こなせなかった。
☆☆☆☆☆
冬の寒い寒い日のことだった。
私は気がついたら雪の上でボロボロの毛布に身を包みながら路上でぼぉーっと周囲を眺めていた。
生きようとも思っていなかったと思う。多分、目も死んでいて、何を考えることも出来ない状態だった。
幼くして両親に捨てられた。そのことも認識することすら出来なかった。
あまりに衝撃的な出来事過ぎて私の思考は停止してしまったのだろう。でも、そんな状況だから漠然と「あぁ、私死ぬんだな」って、そう思っていた。
このまま誰にも助けてもらえなかったら私はここで凍死することだろう。
でも、それは仕方がないことなんだ。
私は無能で不気味。生まれつき時間を止めることが出来た私はお母さんをびっくりさせたくて子供心でただのイタズラのつもりで時間を止めてお母さんの前に出た。
お母さんは笑ってくれる、褒めてくれる。そう思っていたのに、お母さんから発せられた声は悲鳴、気持ち悪い、不気味、怖いといった言葉だらけ。
その時私は初めて何かを間違えてしまったんだと気がついた。
それから私は両親に虐められるようになって、こんなに不気味な私は売ってしまおうと考えたらしい両親は人売に交渉したけど、私みたいなのは何をしでかすかわからないからって、買ってもらえなかったみたい。
だから私は捨てられた。
時を止めて追いかけることも出来たけど、私にはそんな気力は残されていなかった。ただ、この場を去っていく両親の冷たい瞳を見つめることしか出来なかった。
どんどん冷たくなっていく身体、どんどん凍結していく思考、どんどん遠のいていく意識。
あぁ、私はここで死ぬんだと、そう覚悟を決めて意識を手放した。
だけど、結局死ぬことはなかった。
「目が覚めたのね。待ってて、今温かい紅茶を出してあげるわ」
目が覚めた時に隣りにいたのは大きな羽が生えた紫色の衣服に身をまとった少女、私よりも少し大きいくらいに見えるくらいの彼女は優しい笑みを見せ、私の為に紅茶を淹れてくれた。
その時の紅茶の味は今でも忘れられない。
多分、今の私が淹れたほうが美味しい紅茶を出すことが出来るだろうけど、でも私にとってはこの時にレミリアお嬢様が淹れてくれた紅茶はその後に飲んだどんな紅茶よりも美味しいと思った。
涙が出てきた。だから、レミリアお嬢様を心配させてしまったと思う。
悲しかったわけじゃない。ただ、暖かかったんだ。
温かい室内、温かい紅茶、人の温もり。
もう死ぬしか無いんだと思っていた私にとってはどれも贅沢のように思えて、そして何よりも感動した。
どうせ私は売りに出されてしまったのだ。ならば、私はレミリアお嬢様のような人のところで働きたいと心の底から願うようになった。
体調が復活するまでは屋敷に居ても良いって言われたから三日三晩レミリアお嬢様の後をついて回ってどうにか仕えさせてもらえないか懇願した。
でも、その頃のレミリアお嬢様は紅魔館をリリルカ様から貰って住んでは居たものの、そこで働いているのはリリルカ様の従者で、レミリアお嬢様個人では雇う予定なんかはまだ立てていなくて、ちょっと困らせてしまった。
だけど、私の懇願に折れてくれたのか、ついにレミリアお嬢様が私を従者として迎え入れてくれることになった。
レミリアお嬢様にとって初めての従者。そしてそれを皮切りに私の部下としてたくさんの妖精メイドたちを雇うようになった。
レミリアお嬢様は私たち従者のことをまるで本当の家族のように接してくれる。
その温かみは私が拾われたあの時からずっと変わらない。ずっと私が大好きなレミリアお嬢様のままだ。
走るも、足場がついに崩れ落ち、私の身体は重力にしたがって奈落の底へと落下を始める。
『咲夜、あなたはクビよ』
脳内で何度も繰り返すこの言葉。
私はお嬢様に見捨てられることを何よりも恐れているんだ。何よりも怖いんだ。
また一人ぼっちになるのは……怖いんだ。だから、それを考えると足がすくんで動けなくなる。
でも、記憶の中のお嬢様は太陽よりも眩しく、暖かかった。紅魔館全体を暖かく包みこんでくれるような、私たちにとっての太陽。
そうだ、だから今私が見た私を見捨てるお嬢様は
そういうことか、分かった。
ムカつくムカつくムカつく。
そうだ、そうだ、そうだ。
「私のお嬢様が、そんな事言うわけない!」
思い出を、お嬢様を、汚したお前の罪、死を持っても償うことは出来ない。
絶対に絶対に、許さない。
「私と、お嬢様の思い出に勝手に介入してくるなぁぁぁぁぁ!」
ナイフで空を切り裂く。
すると、視界がぐらりと揺らぎ、まるでガラスが破壊されたかのようにバリバリと世界が崩壊し、私の視界は螺旋階段を上り始める前の場所に戻った。
「どういう、こと?」
上を見上げる。
さっきまで私はサーカス空間の中で必死に上を目指して走っていたはずだと言うのに、私は入口から一歩踏み出しただけの場所で止まっていた。
でも今は見上げても何も無い。サーカスのさの字もない。
どうやら私はやられたらしい。
チルノたちの話を聞いて分かっていたはずなのに私は由麻の術中にハマってしまったようだ。
今私が見ていた世界、そしてお嬢様の姿は全て幻、由麻が作り出した幻覚。だけど、多分あの世界で死んだら本当に死ぬんだと思う。
きっとショック死かなにかになるんだろう。それでなくともあれは人の精神を軽々しく破壊できるほどのおぞましいものだった。
私も後ちょっと気がつくのが遅かったらどうなっていたかわからない。現に、精神が崩壊しかけていたから。
でも、もう大丈夫。
私は迷わない。お嬢様が私たちを拒絶するはずがない。
絶対にお嬢様を助けて見せる。
その覚悟を胸に、私は再び螺旋階段を上り始めるのだった。
はい!第266話終了
今回は名前回でした。
咲夜の過去は公式のものではなく捏造ですね。
ただ、咲夜がどれほどレミリアを慕っているのかがよく分かるんじゃないかと。
咲夜が恐慌状態に陥っていた理由はチルノたちと同じ、由麻の能力による影響ですね。
あのままだと危うく咲夜は由麻に会うこと無くやられてしまうところでした。
さて、咲夜は由麻を倒し、クリスタルを破壊することが出来るのでしょうか?
それでは!
さようなら