それでは前回のあらすじ
天音の声が島中に響く。
その声は聞く人の心に直接触れ、そして心を溶かしていくような、そんな声だった。
天音のカウンセリング。それはついに住民たちの心に響き、動かす。
洗脳が解けたのだ。
そして始まる、ここから奇跡が!
それではどうぞ!
side三人称
突如として由麻の目の前にスキマが展開された。
そのことに由麻が気が付いた時にはすでに由麻の首元へ刀の切っ先が迫ってきていた。だが、由麻はとっさに自分の首と刀の間に鎌の柄を挟むことによって何とか首を防御した。
一瞬でも遅ければ由麻はその刀によって首を掻っ切られて勝負が決していた。
「誰だよっ」
「初めまして、ですね。私は魂魄妖夢、あなたの首をもらいに来ました!」
刀で押し込むことができないと知るや否や、妖夢は蹴りに切り替え、由麻の軽い体を真横へ蹴り飛ばした。
だが、空中で体勢を立て直した由麻は地面に鎌を突き立て、踏みとどまる。
由麻は動揺していた。
自分の自信のある能力が破られ、その上でさらなる刺客。由麻の考えていたプランがすべて崩れたどころの話じゃない。
フランは動けないとして、咲夜と妖夢、この二人が連携して攻撃をしてくるのなら、由麻も危ない。
由麻は初めて敗北というものがすぐ目の前まで迫ってきて、命の危機を感じていた。
由麻をここまで追い詰めた人は今までいなかった。
由麻の能力は『精神を操る程度の能力』。相手に幻影を見せることによって相手の精神を操り、行動不能に、場合によっては発狂死させることだって可能な初見殺し能力。
この能力によって今まで何人もの人が由麻の前に散っていった。
だが、この能力を乗り越えた咲夜には通用しないし、フランに使ったとしても簡単に破壊されてしまうことだろう。
そのうえ、ここには自分が招いたさっきまで洗脳して自分の味方だったはずのチルノたちも存在している。
多勢に無勢。
由麻の能力は効果が知られていないからこそ、効果がある物だ。そして、この戦いの最中に悠長に洗脳している時間なんて与えられるはずもない。
つい数分前までは咲夜の方が絶望的な状況だったはずなのに、今は由麻が冷や汗をかく事態になっていた。
「妖夢、なんでここに?」
「私、黒葉君から助けを求められたんです。どうか、レミリアさんを助ける手助けをしてほしいって……」
黒葉は今日この日までずっと妖夢の使えている白玉楼にお邪魔していた。
「私、困ってしまいまして、幽々子様のお世話もしなければいけないですし、白玉楼での仕事もいっぱいあったので。だけど、どうしてもと言われたので、私は条件を出したんです」
「え、レミリアさんを助けてほしい?」
「はい、妖夢さんの力があれば、必ず姉貴を助けることができると思うんです」
紫に助けられてすぐ、紫に頼んだのは妖夢の元へ連れて行ってほしいということだった。
妖夢は現在、旅行から帰省して白玉楼にて庭師として仕事をしていた。その上、大喰らいの妖夢の主である幽々子の食事の用意など、いろいろな仕事があるため、バタバタと動き回っているところに黒葉が来たのだ。
妖夢もまさかこんな場所に黒葉が来るとは思っていなかったため、最初は黒葉が死んだのかと思った。
何せ白玉楼のあるここは冥界、死んだ者が魂だけとなって迷い込む場所のため、黒葉が死んでしまったのかと考えてしまったが、それは違った。
紫のスキマはどこへだってつなげることができる。それはこの冥界でも例外ではない。
そのため、妖夢に助けを求めるために黒葉は生きながら冥界に足を踏み入れたのだ。
妖夢にも情というものがある。
特に黒葉は自分の弟子のようなもので、できることならばお願いはなんでも聞いてあげたいくらいには思っている。
だが、気がかりな点がある。
それは、妖夢の主である西行寺幽々子のことだ。
前回の旅行の時は妖夢は旅行前に仕事を前倒しで終わらせて、休暇を無理やり作り出した。だが、今回のは違う。
あまりにも急すぎる。
今から仕事を前倒しにして時間を作り出そうにも、前回もやった大喰らいの幽々子の食事作り置きが全然できない。
その上、妖夢には料理以外にもいろいろやらなければいけない仕事がある。
それらを作戦決行のその日までにすべてを前倒しにして終わらせる、それはかなり無理がある状況だった。
普段の仕事をしつつ、丸一日空ける。
「ごめんなさい、本当はお助けしたいところなのですが、仕事が立て込んでおりまして……」
それはどうしようもない事だった。
黒葉もこれに関してはダメもとだった。そもそも突然押しかけているのだ、都合によっては無理なのだと理解はしていた。
理解はしていたけども、黒葉も一大事、そう簡単に割り切って諦められるものでもない。
「本当にお願いします……ここで負けたら、俺たちはもう二度と姉貴に会えないかもしれないんです……」
妖夢の心が揺れる。
黒葉は弟子だし、咲夜のことは友達だと思っている。だから、妖夢としても助けに行きたいのはやまやまだが、主をないがしろにするわけにはいかない。
そこへ一人の人物がやってきた。
「妖夢、行ってあげなさい」
「ゆ、幽々子様!?」
そう、この白玉楼の主、西行寺幽々子だ。
「話は紫から聞いたわよ、なにそこで迷っているのよ」
黒葉が必死に妖夢を説得しようとしている間、紫は一人幽々子の元へ向かって事情説明を行っていた。
どうせ妖夢のことだから幽々子のことを放っておいて黒葉の願いにこたえるって言うことはできないだろうからとの判断だった。
「で、でも、それだと幽々子様のお食事が……」
「何くだらないことを考えているのよ。私の食事よりも、まずはお友達でしょ? ただの喧嘩の仲裁とはわけが違うのよ、友達の大切な人の命がかかってるのよ。それなのに、私の食事なんて作っている場合じゃないでしょ!?」
「……それはそうですが、幽々子様、おひとりでお食事の用意はできますか?」
「…………」
「お庭のお手入れは?」
「…………」
妖夢の問いに幽々子は目をそらすだけだった。それが答えだ。
その幽々子の反応に頭を抱えてしまった妖夢だが、すぐに切り替えて幽々子が行けと指示をするのなら黒葉のことを助けようと考えた。
そのための最善策。
仕事を前倒しして、レミリアを助けに行くための最善策。
「わかりました。黒葉君、レミリアさんを助けに行きましょう。その代わり、条件があります」
「それは?」
「作戦決行までの間、黒葉君も白玉楼の仕事を手伝って、仕事を前倒しできるように協力してください。私が黒葉君に協力するんですから、できないとは言わないですよね?」
その時の妖夢の眼は怖かった。
黒葉は最初から妖夢に助けてもらえるなら何でもするつもりだったため、断るつもりはなかったが、昼間は白玉楼の手伝い、夜は紫のスパルタ訓練で、ちょっと後悔した気持ちが無いというと嘘になってしまう黒葉なのだった。
はい!第283話終了
黒葉が地獄だと言っていた理由がついに判明しましたね。
妖夢の手伝いと特訓を両方やってたらそりゃ体ぶっ壊れそうになりますよ。
それでは!
さようなら