という事でミズヤ9周年記念第3弾。ラストですね。
それでは前回のあらすじ
気を失い、明らかに雰囲気が変わった妖夢。
さっきまでとはスピードも動きもまるで別人のようになり、無駄な動きが完全にそぎ落とされて洗練されている。
そう、妖夢は気を失うことによって実力の底上げに成功し、至高の領域に到達したのだ。
今、由麻の気分は蛇に睨まれた蛙のようだろう。
それではどうぞ!
side咲夜
その動きはまるで舞っているようだった。
次々に襲い掛かってくる炎の斬撃を全て両手に構えた二振りの刀で切り捨てる。意識がないとは思えないほどの動き。
しかも、時々何もないところを攻撃していることから、おそらく今の妖夢は普通の見えない風の斬撃すらどこから来るのかが分かっているのだろう。
まるで未来が見えているようだ。お嬢様の戦いを見ているかのような気分になってくる。
それに加えて《
「た、確かにすごい防御力だね。だけど、守っていてばかりじゃ私を倒すことなんてできないんだよ!」
妖夢が攻撃を防いでばかり居ると、調子に乗り始めた由麻。だけど、あの様子を見るに今の妖夢はきっと――
「ひぅっ!?」
閃光が瞬いた。
次の瞬間、妖夢の姿は由麻の眼の前に存在しており、由麻の鎌と刀をぶつけ合っていた。
いや、ぶつけ合っていたというよりも、首を切り落とそうと刀を振るった妖夢に対して咄嗟に由麻が鎌を合わせたということなのだろう。
凄まじい速度。
だけど、どれだけ速くてもあの鎌に触れた瞬間に攻撃力を殺されてしまうから無意味と化してしまう。
さっきまでの妖夢だったらここからどうするかプランを組み立てるために少しの間由麻とお試合をしていたはず。
だけど、今の妖夢は違った。
「ぐえっ」
由麻の胴体を足裏で蹴り飛ばしたのだ。
それによってバランスを崩した由麻。そこを妖夢の刀が再び狙う。
それはまるで光線だった。
三日月を描くかのように振り上げられた刀はバランスを崩して無防備になった由麻へと襲いかかった。
カランっ。
軽い物が落ちたような音が部屋内に響き渡る。
それと同時に耳をつんざくような叫び声が轟いた。鼓膜がイカれてしまうんじゃないかと思うほどの大音量に思わず私は耳を手で抑える。
「さ、咲夜っ」
「妹様? …………っ!」
先に妹様が状況に気がついた。
妹様が指を指した方向へと視線を向けてみると、そこにはさっきまで由麻が持っていたはずの鎌と人間の手が転がっていた。
そして由麻へ弾かれるように視線を向けてみると、手首から先がなくなった腕を押さえ、苦しみに叫び散らかす由麻の姿がそこにあった。
妖夢が……斬った!?
「て、てが、僕の手がぁぁぁぁぁっ!」
しゃがみ込む由麻を見下ろす妖夢。その姿からはまるで暗殺者の如き冷徹さを感じた。
もしあの刃が私たちの方へと向いていたらどうなっていたのだろうかと。考えただけで恐ろしくなってしまう。
「おわり…………」
静かにその宣言をすると妖夢は刀を振り上げ、そのまま由麻へと振り下ろした――だが、その刀が由麻へと直撃することはなかった。
刀が直撃したと思われたその瞬間、まるで煙のようにふわぁっとその姿が霧散してしまったのだ。
まさか、幻覚だったのかとも思ったけど、さっき聞こえた叫び声とあの手、鎌は本物だろう。どういうこと?
「はぁ……はぁ……もう許さないからね! 僕の手を良くも斬ってくれたね! ちょっとは僕の情けで君たちでも勝てるようにしてあげていたけどさ、僕も負けるわけには行かないから! これをずるだとか言わないでよ!」
由麻の声が聞こえた次の瞬間、部屋内のいたるところに由麻が出現し、そのそれぞれが
まさか、あれ一人一人が由麻と同じ能力を持っているというわけじゃないわよね!?
「《
こいつら全てが実物で本物と同じ力を秘めているですって!? そんなの冗談じゃない。
それに、本当に本物がどこに居るかが分からない。分身は全て傷が無いから本物との見分けは付くはずなのに、どこにもその本物の姿が見えない。
由麻の本物を倒さないとこの幻覚は消えないし、クリスタルを破壊することも叶わないっていうのにっ!
「君たちは最初っから僕の部屋に来た時点で負けてるんだよぉっ!」
複数の由麻が妖夢を取り囲み、そして取り押さえた。流石に今の妖夢でもこれほど大量の由麻に囲まれていてはどうしようもなかったらしい。
その手から刀を落としてしまった。
どうやらあの分身にも『愛玩の加護』が適応されているようだ。
そして同じようにチルノたちも取り押さえられている。
残っているのは私と妹様のみ。
「これは厳しいわね」
時を止めたとしても本物同様、こいつらには効かないだろうし、妹様は動けなくなってしまうんだからより危険にさらしてしまうから、能力を使って逃げることも出来ない。
「ねぇ、咲夜。私に考えがあるんだけど」
「妹様、それは本当ですか?」
「うん、敵は姿を眩ませて見えなくしてしまった。だけど、能力がここに留まっている以上、本体はこの場から離れていないはずなんだよ。だから、とりあえずこの辺全てをぶっ壊してしまえば敵を倒せるんじゃないかな?」
妹様が言っていることは正しい。それが出来ればまず確実に由麻を倒すことが出来るし、ついでにクリスタルも破壊することが出来る。
だけど、一つ問題がある。
「ですが、妹様。そんな事可能なのでしょうか?」
そんなことは出来ないということだ。
妹様がフルで能力を使ったとしても、一瞬でここら一帯を全て破壊するっていうことはまず間違いなく不可能。
その上、分身由麻に触れられたらアウトの状況で、そんな由麻に攻撃が当たるまで攻撃を無差別にし続けるなんていう悠長なことは出来ない。
「さっきの妖夢の戦いを見ていて思ったんだ。今の妖夢ならきっと私たちの力を上手く使いこなしてくれるって」
「それって……っ」
「黒葉の刀、『吹雪』だったっけ? あれには確か力が籠もっていたでしょ? だから私たちも似たようなことをするの」
黒葉の刀は白愛様の能力を上げるために雪系の能力を発動した時、その出力を上げる。そして、雪系の能力を使った時、刀の耐久度も底上げされるといった力が付与されていた。
あれは職人が魂を込めて打ったことで込められた力だったはず。それを今から妖夢の刀に人為的に力を込めようと妹様は言っているの?
確かに黒葉は能力を刀に付与して戦っている。だけど、それは常に黒葉は刀を握っているから出来ることであって、通常そんな事しても刀に能力を付与することなんて出来ない。保てない。
「咲夜……後から合流して図々しいって思うかもしれない……だけど、私の考えに賭けてみてくれないかな?」
「……何をおっしゃいますか。私が妹様の意見に対して図々しいなどと思うことはございませんよ。確かに、不安要素はいっぱいあります。だけど、今出来ることがそれくらいしか無いのでしたら、それを全力でやるだけですね」
「うんっ!」
そのためにもとりあえず私たちに向かってきている由麻たちを蹴散らさないと。
「禁忌《フォーオブアカインド》、禁忌《レーヴァテイン》」
「妹様?」
「分身には分身で対応だよ。もう
妹様が生み出した分身は私たちへ襲いかかろうとする分身由麻を食い止める。
妹様がせっかく頑張ってくれているのだ。ならば、私もそれに見合う働きをしなければならない。
だから私は妖夢が落とした刀に駆け寄り、刀を二振りとも回収。その間に妹様は妖夢へと駆け寄ると、妖夢にしがみついている由麻たちを蹴散らす。
どうやらあの分身たちは本体ほど頭のできが良くないようで、妖夢を取り押さえると設定された分身は妹様が近寄っても無反応だった。
「今更刀を手にとってどうするの? 僕の姿は見えないんだよ? どうやって僕を攻撃するのさ」
「今から見せてあげるわ。私たちの奇跡を」
「うん、いっくよぉ〜っ!」
私と妹様は刀を一振りずつ手に取り、刀に能力を込めていく。
早くしないと再び由麻が生み出されて襲いかかってくる。その前になんとか終わらせないと――
「残念、無駄な努力ご苦労さま!」
「っ、もう!?」
由麻が出てくるのはすぐだった。
生み出されて瞬時に私たちへと駆けてくる由麻。今この状態で触れられたりなんかしたら私たちの計画は何もかもおしまいだ。
早く……早く……早く……早く……早く……。
「ありがとう」
由麻に手を触れられるその直前の出来事だった。
妖夢が静かにその言葉をこぼすと、私たちに触れようとしていた由麻が一瞬にして切り刻まれてしまった。
直ぐにそれは妖夢がやったのだと理解した。私たちの手からは刀が消え、その代わりに妖夢の手にさっきまで私と妹様が握っていた刀が握られている。
片方には赤色のオーラが、もう片方には銀色のオーラが纏われている。あれが私と妹様が能力を込めた証。
「っ!」
妹様と一瞬目を合わせると私たちはチルノたちを回収。
そして妹様が壁を破壊したことによって外の景色が見えた。
こんな場所に居たら私たちまで巻き込まれてしまう。だから、緊急脱出だ。
私たちの考えが正しければ、あとはもう妖夢だけで充分なはず。だから、後は任せたわよ、妖夢。
「ま、待て! 僕はこの場から逃げることは許可してないぞ!」
「あなたの許可が必要な理由が分からないわ。とにかく、宣言しておくわ。私たちの勝ちよ」
「はぁっ!?」
私と妹様はチルノたちを抱え、妹様が開けた穴から飛び出す。かなり高い場所から飛び降りることになってしまったが、着地できるくらいの身体強化分の霊力は残しているし、妹様は空を飛ぶことが出来る。
だから問題ない。
その直後、背後から声が聞こえてきた。
「じゃあね。
まず空気が破壊されたような気がした。それに続くように壁、機器なども次々と切り刻まれ、破壊されていく。
空気が渦を巻く。
妖夢が回転しながら周囲に斬撃を放ち、周囲のもの全てを破壊し尽くしているのだ。
赤と銀が混ざったような竜巻が背後に出現し、私と妹様はそのあまりの風圧に吹き飛ばされる。
最後に背後へ振り返って像の様子を見てみると、その巨大竜巻によって像が跡形もなく消し飛ばされていくのが見えた。
そして最後まで残り続けていた竜巻の中心に見えていた光る物体――クリスタルが消滅したのが見えた。
つまり、本当に妖夢はやってのけたのだ。私たちの能力を使い、由麻を撃破してクリスタルすらも破壊してしまうという偉業を。
やった、やった、やった。
ついに私たちはやったのだ。
「咲夜!」
「はい、妹様。私たちの勝利です!」
『ぃやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
私たちに担がれながら歓喜の声を上げるチルノたち。
あれが、あの竜巻こそが、龍へと王手をかけた一撃。私たちの奇跡の集合体。
ポケットに入れていた早苗から貰ったお守りを取り出す。
「早苗……奇跡、起こったわよ」
【龍陣営VSレジスタンス
天空都市スカイ、魔力炉の戦い
勝者、十六夜咲夜、フランドール・スカーレット、魂魄妖夢】
はい!第297話終了
ついに由麻撃破。そしてクリスタル破壊!
残すはあと龍のみです。
といってもクリスタルが破壊されたので、スカイはその形を保てなくなるかと思いますが。
さて、一番の山場を超えました。
さぁ、最後の奇跡を起こしてしまえ、黒葉、レミリア!
それでは!
さようなら