それでは前回のあらすじ
レミリアがやられた。
それによって黒葉一人で龍と戦うことになってしまったが、黒葉はもう体力の限界で体が動かない。
そんな黒葉に龍が猛ラッシュ。
ついにとどめを刺されそうになって大ピンチに。その時、黒葉を殴ろうとした龍の腕がグングニルによって切り飛ばされた。
それではどうぞ!
sideレミリア
落ちる……落ちる……落ちる。
未来が見えない状態で戦うというのはこれほどまでに辛いことなのか。未来がこれほど見えないという状況は霊夢との戦い以来。
というよりも、霊夢に関しては強すぎてすべての行動が不変の未来になってしまうから、見えてはいるのだけど、回避不可能ということで未来が見えないと表現した。
未来が見えない状態でどうにか黒葉には見栄を張ろうとして戦った。だけど、やっぱり勝てなかった。
黒葉が居なくなって、私一人になった瞬間に均衡は崩れ、私は倒れた。
もう体中の感覚がない。あの速度で何発も殴られた。
上も下ももうよくわからない。ただ、今の私には落下しているという感覚しか残されていない。
龍を何とかしないとまた別の被害者が生まれてしまうって、分かっている。まだ戦わなければいけないということも分かっている。
だけど、もう動かない。
私は咲夜の様に誰かのために尽くすということが出来ない。黒葉の様に覚悟がガン決まってるというわけでもない。
ここから立ち上がることが出来るほどの気力を出すことが出来ない。
あぁ……どうしてこうなってしまったんだろうか。どこで間違えてしまったのだろうか。
私はただ、紅魔館で紅魔館のみんなと一緒に日々を過ごす、ただそれだけで幸せだった。それ以上を望むつもりもなかったし、あの日常は私に大きすぎるものだとも思っていた。
私はただ、みんなと平和に暮らしたいだけなのだ。
「あれ、私……涙」
そこでようやく自分のほほを伝う液体に気が付いた。
どうやら私は自分でも気が付かない内に涙を流してしまっていたようだ。私が負けてしまったことによって起こるこの先の未来を憂いて……。
龍は間違いなく生き残ったら紅魔館のみんなを皆殺しにするために紅魔館へ襲撃を掛けることだろう。私が守りたいと思っているみんなが殺されてしまう、それを考えるだけで胸が締め付けられる。
私には勇気が足りない、覚悟が足りない……私はいつも楽な方、楽な方へと逃げてしまう。その癖、今となっては唯一の肉親であるフランだけでも絶対に守りたいと思ってしまって、フランには何も言わずに送り出してしまった。
でも、そんな私に呆れるでもなく、みんなは私を助けに来てくれた。その想いに私は答えることが出来ない。
みんなは私の事を評価してくれるけど、正直過大評価なのよ。私は吸血鬼、『運命を操る程度の能力』を持っている。だけど、それ以外は未熟だもの。
霊夢の様に最強の力を持っているわけじゃない、魔理沙の様に明るく人を引っ張っていくこともできない、黒葉の様に周りの人たちを鼓舞することは出来ない。
私にお母様の代わりは務まらない……。
お母様は本当にすごい人だった。
私の前に紅魔館の当主をやっていた人、リリルカ・スカーレット。私は本当にお母様を尊敬している。
とても強くて、先代の博麗の巫女の隣に立っても全然見劣りしないどころか、先代の博麗の巫女にも一目を置かれていた。
お母様は私と同じように『運命を操る程度の能力』を持っていた。だけど、私と違って樹海の出力も桁違いだったし、能力の扱い方も私よりもずっと上手かった。
正直今でも五天魔王との戦いで戦死したというのが信じられないほどだ。
その前からすでにお母様は覚悟を決めていたみたいで、私に当主を譲っていた。だけど、私はその当時、軽く考えていた。お母様が死ぬわけがないと……。
お母様が死んで、ようやく気が付いた。私がどれだけ未熟だったのか……私にどれだけの者が足りていないのか……。
「お母様……私、やっぱり無理です。あなたの代わりにみんなを、紅魔館のみんなをひっぱっていくなんてこと……」
『そう……諦めるの?』
「っ!? なに?」
突然、まるで頭の中に響くかのような声が聞こえてきたことに驚き、周囲を見渡すが、どこにも人影のようなものはない。
いったいなにが……?
『レミリア・スカーレット、あなたは諦めるの? 大切な人たちの事、今まで積み重ねてきたこと……その全てを本当に諦めるの? 自分が弱いからと言い訳して、ただ諦めるだけで、それで本当にいいの?』
「わ、たしは……」
諦める……そんな言い方はずるい。
まるで私が全てを放り出してみんなの期待に応えるということを諦めると言っているみたいじゃない。
「でも……私は……もう……戦えない……私はみんなほど強くない……強くなれない……私はっ!」
瞬きをし、目を開けた次の瞬間、私の視界に映る景色は一面の花畑に変化していた。
さっきまで私は落下していたはず。だというのに、これは一体何なんだろうか。いや、これはもしかして意識だけがこの場所に来てしまったということ?
「レミィ」
警戒しつつ、周囲を眺めていると背後から声が聞こえてきた。
そしてその声は私がずっと切望していた声で、私は弾かれるようにして振り返ると勢いよく駆け出した。
突然駆け出したせいで足がもつれてしまった。だけど、そんな私を支えるようにして私の背後に居た人物は私の事を支えてくれた。
「もう、レミィはおっちょこちょいね」
「お母様!」
私の背後に現れた人物はお母様だった。
この手に、この触れる身体に感じる温もりは間違いない。お母様だ。
あの時、あの瞬間に失われたと思っていた温もりが今、手の中にある。私は力いっぱいにお母様のことを抱きしめた。
そしてそれに応じるようにしてお母様も抱きしめ返してくれた。
どのくらいの時間が経っただろう。どのくらいの時間、抱きしめ合っていただろう。
そっとお母様は私の身体から離れ、急速にお母様の温もりが失われて行き、ちょっと寂しい気持ちになってしまう。
改めてその姿を見てみてもやっぱりお母様だ。
私と同じ紫色の髪、深紅の瞳。私よりも立派な翼が生えている。
「お母様……」
お母様と再び会えたのは嬉しい。だけど、お母様があの戦いで死んでしまったというのは紛れもない事実で、目の前にお母様が居るということは私はやっぱり……。
「レミィ……あなたはまだ死んでないわ」
「まだ?」
「そう、あなたはまだ生と死の狭間に居るの。どっちに行くかはあなたの心次第と言ったところかしら……」
「私の心……」
今しがた己の心の弱さというものを再確認したばかりだ。
こんなに心が弱ければ現世に留まるということもできないだろう。私は結局ここで死ぬ……みんな私を助けるために来てくれたというのに……そんなみんなの努力を無駄にしてしまう。
「ねぇ、レミィ……強い人っていうのはどんな人の事だと思う?」
「そ、それはお母様みたいな――」
「うーん、そうじゃなくて、もうちょっと詳しく言って」
「詳しく……心が強くて、大切な人を全員守り抜くことが出来る人」
「確かにそれも間違っていない。でもね、私はそれだけじゃないと思ってるわ。だって、私は心が強いわけではないもの」
「えっ?」
そんなわけがない。
お母様は心は強くて、どんなに強そうな人とも戦うことが出来る、私が憧れた最高の人だ。
じゃなきゃ博麗の巫女と肩を並べて戦うことが出来るはずもないし、そもそも博麗の巫女に一目置かれて博麗選抜チームに選ばれるということもなかった。
五天魔王をあそこまで追いつめるということもできなかっただろう。
「私は心が弱い。いつも戦っている間は相手が強くて心が折れそうになっている、負けそうになっている。でもね、そんな時はいつもあなた達の顔を思い浮かべているの。今ここで私が負けてしまったらあなた達がひどい目に遭うかもしれない、そう考えるとね、不思議と力が湧いてきて戦えるようになるの」
「大切な人……」
「そう、レミィが自分の身を賭してでも救いたい、守りたいって思う人達……思い浮かぶ?」
フラン、咲夜、パチェ、美鈴、メイドのみんな、黒葉、ルーミア……。
紅魔館に居る皆を私は守りたい。そしてこれからもみんな笑顔で暮らしたい。それだけが私の望み。
「なら、どうすればいいか、もうわかっているはずよ。だって、私の心をレミィは引き継いでいるんだから。大丈夫、あなたは強い子よ」
私はみんなを守りたい、みんなと一緒に生きていきたい。
そのための敵は全員、私が倒して見せる。
「行ってこい」
お母様の力強い拳が私の胸に当てられる。
そうだ、限界は私が決めてしまっていたんだ。私がどうせやってもダメなんだと、勝てないんだと、決めてしまっていた。
私は心が弱いから……無理だと決めてしまっていたんだ。だけど、大切な人達を守るためにはこの無理をやり遂げなければいけない。
お母様、私はやるよ。
龍を倒して、そして平和を取り戻して見せる。
お母様は
フランは
龍は未来を視るという行為、ただそれだけしかやっていない。
私ならもっと上手く使うことが出来る。龍本人の未来を視ることが出来ないのなら、周囲のありとあらゆるものの未来を視て、龍の行動を予測、先回りする。
そのことを理解した次の瞬間には私の身体は再び落下していた。意識が元の場所に戻ってきたのだ。
お母様に鼓舞された。これはもう泣き言を言っている場合じゃないわね。
「ふぅ…………《
今の私なら行ける。
グングニルを作り出した私は勢いよく飛びあがり、スカイの残骸まで上がっていく。そして、龍の姿を補足、その瞬間に私はグングニルを投げ飛ばした。
龍がどうして私達を殴ることが出来るのか。完全に空間が絶たれていたら龍からも攻撃することが出来ないはず。
だけど、出来る理由は、その一瞬だけ無意識に空間断裂を解除しているからっ!
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
投げた私のグングニルは見事龍の腕を切り飛ばすことに成功した。
はい!第301話終了
いつの間にか地の文を書くのが楽しくなっていて、ほぼ独白みたいになってしまいました。
この回、どういう演出にするか凄まじく悩んだのですが、結局この形になりました。
さぁ、反撃開始だ!
それでは!
さようなら