それでは前回のあらすじ
黒葉は威迅へ挨拶に向かった。
すると威迅からデータを取るために試作品を使ってみてくれと言われる。
今の黒葉は
このデータをもとに威迅は刀の修正作業に入った。
それではどうぞ!
side黒葉
「黒葉君、帰ってきてたんだね」
暫く地面に寝転がっていると、そこへ茉衣さんがやってきた。恐らく威迅に俺がここに居るという話を聞いてきたのだろう。
見れば茉衣さんの壊死していた足はほとんど治っているようで、見た目ではあんまりわからないほどに回復しているようで何よりだ。
「意外と早く帰ってきたね。お兄ちゃんに教えられてびっくりしちゃった」
「いやまぁ、色々あってな。とりあえず、暫くはここに居ることにした」
「……黒葉君って意外とトラブルに巻き込まれやすい体質だよね」
うるせぇ、それは俺もちょっと気にしてるからそっとしておいてほしい。
なんでやっと帰れたと思ったら紅魔館が崩壊してるんだよ。なんで龍なんていう奴がいきなり現れるんだよ、本当に勘弁してほしい。
お陰でここ暫くゆっくり休むことも出来ていなかったからな。
「――これ、黒葉君がやったの?」
「え? あぁ」
「すごいね。会う度に黒葉君がどんどん遠い世界の人になっちゃうよ」
一瞬、俺が技を使って焼け焦げた地面や岩へ目を向けて、悲しそうな声色でつぶやく茉衣さん。
俺のことを称賛してくれているのだとは分かるが、俺はこの言葉を素直に受け取るわけにはいかない。受け取ってしまえば俺の目指す場所にはいけなくなる可能性があるから。
「俺は別に遠い世界に行ったわけじゃないよ。俺よりももっと遠い世界の住民はたくさんいるから」
「そうなの?」
「あぁ」
ついこの間も、それでだいぶ打ちひしがれていたところだ。
俺にもっと力があればこの里だってここまでの被害は出さずに済んだのかもしれない。俺がもっと強ければもっと早くスカイの問題を解決できたのかもしれない。
正直、俺が出来たことなんてほんの少ししか無いのだろう。天魔を倒せたのだってその殆どは父さんと博麗様の功績がデカい。俺はただ弱っていた相手に最後の一撃を叩きつけた、ただそれだけに過ぎないんだから。
だから、こんな場所で満足していちゃいけないんだ。
「私もね、黒葉ほどじゃないんだけど、この間の戦いからちゃんと特訓するようになったんだ。やっぱりお兄ちゃんの言う通り、自分の身は自分で守らなきゃ。何かと物騒な世の中だし、いつでもお兄ちゃんが助けてくれるわけじゃない。お爺ちゃんだって、だいぶ老体だから、私が守るくらいの気概はないとね」
「……そうだな。それはとても大事だな」
「でしょ? で、いつか黒葉君にも追いつきたいなって、そう思ってるから、覚悟してね」
「あぁ、待ってる」
にっこり満面の笑みで言ってくる茉衣。
茉衣は俺なんかよりもよっぽど才能があるよ。だって、俺のこの力は所詮借り物の力だから。
獄炎龍も、姉ちゃんの能力も、全て。それでようやくやっと戦えているレベルだ。俺の素の力なんて大したことはない。
俺は博麗様に憧れた。
博麗様が居るだけでみんな安心する。博麗様が居るだけで、誰も悪いことができなくなる。博麗様は誰にも負けない。
その力がもし、俺にもあれば……いや、無い物ねだりはよそう。惨めになるだけだ。
「…………」
「――?」
そこで茉衣がモジモジとし始めた。顔はほんのりと赤く染まっており、周囲をキョロキョロと見回す。
ここら辺は中心部から離れた場所だし、威迅が人が少ないからこそここを技のお披露目場として選んだのだから当然、今ここに居るのは俺と茉衣の二人だけだ。
威迅も戻っていって、暫く刀の調整をするだろうし、多分今日はもう戻ってくることもないはずだ。
その事を確認したら、覚悟を決めたように「よしっ」とつぶやきゆっくりと茉衣は俺に近づいてきた。
何をする気なのか――そう様子を伺っていると、なんと茉衣は俺の寝転がっている地面の隣に寝転がってきた。
何を考えているのか、よく分からず茉衣を見つめていると、茉衣の顔はゆでダコの様に真っ赤に染まっていき、そっぽを向いてしまった。
「ねぇ、黒葉君」
「なんだ?」
「やっぱり、ここで暮らす気は無いのかな」
「……そうだなぁ。ここで暮らすのも悪くはない。茉衣さんや威迅、それから父さんと母さんまで居る。ここで暮らしたくないなんて言ったら罰が当たりそうだ」
「――っ、なら」
「でも、やっぱり今の俺の居場所は紅魔館なんだ」
俺を助けてくれたのは紅魔館だ。
そして、反抗していた俺にちゃんと色々教えてくれたのも紅魔館だ。もう、あの人たちを殺そうなんていう考えは微塵も浮かんでいない。
確かにここで暮らした年月よりも短いかもしれない。
だけど、紅魔館で過ごした半年という日々はとてもとても濃密で、楽しかったんだ。今更紅魔館を離れるなんて考えられないほどに。
あそこが今の俺の居場所なんだ。
「……そう、なんだ。でも、私は諦めないから。何度だって私は黒葉君を誘い続けるから」
「お、おう……」
急に振り返って俺の両手を包み込むようにして手を握ってくる茉衣。
近すぎる。こんなに茉衣と近い距離になったことがないため、顔が急激に熱くなっていくのを感じる。
茉衣って本当に美少女なんだよな。紅魔館で美少女たちに囲まれて生活していなかったら、こんなの一瞬で惚れていたかもしれない。
今でもこうして妖しげな笑みを浮かべてくる茉衣にドキッとさせられているくらいだからな。
でも、これ以上この里に人たちを巻き込むわけにはいかない。俺はこれからもっと激しい戦いに赴こうとしているんだから。
歩夢さんに頼まれた博霊選抜チームの再編成。そして五天魔王の撃破。
考えなければいけないことは山積みだ。
一人目は絶対に博麗様だ。博霊選抜チームって言ってるのに、博霊様が居なくてどうするんだという話である。
だから、落ち着いたら博霊様にも事情を伝えに行こうと思っている。
そして、二人目だが、以外にもこれはもう決めた。スカイでの戦いを見て、この人しか居ないってピンときた。
後は三人。じっくり考えなければいけないな。
「黒葉君、難しい顔をしてる」
「あ、あぁ、ごめん」
「良いんだけど、悩んで苦しくなるくらいならいつでも私たちに相談してよ? 私たちは黒葉君の助けになりたいんだから」
「ありがとう。助かるよ」
「すっごく頑張れるのは美徳だけどね、それで周りの人たちに心配をかけたら元も子もないからね」
「肝に免じておくよ」
「よろしいっ」
最後ににっこり笑顔を見せ、勢いよく立ち上がった茉衣さん。
服に着いた砂埃を叩き落とし、俺に向き直る。
「とりあえず、今はゆっくりしておきなよ? この里にいる間は全ての問題は一旦忘れてリフレッシュに専念したらどう?」
「そうする……さっすがに疲れたからなぁ。威迅にも似たような事を言われた気がする」
あいつは絶対に直接は言わないが、あいつの目がそう訴えていた。
自分でも体力の限界だって思うから。また直ぐに戦いが始まるとなると、体力が持たないな。
「じゃあね。何かあったら直ぐに言ってね」
「分かった。ありがとな」
その言葉を最後に茉衣さんはこの場を走り去っていってしまった。何か用事でもあったんだろうか。
最後に見えた茉衣さんの表情は顔を真赤にして目を回していたように見えたけど大丈夫だろうか。
ま、茉衣さんは俺なんかよりも余程しっかりしてるし、大丈夫だろう。
俺ももう少し休んだら家に戻りますかね。
はい!第309話終了
茉衣さんとのひと時です。
この幕間では日常編という事で、ゆっくりと時間が進んでいきますよ。
休息がメインですからね。
あと、最近の殺伐としていた雰囲気からは考えられないようなほのぼのとした空気感を作っていきたいと思ます。
ちなみに、前話の執筆から約半年ほど空いたので、今回の執筆は手探り手探りでしたが、なんとかかけてよかったです。
ちなみに、今までは2000文字が1話の最低ラインだったのですが、これからはなるべく3000文字書こうと思っています。
それでは!
さようなら