それでは前回のあらすじ
黒葉が寝転がって休息を取っている所に茉衣が現れる。
茉衣は威迅から黒葉が来ていることを教えられ、やってきたのだ。
茉衣からこの里で暮らすことを提案されるが、黒葉は自分の今の居場所は紅魔館だと断る。
色々と問題を抱えているのだと見破った茉衣は黒葉にいつでも相談してと告げるのだった。
それではどうぞ!
side黒葉
それから暫く休息を取った後、俺は家に帰ってきた。
空は薄暗くなり始めており、吸血鬼としての力も戻ってきたように感じる。
夜は良い。吸血鬼になってからというもの、夜になったら体調がすごく良いのだ。昼間の気だるさが嘘のように、体調が良くなる。
さっき、動けなくなっていたのは昼間だからと言うのもあったりするのだ。
「ただいま」
家に帰ってくると、家の外でみんながせわしなく動いていた。
屋外にテーブルや椅子、焼肉コンロなどを複数設置しているのが見えた。
見て察した、これは焼肉セットだ。つまり、これから焼肉でもやるのだろうか。
「おかえり、黒葉。威迅君たちには挨拶できたかい?」
「はい、もちろんです」
「それは良かった」
一番近くに居た父さんに声をかける。
父さんは大きなイノシシをテーブルに置き、今にもこれを解体しようとしているところだった。
随分立派なイノシシだ。こんなの、父さんと母さんの二人だけだったら数日かけて食べるようなものだろう。母さんは冷気を操れるから、食材を腐らせてしまうという心配は要らないし。
「丁度、昨日立派なイノシシを捕れてな。黒葉の友達がいっぱい来てるから折角ならこのデカいイノシシで盛大に焼肉パーティーをしてしまうかと思ってな」
父さんの手際はとてもいい。
よく綺麗にした刀で鮮やかにイノシシを解体していく。
惚れ惚れする。
俺も紅魔館に行ってから随分と特訓したつもりだが、それでも父さんの刀裁きにはまだ遠く及ばない。
きっと、今の俺が全力を出したところで父さんには敵わないんだろうな。
「ん? どうかしたか?」
「ううん、何でも無い。それより、俺もなにか手伝えること無いか?」
「いや、休んでいてくれて良いんだぞ。長旅で疲れたろ」
「いや、でもなぁ。みんながあくせく働いてるっていうのに俺だけ休むわけにもいかないじゃん」
周りを見回してみると、姉貴や美鈴、ルーミアと天音も準備の手伝いをしているようだ。
パチュリーは……まぁ、ずっと図書館にこもっていて体力が無いんだろう。見ると、少し離れた縁側にて死にそうな表情をしながら座っていた。一応、手伝おうとはしたらしい。ただ、気持ちと体力が釣り合わなかったようだけどな。
「俺は別にいいって言ったんだけどな」
「これから暫くお世話になるからって、お礼のつもりらしいわよ」
「そっか」
父さんたちが良いって言ったんなら良いんだろうけど、それでも手伝うのはやはりあの人たちの人柄か……。
本当に姉貴を助けることが出来てよかったと心の底から思うよ。
龍がスカイから落ちた後、どうなったのかは俺は知らない。十中八九力尽きてたし、落下で死んだと思うが、能力的に万が一にも生き残っている可能性は無きにしもあらず。
だけど、なんど襲って来ようが、もう絶対に姉貴を渡したりはしない。姉貴は紅魔館の大切な
「んじゃ、俺も余計にふんぞり返ってる訳にはいかなくなったわ。――というわけで、俺にも解体を手伝わせてくれ!」
「おいおい、解体なんてやったことあるのか?」
「まっかせろ父さん。こちとらこの半年、みっちりと刀を修行してきたんだ。そして、今、遠巻きに父さんのやり方を見ていた。絶対に上手くいく!」
「それって、失敗するやつじゃないかしら?」
「母さんは黙っててくれ!」
父さんから立ち位置と刀をひったくると、舌なめずりをして狙いを定める。
俺にだって出来るはずだ。いや、出来なければならないんだ。
俺も成長しているんだから!
☆☆☆☆☆
「――うーん、20点かな。ちょっと力が入りすぎて肉がぼろぼろになってるね」
俺が切り落とした肉を見て評価をつける父さん。
いや、それやった俺が言うのもどうかと思うけどさ、それ1点をつけるのだって許しがたいほどの肉質になってしまったんだけど。
20点は親心と言うやつなのかもしれない。俺は悔しい、父さんにそんな気を使わせてしまったことが何よりも悔しい。
出来ると思っていた。だけど、戦いとは違って獣の解体とは想定以上に難易度の高いものだったのだ。
数分前の俺をぶった切ってやりたい。そして、舐めんじゃねぇぞこの野郎と叱責してやりたい。
恥ずかしい。出来ると自信満々に息巻いて父さんから仕事を奪い取ったというのが非常に恥ずかしい。
「まぁ、戦いで使う技術と、解体で使う技術って全く違うからね。部位を完璧に切り分けたり、断面を綺麗に削ぎ落としたりね。まぁ、でも初めてでこれなら上出来なんじゃないかな?」
「お世辞はよしてくれ……虚しくなってくる」
「父親というのはそういうものだ。どうしても我が子に対しては評価が甘くなってしまう。だけど、僕はね、一度だって剣に嘘をついたことはない。それは黒葉の剣に対してもそうだ。……お前は立派に成長している。昔のお前だったらここまでやれなかっただろう。紅魔館だっけ? そこに行って、充分に成長する環境が整えられていたのか、はたまた必要に迫られていたのか……僕はその現場を見ていないから分からない。だけど、これだけは言わせてほしい……。頑張ったね」
頭に軽く手を置き、優しく撫でてくる父さん。
あぁ、実家に帰ってきたんだ。そう思った。俺はここでなら甘えても良いんだ、そう思わせてくれる。俺をダメにしてくる人たちだ。
どうしても堕落してしまいたくなる。昔のここに済んでいた頃の、甘えきった自分に戻りたくなってしまう。
だから、俺は父さんの手を払い除けた。
「止めてくれ。俺はもう子どもじゃないんだからさ。いつか絶対に父さんを超える凄い剣士になるから」
「……………………」
俺の宣言に固まったまま動かなくなってしまった父さん。
どうかしたのだろうか? そう思って父さんの再起動を待っていると、それはそれはこの世の終わりでも見たかのような青い顔をし、すぐ真横に居た母さんに飛びついた。
大の大人の男が涙まで流し始めたぞ。
「雪姫さん、黒葉が、黒葉が反抗期になった~」
「よしよし、誰しもそんな日はありますよ。きっと黒葉は長旅で疲れて気が経っているだけですからね」
どうしよう。
俺はどんな気持ちでこの父親が母親によしよしされている光景を見ればいいのだろうか。笑えばいいのだろうか。
仲がいいのは良いことだが、息子目線からするとかなりきついものがあるぞ。
気まずい……とにかく気まずいからこの場から早く逃げよう。
手伝えることはこの二人からじゃなくても他にもあるはずだ。絶対に俺にも何か手伝えることは――
「あ、黒葉、おかえりなさい」
「ただいま、姉貴。姉貴は何やってるんだ?」
「これ? これは串焼きの用意ね。料理に関してはさっぱりだけど、このくらいの作業なら私にでも出来るから」
「そ、そうか……」
俺は周囲を見回す。
姉貴の目の前にはいっぱいの串焼きようの食材が並んでいた。それらの食材は姉貴から生やされた真っ赤な触手が袋のようなものをかぶせられ、器用に次々と串に食材を突き刺していく。
血液操作、極めるとこれほどの精度で操ることが出来るのか。
確かに、このくらいの作業なら俺でもできそうだが、練度が違う。姉貴に勝てるわけがない。こんな高度なこと、俺に出来るはずがない。
「じゃ、じゃあ、頑張って」
「えぇ……あ、黒葉」
「なに?」
「その……ありがとう」
「――?」
「いや、その……そう言えば、まともにお礼を言ったかなって思い返してて、だから、その……助けに来てくれてありがとう。今、私すっごく楽しいから」
「……そっか、よかった。これからも俺たちで楽しくやっていこう」
「えぇ、もちろんよ」
はい!第310話終了
ほのぼのほのぼの
それでは!
さようなら