それでは前回のあらすじ
家に戻ってきた黒葉。
そこではみんな焼肉パーティーの準備を進めていた。
黒葉も手伝えることが無いかと、烈夏の猪解体を手伝うが、大失敗。
次にレミリアの仕事を手伝おうとしたが、手伝うと逆に足手まといになると判断した黒葉に仕事は回ってこなかった。
それではどうぞ!
side黒葉
準備が終わり、今は焼肉パーティーの真っ最中。
そんな中、俺はただ一人縁側に座ってお茶を啜っていた。
最初の数分は俺もあの中に混ざっていたものの、どうにもこうにも食欲がわかず、少しだけ食べてこうして休憩させてもらっている。
正直、この光景を見られるだけでも俺は腹も胸もいっぱいになってくる気がする。
普段からそこまで大量に食べるわけじゃないんだが、それでもこの量で満足してしまうのは恐らく疲労によるものもあるだろうが、普通の食事と言う栄養を肉体が拒絶しているのだろう。
俺は今日まで体力を使いすぎてしまったということだ。
俺の肉体は半吸血鬼。故に、生き血を欲してしまっている。生き血が吸血鬼である俺たちの一番の栄養素になるのだから。
一応、俺の吸血鬼部分は半分だけだからなんとか人を襲いたいという衝動には駆られていないが、自分でも喉が乾いてきているのを感じる。
こうなるんだったら携帯食として輸血パックを持ってくれば――って、そうだ。輸血パックがある紅魔館も今や倒壊して何もなくなってしまっているんだったな。
何もかもついてない。
ここまで血を身体が欲しているのは初めてだ。
確か、前に姉貴が俺は途中から吸血鬼になったから本来血を渇望することは無いっていう話だったはずだが、それと一緒に怪我をした場合は血を摂取したほうが治りが早いとも言ってたな。
どうやらこの短期間で大怪我をしすぎたせいか、半吸血鬼であるというストッパーが上手く機能しなくなっているらしい。
多分、俺の血の渇望は傷が完全に癒えれば収まることだろう。だが、それまでが地獄だな。
「お兄ちゃん、食べないの?」
「え? あ、あぁ。ちょっと食欲がなくてな。疲れたんだろうな」
肉を数枚皿に入れた天音がてくてくとこちらへ寄ってきた。俺の様子が変で心配してくれたんだろう。
俺は天音の頭を撫でてやる。すると、直ぐに天音の表情は崩れ、デロデロになって「えへえへへ」という声を漏らし始めた。
淑女としてどうなのだという気持ちは無いわけではないが、天音が嬉しそうだし、良しとしよう。
天音はスカイでの一番の功労者といっても過言ではない。
天音が居なければスカイの人たちの洗脳を解くことが出来なかったから、俺たちに勝機も無かったはずだ。
天音だけじゃない。みんなが居なければこの結果を掴み取ることは出来なかった。それほどに恐ろしい相手だった。
五天魔王……あのクラスの奴が後四人は控えていると考えると頭が痛くなってくるな。
「お兄ちゃん、食べないと大きくなれないよ?」
「はは、なら、まず天音が食べたらどうだ?」
「ちょっと、お兄ちゃん、それどういう意味なのか、一から十まできっちり説明してもらってもいいかな!?」
「悪い悪い。これ以上大きくなられても困るからな」
「どういうこと?」
「このくらいの大きさが丁度撫でやすい」
天音は俺よりも頭一つ分位背が低いお陰で撫でるのが楽なのだ。
これ以上身長が高くなると、腕を更に上げる必要が出てきてちょっと辛そうだなと思う。
「そっか、なら、小さいのも、いいのか、も?」
「そうそう、お前はそのくらいミニマムな方が可愛いって」
「でもでも、やっぱりあたしはグラマラスなお姉さんになりたい! 紫さんみたいになりたい!」
「ん〜、あ〜……」
言われて紫さんの姿を脳内に思い浮かべる。
確かにあの人のスタイルは凄いよな。だが、正直、天音にはあそこまでなってほしくはないし、そう簡単にはあそこまではなれないだろうなとも思う。
きっと天音はこれからどんどん成長していくだろう。もしかしたら俺の身長を追い抜いていくのかもしれない。
だけど、兄としてはこのまま愛でさせてほしいと思うわけだ。
俺は半吸血鬼だから姉貴やフランドールと同じで身長はあまり伸びることはないだろうから、天音がこれ以上あまり大きくならないことを祈るばかりである。
「うーん……でも、今はあたしのことよりもお兄ちゃんのことだよ。食欲が無いとしても適度に食べないと体調崩しちゃうんだからね!」
「いや、だから、俺のことは良いから自分で食べろって」
箸で掴んだお肉を差し出してくる天音。
折角妹が食べさせてくれると言っているのだから俺としては喜んで食べたいところではあるのだが、まず間違いなく次の一口で俺は全てを戻すことだろう。
だから肉を持つ天音の腕を押し返していると、天音は妖美に唇を舐めると囁くような声で言った。
「そ、れ、と、も……私の血が飲みたい?」
「は? え、はぁ!?」
俺、大混乱である。
見透かされたというのもそうだが、妹に誘惑するような声色で言われたことで俺の脳内は大パニック。
確かに頭の片隅では思っていた。肉をよこすくらいならばお前の血を飲ませろよと。
もちろん、そんな事は口に出したりなどしないが、抗いがたい欲求が俺の頭の片隅にあることは事実だった。
姉貴とフランドールは常にこんな欲求を我慢しているのだろうか。
「いったい、何の冗談だ?」
「冗談じゃないよ? あたしはお兄ちゃんになら血を吸われても、そしてそれによって殺されたとしても良いって思ってるから。私が今ここにこうしているのはお兄ちゃんのお陰だし、私はお兄ちゃんが居ないと、もう生きていけないから」
「それは俺からすると大問題なんだ。兄離れしろよ〜」
「ヤ〜ダよぉ〜。あたしは一生、お兄ちゃんラブで生きていくんだから!」
そう言うと、俺に向けていた肉を自分の口の中へ放り込み、笑顔で咀嚼し始める天音。
妹の厚意を無下にしてしまって少し罪悪感。だが、妹に吐瀉物をぶちまけるよりかはマシだと考えよう。
これは俺がちょっと我慢すれば済むだけの話なんだから。
「そんじゃ、はい。お兄ちゃん」
「――ん? これは……」
唐突に懐から取り出したものを差し出されたため、反射的に受け取ってしまった。
それは透明なパックであり、中には真っ赤な液体がパンパンに入っている。その液体を目にした瞬間、自分の血液が沸騰したのが分かった。
俺の身体はこれを欲している。思わず喉を鳴らしてしまい、それを見た天音がニヤッと口角を上げる。
「あたしは完璧シスターなのでぇ、お兄ちゃんの体調管理もあたしのお仕事って言うわけですよぉ。お兄ちゃんは確かに吸血鬼なのが半分だけだから基本は血液を摂取しなくてもいいみたいだけど、こういうイレギュラーが起こらないとも限らないでしょ? だからね、あたしはこうしてちゃんと準備していたわけですよ。褒めてくれたっていいよ?」
「あ、あぁ、っ! 助かる」
枯渇していた。渇望していた。
それが今、眼の前にある。しかも、ちゃんと食用の人工輸血パックだ。オレンジ味と書いてある。
天音がどうやってこれを手に入れたのかは分からないが、今はそんなことがどうでも良くなるくらいに乾ききっていた身体をこれで潤したい。
そう思ったらもう止めることは出来ず、それを一気に煽った。
「あたしは別にあたしの血を吸ってくれても良かったんだけどね」
「――っ! ごほっ、ごはっ、お、お前、何いってんだ」
突然の天音の発現に俺は折角飲んでいた血液を吹き出してしまう。
天音にも俺の吹き出した血液がかかってしまったせいで返り血を浴びたみたいになっている。俺は吐血、天音は返り血、端から見たら立派な事件現場の完成だ。
俺が輸血パックを握りしめてるから誰も天音がそんな事をしたなんて考えはしないだろうけどな。
しかし……輸血パックをくれたからさっきの言葉は冗談なのかと思っていたんだが、マジだったのか。
こいつ、一体何を考えてるんだ。
「それじゃあ、それを飲んだらまた参加してね。お兄ちゃんがそんな調子だと皆心配しちゃうから」
軽く自分に吹き付けられた血液をタオルで拭く天音。俺に血液を吹きかけられたことは全く気にしていない様子だ。
「あ、あぁ、ありがとな」
「ん」
それを最後に天音は踵を返し、手をひらひらと振って皆の輪の中に戻っていってしまった。
手元の輸血パックへ視線を落とす。
「意外と、うまいもんだな」
そう言えば、姉貴にも勧められたけど飲んだことはなかったんだよな、この輸血パック。
確かに血の味がするし、俺が人間だったら飲めたものじゃないんだが、吸血鬼になった今ならこの血の味がむしろ美味しく感じる。しかもほのかに感じるオレンジフレーバーが口当たりをさっぱりさせてくれる。
やっぱり、俺は天音には敵わないなとつくづく感じた。
はい!第311話終了
実は黒葉が人工輸血パックを飲むのはこれが初めてです。
一度普通の輸血パックをフランにシチューに混ぜて食べさせられましたが、あれはこの人工輸血パックとは全くの別物ですからね。
思い返してみると、鍛冶師の人里での一件の後、直ぐにスカイに行ったので、こんな風にゆっくりしたり、休養する時間って無かったんですよね。
まぁ、こんな静かな期間はあまりないでしょうが、これでゆっくりと身体を休めてほしいものですね。
それでは!
さようなら