それでは前回のあらすじ
焼肉パーティーが始まったものの、黒葉は食欲がわかなかった。
それもその筈、今までのダメージが蓄積されてしまっており、肉体を治すために黒葉の身体は血液を欲していた。
吸血鬼の本能が薄い黒葉でも許容ダメージを超えると、こうなるのだ。
そこへ天音がやってきた。
天音は自分の血を吸うかとからかいつつも、黒葉に輸血パックを渡し、事なきを得たのだった。
それではどうぞ!
side黒葉
焼肉パーティーも終わりを告げ、俺は布団に横になる。
天音から貰った輸血パックのお陰でなんとか吸血本能は鳴りを潜め、焼肉パーティーに参加することが出来た。
吸血本能が収まった後は、食欲が暴走し、なんだかんだいつも以上に食べてしまった気がする。こんなに食べたのはもしかしたら人生で初めてかもしれない。
身体が様々なエネルギーを欲していたのだろう。いつも以上に肉が美味く感じた。
栄養は摂取できた、後は睡眠を取って肉体を充分に休ませるだけ。俺の身体は今、休養を欲している。
そう分かっているのだが、妙に目が冴えて眠れない。
色々解決したと言う安心感から恐らく神経が昂ぶっているのだろう。一旦落ち着かせないと寝れそうにない。
本当は身体も疲れているし、直ぐにでも寝たいくらいなんだが、こんなんじゃ眠れたものじゃない。
仕方がなく俺は布団から出ると、リビングへと向かった。
神経が昂ぶっているときは温かい飲み物だ。紅魔館で似たように全然眠れないときは師匠が温かいミルクや紅茶を出してくれていた。
今ここには師匠が居ないから自分で用意するしか無いわけだが。
師匠は今日のところは永遠亭に泊まるらしい。だから恐らく明日になったこっちに来ることだろう。
俺は皆を起こしてしまわないよう静かに緑茶を入れると、外の空気を吸うために縁側へと出た。
「うーん、空はやっぱり紅魔館で見るほうが綺麗だな」
一応ここも僻地なため、それなりに星は見えるんだが、鍛冶が盛んなだけあって空が濁って見える。
姉貴たちとバルコニーのテーブルに座って一緒に紅茶を飲んでいたのがなんだか懐かしく感じる。
ズズズッと緑茶をすすり、ホッと一息。やはり温かい飲み物は心を落ち着かせてくれる。
だが、心が落ち着いたら現状の問題点が頭の中を支配してぐちゃぐちゃになる。
俺自身は力や龍にても足も出なかった。博麗様だったら一人で全て解決できてしまっていたのだろうか。
あいつが第二席なんだとしたら、あれよりも強い相手があと一人……。正直、やってられねぇっていうのが本音だ。
俺はただこうして平和に日々を過ごしたいだけだと言うのに。
「……まだ、足りない」
先の戦いで俺は
だけど、俺がこれから先、もっと強い相手と戦うためにはもっと集中力を上げて力の持続時間や効力を上げるしか無い。
じゃないと、折角姉ちゃんから託された力も全然使いこなせていない。
どうしたものか……。
「黒葉」
「ん? あぁ、ルーミアか。起きてたのか」
「ううん、物音が聞こえたから」
「そっか、悪い。起こしたな」
背後から声をかけてきたのはルーミアだ。
寝間着姿でさっきまで寝ていたのだろうということが想像着く。
寝ていたからか髪に少し寝癖が出来ているのがちょっと可愛らしい。
「なにか、問題でもあった?」
「いや、ちょっと眠れなくてな。色々あった後だから多分、気分が昂揚しているんだと思う」
「うん、その気持ち分かるかもしれない。やっと日常が戻ってきたっていう感じがする」
「俺が月刃に攫われてからずっと、こんなにのんびりしていられる時間って無かったもんな」
ルーミアもゆっくり俺の隣に腰を掛け、一緒に空を眺める。
静かだ。とても静か。
ルーミアが隣に座ってから、俺もルーミアもどちらも口を開かなくなってしまい、静寂が訪れる。
だが、その静寂は決して気まずいものではなく、逆になんというか、とても心地の良いものだった。この時間が永遠と続けばいいのにと、そう思ってしまうほどの。
やがてどちらともなく、俺とルーミア、互いの片手が軽く触れ合った。
一瞬驚いて離そうとしてしまった俺たちだが、直後に改めて恐る恐る手を近づける。
互いの手が触れあった。
なんだか顔が熱くなっていく。さっきまでのとは別の意味で心が昂ぶっていく。
恐らく、今の俺の顔はこれ以上無いくらいに真っ赤になっていることだろうが、それはルーミアも同じだった。
ちらりと盗み見るようにしてルーミアへ視線を送ってみると、ルーミアも顔を真っ赤にしながらこちらの様子を盗み見てきており、俺たちの視線は交差する。
瞬間、弾かれるようにして顔を背けた。
心臓がうるさい。何年か前に聞いたバンド、プリズムリバー三姉妹のドラム担当としてもやっていけるかもしれないと思うほどの爆音の心音。
痛いと、思ってしまうほどだ。
だが、今はこの痛みこそ心地良い。
俺たちは互いの顔を見ることが出来ず、そっぽを向いたというのにも関わらず、手を離すということはしなかった。
なんだかこれを続けていたら余計に眠れなくなりそうだ。
だけど、終わらせたくない。これをずっと続けているわけには行かないと分かっているけど、この手を離したくない。
静か、とても静か。ただし、俺の心臓以外はという条件付きだが。
この空間を邪魔する人は誰ひとり居ない。俺たちだけの時間。
やっぱり俺はこの子のことが――
「ねぇ、黒葉」
「ん?」
静寂を先に破ったのはルーミアの方だった。
顔を見ることが出来ず、そっぽを向いたまま返事していると、唐突に腕が抱かれ引っ張られる。
その突然の力に俺は抵抗することが出来ず、そのまま引っ張られて横に倒れてしまった。その倒れた先にあったのは――
「る、ルーミアさん。これはいったい?」
ルーミアの膝だった。
俺は気がついたらルーミアに膝枕をされてしまっていたのだ。
柔らかくて、ちょうどいい高さ。寝心地の良い極上の枕だ。
だが、急にどうして?
「疲れてるかなって、思ったから。その、私はそんなに何も出来てない気がして。ずっと黒葉と一緒に行動していたけど、私だけ役に立ってなかったからせめてこれだけでもって」
「ルーミア……」
ルーミアはそんな事を思っていたのか。
「俺はルーミアが役に立っていないなんて思ったことはない。風魔や文から後から聞いてみたら必死に力と戦っていたって聞いたし、天魔と戦ったときなんてルーミアが助けてくれなかったら俺はあのまま死んでいたかもしれない。俺は結構ルーミアにも助けられているんだ。そんなに自分を卑下しないでくれ」
「でも、……でも、やっぱり私は少しでも黒葉の役に立ちたいから。私がもうちょっと役に立てれば黒葉が命をかける必要もなくなるのに」
ルーミアの切実な言葉。
俺の頭を優しく撫でながらも大事そうに、そして絶対に離さないという意思を感じるような強さで指と指を絡めて手を繋いでくる。
前々から知っていた。俺の戦い方は周りを不安にさせてしまうんだ。
父さんや威迅、そして博麗様のような安心感を俺が出すことは不可能だ。
いつだって俺が戦うときは命がけ。余裕なんて見せている暇はない。だけど、それがみんなを不安にさせていたんだ。
俺の綱渡りの戦い。生きるか死ぬかの一発勝負。
確かに俺は今までだって何度も死んだっておかしくないような場面に遭遇してきた。
ゲン、玲音、月刃、天魔、挙げるとキリがないレベルだ。
「私がなんど無理はしないでって言っても、多分これからも黒葉は無理をする」
「うぐっ」
「だから、私がこうして黒葉を捕まえておくの。私の目が黒い内は絶対に黒葉を手放さないって、そう決めたから」
「はは、そりゃ大層なことで」
「黒葉には仲間がいる、それだけは絶対に忘れないでね」
「あぁ、ありがとう」
俺の戦いがルーミアや皆を不安にさせてしまう。こんな戦いを続けていたらきっと恐らく今後間違いなく死んでしまうことだろう。
そうならないためにもどうするべきか。ルーミアには涙を流してほしくないから、ルーミアを悲しませないように、死なないための戦いを……。
そこで俺の意識はだんだん薄れてゆく。
きっとルーミアに膝枕されて頭を撫でられたことで安心したんだろう。我ながら、なんて単純野郎なんだって思うけど、もしかしたら男子っていうのはこんなもんなのかもしれない。
翌朝、みんなに俺がルーミアに膝枕をされながら寝ている姿を発見され、騒ぎになるのはまた別のお話。
はい!第312話終了
久々のルーミアと黒葉のいちゃいちゃ。
ずっと書きたかったんですよね。
ただ、シリアスな状況でぶっこむわけにもいかなかったので、我慢していました。
それでは!
さようなら