それでは前回のあらすじ
ゲンとの戦いも激しくなっていく。
ゲンは業火《大地の崩壊》を使用するものの、パチュリーの水の膜によって阻まれる。
そして一度はゲンを追い詰めたように見えたが、ゲンはパチュリーを狙い、絶体絶命に。
黒葉はそんなパチュリーをかばって心臓を貫かれてしまった。
果たして黒葉の運命は?
それではどうぞ!
side黒葉
「はっ!」
俺は目を覚ました。
視界の先には雲一つない晴天空。太陽の心地よい温かみの光が俺を照らしている。
だが、全く痛くはない。吸血鬼となってしまった今の俺ではこんな暖かい光を浴びることができるようになるとは思わなかったが、少し考えてどうして俺がこんな場所に居るのか、それが分かった。
俺は––死んだのだ。
死んだからこそ肉体がなくなって日光に当たっても死ななくなった。
そして死んだと考えるとここはあの世ということになる。
とても心地よい風が吹いており、頭の下の草が風で靡いて頬をくすぐってきている。とてもいい気持ちだ。
起き上がってみるとそこは色とりどりの花が咲き誇る花畑だった。
その光景に思わず見惚れてしまい、息をのんだ。
いい場所だ。そう思ってしまい、一歩足を踏み出したその瞬間、脳裏に姉貴たちの顔が浮かび上がった。
そうだ、俺が死んでしまって姉貴たちはどう思っているんだろうか。
たぶん姉貴は口ぶり的に何も気にしてはいないんだろうな。元々、ここで俺が死んでしまうことを諦めていたようだし……だけど、俺が死んでしまったことですこしでも悲しんでくれたらうれしいと思う。
なんだかんだ言ってあの紅魔館は俺の帰る場所であり、俺の大切な場所だったんだから。
さぁ、行こう。こんなところで立ち止まっていても仕方がない。
「黒葉」
「っ!」
背後から声が聞こえて来た。
その声は幾度となく聞いたことがあり、俺が一番聞きたい人の声だった。
もう二度と聞くことはできないと思っていたその人の声によって俺は涙腺が緩くなり、目尻が熱くなった。必死に涙をこぼすまいと上を向くものの、やはりこの声を聞くともうダメだった。
「っ! ねえ……ちゃん。お姉ちゃん!」
「うわっととと」
僕は勢いよく振り返ると声が聞こえてきた方へと走り、飛びつくように抱き着いた。
するとお姉ちゃんは僕が飛びついてきたことによって一瞬驚いたようで硬直してしまったものの、すぐに元に戻って僕の事を優しく抱きしめ返してくれた。
あの時と何も変わっていない。優しくて僕の大好きな温もり。もう二度と感じることができないと思っていた温もりが僕の腕の中にある。
「もう……やっぱり人として、剣士として成長しても黒葉はいつまでも甘えん坊だね」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「よしよし、お姉ちゃんですよ」
抱き着いて涙を滝のように流し続ける僕の頭を優しく撫でてくれる。
今までの時間を取り戻さんとばかりに僕はお姉ちゃんを抱きしめて涙を流し続ける。
やっぱり僕はお姉ちゃんが居ないとダメだったんだ。一人じゃ何もできないし、精神的にも弱い。
何度も何度も壁にぶち当たって、そしてその度に絶望して戦いを諦めようとする。だけど、その度にルーミアたちのおかげで僕は立ち直れていたけど、本当は立ち直れていなかったんだ。
僕の心にはずっと穴が開いていて、その穴は僕一人の力じゃ決して埋めることは叶わない。
その心の穴を埋める唯一の存在、それがお姉ちゃんだったんだと僕は今やっとはっきりと確信した。
「僕……僕……頑張ったよ」
「うん」
「僕よりもずっと強いやつと戦って、頑張ったんだよ」
「うん……うん……」
僕の言葉をお姉ちゃんは静かに頷いて聞いてくれる。ものすごく心地いい時間だった。
「だけど、ダメだったんだよ。僕には力の限界があった。妖怪になって多少強くなったとはいえ、僕はやっぱり弱かったよ」
「……それは違うよ、黒葉」
「え?」
お姉ちゃんは首を横に振ると静かに言葉を紡いだ。
「確かに人里に居たときは弱かったかもしれない。だけど、今の黒葉は違う。黒葉はとても強くなったよ。昔の黒葉だったらすぐに心が折れて逃げ出すような状況でも逃げなかったじゃん。人里を守るため、ルーミアちゃんを守るため、そして今もパチュリーさんを守るために動けたじゃん。もう黒葉は弱くない。それに、私は知っているから、黒葉の力が、限界がその程度じゃないってことを、さ?」
「僕の……力?」
「そう、確かに私は黒葉を置いてこっちに来ちゃって一回は黒葉を一人にしちゃったかもしれない。だけどね、今の黒葉はもう一人じゃないんだよ?」
一人じゃ、ない。
その時、やっとなんでさっき脳裏にみんなの顔が浮かんだのかが分かった。
そうだ、あの場所を僕は諦めきれていないんだ。あの場所が僕は大好きだったから、いつまでもあの人たちと共にありたいと、思ってしまった。
でも、僕はもうあそこに戻ることはできない。
「それじゃあね。お姉ちゃんはもう行かなきゃ」
「ぼ、僕も行く!」
「黒葉は来ちゃだめだよ」
「え?」
お姉ちゃんが踵を返してどこかへ行こうとしたから僕も一緒について行こうとしたら来るなと言われた。
拒絶された、そう思って僕はショックのあまり、呆然としてしまった。だが、お姉ちゃんの言葉の意味は僕の思っていた意味とは違っていた。
「黒葉には帰る場所があるでしょ?」
「え?」
「私は黒葉を見込んで力を託したのよ?」
「力を? あ」
あの時のあれは力僕に託してくれたということなのか?
だけど、もう僕は死んでしまっているから帰ることは––。
「大丈夫。私は信じているから、だから黒葉。あなたはあなたの大切な人を者を事を守り抜きなさい。
「マイ……イーター……」
「さぁ、行きなさい冬夏黒葉! そしてあなたが弱くないっていうことを証明してきなさい」
僕は……僕は……。
「そう……だね。僕は……俺はもう負けない! 姉ちゃん、見ていてくれ! 俺は必ずあいつに勝って見せるから!」
その言葉に満足したのか姉ちゃんは優しく微笑んだ。
次の瞬間、俺の意識は深く落ちていった。だが、さっきとはまた違う気分だった。もう覚悟は決まっている。
ここで、終わらせる。
――
はい!第53話終了
久しぶりに白愛と会って黒葉は嬉しそうでしたよね。
そして白愛と会話して黒葉は精神的に成長を遂げました。
果たして黒葉はゲンに勝つことができるのでしょうか?
それでは!
さようなら