それでは前回のあらすじ
黒葉の本当の生まれが銀河であり、黒葉の本名が銀河太陽だったということが判明した。
月刃は強くなった黒葉を連れ戻すために今、黒葉たちの前に現れたのだ。
しかし、黒葉は動向を拒否、それによって月刃は強制連行にシフトチェンジし、黒葉を連れ去ろうとするものの、それを咲夜が阻止、咲夜対月刃の戦いとなった。
月刃の力は超スピード、そのため、咲夜の能力にもついて行くことができて両者ともに互角の戦いを繰り広げる。
しかし、あと一歩及ばず、咲夜はやられ、能力を月刃に奪われてしまった。
そしてその手に入れた咲夜の能力と自身の超スピードを駆使して誰にも止められずに黒葉を連れ去ってしまった。
果たして黒葉の運命は!?
それではどうぞ!
第61話 弱さ
side黒葉
痛い、暗い、冷たい。
何かを取り付けられている腕だけではなく、体全身が打撲によってものすごい激痛が走っている。
そして何も見えない。頭にタオルのようなものが巻かれていて、丁度目に覆いかぶさっているため、暗いところでもしっかりと見ることができる吸血鬼の眼を持っている俺も何も見ることができない。
手足は全く動かせないため、この場所から一切動くこともできない。
俺は月刃に連れ去られた後、頭にタオルを巻かれ、この場所、牢屋に入れられて手錠と足枷を取り付けられて壁に鎖で括りつけられてしまった。
あの時はもう全く動く力が残っていなかったため、抵抗することもできなかった。
今も全く体力は回復できていなくて、こうして拘束されていなかったとしても動くことはできなかっただろう。
そして今、俺は刀を携帯していない。どこかで落としたか、もしくは月刃に取られてしまったのだろう。
今までにないほどに絶望的な状況だ。
おそらく月刃は俺が月刃たちに協力するというまでこの牢屋から出さないつもりなんだろう。
それでもいい。俺は死んでもルーミアや紅魔館のみんなを危険にさらすような選択肢を取るつもりは一切ない。
ガチャ。
どこかで扉が開き、そしてとんとんとんと靴が石の床を叩く音が聞こえて来た。そしてその音はどんどんと大きくなり、俺の牢屋の近くで止まった。
「太陽、お前まだ俺たちの仲間になる気はないのか?」
「ならない」
「そ、まぁ、それならそれでいいんだけどさ、俺は。親父が許してくれないと思うんだよな。だから、ちょっとお仕置きだ」
「っ!」
その瞬間、床の温度が少し上がったのを感じた。
さっきまでは冷たい床だったのだが、今はもうぬるいくらいの床になっている。
まず間違いなく月刃がこれをやったのだろう。そして俺の今の状況、この部屋の性質を理解した。
「その部屋は俺のボタン一つで床の温度を上げることができる。そして俺はこれから一時間ごとにお前を仲間に誘う。そしてそれを断るごとに俺はその部屋の床の温度を一つ上げていく。この意味がわかるな?」
「へへ、俺はこんなクズどもの血を引いているのか。考えるだけでゾッとするな」
つまりは俺は断り続けるとこの部屋の床に焼き殺されてしまうということなのだろう。
おそらくその死ぬ恐怖によって月刃は俺が諦めると思っているのだろう。だが、俺は今までいろんな修羅場を潜り抜けて来たんだ。
今さら鉄板の上に長時間放置されたところで俺の心が折れることはない。
「じゃあな、お前の心がどれくらい持つのか、楽しみだ」
それだけ言うと月刃は部屋から出て行ったようだった。
この後一時間後に再び月刃はやってくる。その前にこの場所から脱出する方法を考えなければいけないのか。
正直無理だ。俺はそんな箱の中から脱出するようなマジシャンではない。
でも死んでも月刃の仲間にだけはならない。
side三人称
黒葉と月刃が一瞬にして消えてしまった。その次の瞬間、とてつもない突風が巻き起こり、紅魔館に居た全員がぶっ飛ばされた。
そのせいでせっかく黒葉が被せてレミリアへの日光を防いでいた上着が飛ばされてしまったため、咄嗟に咲夜は能力を使用してレミリアを抱え、紅魔館内へと運んだ。
そして咲夜はレミリアをベッドに寝かせると、床に手をついて涙を流した。
「ごめん、黒葉、ごめんねぇ……っ!」
咲夜は成長してメイド長と言う立場についてからは一度も弱い姿など誰にも見せたことはない。いつも強くあろうとし、一人の時ですら涙を流さない彼女なのだが、今、子供の頃にも流したことが無いような特大の涙を流していた。
レミリアをベッドに寝かせることに成功し、落ち着いた今、感情が昂ってきて堪えられなくなってしまったのだ。
咲夜は黒葉が攫われてしまったのが自分の実力不足ゆえだと感じ、己を責め、後悔に苛まれていた。
咲夜は以前、紅魔館のメンバーで異変を起こした時の教訓が全く生かせなかった自分にとんでもなく腹が立っていた。
能力が通用しなくなってしまうと無力だということを咲夜は思い知らされていた。
能力を使用し、黒葉に修行を付けるという立場ではあるが、咲夜はれっきとした人間だ。
「なんで私は人間なのよ。こんなんじゃ何も守れないっ! 弱い、私は弱い。今回黒葉が攫われてしまったのだって私の責任。もうなにをすればいいのかわからないわよ」
「十六夜咲夜であれ」
「え? お、嬢、様?」
突然ベッドの上から声がしたため、咲夜は驚いて弾かれるようにベッドの上へと視線を向けた。
そこにはぼろぼろになりつつも、起き上がって咲夜の方をじっと見据えるレミリアがいた。これだけすぐに目を覚ましたのは彼女が吸血鬼であったから、そしてレミリアは地味に急所を外していたのだ。
だが、傷がまだ完治したわけではないというのに起き上がっているレミリアを見て咲夜は驚きの表情に染まる。
「お嬢様! まだ傷は完治していないんです! 無茶は」
「ねぇ、咲夜。私は咲夜が私たちのような妖怪じゃなくて、人間で本当によかったと思っているわ」
「お嬢様?」
「私たち吸血鬼はどこまで行っても所詮は妖怪でしかないの。人間を捕食対象として見て、助けようとしてもよだれが止まらない。強い力を持っているからこそ、妖怪は忌み嫌われている。だけど、人間は、咲夜は違う。人を純粋な気持ちで助けることができる。弱いからこそ弱い立場の者の気持ちを慮ることができる。そして今咲夜は黒葉が攫われたのは自分が原因だと責めている。それこそが咲夜の長所だって、私はそう思っている。弱いからこそ十六夜咲夜は十六夜咲夜でいられるんだと、私はそう思っているわ」
「っ!」
そこまで言うとレミリアは優しく、子供をあやすような手つきで咲夜の頭を撫でた。
「だからね、咲夜。あなたはずっと弱い十六夜咲夜で居てほしいの。この意味、頭がいい咲夜ならわかるわよね?」
「はい、はい……はいっ!」
数回頷くと咲夜はとある覚悟を決めた。
自分のせいで取られたなら、自分の手で取り返せばいい。
だって、咲夜の中でも黒葉はただの黒葉ではなくなっていたのだから。
黒葉は必死だったが、咲夜は毎日の修行の時間を楽しんでいた。毎日の楽しみ、仕事の疲れを癒してくれるのが黒葉との修行の時間だったのだ。
咲夜の中で黒葉は大切な家族の冬夏黒葉となっていたのだ。
「この十六夜咲夜、お嬢様の命で弱くあります。そのためにはまず黒葉を取り返しに行ってまいります」
「うん、気を付けてね、何があったのかは知らないけど、あなたが一度敗北した相手よ」
「えぇ、わかっています。次は勝ちますよ」
パチンと咲夜が指を鳴らしたその瞬間、咲夜の姿は部屋から消え去ってしまった。
もう黒葉を連れ戻しに向かっていってしまったのだ。
そして咲夜が居なくなってしんと静まり返ってしまったこの部屋の中でレミリアは一人で小さく笑みを浮かべた。
「頑張りなさいよ。咲夜」
そう小さくつぶやいたレミリアの脳裏に昔の出来事が浮かび上がってきた。
ある日、咲夜が一匹の妖精メイドを攻撃したという知らせがレミリアに入ってきた。
『咲夜、また妖精メイドを攻撃したの?』
『だってあいつ、レミリアお嬢様の事を悪く』
今とはまるで違う、不貞腐れたような表情になる咲夜。
『咲夜、その気持ちは嬉しいけどね? その力を暴力に使っちゃだめよ。咲夜のその力は大切な人を守るためにある。私の事を考えてくれたのは咲夜のいいところだけど、すぐに手が出ちゃうのは咲夜の悪いところね』
『いてっ、なにするんですかぁっ!』
レミリアが軽くデコピンをしたことで少し赤くなった額を抑えながら咲夜はレミリアに抗議の視線を送った。
『いい? 咲夜。強ければいいっていうものじゃないのよ。解決方法は何も力だけではない。妖怪や妖精って生まれつき人間より若干知能が低いのよ。だけど、咲夜は人間。私たち妖怪に無くてあなたにあるものがある』
『知能……』
『そう、あなたは考えることができる。私はね、あなたには弱くあってほしいと思っているの。誰に対してでも敬意を忘れずに、そして慮ることができる、そんな弱い人間になってほしい。』
『弱く? それじゃあ戦えないですよ?』
咲夜はレミリアの言葉の意味があまり理解できなかったため、不思議そうに首を傾げた。
『弱いっていうのは何にも戦いの事だけじゃないわ。それ以上は言わないからあなたが自分で考えてみなさい?』
『むぅ……分かりましたよ! 私、まずはメイド長を目指します!』
『おぉっ、大きく出たわね』
『そして弱い人の事を考えて弱い人を守れるようになります! お嬢様の事も守って見せますから!』
『ふふふ、楽しみね』
その時に見せた咲夜の笑みをレミリアは今も覚えている。
子供の時のやり取りで咲夜はあまり覚えていないだろうと思っているが、それでもレミリアはこの時の事を忘れたくはないと思っている。
「頑張りなさいよ、メイド長」
はい!第61話終了
最後に少しレミリアと咲夜のオリジナルの過去を書いてみましたが、どうでしたか?
そして大ピンチの黒葉。果たして咲夜は間に合うのか?
それでは!
さようなら