それでは前回のあらすじ
ひったくりに遭った女性にバッグを返した一行はとても感謝されたものの、人一人が死んでしまったということであまりいい気分にはなれなかった。
そこへちょうど咲夜が帰ってきたので宿を取ろうという話になったが、黒葉が自分の家へと招くという。
ルーミアとフランは単純に恥ずかしがっていたが、咲夜は家の横に白愛の墓があるということを知っていたため、どうしたものかと困り果てていた。
そんな時、黒葉の幼馴染の茉衣がみんなの前に現れる。
黒葉は茉衣の紹介をみんなにするものの、茉衣はみんなに名前を聞くのではなく、どういう関係なのかを圧を加えて問いただしたのだった。
それではどうぞ!
side三人称
「黒葉君とどういう関係……ですか?」
茉衣の圧に黒葉以外のメンバーは命の危険を感じてしまっていた。
さっきまでの黒葉と話していた時の雰囲気はどこへやら、嫌みなまでに丁寧な口調。それでもって発言を間違えたら殺されると思ってしまうほどの圧。
ただこの場で黒葉のみ、この状況を理解していなくてただ首をかしげるのみだった。
(何この子。霊力量はあまり多くない。だけど、変なことを言ったら命の危険があるような気がする)
「えっと……みなさんは友達ですよ」
「友達?」
黒葉の言葉を聞いてみんなにジト目を向ける茉衣の圧に負けて全員一斉に高速で首を縦に振る。
「まぁ、そういうことにしておきます。で、みなさんはこれからどうするつもりだったんですか?」
「これから宿を探しに行こうとしていたんだよ」
「いや、ですから、それなら僕の家に招待しますよ」
ルーミアが自分たちの今の状況を説明すると、やはり自分の家に招待しようとする黒葉。なんとか茉衣が現れたことによって咲夜はホッと一安心していたのだが、状況は元通りに。
このままでは黒葉の家にみんなで行くということになってしまう。そうなると必然的にやはり白愛が死んでいるということを無理やり思い出させてしまうということになり、もしかしたら記憶喪失を悪化させてしまうかもしれない。
再び窮地に陥った咲夜は必死に思考を巡らせるが、この状況で言い訳をする方法が思い浮かばない。
自分たちだけならば黒葉の家にお世話になるのは割るからという理由をつけて宿に泊まることはできるが、この人里に黒葉の家があるのだから黒葉がわざわざ宿に泊まる理由はない。
「そうなんですか……じゃあ、みなさんうちに来ますか?」
「え?」
茉衣の言葉に咲夜は一筋の希望を感じて声を上げた。
「え、いいの? 人数が結構いるみたいだけど」
「良いの良いの。それに…………黒葉君とみなさんだけを一緒に居させるわけにはいかないですから」
再び浴びせられる茉衣の圧。
その圧に押されて、ゆっくりゆっくりとその場から後ずさりをして逃げ出そうとする妖夢。だが、その服の襟をつかみ、鈴仙は妖夢を引き留めた。
「わ、私は宿をとって泊まりますから! 私は無関係で個別に観光に来ただけですから!」
「逃がさないよ、妖夢。ここまで来たからには妖夢にも巻き込まれてもらうよ」
正直この場にいる全員が妖夢と同じ気持ちでこの場から逃げたかったものの、咲夜に関してはやっと黒葉の家に行くということを回避できる一筋の希望が見えたのだ。今逃げ出すわけにはいかない。
そして茉衣は「それと……」と言ってから続けた。
「こんな夜中じゃもう宿も空いてない」
「そ、それもそうだけど。僕の家に――」
「あーもう、久々に会ったんだからいっぱい話をしたいって思うのは悪いことなのかな!?」
「っ、いえ、悪くはないです」
「じゃ、決まりね」
最初こそ納得していない様子の黒葉だったものの、茉衣の
この結果に咲夜は膝から崩れるほどに安心し、茉衣に強く感謝した。
ほかにもルーミアとフランもホッと一安心していた。
(黒葉の家だなんて……)
(心臓がいくつあっても足りないよ……)
ただ、一安心していたとしても咲夜とルーミア、フランでは安心の内容が違うが。
「それじゃあ、私たちも自己紹介をします。私は十六夜咲夜と申します」
「ルーミア!」
「フランドール・スカーレットです」
「魂魄妖夢です」
四人は自己紹介をする。だが、ただ一人、鈴仙だけはどうするべきか戸惑っていた。
鈴仙は黒葉の中では白愛という設定になっている。だが、茉衣は黒葉との知り合いのようだし、白愛のことも知っているはずだ。
だからここで鈴仙が自分の名前を素直に言ったら黒葉を混乱させてしまうし、白愛だと名乗ると怪しまれて自分だけ追い出されてしまう可能性がある。
そんなことを考えていると咲夜が全員を代表して発言した。
「お世話になります。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします」
さっきまで敵意を向けてきていた茉衣だが、とんでもなく丁寧に接されてしまうとさすがに毒気が抜かれてしまって普通に丁寧な口調で咲夜に返した。
これが咲夜の力、完全で瀟洒なメイドの力なのだ。
「そ、それじゃあ、私の家に招待しますのでこちらへどうぞ」
咲夜の策略でなんとか話しを反らして鈴仙の自己紹介を飛ばすことに成功し、茉衣が家へと招待してくれるということになったので、全員で茉衣の後をついていった。
「ここが私の家です」
暫く歩くとようやく茉衣の家へとたどり着いた。
茉衣の家はほかの家ともあんまり変わらないほどの見た目と大きさでこじんまりとしているが和風でとてもいい雰囲気の建物だった。
庭もあり、花が庭にいっぱい咲き乱れている。
「ただいまー」
茉衣は玄関扉を開けると帰宅の挨拶をし、家の中へと入っていったため、みんなも黒葉を先頭に遠慮気味にゆっくりと「おじゃまします」とあいさつをして家の中に入っていく。
家の内部は玄関から長い廊下が続いており、そこからさまざまな部屋に行けるような構造となっていた。
木造で廊下以外の場所は畳となっていてふすまで廊下と部屋が区切られている。
(あれ? 私たち以外に気配を感じる。この家の住人かしら? なら、挨拶をしないと)
気配を感じ取るのが得意な咲夜はいち早く自分たち以外にこの家の中にいるということに気が付いてそんなことを考えていると、茉衣は突然一つの部屋のふすまを開いて部屋の中に声をかけた。
「ただいまお兄ちゃ――って、またお菓子を食べてそのままにして」
「あぁ、おかえり茉衣。おそか……った、な……っ!」
『っ!』
その中にいる人物を見て咲夜と黒葉以外は全員驚きのあまり目を見開いてしまった。そしてその中にいる人物も黒葉たちの姿を見て驚愕していた。
食べていたスナックを掴む手の力が緩んで、畳の上に落してしまい、寝転がっていた体制を思わず起こしてしまっていた。
確かに突然お客さんがやってきたら誰もが驚くことだろう。だが、その人物の驚きの内容はただそれだけの話じゃなかった。
「な、なんでお前らがここに居るんだよ!」
「そ、それはこっちの台詞ですよ!」
そこにいた人物とは妖夢、鈴仙、ルーミアに最悪の印象を残した人物、分郷威迅だった。
はい!第85話終了
ついに泊まるところを見つけた咲夜たちですが、そのお世話になる茉衣の家では威迅がくつろいでいたんですね。
それに茉衣にお兄ちゃんと呼ばれていました。
実は茉衣には苗字があるのですが、意図的に苗字を言わせない様にしていたんですよね。
果たしてこれからどうなってしまうのでしょうか?
それでは!
さようなら