それでは前回のあらすじ
咲夜と鈴仙を問い詰める茉衣。
茉衣はどうやら黒葉をたぶらかしてさらったのだと思っているようだった。
そんな咲夜のことを茉衣は泥棒猫といい、一方的に敵意を向ける。
料理のコンビネーションは抜群だった二人だが、食事中も険悪な雰囲気は消えなかったため、何も知らない妖夢は雰囲気を感じ取っておびえながら食事を摂ったのだった。
それではどうぞ!
side三人称
「ふぅ……」
食後、一人一人お風呂を借りて入ることにした黒葉たちはまず家主である威迅と茉衣が入った後、じゃんけんで順番を決めてお風呂に入った。
そして残るはルーミアとフランの二人。
順番はルーミア、フランの順番で今はルーミアが風呂に入っている。
体を洗い、湯船に浸かりながらルーミアはここ数日の出来事を思い出していた。
紅魔館でゲンが襲ってきたこと、そのあと月刃が黒葉を攫っていったこと、救出に行った先で救出するどころか記憶喪失にさせてしまったこと、そして記憶喪失を何とかするためにこの人里まではるばるやってきたこと。
この数日間でいろいろありすぎた。
そのため、ルーミアの小さい体にも疲労がたまっており、湯船に浸かりながらだらんと全身の力を抜いて湯船の壁に体を預けた。
「黒葉……本当に記憶を取り戻せるのかな……?」
そのルーミアの不安そうな声は風呂場で反響し、誰にも届かずに消えていく。
今日一日の様子を見ている限り、全くこれっぽっちも前のことを思い出せそうな気配はない。
むしろ、昔なじみの人々にたくさんあったせいで今の記憶が定着しつつある可能性すらあるほどだった。
こんなところでは記憶を取り戻すことができないんじゃないかと思ってきていた。
「でも……いきなり紅魔館に連れて行って刺激しすぎたら脳が……」
なるべく早く記憶を取り戻したいところだけど、そこが懸念点だった。
「そういえば私の前って黒葉がお風呂に入ってたんだよね……」
今、分郷家の両親はいない。威迅と茉衣の二人を除いたら六人になる。
その中でルーミアは最後から2番目の5番目、そしてその前の4番目には黒葉がお風呂に入っていたのだ。
そのことを今更ながらにルーミアは意識をしてしまい、顔を真っ赤に染めてしまう。それによって若干のぼせかけてきて意識が朦朧としてしまう。
「黒葉……私、さみしいよ……」
自分に優しくしてくれた黒葉はもうこの場にはいない。そう考えると今度は涙があふれてきた。
その涙がゆっくりとほほを伝い、顎まで垂れてきて、その顎にたまった涙がぽとんと湯船にたまったお湯の中に落ちる。
その瞬間だった。
「ルーミア! 一緒に入ろー!」
「えっ!?」
突然扉が開け放たれ、自分の感情とは真逆の明るい声が聞こえてきたため、ルーミアは驚いて目を見開き、弾かれるように扉の方へと顔を向けた。
そこには自分と同じような金髪を持った煌びやかな羽を背中から生やしている少女、フランドール・スカーレットが居た。
彼女はルーミアの後に入る予定で今は待機しているはずだった。
だが、すでにフランは一糸まとわぬ姿となり、風呂場へと突撃してきてしまっていたのだ。
「ふ、フラン、どうしてここに!?」
「だーかーらー、一緒に入ろうって言ったでしょ? ってあれ?」
そこでフランはルーミアの様子がおかしいことに気が付いた。
顔は紅潮していて目も赤くなっており、その目には涙がたまっていた。ほほにも涙が流れたであろう痕が残されている。
完全にさっきまで泣いていたということが誰にでもわかるような状態だった。
「ごめんね……邪魔しちゃったかな……?」
「ち、違うよ! 大丈夫大丈夫!」
フランが申し訳なさそうにしながら謝るとルーミアはフランを落ち込ませまいと笑顔でそう言ってのけたが、本当はあまり大丈夫ではない。
前までは本当に親友、いやそれ以上の存在の様に仲良くしてくれていたのに、ここ数日、黒葉が記憶をなくしてしまってからは赤の他人、どこかよそよそしい態度で接されていたため、居心地が悪く、この人里に着いたときの別行動でもなんとなく鈴仙と共に行動することを選んだのだ。
だが、結構心に来てしまっていたため、正直もうそろそろ崩れ落ちそうになっていたのだ。
「……辛いよね」
「え?」
「私も黒葉にはよくしてもらっていたんだけどね、ちょっと寂しいよね、やっぱり」
フランの突然の言葉に驚いて固まってしまうルーミア。
話しながら風呂の中に入ってくるフランだったが、それに対してルーミアは何も反応することができなかったため、普通に風呂場に入ってくると椅子に座って体を洗い始めるフラン。
「私、昔は紅魔館の地下室に引きこもってたの。もう大切な人を壊したくなくてね……私の能力、【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】は時々、私の制御を離れて暴走してしまう……。だけどね、黒葉だけはなんだか壊れずに一緒にいてくれるような気がする。だって、二回も私の破壊のエネルギーに触れて無事だった人、初めてなんだよ。いや、人じゃないか。吸血鬼だもんね」
「そう……なんだ」
フランの思いを聞き、ルーミアは自分と重ね合わせて境遇が自分とかなり似ていることに気が付いた。
ルーミアも人の血肉を食らわなければ飢餓状態になって暴走をしてしまうという爆弾を抱えている。だが、それはフランも同じだった。
しかも、ルーミアのとは違いフランはいつ能力が暴走するかもわからない特別危険な爆弾だ。
「だからね、私も少し気持ちがわかる。あの頃の黒葉じゃなくなって、私たちとの思い出をなくしちゃって……でもね、少しうれしいとも思ってるんだ」
「うれしい?」
「うん、だって、今の記憶を失って強がっているわけじゃないってことはさ、これが素って事でしょ? それを見ることができるのは、なんだか、うれしいなって」
「あっ」
軽く笑みを浮かべながらそう言ったフランの言葉にルーミアはフランが強い女の子であるということを感じた。
ルーミアはここまでポジティブに考えることができない。さっきまでマイナス方面にばかり考えていて沼にはまっていたところだった。
だが、フランの言葉を聞いて少しルーミアの中での考えも変わっていくような感じがした。
「確かに私も昔の黒葉じゃないのはさみしいけど、でも今の黒葉も嫌いじゃないんだ。だって、優しいのは今も昔も同じだったしね」
「そう……だね。普通見ず知らずの人相手にここまでついてくるってことないよね」
ルーミアとフランは黒葉のことをよく知っているかもしれないが、記憶障害に陥っている黒葉からしてみればみんな初めましての他人なのだ。
だというのに、黒葉はみんなの言葉を真剣に聞き、その上で怪しむでもなく一緒についてきてくれている。
しかも、脳にあまり刺激を与えすぎないように黒葉に伝える情報を制限しているにもかかわらず、そこまで深く聞くことなくついてきてくれている。
普通ならありえないことだ。
「それじゃあ、お邪魔しまーす!」
「え、ちょっ!」
そこでようやくルーミアはフランが風呂場に入ってきていることに気が付き、驚きの声を上げたが時すでに遅し、フランはルーミアと向かい合うように湯船の中に入ってきた。
「えへへ、紅魔館のお風呂は大きいから結構な人数入れるけど、このお風呂はちょっと二人で入ったら狭いね」
「うん、だね」
一般家庭のバスタブなのだからお屋敷である紅魔館の湯船より小さいというのは当たり前のことであるが、それがゆえに二人同時に入ると結構な面積の肌が密着してしまうため、二人とも顔を赤くして照れてしまう。
女の子同士なのだから恥ずかしがることは何もないのだが、女の子同士とはいえ肌が触れ合うと恥ずかしくて照れてしまうものである。
だが、そんな時フランは突然遠い目をしだした。
「でも、こっちの方が人のぬくもりを感じる気がして、なんかいいかも」
「……辛かったの?」
「うん、ちょっとカッコつけて強がってみたけど、やっぱり私も悲しいものは悲しいかな。えへへ、……へへっ、……ねぇ、ルーミア。ぎゅってしてくれる?」
「うん、こんなのでよければいくらでも」
ルーミアはフランの言われたとおり、自分の胸にフランの頭を誘い込むように両手でギュッとフランの頭を抱きしめた。
ちょっとフランが考えていた抱擁の仕方と少し違うような気がしたものの、フランはルーミアが自分の胸を貸してくれたのだと考えてフランも手をルーミアの背に手を回して抱き着いた。
ルーミアを壊してしまわないよう、すごくすごく気を使って軽い抱擁をしたが、それでもフランはすごく満たされ、気分が落ち着いてきたような気がしてきた。
「黒葉が記憶を取り戻せるように、頑張ろうね」
「うん、ルーミア。一緒に頑張ろう」
「うん、フラン!」
結局二人で一緒にお風呂に入ったルーミアとフランはお互いを励ましあい、黒葉の記憶を取り戻す、今度は自分が黒葉を助けるという共通の目的を掲げ、友情が深まった。
ちなみに二人が風呂から上がってきた後、二人とも急に仲良くなったため、みんな少し困惑してしまったのだった。
はい!第88話終了
今回は僕にしては珍しいお風呂回でした。
裏では風呂に入っていることになっていますが、こうして風呂メインにした話を書くのは珍しいですよね。
まぁ、まだもうちょっとこの日を引き延ばしたかったというのと、今後の展開のためにもルーミアとフランの絆を深めておきたかったっていう感じです。
絵で見たくなる百合百合しい空間が出来上がっていますね。
それでは!
さようなら