それでは前回のあらすじ
順番に黒葉たちはお風呂を借りることになった。
そして順番はルーミアの番に。
ルーミアはここ数日のことを思い出し、黒葉が自分のことを完全に忘れてしまっているという事実に涙してしまう。
だが、そこへ乱入してきたフランに慰められ、元気を取り戻すが、フランは強がっていただけでルーミアの様に落ち込んでいた。
そして今度はルーミアがフランを慰めたことで二人は絆を深め、黒葉の記憶を取り戻すという目標に向かって突き進むのだった。
それではどうぞ!
side三人称
就寝時間、黒葉たちはそれぞれの部屋を割り振られ、その部屋で寝ることとなった。
とはいえ、この人数だ。全員が一人部屋で寝られるほどにこの家の部屋が余っているわけではない。
普通の家よりは部屋数は多いものの、ただの一軒家なのだ。旅館だとか、そういうわけではない。
そのため、くじ引きで二人一部屋を使うこととなった。
ルーミアと妖夢、咲夜と鈴仙、フランと茉衣、そして残った男二人はさすがに男女で同じ部屋にすることはできないとの咲夜の判断で黒葉と威迅が同室となった。
威迅と茉衣は抵抗したが、一瞬で却下されてしまったため、さすがにあまり暴れるわけにもいかずにしぶしぶ受け入れたのだった。
だが、二人とも抵抗したのは別々の理由で――
(ち、なんで俺が部屋を貸してやんなきゃいけねぇんだ)
(黒葉君と同室になって仲を深めるチャンスが……)
威迅は単純に他人と同室というのを嫌がっており、茉衣は不純な理由だった。
そんなこんなで二人一組の部屋で泊まることとなったのだが、この組み合わせが正直微妙なものだった。ことごとくあまりかかわりがない人物同士の組み合わせとなっている。
よかった組み合わせと言えば、フランと茉衣、黒葉と威迅の組み合わせの二つだろう。
フランと茉衣はお互いにいがみ合ってはいないし、黒葉と威迅は威迅が一方的に嫌っているだけで、黒葉も特に自分から突っかかって行こうとしないため、お互いに干渉せずに意外と平和だった。
もし茉衣が咲夜や鈴仙と同室になろうものだったらと考えると恐ろしい。次の日には血の海が出来上がってしまう可能性がある。
だが、それでもやっぱりちょっと不安が絶えないのが茉衣との同室だ。
「ねぇ、フランさんは黒葉君のこと、どう思ってるんですか?」
「え、黒葉の事?」
普通なら、同室になった相手と仲良くなるための話題作りなのだろうと、そう考える。
だが、これが
酷く低く、そして探るような、そんな声だった。
そのことにはフランもなんとなく気が付いており、茉衣への返答で発する言葉に気を付けてゆっくりと答えを告げる。
「友達……かな?」
「友達?」
「うん、私さ、昔訳あって引きこもってたんだよね」
だけど、フランはあまり難しく考えるのはやめた。
今考えても自分の姉とは違い、この先の事なんてわからないのだから、正直に言ってから後悔しようと考えて話し始めた。
ただし、自分の能力についてはまだ言わない方がいいだろうと考えてそこだけは省いて。
「黒葉が私を外に出してくれた。外に出れなかった間も話しかけてくれた。だからお友達かな? でも、なんだかお姉様が弟扱いしていて黒葉もお姉様のことを姉扱いしているから私にとっても弟? お兄様? みたいな感じかも」
「そうなんですか……」
「黒葉ってさ、ドが付くほどに優しいよね」
「うん、それはもう……ほんとうに……」
二人は布団にくるまり、背を向けあいながら会話する。
そして二人とも話をしながら今までの黒葉との思い出を脳裏に浮かべながら懐かしむ。
フランにとってはそんなに昔の出来事でもないのだが、今黒葉がこんな状態になってしまっているため、なんだか結構昔の出来事に感じるのだ。
茉衣はフランの言葉にすごく共感したのだろうか。しみじみとした風にフランの言葉に返事をすると、ゆっくりとフランの方へと体を向けた。
その動きに気が付いたのか、フランもフランで茉衣の方へと体を向けて、二人は向き合うような体制になる。
もうすでに茉衣からはフランへの敵意が薄れており、優しい雰囲気が漂っていた。
「ねぇ、フランさんは黒葉君の記憶が戻ってほしい?」
「うん。私は戻ってほしいかな」
「私は戻ってほしくない。だって、戻っちゃったら、また黒葉君はどこかへ行ってしまうと思うから……」
「そっか……」
(そうだよね、茉衣ちゃんの様子を見ていたらわかる。黒葉のことが本当に大切なんだ。軽くしか経緯を知らないけど、あの状況では仕方がないとはいえ、お姉様が有無を言わさず連れてきちゃったわけだからね……)
でも、茉衣は茉衣で戻ってほしい気持ちと戻ってほしくない気持ちの間で揺れてしまっていた。
黒葉の脳的には今の記憶喪失という状況は健全ではない。黒葉のことを思ったら記憶を取り戻す方がいいのだろうが、記憶を取り戻したら紅魔館へと戻ってしまうかもしれない。
そんな相反する感情が茉衣の頭の中を渦巻いていた。
「大丈夫だよ。もう、無理やり連れて行ったりとかはしないから」
「フランさん……」
「私もね、最初は連れ戻すつもりだったんだ。でもね、この人里に来てから考えが変わった。この里は良いところだね。だから、黒葉が残りたいって言ったら私は反対しないよ。お姉様にも上手く言っておく。いや、たぶんお姉様も分かってくれるよ。私のお姉様はすごく紅魔館のみんなを思っていて、やさしいんだから」
「……いいお姉さん何だね」
「うん。でも、引きこもっていた間は随分と苦労を掛けてしまったからさ、だから今度はお姉様のためになることができればいいなって思ってるんだよね」
「良いと思うよ。お姉さんも喜んでくれるよ」
「そうだと……いいな」
二人は笑いながら話をする。
このフランの考えを咲夜たちに伝えたとき、みんなにどんな反応をされるかはフランも予想できていない。
だが、これが今のフランの考え。
一緒に居たいと思う気持ちはあるものの、今の自分を作ってくれたのは黒葉で恩も感じている。そのため、黒葉の幸せの邪魔になるようなことは自分にはできないと思っているのだ。
「な、なんだか不思議な気分ですね」
「そ、そうだね。こうして今日あったばかりなのに一緒の部屋で寝るなんて……」
この部屋は妖夢とルーミアの部屋。
もう寝るために用意された布団を一緒に敷いて入ったところである。
二人ともくじ引きで決まった部屋割りなので、このペアに文句はないものの、二人とも今日先ほど初めてあったばかりなので、ぎこちない状態だった。
「そういえば、すごかったよ」
「何がです?」
「さっきの剣技だよ。あんなに分厚い盾、私と鈴仙だけじゃ突破できなかったよ」
「あ~あれですか」
ルーミアの誉め言葉を聞いて照れて顔を赤く染める妖夢。
「まぁ鈴仙の攻撃じゃあれは相性が悪いですからね。あの分厚さ、それも一撃ですべてを破壊しきるなんて、なかなかできることじゃない。私だって一撃じゃ無理でした。だから二発叩き込んだんですよ」
「二発? 一発に見えたけど」
「あれは二発の斬撃を一撃に圧縮して放っているんですよ。なので、あれは二発の攻撃何です」
「そんなことができるの?」
「ちょっと霊力操作が重要になるけど、剣士なら誰でもできる技だから特段すごいわけじゃないんですけどね」
すごいことじゃないと言ってのける妖夢だったが、ルーミアにとっては十分すごいことの様に感じた。
前に黒葉は霊力操作が苦手だといっていた。それに弱いということを嘆いていた。
もしかしたら、この技を黒葉が覚えることができれば、黒葉はもっと強くなれるんじゃないか、そう思ってルーミアはどうにかして黒葉にこの技を教えてあげたいと思い始めていた。
「ねぇ、妖夢。一つお願いがあるんだけど、いい?」
「お願い?」
「うん。黒葉に修行をつけてあげてほしいんだよ」
はい!第89話終了
今回はフランと茉衣の話がメインでした。
フランは過去のことから結構他人の感情には敏感だったりするので、恋心や怒りなどといった強い感情は感じ取ることができます。
そして妖夢の技、ついに紹介することができそうです。
この技は結構重要だったりするので、しっかりとやりたいと思います。
それでは!
さようなら