それでは前回のあらすじ
帰路を歩く黒葉、咲夜、妖夢の三人の前に現れたのは黒葉の両親だった。
二人は再会に涙するものの、雪姫の爆弾発言によって黒葉は記憶を思い出しそうになり、苦しみだす。
しかし、そこで茉衣の家が爆発。黒葉の記憶思い出しがキャンセルされた。
何やらただ事じゃないことが起こっている様子。
五人で茉衣の家から出てきた男を追うのだった。
それではどうぞ!
side三人称
「はぁ……はぁ……こ、黒葉君って身体能力的には低い方なんですよね」
妖夢、咲夜、烈夏、雪姫の四人は先に駆け出した黒葉の後を追って走っていた。
だが、意外にも黒葉のスピードは速く、四人が全力で走ってもなかなか距離が縮まることは無かった。
「えぇ……ただ、吸血鬼なので普通の人間よりは速いかも知れません」
「きゅ、吸血鬼なんですか!? じゃあ、今昼間なんですけど、大丈夫なんですか?」
「何とかね。空を見てください」
その咲夜の言葉を聞いて妖夢は空を見上げると、その先に広がる光景を見て納得した。
さっきまでは晴天で日傘をささなければ黒葉は丸焦げになってしまうため、咲夜は日傘をさしていたが、今は雲が完全に空を覆っており、黒葉が日光に焼かれてしまう心配は限りなく低い状態になっていた。
「ただ、今は昼間だから身体能力の低下は著しいはず……今の状態で誰かと戦うことは出来ません。早く黒葉を捕まえないと……っ!」
「雪姫、行けるか?」
「大丈夫よ。吹雪《
雪姫が技を使ったその瞬間、地面が徐々に凍り始めた。
その事に驚き、妖夢と咲夜は立ち止まるも、既に二人の下は凍ってしまっていたため、少し滑って転びそうになるものの、二人は持ち前の体幹で何とかこらえる。
だが、黒葉はそうではなかったようで、一瞬にして黒葉の場所まで凍りつき、黒葉は堪えることが出来ずに背後に倒れて尻もちを着いた。
それによって四人はやっと黒葉に追いつき、咲夜と雪姫が黒葉の両手を取って黒葉を取り押さえた。
「は、離してください。早く、早く行かないと大変なことになるんです」
二人に取り押さえられて、昼間で力が弱くなってるため、黒葉の力では抜けられないと本人も分かってはいるものの、それでも必死に抵抗する黒葉を見て咲夜はやはりただ事じゃないことが起こっていると確信した。
「み、見てください!」
妖夢の言葉にみんなが反応して妖夢の指した方へと視線を向けてみると、そこには茉衣の家があった。
夢中で黒葉を追いかけて走っていたらいつの間にか茉衣の家の前まで戻ってきていたようだ。
そして壁に穴が空いているため、内部を見ることが出来るのだが、見るに明らかに争ったような形跡があちらこちらに存在していた。
「早くしないと、早くしないと茉衣さんが……」
「茉衣さんが?」
「茉衣さんが攫われてしまったんです! あの男が持っていた袋の中身、あれが茉衣さんなんです!」
「「「「えぇっ!?」」」」
あの距離から男の姿を見るだけでも豆粒みたいで本来はあまり見えないのだが、何と黒葉には袋の中から見えるシルエットまでもハッキリと認識し、それが茉衣だと判断して走り出したのだ。
今この場であの距離から茉衣だと気がついたのは黒葉しか居ない。
(どういうこと? いくらなんでも目が良すぎる。紅魔館にいた頃はこんなこと無かったのに……黒葉の中で何が起こっているの?)
「とにかく茉衣さんを助けにいかなきゃいけないんです!」
「妖夢……っ!」
「はい、咲夜さん!」
「烈夏さん、雪姫さん、黒葉君をお願いします。私たちは茉衣さんを助けに行ってきます」
咲夜はそう言うと烈夏と雪姫の言葉も聞かずに黒葉を渡して男の走っていった方へと駆け出して行った。
一方その頃、茉衣はと言うと――
「むー! むー!」
「うるせぇなこのガキ。始末しちまうか?」
「やめとけ。ボスに殺されるぞ」
ここは盗賊団のアジト。
茉衣を攫ったあと、茉衣をアジトに連れてきて椅子に縛り、タオルを噛ませて喋られないようにしたのだ。
「しっかし、上手く行ったな。この嬢ちゃんを捕らえるのには俺一人で充分だったわけだ」
「運が良かっただけだ。あの狂犬が留守にしていたから簡単にさらえたのだ」
経緯はこの中の男一人が茉衣の家に侵入。
皿洗いなどをしていた茉衣に奇襲をかけ、そしてひっ捕らえて茉衣を袋詰めにして逃亡した。
だが、当然その最中に茉衣が抵抗したため、家には争った形跡があり、爆発もしたのだ。
だが、奇襲されてしまった茉衣が逃げ切れるほどの抵抗が出来る訳もなく、茉衣はそのまま捕らえられてしまった。
「それにしてもボスはなんでこんなガキを? 人質にしたってあの家はあんまり金がないようだが」
「なんでも、あの狂犬が前、俺たちの仲間をぶっ殺しやがったってんで、ここにおびき寄せて復讐しようって事なんだとか」
「へぇ、俺たちに喧嘩を売るたぁ、非常識なやつも居たもんだな」
がっはっはと茉衣の見張り役となった三人組の男は全員で高笑いをする。
今の所、茉衣は生かされているのだが、この後はどうなるか分からないという恐怖が茉衣を襲う。
何せ、今の自分はなんの抵抗も出来ないのだから恐怖はどんどんと増していく。
(狂犬ってお兄ちゃんのことだよね。つまり、ここにはお兄ちゃんを殺すための罠が張り巡らされているってこと? じゃあ、ここに来たらお兄ちゃんは殺されるかも。来ないで、お兄ちゃん)
兄が来なかったら自分がどうなるのか全く分からず、助けて欲しいという気持ちがありつつも、兄には死んで欲しくないため、来ないで欲しいという思いがぐちゃぐちゃになって茉衣の頭を駆け巡る。
でも兄のことだから多分来るんだろうな……とそんな事を考えていた時だった。
かん、かん、かんと石の上を靴で踏みしめる音が聞こえてきた。
「な、誰だ!」
盗賊の見張り達も驚きつつ、音が聞こえてきた方へと目を向けると、そこからは腕や足から血を垂れ流している人影が見えてきた。
「雨ニモマケズ……風ニモマケズ……」
「な、何者だ!」
「雪にも夏ノ暑サニモマケヌ」
「何者だって聞いてんだよ!」
「丈夫ナカラダヲモチ……欲ハナク……決シテ
「何だコイツ、何を言っている?」
歩みを止めず、そしてずっと本の一説を語りながら近づいてくる人物に狂気を覚えたのか、盗賊たちは一歩、また一歩と後退る。
「いやはや、読んだ時はそんなのは無理だろって思ったさ。雨は嫌いだ、突風は嫌いだ、雪も夏の暑さも嫌いだ。欲はあるし、怒りも人並みに抱くし、笑顔を絶やさないなど不可能だ。俺にはな――特にこんな状況だとな!」
「こ、コイツ、ボスの話していた狂犬ですよ!」
「な、なにぃっ!?」
そう、この場に現れた人物は今回の盗賊団の標的である狂犬・分郷威迅その人だった。
はい!第96話終了
いかがでしたでしょうか?
今回で黒葉の謎がより深まったのではないかと思います。
そして黒葉の代わりに咲夜と妖夢が茉衣を助けに行きましたね。
ただ、それより早くたどり着いていた威迅。
この作品ではあまり幻想入りっていうのは物語に絡ませていないんですが、幻想入り自体が無いわけではありません。
そんなこんなで幻想郷にたどり着いた本を威迅が読んでいるわけですね。
威迅が言っていた一説は宮沢賢治の『雨ニモマケズ』です。
果たして威迅の実力は以下に!?
それでは!
さようなら