それでは前回のあらすじ
単独で盗賊団のアジトに乗り込んだ威迅。
威迅はたった一人で茉衣の周囲にいた警備隊を壊滅させてしまう。
そして最後の一人のとどめを刺そうとしたその時、威迅の腕が凍り付いてしまった。
果たしてこの力は一体?
それではどうぞ!
side三人称
部屋中に冷気が満ちてゆく。
体の芯まで冷やすような凍てつく冷気。部屋は既に霜が張っており、こんな空間に長時間居たら直ぐに凍死してしまいそうな程だ。
さすがの威迅もこの状況には苦笑いを隠しきれない様子。
「どうだ? 俺の冷気は……お前の体表は既に凍りついている。ピクリとも動けないだろ? 安心しろよ。凍死はさせない。じっくり苦しめてから殺してやるよ」
「はは、そりゃ勘弁願いてぇもんだな」
悪態を着く威迅だが、その内心は若干焦っていた。
力を込めようが、その体には一本の棒が括り付けられているかのように動かすことが出来ないほどに体表を凍らされてしまっていた。
だが、意識はしっかりとしている。この男が言うように凍死などという安易な殺し方はしないつもりなのだろう。
「どうだ? 動けないのに相手がどんどんと近づいてくるその気分は」
ゆっくりとゆっくりと男は威迅へと一歩、また一歩と近づいていく。
この状況は絶体絶命と言わざるを得ない状況だった。なにせ、指一本動かせないほどに固められている状況で相手だけ自由に動くことが出来るのだから。
何もできない状況で一方的に攻撃されることほど怖いことはない。それはこの男も理解しているため、恐怖を煽るために言葉を紡いでいた。
「さすがの狂犬と言えどもこれだけがちがちに固められていたら何もできないだろ?」
「そうだなぁ……」
「まぁ、こんな状態の奴を一方的に痛めつける趣味はこの俺、湯冷芭露には無いわけよ」
「ほう、いい心がけだ」
「だから、お前らの処分はこいつに任せるとする」
その一言を告げた瞬間、芭露の背後から人影が飛び出してきて威迅に向かって飛び掛かってきた。
明確に殺意のある攻撃をしてきている。だが、今の威迅にはどうすることもできない。冷気によって靴も床にぺったりと引っ付いてしまった。
一見絶望的なこの状況。だが、威迅はこの状況で口元をゆがめてニヤリと笑った。
「お前、一つ間違えているぞ。攫う相手を根本から間違えている」
威迅に飛び掛かってきた影はさっき威迅が一掃した盗賊団と同じ下っ端の奴だった。
だが、そいつは威迅に攻撃を食らわせる前に斬撃を食らって真横に向かってぶっ飛ばされて壁に激突してしまっていた。
この一撃を放ったのは威迅ではない。威迅はそのままじっと黙って突っ立っていただけだ。
なら、どこから攻撃が飛んできたのか――
「なに!?」
芭露は驚き、弾かれるように攻撃が飛んできた方へと顔を向けると、そこにいたのは自分たちが攫ってきた少女、分郷茉衣だった。
茉衣は刀を手に取り、威迅に攻撃が届く前に下っ端に向かって攻撃をしてぶっ飛ばしたのだ。
力は茉衣にはないものの、双剣を利用することによって倍のパワーで相手を斬りつけることが出来る。だからこそ力があまりない茉衣でも人一人をぶっ飛ばすことが出来たのだ。
「お前らはよく知らないかもしれないがな、俺の妹はそこそこ強いぞ。そんで、お前はそんなところに居て勝ち誇ったつもりでいるかもしれねぇが、こんなもんは拘束された内には入らねぇ」
その瞬間、パキパキと部屋中に音が響きわたり始めた。
どうにもその音は威迅から聞こえてきているようで、何が起こっているのかと不思議に思った芭露は威迅を観察し、そしてようやく気がついた。
皮膚が凍っているのにパキパキと皮膚の氷を割りながら威迅がゆっくりと動き出していた。
凍った皮膚をパキパキと割りながら動いているので、割れた箇所から血が出てきているが、そんなことはお構い無しと言った様子の威迅にさすがの芭露も引いてしまって一歩、また一歩と後ずさる。
「お前、狂犬の名に恥じない狂いっぷりだな」
「薄いんだ」
「は?」
「お前の作り出す氷は
まるで何事も無かったかのように芭露へと刀を向ける威迅。
茉衣はそんな威迅の隣に立って刀をかまえ、先程ぶっ飛ばした下っ端へと体を向けた。
二人は言葉ではなく、態度で通じあって自然と芭露を威迅が、下っ端を茉衣が相手することとなった。
そもそも茉衣は自分の実力では芭露と戦っても足でまといになると判断したから兄と芭露の戦いを邪魔しないように周りの下っ端を近づけないように戦うと決めた。
「まぁ、割れるとしてもだ。その体には相当なダメージが入っているだろ。そんな状態でまともに戦えんのか?」
「心配してくれてありがとうな」
その次の瞬間だった。
二人は一瞬にして消えたかと思うと、威迅と芭露はど真中でぶつかり合っていた。
威迅は刀で芭露は凍らせた拳で互いに押し合い、衝撃波を生み出した。
そしてその衝撃波はこの寒さのせいで凍りつき、霰のようなものが周囲に巻き散らかされた。
「おい、そんな氷なんかじゃ俺の刀は止められねぇぞ!」
「っ!」
そこでパキッと芭露の拳を覆っていた氷にヒビが入り、それに気がついた芭露は慌ててその場から飛び退いてその刀を回避した。
(回避しなけりゃ俺はあの刀に真っ二つにされていた……なんてやつだ)
おもむろに天井を見上げた芭露は嘆く。
(こんな化け物と戦えって、ボスも酷い指示を出すなぁ……まぁ、この盗賊団に入ってからずっと覚悟していたことだけどな……本気、出さなきゃどの道死ぬってこった)
芭露は威迅という強敵を前にして覚悟を決め、スイッチした。
ポタン。
ここは屋根もある室内だ。だと言うのに突然雨が降り始めた時のように天井から水滴が落ちてきた。
何が起こっているのか。そしてこの冷気で何故この水滴が凍らないのか不思議に思い、威迅は周囲を見回した。
「なっ!?」
威迅は驚きの声を上げる。
どうしてか? なぜなら周囲に張ってた氷の膜が突然溶け始め、水となって壁や天井の水が流れ落ちて来たからだ。
特に天井の氷が溶けて水となったら雨のようにこの部屋に降り注いでくる。
(なんだ、何が起こってる。この部屋はこいつのせいで寒いはずなのに……寒い?)
「な、何が起こってるの!?」
「ははは、これが芭露様の力だ!」
「っ!?」
下っ端は笑いながらゆっくりと立ち上がってナイフを構え、茉衣へと飛びかかった。
それを茉衣は驚きつつも受け止めたが、突然だったため双剣を使用する暇がなく、素の力で受け止めることとなったため、下っ端よりもフィジカルが弱い茉衣はじわじわと押されて行く。
「茉衣っ!?」
威迅はその様子を見て茉衣を助けに駆け出そうとしたが、それは出来なかった。
駆け出そうとした威迅の前に一瞬にして移動した芭露は目にも止まらぬ速さで蹴りを放ち、威迅を壁までぶっ飛ばした。
「く、かはっ、熱ッ!?」
壁に激突し、床に崩れ落ちた威迅はその床のあまりの熱さに、すぐに立ち上がった。
その床の温度は熱したフライパンにも匹敵するほどの温度になっており、少し触れただけでも火傷してしまいそうな程だった。
「お前の能力はどうなってやがる」
はい!第98話終了
威迅と芭露の戦いがついに始まりましたが、芭露の能力はどんな能力なのでしょうか?
そして茉衣の運命や如何に!?
ちなみに茉衣は双剣を使ってましたが、未だに十字になってます。
咲夜と妖夢はいつ来るのでしょうか?
それでは!
さようなら