人類が滅亡するのは別に俺のせいではない   作:鳥ッピイ

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レプリカントver1.22が発売されたので初投稿です。


A分岐 ソシテ誰モイナクナッタ
1話「1万年後の君へ」


西暦2003年6月12日。新宿区上空に突如現れた巨人と竜の戦い...通称【6.12】は、いわばヒトの運命の分岐点であることに議論の余地はない。

でも多くの人間たちにとって、巨人と竜の戦いよりもそれらによって派生された白塩化症候群に目を向けるだろう。

白塩化症候群は人類という種を絶滅寸前まで追い詰めた未知の病である。 その病は瞬く間に広まって、多くの人を絶望に突き落とした。

 

同じくヒトであるエリヤもまたその病に罹患はしていないにしろ、たまたまとある用事の帰り道でその病の末路を見たことがある。エリヤにとってその一瞬はあまりにも非現実的な光景だった。

 

その老婆はもう灯りをともさなくなって久しい電柱の真下で力まさに尽きようとしており、エリヤは助けるわけでもなく横目に通り過ぎようとした時の事だ。

 

...古びた毛布を身にまきつけた細い枯れ木らのような手足の老婆は吹けば飛ぶような体をしていたけれども、確かにそこに存在していた。

生あるもの全てにとって死は絶対のゴールである。生き物はいつか死体というモノに成り果て最後に土に還るにしても、その過程には様々な過程と自然のルールが適応されるはずだ。

神とやらはどうであるかはエリヤにとって知るよしも無いが、人間だって死んだらまず最初に肉が溶けてなんやかんやあって、最後に骨が残るように。

 

白塩化症候群はそういった自然法則を尽く無視するらしい。ともかく老婆はエリヤが意識を逸らした一瞬のうちに消えていた。 骨すらも残さずに。

その時とても強い風が吹いて、老婆だった塩と毛布が曇り空に螺旋を描いて高く舞い上がったのをよく覚えている。

 

「エリヤさん、どうだい? 味の方は」

 

「はあ、とても美味しいでふ。」

 

「それはよかった!。最近は菓子の生産も凝った形の入手は中々難しくなっていてね。...でもちょうど手に入ったからぜひ食べて欲しかったんだ。君が来てくれてから様々な取引が随分とスムーズになって助かっているからそのお礼だよ。君、甘いものが好きだろう?」

 

「そんな滅相もない、ありがとうございます。」

 

口の中に残った甘ったるいお茶菓子を咀嚼しながら答えたせいか、間抜けな返答になったエリヤを上司はニコニコとただ見つめている。

 

多分『ちょうど』なんて嘘なんだろうけど、いつもの事だからエリヤは何も言わないことにしている。

 

14時半。決められた遅めの昼休憩の時間。いつものように無人の会議室でラジオを起動させれば、雑音と軽快な音楽とともに生活再建プログラムの放送が流れ始める。

人によっては下品と話題のメロディーの後にはお決まりの言葉の羅列をエリヤは嫌いではなかった。それは己に語りかけられている言葉ではないからだ。

 

『こんな時代だからこそ!!みんなで手を取り合っていきましょう!。生活再建プログラムは皆様の健康的で文化的な最低限の...』

 

「ところで、」

 

「そういえば知ってます?。 一般に向けたゲシュタルト計画の応募者の抽選、60枠に...えっと...とりあえず何千倍の応募数があったそうですよ。条件も結構厳しいのに。」

 

「へぇ、羨ましいね。私たちにはまだ回ってこない話だが...。」

 

平静を装いながらも上擦った上司の声を聞きながしながら、エリヤは窓の外を目を向けた。相変わらずの曇り空、そして雪が降るように塩が降っている。

 

「でも...。君は望めばいつでもゲシュタルト化による保存が許可されるだろう?なぜやらないんだい?」

 

 

「...............」

 

 

ゲシュタルト計画。

 

 

それは人類最後の希望。

 

人を体と魂に分けて、白塩化症候群が消えてなくなるまでみんなで仲良く眠りにつこう!といった計画である。

まるで魔法のような話だ。

実際にマソとかいうファンタジー関連じみたものが関わってはいるものの、それらはおとぎ話や子供が夢見るような奇跡の類でないことは無知なエリヤでさえも百も承知の事実であった。どちらかと言えばバルスとかザラキーマとかそちらの滅びの呪文の系統の方だ。

上司の言う通り、エリヤは望めばいつだってゲシュタルト化を許可されるだろう。

そして多分目覚めないながき眠りにつく。

計画が公に発表されて20年、最初は前代未聞の計画に反発する声が大きかったゲシュタルト計画は、レギオンの襲撃と国際情勢の悪化に伴い世間では好意的に受け入れられている。

上層階級の一部はとっくのとうに眠りについて新世界を心待ちにしているのだ。

今回の日本政府から公式に発表された民間の募集の人気の白熱具合をみればそれらは一目瞭然だ。 みんなこんな不安定な世界に生きていないでさっさと病のない楽園に行きたいんだろう。

 

末法思想が現代で流行るなんて思いもしなかった。

 

あと9000年は早いって...。とエリヤは目を細める。

 

ぶっちゃけてしまえば、エリヤはゲシュタルト計画だのレプリカント作戦だの、ほとんど興味はなかった。いや殆どじゃない。全ッッッッツ然なかった。

 

 

 

いやだって、結局人類滅びんじゃん?

 

 

......

 

 

 

 

 

 

 

ラジオからは相変わらずいっそ不穏に感じられるような小煩い音楽がずっと流れている。

別にトラックに跳ねられたとか、通り魔に刺されたとか、そんな劇的な事件があったわけじゃない。

エリヤはエリヤなんて名前では...多分、なかったし、髪だって銀髪じゃなかったはずだ。 ブリーチをした記憶はない。前も今もきっと日本人、多分。

そして確実に言えるのは、前のエリヤは少なくとも女ではなかった。

まずこの世界に存在していることを自覚した時に感じたのは体の強烈な違和感だった。

 

それらは問題だけど問題じゃない。

重要なのはエリヤは気がついたら『前』にやり込んでいたとあるゲームの世界にいたというか、転生していたことを思い出したことだ。

ある日、といってもつい最近のある日に突然シャボン玉が弾けるみたいに一気に思い出して、前のエリヤは今のエリヤに人格を塗り替えられた。

 

前のエリヤはきっとどこかに消えて死んだに違いない。

 

 

...そのゲームの世界の時間軸では人類が既になんやかんやあって絶滅していたことは徹底的に秘匿されている。

 

主人公たちはアンドロイドであって、ヨルハ部隊というエイリアンから地球を奪還する組織に所属している。

健気にヒトのために宇宙からやってきたエイリアンが生み出した機械生命体と戦う主人公たちには残酷な運命が待ち受けている。 そういった陰惨な内容だ。

アンドロイドに造られ、アンドロイドによって破棄される捨て駒という名のナニカ。

詳細は省くが、主人公たちアンドロイドはそういった存在であった。

 

彼らの捨て身の献身は人類に届いてすらいない。 人類は美しい彼らが誕生する前に滅びているんだから。それはなんて勿体ない事なんだろう。特に主人公のひとりである2B、彼女はとても美しい。 何度画面に齧り着くように眺めながら彼女を操作したことか!。せっかく同じ世界にいるのに彼女の太ももを見れずに死ぬのが確定しているなんて、酷すぎる悲劇だ。

 

じ、人類滅びるんか〜い!というツッコミは置いて、今エリヤが生きる2050年代はいわばその「なんやかんや」の時期なのだろう。

 

 

......ゲームの本編は西暦11945年、今は西暦2053年。 本編までに9892年かかるじゃねえか!解散!!!!!!!!!

 

 

「エリヤさん?...ぁぁ、いや!すまない!!。お祖父さんの件はまだあまり時間が経ってなかったね。不躾なことを...」

 

「アハハ。ホラ、ゲシュタルト計画はやはりまだ不安定な部分があるという噂もききましてね。まだワタシはその時ではないと。」

 

「そうなのかい? 不安だな...。 」

 

「副所長にはお世話になってますし、何あれば伝えますよ。」

 

 

エリヤは粉々に吹っ飛んだ意識に集合命令を掛けながらなんとか微笑んだ。

 

目の前の『上司』は、黙りこくったエリヤの態度に酷く脅えて取りなおしてくるが、エリヤが普段通りの態度を見せるとあからさまに安心した様子を見せる。

 

まるでエリヤの気分を損ねることを何より恐れているようであった。

しかしこれらの対応はこの世界において既に見慣れたものだった。

 

エリヤは別に、この世界に来る時チート能力を貰った訳では無い。

いくら何千年後の未来を知っていようとも、かの預言者の如く人類の救世主にエリヤがなることは不可能だ。

 

一部の者を除いて多くの人間は明日食事にありつけるか否かとか、何らかの奇跡によってゲシュタルト計画の順番が早期に回ってくるかが最も重要であって、人類の行方なんて知ったこっちゃないだろう。

そしてエリヤは明日の食事の心配をしなくて良いにもかかわらず、人の未来にも興味はなかった。

 

エリヤはとある一種の体質を除けば凡庸なただの人間だ。

なにか勇気があるわけでも、特別優しい訳でもない。 むしろ彼女は冷徹で最低の部類に属する人間であるといえる。

しかしエリヤは、特別ではなくても類まれなる幸運に恵まれた人物だった。

 

エリヤの祖父は人類の希望と名高いゲシュタルト計画の科学者の一人である。

 

 

ただし、祖父のことをエリヤはあまり覚えていない。何年か前祖父が死んだ時、まだ『前』のエリヤであったし、いくつかの思い出以外の記憶は朧気だった。

 

エリヤの両親は幼い頃、ゲシュタルト化が間に合わず白塩化症候群で亡くなってしまったらしい。

だからエリヤは祖父に育てられた筈なのだが、それでも過去を思い出そうとするとモヤがかかったように思い出せない。

 

ともかく、エリヤは祖父のおかげでこの終わりかけた世界であっても穏やかに生きることが出来た。 毎日の食事もその日の寝床にも困ったことは無い。大きすぎる屋敷に有無も言わぬアンドロイドと実質ひとりで過ごしていた。

難民が溢れる中で、大学ではどの学部に進学しようかと迷う暇すらあったことをエリヤは『前』の自分の日記で知ったのだ。

 

この世界で何としても生き残ろうと大学で必死に学ぶ同輩を片目に、ぼんやりと講義を受けるという舐め腐った日々を過ごしているエリヤに国連の傘下である世界浄化機関からインターンの誘いがあった。

ゲシュタルト計画の関係者である祖父の縁を辿ってのことであった。

 

そうしてエリヤは世界浄化機関が所有する東京の研究所の一室にいる。

 

エリヤに宛てがわれた上司は不祥事を起こし、自衛隊からほぼ捨て駒のような形で派遣された男であったから、男にとって世間知らずのお嬢様であるエリヤはまさに天からの使いにも等しい存在であった。

 

ゲシュタルト計画の概要は謎が多く、またその安全性は内部関係者である男にすら不鮮明な部分が多かった。

 

その中でゲシュタルト計画の関係者であるエリヤと親しくなれば『もしかすれば』と蜘蛛の糸よりも細い希望をかけて近寄ってくる人間は、文字通り吐いて捨てるほどいたが、実際その徒労は全くの無駄である。

エリヤは確かに凡庸な人間であるが、今も昔も無意識に相手が最も期待する言葉を与えるという才を持っていた。 聞き流しているにも関わらず話の概要を掴むことも同時に上手かった。

おそらく何人かはそれらの言葉に希望を抱いたまま塩と化していっただろう。

 

 

上司の粘ついた視線をものともせずに

エリヤは「生まれた時代を1万年間違えたな」と呑気に渋い緑茶を啜っていた。

 




ver1.22が発売されたしオートマタだけじゃなくてレプリカントもハーメルンで増えるやろと高を括っていたら増えなくて世界滅ぼしかけたので書きました。レプリカントも増えろ...増えてください...(懇願)
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