人類が滅亡するのは別に俺のせいではない   作:鳥ッピイ

10 / 14
無限列車に無賃乗車したので(B分岐)3話初投稿です。 お前も 女の子に ならないか(TS)


3話「『母親』」

「主人公のニーアとヨナがどのように関わるのか」。言い換えれば、「なぜニーアが主人公なのか」という疑問に行き着くかもしれない。要するに、ニーアはどんな要因によって主人公と足り得る存在なのか、ということだ。

 

主人公は物語の中心的存在であり、何かを成す大切な役割であることに変わりない。生まれつき特別で何か宿命を背負わされたり、また生まれは普通でも英雄と呼ばれるような栄光を手に入れるからこそ主人公と呼ばれたりするだろう。 主人公が必ずしも善行を成し遂げるとは限らないが、悪行なら敵の場合がほとんどだ。

そしてゲームや漫画によっては時に主人公は資格や血筋といった法則が存在するものだ。 ジョジョだったら主人公は必ずジョースターの家系だし。

ドラクエならば世界を救う勇者であったりと言うのが定番だがニーアシリーズだからなあ......。 ろくな理由ではなさそう。

 

ゲシュタルト計画がガバガバなのは置いておいて、やはり疑問なのはニーアとヨナのことだった。 西暦2053年と3000年あたりに何故か2人がいることはこの世界に来た当初の謎のひとつだったが、ゲシュタルト計画関連について調べるうちにこちらも様々なことがわかってきた。

 

まず白塩化症候群の撲滅には時間経過による解決だけではなく、レプリカントを使うらしい。 レプリカントとはゲシュタルトによって魂と体をわけられた人間の体の部分───魂のない身体のことだ。正確にはヒトのDNAによって生み出されるコピー体だが。

 

レプリカント計画はそうした人もどきの人形を使って白塩化症候群から生み出される怪物...レギオンを討伐させるといったものだ。 ちなみにそれを管理するのはアンドロイド。 この計画もまた全て他人任せというかなんと言えばいいのか、不安定要素がこれまた多い計画だ、まあどうでもいいか。気になるのはレプリカントはゲームの題名だっていうことだ。 ゲシュタルト計画が重要なのはわかるし英語版でニーアゲシュタルトがあるのは知っているが、何故わざわざレプリカントの方も題名になっているんだ?

 

メタ的な視点は一旦置いておいて、こちらではレプリカント計画の終了はすなわちゲシュタルト計画の完遂に直結する。

計画にかかると言われる期間はネットなどではマチマチだが世界浄化機関から渡されたゲシュタルト計画概要書ではおよそ1000年はかかるという見通しだった。 少なくとも、なのか多くともなのかすらわからなかったが、この概要書が僕が得られる情報の中では最も信憑性が高いのは間違いない。

 

 

ゲシュタルト計画の完遂にかかる時間が1000年だと言うのならば、ゲームの冒頭で突然時が1300年ぐらい飛んだことも説明が着く。

 

2B達はアンドロイドであり、だからこそタイトルはニーアオートマタなのは納得がいく。主人公達がアンドロイドなのだから分かりやすい。

 

だから最初は1300年後のニーア達はレプリカントなのかと思ったが、レプリカントには魂がない以上感情は無いということは調べたので知っている。

ならば冒頭のムービーはゲシュタルト計画が完遂し、人類が復興した1000年後のシーンでは無いのだろうか。

妙にファンタジーだったのは1000年も人の営みが滞っていたんだから文明が後退でもしたのだろう。 アポカリプス系の作品ではよくある展開だ。僕知ってる、進研ゼミで見た。

 

いや、もしゲシュタルト計画が完遂して人類が復興していたならばオートマタで人類が滅びていることに説明がつかないのか?

それに、ゲーム序盤で言及される『マモノ』は...............。

 

うーん。やはりオートマタをプレイしていても直接的な話の繋がりがないだけあって考察には限界がある。 レプリカントあたりの状況はわかっても結局ニーアがなぜ主人公になり得るのか、そしてなぜ人類が滅びるのかはさっぱり分からない。

 

祖父の形見だというリボルバーのトリガーの部分でフラフープのようにぐるぐると回しながら思案するが、疑問に対する答えは浮かばないままだ。

 

一旦休憩とばかりに息を吐く。乾いた咳が出た。

 

『アクションゲーム初めてでも大丈夫だからやってみろって。ソフト貸すからさ』

 

 

 

ああ、あの時遠慮せずにもっとやり込んどけばよかったな。

 

 

 

「ゲホ.......」

 

就職したこともあるが、最近の数ヶ月は慣れない愛想を振りまいて疲れることが多かった。

情報収集において書面だけでは限界がある。そう思い一度参加して今までおざなりにしてきたパーティやらなんやらに参加しているがやはり精神的疲労が重なるせいか、最近は体調が悪い。

 

 

「ゴヒュ.........」

 

喉から重い息が出る

痛み止めを飲む頻度を増やしても頭痛が治らないことが多くなってきた。 咳も止まらない。 ......もっと強い薬を使用するべきだろうか?

 

 

「ゴホ.........オ゛ェッ.........」

 

薬箱から探そうと立ち上がった時、喉から込み上げる何かに思わず口元を抑える。 ビチャと手のひらを汚したのはどす黒い血液だった。

 

 

そこで意識を失った。

 

 

 

 

 

..............................

 

............

 

 

 

幼い頃、思い出す父親の顔はいつも歪んでいた。 家に母親はいなかった。 小学校に入学してすぐに自分の家の異常さには気付いていた。

親権が母親ではなくてなぜ父親だったのか、その母親はどこに行ったのか。その答えを結局知ることはなかった。日々の食事を尋ねただけで殴られ、命の危機を感じるような日々の中でそんなことを聞く余裕なんてなかったのだ。

家の中はアルコールと滅多に捨てられないゴミのせいで異臭を放っていたし、食事ですら危うかったのだから風呂や洗濯など出来るわけなんてない。

小学生の頃、いつも同じ服を着る()に友達なんて一人もいなかった。ずっとひとりぼっちだった。

 

 

父親はいつも昼間から家にいて酒を飲む正真正銘のろくでなしだったが、羽振りが良かったのか家にはいつも顔ぶれの違う女がいた。

狭いアパートの部屋で聞こえる喘ぎ声に耳を塞いで、息を潜めながら考えるのは顔もわからぬ母親のことだ。

 

虫のように縮こまって寝る前に、朝起きた時に、教室で隣の子に机を離された時に、遠足のお昼、キャラクターが海苔であしらわれたお弁当を見た時に、「███くんに誰か絵の具を貸してあげてください」と担任がクラスメイトに言ったあの日に、母親はどこにいるのだろうとそればかり考えていた。

 

女を置物程度にしか考えていないクズな男だ。母親はそんな男から愛想をつかして逃げたのだろう。きっとなにか理由があって俺を置いていったのだ。 そうでなければ幼い子供を捨てて消えるはずがない。きっと、いつか迎えに来てくれる。

 

早く帰ったら殴られて買い物に行かされるのは分かっていたから、休日の公園手を引かれて帰る親子を眺めながらブランコでひとりそう信じていた。

 

ある日、いつも通りに泥酔した父親は俺を殴ったあと風呂から出てこなかった。

長風呂だなとは思ったが風呂に入っている間は殴られずに済むので気にしなかった。その日は珍しく連れ込んでいた女もいなかった。

 

次の朝、俺が学校に行く時も、帰ってきた時も父親は風呂から出てこなかった。

父と連絡がつかない事を訝しんだ女が尋ねて来て耳うるさい悲鳴をあげるまで、俺はしばらくつかの間の平穏を楽しんでいた。

 

施設のベットは清潔で誰にも眠りを妨げることはなかった。それでも葬式の前日、俺は生まれて初めて楽しみで眠れなかった。

遠足や、運動会の前日だってこんなに楽しい日はないってくらいだった。

 

 

 

 

式が始まって、俺はずっと会場の入口を見つめていた。

一体どんな人なのだろう。 父親といる女たちと違って、艶やかな黒い髪なのかもしれない。もしくはクラスメイトたちの母親のように、綺麗な服を着ているのだろうか。 どのような笑顔なのだろうか。

恨みはいっぱいあるけれど、もし謝ってくれるなら許してあげないこともない。「ごめんね。███ 迎えに来たよ」ただ一言、そう言ってくれるなら。

 

 

 

来なかった。

人のこない簡素な通夜になっても、告別式になっても、火葬の後収骨の時さえも母親は来なかった。

葬儀が終わり、施設の人が俺の肩を叩く最後の瞬間まで俺はそこに突っ立っていた。

俺はその日、自分が描いていたものが妄想に過ぎないことに漸く気づいたのだった。

 

 

 

だが、捨てる神もいれば拾う神もいるのか、天涯孤独だと思っていた俺には行政の調べによって父方の祖父がいることが明らかになった。初対面、父の面影を強く残しているのにも関わらず、祖父は父が決して見せない顔で俺を見て、弱々しい手で俺の頭を撫でた。

 

俺の存在が明るみに出た時、祖父は既に痛みを和らげるための緩和ケアを受けている末期のガンで余命数ヶ月の状態だった。

 

 

拾う神にすらどうやら俺は足蹴りにされたらしい。

 

 

祖父が死んで、中学を卒業するまでは施設で過ごしたが、高校からは生前祖父が用意してくれたアパートの一室で暮らすことになった。真っ当にサラリーマンとして生きていた祖父は父に持ち逃げされたおかげで老後の貯金をほとんど失ってしまったらしいが、それなりの額を俺に遺産として残してくれていた。

高校生にもなれば周りは俺をあからさまにいじめることはなくなった。代わりに俺の境遇を知った人達は哀れみの目に隠れて好奇の目を寄せるようにはなったが、巧妙に皆巧妙に隠すので、それらが煩わしいと思うことは滅多になかったし、友人もできた。 クラスメイトの女子に1度告白された事もある。 断ったが、その気持ちは心から嬉しかった。

 

 

視界が暗転する。

 

昼のチャイムが鳴った。

 

にわかに騒がしくなるクラスを片目に購買に行こうと俺も立ち上がる。 視界の高さに違和感を覚えて...覚えて?

 

「███、飯買いに行こうぜ」

 

「.........あ?」

 

「あ?じゃねえよ。寝ぼけてんの?」

 

「なんで...君が、ここに...」

 

「こりゃ本格的に寝ぼけてんな」

 

友人は俺の背を思いっきり叩いた。

 

「お、今日珍しく豪華じゃん。」

 

「ああ............」

 

普段は懐事情を考えて、購買のパンは1番安いものばかりを買っていたが、俺が今日の昼食に購入したのは日替わりの少し高いやつだ。

 

「何?臨時収入でもあったの。いつもは貯金してるんだろ」

 

「そういう訳じゃないが......。今はもう、いいんだ」

 

「ふーん」

 

友人は深く聞いてこないが、俺に家族はおらず祖父の遺産を切り詰めて暮らしていることを知っている。

俺ははこいつの他者に興味のないところを気に入っていた。

 

「そういえばPS4、買ったんだ」

 

「おっ、まじか。お前が金使うとか明日は槍かな。で、なんのソフトやるの」

 

「いや、買ったのはまだ本体だけ」

 

「本体だけかよ! 相変わらずなんか抜けてんな」

 

「君が好きな...赤い子が出てくるやつ、やろうと思って」

 

「あっ?、あー。それはソシャゲのほうな。俺がこの前言ったのは別のやつ」

 

 

「そう.........だったっけ」

 

 

視界が暗転する。

 

 

 

「███、母親のことは...わすれなさい」

 

 

しゃがれた声で、それでも何か思い詰めたように祖父は言う。顔は暗い病室に差し込む太陽光にみえない。

祖父は母親について何も教えてくれなかった。 何かを知っている素振りはあったが小学生の俺には、何も教えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

母については調べればあっさり分かった。 幼いあの日々は一体何だったのだろうかと思うほどにあっさりと。

 

 

 

結論からいえば母親は生きていた。

 

 

公正証書...法的に効力を持つ文書によって母親は俺と面会を禁じられていた。

まだ乳幼児だった俺を首を絞めて殺そうとしたらしい。

あのくそったれの父親が俺を助けたとは思えないが、今こうして殺されることなく俺は生きている、何があったのかは祖父が死んだ今もはや闇の中だ。

その祖父も俺の存在自体を知らなかったのだから今更か。

 

胸の中でずっと蓋をしてきた膿が重しを除けて湧き上がってくる気がしてくる。母親は、母さんはまだ生きている。

 

 

 

視界が暗転する。

 

 

クリスマスが近い、冬の寒い日。

新幹線に乗り、首都圏からとある地方都市を尋ねた。

目当ての住所はどこにでもある今どきの民家だ。 しかし俺はその家にたどり着いてもチャイムを押す勇気はなかった。

安くて薄いコートは風の冷たさをあまり防いではくれなかったが、昔よりよっぽどマシな防寒着を買えるようになったから寒さは気にならなかった。

 

嫌な予感がする。

やめたほうがいいとはわかっている。

 

もう毎日同じ服を着ることも無くきちんと洗った制服を着て、皆と同じ真っ当な昼食を食べていても、ふとした瞬間自分の体からアルコールの据えた匂いがする時がある。

それは表面上どんなに取り繕っても、俺は未だにあのオンボロのアパートの一室でゴミのように頭を抱えたままであるような気がしてならない。

 

 

 

殴られないように頭を抱え込む視界の向こう側で振るわれる拳ではなく、さし伸ばされる手をずっと待ち望みながら惨めなあの日々にずっと俺は囚われている。

 

 

冬の晴天だった空が暗くなって随分経った頃、1台のタクシーが民家の前に止まった。 飛び出したのは、一人の女の子だった。

(俺と違って)暖かさそうで、かわいらしいコートを着ていて、小さなキャラクターのリュックサックに入り切らない大きさのプレゼントが覗いている。

 

「ママ、パパ早く早く!!!」

 

「急いでもプレゼントは逃げないぞ」

 

「走ると危ないわよ」

 

父親は品の良いスーツを着ていて、女の人は、落ち着いた雰囲気で......。

 

そこには昔夕暮れの公園で見た「幸せな家族」そのものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あら?」

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもないの。誰か見ていたような気がして」

 

「そうか?誰もいないな...。冷えるからとりあえず家に入ろう」

 

 

 

その光景を直視出来なくて思わず走り出す。滲む視界で知らない街が消えていく。

 

ついに走れなくなってたどり着いた寂れた公園に入り込む。今にも消えそうな電灯が、塗装の禿げた遊具を照らしていた。

 

「はっ.........あ.....」

 

吐いた。

今日は何も口にしていないので胃液だけなのがせめてもの救いか。

 

とめどなく流れる涙で嗚咽を零しながら、俺は呪った。 父親を、あの幼年期を、母親を、.......世界を。

 

地面にぶちまけられた透明な胃液が、真っ赤な血液と重なる。 膝に着いた手が男の手から女の手に変わり、視界の端にうつる髪は黒から白に変わった。

███()█から、クレイエリヤ()になる。夢と現実が曖昧になる。どちらが本当でどちらが幻なのか。

 

 

嫌だ。

 

 

 

視界が歪む。

 

いつの間にか、雪が降っていた。

鐘の音が響く。あれは災厄だと直感が理解した。

 

女は嫌だ。

 

父親が女を見る時の目が、女たちの父親に媚びる目が、母親のいない惨めな幼少期が、俺が何度も何度も夢想して、そして俺に向けられることは決してない母親の笑顔が混ざり汚く混ざり合う。

しかし、凹凸のある柔らかな体と肚の鈍痛が女であることを知らしめる。

 

「がっ...あ゛..................」

 

酷い耳鳴りと、頭痛がする。頭を抱えて目を閉じると、まるで母親のような優しい手つきで誰かに頭を撫でられた。

 

そして、いつもいつも、誰かが囁いている誰かが呟いている誰かが叫んでいる誰かが誰かが誰かが醜悪に、歌うように

 

 

───人を滅ぼせと

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字報告サンクス! 匿名解除しました。

2021年10月14日ちょっと加筆修正したゾイ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。