「ぐぁぁっ!」
黒い化け物の剣にコンクリートの壁にたたきつけられ、少年は辛うじて受身を通った。ガンガンと頭に警報が鳴り響く。
すかさず傍の黒い本で弾を打ち、敵を牽制しながら後ろに回り込み、飛び上がって勢いのまま脳天に鉄パイプを振り下ろす。
「............ッ!」
どこからか吹き出したのか、生ぬるい血飛沫が顔面に直撃し視界が狭まる中、そのまま勢いに任せて地面まで一直線に叩き割った。
「■■■■!!!!」 「■■■!」「■■!!!」
ワラワラと沸く小さいが、数が多い雑魚を鉄パイプだけではなく体力の魔力で編んだ杭を出し一掃する。
後ろから襲いかかってきた2体の化け物を魔力の拳でなぎ払い、まるで庇うように重なるふたつの黒い影に鉄パイプを突き刺した。
「ゼエッ......がハッ...ハッ...」
思わず膝をつきひきつる喉と悲鳴をあげる肺を落ち着かせる。 黒い化け物はひっきりなしに襲いかかり、いくら黒い本に触り自在に操れる力をてにいれたとしても確実に少年の体力を消耗させていた。
「はっ........!?」
ひと段落着いたかと落ち着くまもなく、少し離れてしまったスーパーマーケットのすぐ側に少年の2.3倍は身長のある腕が異様に発達した大きな黒い怪物が現れる。 少年は目を見開いた。立ち上がろうにも、息が切れて直ぐに体勢を立て直すことは不可能だ。
「(あっちにはヨナが.........!!、)」
「オラァァァアッ!!!」
その時、黒い怪物の後ろから人影が飛び出し、怪物の頭と思わしき部分を横に向かって殴ったのを少年は目撃した。
「ッッ!!!!」
巨体が揺らめいたその隙を見逃さず、なけ無しの全力の魔力で槍を作り怪物の頭に投槍する。呼応するように先程の人物がトドメとして両手に得物を持ち上げ、怪物の図体をえぐり切った。大量の血を吹き出しながら音を立てて、焼けるように消えていく。
少年はもう一片の魔力も残っていないが、何より体力が限界を超えていた。震える膝を叱咤して鉄パイプを杖に立ち上がり、助けてくれたと思わしき人物を初めて少年は視認する。
長いボサボサの白い髪と、黒い防寒着を纏っていても華奢の体からおそらく女だということはわかる。
「...!!おい君、後ろ!!!!、」
「えっ......なっ!!!!」
「■■■■■■■■!!!!」
少年のすぐ後ろには、取り逃したと思わしき怪物が武器を振り上げていた。
パン!と銃声が鳴り響く。
「賭けだったが...本当に効果があるとは........」
少年は思わず倒れ込み、何とか後ずさる。 女は手に黒く光る銃を怪物に撃ったあとその銃をまじまじと見つめた。黒いソレは大きなダメージを受けたものの即死には至らなかったらしく、消滅することなく地面に倒れ小刻みに震えている。
「この銃リボルバーだから6発しか入って......残り1発しかないじゃないか。アコールのヤツめ......弾も寄越せよ」
何やらブツブツとつぶやいた女だったが、黒い怪物の息の根を止めていないことに気づいたらしい。 血を滴らせた獲物であるシャベルを引きずりながら動けない少年のそばを通り過ぎ、怪物に向かって振り上げる。
「■■■......■■■■......」
「知るか」
そうして女は怪物にトドメをさした。
-.
「怪我は無いか」
「だ、大丈夫です。助けてくれてありがとう.........」
「フッ......礼には及ばない」
おもむろにさし伸ばされた女の手を取り、少年はなんとか立ち上がる。決まったな...とドヤ顔を晒すと女は少年の手を掴んだままシャベルを塩の雪に突き刺し、別の手で少年のフードに手を差し込んだ。
「!?」
こちらの顔をなんの躊躇もなく覗き込む女
に少年は狼狽えるが、接近した女の顔をみて目を見開く。女の泥を混ぜたような濁った紅い瞳には既視感があった。
「あなたは、もしかして」
その時、女の髪で隠された額から血が滴り落ちた。
「...............」
「........................」
「あの、あなたこそ怪我は大丈夫ですか?」
「返り血です」
「えっ」
「返り血です」
「で、でも額から血が」
「返り血だって言っているだろう返り血なんだよ」
「ええっ......」
▲▼
「そういえば...ヨナ!!!ヨナは!!?」
「(嘘だろ...えっ恥ずかしい。穴があったら入りたい。)」
スーパーに向かって駆け出した主人公の後ろを歩きながら額をゴシゴシと擦った。
絆創膏をください、人をひとり包み込めるくらいの......。
こちらの手に縋るようにして立ち上がっていたから立つのも辛いのかと思っていたが、主人公はふらつきながらもそれなりのスピードで走っている。 どこからそんな力が出ているんだ。長男パワーってやつか? 僕は今も昔も一人っ子だから耐えられん。
いや、兄妹で長男と長女だけだろうから長男パワーというのはおかしいか。お兄ちゃんパワー?
ついでに彼が落とした鉄パイプも回収する。武器は手放しちゃダメだよ武器は。
...せっかくかっこよく決まったと思ったのに決まらなかった僕に言われたくないだろう。......恥ずかしくてやばい。初めてスカートを履いた時以上に恥ずかしいかもしれない。
「お兄ちゃん......」
「ヨナ!!!無事か!?」
「うん......あのね、この人がね。ヨナのこと、たすけてくれたの」
「ヨナのことも!? どうやってお礼を言えばいいか...!」
「.......................................ん?」
そういえば、急に戦闘に巻き込まれるわなんやで落ち着ける暇がずっとなかった。
ここに来てからまだ30分も経過していないのに、色々ありすぎてまるで昨日の事ぐらいに遠い。とても寒いはずなのに酷く汗をかいている。
...............
.........
そもそもアコールが手を貸してくれて主人公がいるらしいスーパーを特定したのはいいが、道に迷って裏口の方に到着してしまった。 表に回ろうにも封鎖されてるわ崩壊してるわ戦闘しているらしき音は響くわなんやらで状況を確かめようと屋上に駆けあがったところ、地面の崩壊に気付かず転げ落ちたというわけだ。
「あ゛いてぇぇぇぇぇっ!!」
「......!?」
痛みなんて鮮明な感覚は久しぶりだった。
ずっと自分を覆っていた膜を切り裂かれたようだった。
そのせいか受身もとれず転がりながら痛みにのたうち回っていた時、目の前にいたのが顔色が悪い小さな子供...回想して思うのはこの子供がヨナだろう。
「うぐぐぐぐ............」
子供は急に目の前に現れた僕を不審がり、戸惑ってはいたが、心配の方が勝ったらしい。「だ、だいじょうぶですか」と声をかけてくれた。
「だ、大丈夫...大丈夫...え???大丈夫だよね。頭割れてないよね。うん、ダイジョブダヨ......」
「ほ、ほんとうに...?」
「ほ、ほんとほんと...ハハ...ありがと...」
その時、壊れて久しいだろう入口のそばに大きな黒い影が現れた。
「ひっ.........」
「うわ」
黒いデカブツは僕たちに気づいたらしい。 ノロノロとした動きでこちらを振り返る。 ついでに僕の後ろに隠れた女の子が「お兄ちゃん」と呟いたのも僕の耳には届いていた。
「ああ、もうドンパチやってるのか」
このまま店内にあの巨体が入ってこられたらそちらの方が厄介だ。足元にあった黒い本を蹴飛ばすと、僕は予め持ってきておいたシャベルを掴んで駆け出した。
....................................
1回どころか2回痴態を晒してました。
助けてたっていうか、ほぼ成り行きじゃねえかよ。普通に足を滑らせて妹の方にも無様を晒してたよ。恥の多い人生過ぎない?
「本当にありがとう...!この恩は忘れません!」
「忘れてください.........」
「ええっ!?」
「(メメント・モリ......キリエ・エレイソン...エリエリ...なんだっけ)」
恥ずかしすぎて主人公達の方を向けない。
というか顔をあげられない。(恥ずかしさで)HPがゴリゴリ削れてる。絆創膏程度ではダメだ。誰かお客様の中でベホイミを習得の方はいらっしゃいませんか!?
恥ずかしさで死んでいる間、すぐ隣では緊張がとけたのか倒れた妹を介抱する主人公が必死に妹に向かって呼びかけている。
どうやら酷い熱らしい。顔色が悪いとは思ってはいたが、本当に体調が悪いようだ。兄妹は必死な様子でクッキー云々の会話を交わしている。
「(あ、ここ序盤で見たところか)」
「お願いです...!!ヨナを、妹を助けてください!!」
「...あ?」
「ずっと熱が下がらないんだ......図々しいのはわかってます!! でももう食料も...お金も無いんです。薬なんて......。お願いです、助けてください!!」
「ん?今なんでもするって」
「何でもします!!」
「..............................」
そっかあ......何でもしちゃうかあ。
それ、他の人にあんまり言わない方がいいと思うけど、まあこんな世界だしそうも言っていられないんだろう。よかったな、僕が「げへへ、かわいい顔してるじゃねーか」とのたまうソッチの人間じゃなくて。
意味深的な意味じゃなくても、相手が何者かわからないのに下手に出るものじゃない。
妹を抱きしめながら、ほぼ土下座のような形で懇願する少年の目の前にしゃがみこむ。 この世界に滲む銀色の髪、くすんだ青の必死な瞳。よく見ればとてもそっくりな兄と妹。
僕は君に会えることをずっと待ち望んでいたから、この懇願はむしろ都合が良かった。
「いいぜ、妹を助けてやる、ついでに大出血サービスで君もな。そしてひとつ条件がある」
「条件?」
「条件というか、約束だな。別にそんなに重く考えなくていい、僕も正直よく分かってない。」
「なんでも、いい。それでヨナが...助かるなら。」
「そうか、──それでは............」
僕がさしだした条件に少年は再び呆気に取られた顔をした。
こいつめちゃくちゃ面白い顔するな、この表情、今日だけで何回見たんだろう?
「それじゃあ契約成立ってことで」
「う、うん。あの」
とりあえずここは危険なので移動することになった。僕にしては気を使って気絶した妹を背負ってやろうかと言ったが断られてしまった。彼の武器であった鉄パイプでも持ち帰ってやることにした。オートマタでも釣りで釣った記憶があるし、武器コンプには必要だ。ぶっちゃけ手持ち無沙汰なだけなので特に意味はないです。
「あなたの、名前は...?」
「うん?」
肩の鉄パイプとシャベルの重みに顔を顰めながら、予想外のことを話しかけてきた主人公を見る。 .........僕は完全に向こうを知った気になっていたが、主人公からしたらまだまだ知らない怪しいお姉さん(お兄さん)な訳だ。これから一緒に行くんだから、自己紹介は大事だろう。
「僕はエリヤ、久礼衿夜......まあ、エリヤでいい」
「僕はニーア、こっちは...妹のヨナ」
「そうか、思った通りの良い名前だ」
感想、もし良かったらくださると嬉しいです。誤字脱字報告もありがとうございます。