女体化鯖に劣情を抱く……それはつまりホモでは? 作:独断独歩
カルデアのシミュレーションルームの一角に、とある男女がいた。
「……………」
「……………」
既に三時間。無言で瞳を交わしている。
男の方は、胸の高さに腕を上げて、女の方は、腰の近くにある刀にやんわりと片手を添えている。
「「…………」」
二人とも表情に色はない。瞳だけが燃えるように揺らめいており、一触即発という空気感を漂わせていた。
「……………………ここッ!」
唐突に「やった斬った!」女が言った。
「…むぅ」男は意外そうに目を見開いて自らの腹を撫でる。
それは傍目から見れば何とも奇妙な光景であった。
何せ彼女は刀を抜いていないのに「斬った」と言うのだ。
「……これで五対五か」
「変な物よね~、いくら殆ど同じ霊基だからって霊核は全くの別物なのに実力がこうも拮抗するなんて」
言いながら
今は不完全ゆえに釣り合っているが、『それ』が完成すれば彼方が……いや、先に完成した方が上手となる。
(やっぱり、潜った修羅場の数が違うのかな……)
彼女たちは同じ存在だ。しかし
一方で男は傷のない腹を見つめながら目を細め、腕を下げて腰辺りに近付けると、
「…無刀の極致にはまだ足りぬか」
その瞬間、女は反射的に刀を抜いた。
全身の筋肉が、細胞が、"斬られる"と勝手に動いて距離を取る。
「……ハハ、今本気で斬ろうとしたでしょ?」
「誠に面妖なり」
女の言葉に返事を返さずに、男はただ、自分が逆の立場だったら同じ動きをしただろうと空想していた。
二体の宮本武蔵。セイバーを召喚してから数日が経った。
カルデアの最後のマスターである藤丸リツカは、初めてとなる正規サーヴァントの運用訓練と、彼らによる剣術の指導を併合しながら上手くこなしている。今のところサーヴァント達との関係は良好であり、パートナーであるマシュ・キリエライトとの連携も慣れたものとなっていた。
「ハァ…ハァ…」
「お疲れ様です、マスター」
「ありがとうマシュ」
労いの言葉と共にマシュから手渡されたスポーツドリンクで喉を潤し、高鳴る心臓を宥めるリツカは、首と腹、肩と手首を撫でて、不可視の刃が通り抜けた錯覚を思い出して身震いする。
「武蔵さんのアレは本当に心臓に悪いよ」
実際に
『ふむ……筋は悪くないが、剣の才はこれっぽっちもないな。どこをどう斬られるのが正解か実際に味わって見ると良い』
残念ながら自分に剣の才能はなく、武蔵さんから教わったのは斬り方ではなく、斬られ方。
どう受ければダメージが少ないのか、どう受けたら不味いのかを本当に斬られたと錯覚するぐらい(……あれが殺気というやつなのだろうか?)散々叩き込まれた。
それはこれからの事を考えれば、とても有意義だったと言えるのだが、如何せん少し前まで一般人であったリツカには辛い物がある。
「武蔵さん達はもう少し訓練を続けるようです」
「そっか。俺も頑張らないとな!」
魔術師ではないリツカにとってサーヴァントとはよく分からないが、人理修復の為に手を貸してくれる凄い人達。
だから彼らが努力しているなら自分だけが怠けている訳にはいかないと、太ももを叩いて立ち上がる。
第二特異点へのレイシフトは明朝に予定されていた。