さあ、悪はここにあるぞ   作:子悪党

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VSサンドパン

 どうして悪党というのは徒党を組むのだろうか。ここ最近のカシワはそんな事を考えている。

 発端は数日前。ロケット団の三人を撃退したことに遡る。それからは、一日に一度必ず襲撃に遭い、その時間は実にまちまち。せめて、時間の統一をしてくれるならば、もう少し楽なのだが相手が聞き入れる理由も道理もない。

 良かった点といえば、ベトベターのレベルが上がっている事か。相手のレベルが低くとも、常に多勢に無勢の状態で戦い続ければ経験値は溜まっていく。

 

 

「なぁっ!?ゴルバット!?」

 

 

 今も、ズバットの進化系であるゴルバットをベトベターが下して、勝負あり。

 既に見慣れた黒づくめの背中を見送って、カシワは大きく欠伸をする。

 バトル自体には慣れた。だが、慣れというのは同時に気の緩みを齎し、気の緩みは疲労を表面化させてしまう。

 ロケット団の襲撃がいつやってくるのか分からない現状、ろくに眠ることも出来ない。であれば、逃げ隠れすればいいのかもしれないが生憎と路地裏もスラムも広くも狭い。複雑に入り組んではいるものの敷地面積はそれほどではないのだ。

 何より、周りに余分な被害を与えればいかに強者であろうとも数の暴力の前に膝をつく事になりかねない。

 すり寄ってくるベトベターの頭を撫で、その柔らかなスライムのような体に体を預けて目を閉じる。

 少しは休めるだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 泣く子も黙るロケット団。

 今はまだ、表の世界にそれほど影響を与えている訳ではないのだが、すでに裏社会では名の知れた存在となっている。

 

 

「スラムに、強い子供だと?」

 

「はい、ボス。なんでも下っ端連中が躍起になって、連日向かってるのだとか」

 

「そろそろ噂になりそうな所です」

 

「子供か」

 

 

 強面の黒スーツの男、サカキは部下からの報告を受け書類へと目を通す。

 この男こそ、ロケット団のボス。悪事に手を染め、荒稼ぎを行う諸悪の根源であり、悪のカリスマでもあった。

 

 

「如何いたしましょうか、ボス。直ぐにでも、鎮圧いたしますか?」

 

「……いや、オレが行こう」

 

「ボ、ボス自らですか!?」

 

「興味が湧いた。下っ端といえども、オレの部下だ。何より、モンスターボール無しに野生のポケモンをそこまで従える。興味深いとは思わないか?」

 

 

 不敵に笑うサカキ。

 野生のポケモンをモンスターボール無しで従える事は、可能ではある。だが、破落戸だってそんな横着をすることは無い。

 モンスターボールは、単純な捕獲の為だけの道具ではないからだ。

 ソレは、所謂ところの安全装置。ボールにさえ収めてしまえば、暴れるポケモンもどうにか抑え込むことができる。

 身体的に圧倒的な弱者が、ポケモンという強者を従えるための道具。モンスターボールにはその側面が確かにあるのだ。

 サカキは己のスケジュールを再確認すると、行動に移る。

 

 

 

***

 

 

 

 あの邂逅より、カシワは今のところロケット団とのバトルを全戦全勝で進めていた。

 というのも、ロケット団の面々の手持ちというのは基本的に、どく、じめん、ノーマル、ひこうのタイプが多い。

 弱点はつけないし、むしろ弱点を突かれる事の方がタイプ的には多いのだが、だからこそ相手の攻撃を見切りやすいためだ。

 ベトベターは、機動力がない。無いからこそ、トレーナーの観る力がモノを言う。

 少なくとも、カシワにしてみればロケット団の下っ端たちの動きは読み易いものばかりであった。

 

 だからだろう、油断していたのは。

 

 

「ッ、ベトベター!その場でジャンプ!」

 

 

 咄嗟の指示だった。それでも反応してくれたのは、偏にその信頼関係のなせる業。

 ベトベターが地面を離れるのとほぼ同時に、地面が大きく揺れる。

 じめんタイプの大技、じしん。直撃すれば、まず間違いなくベトベターには致命傷であるし、最悪一発ダウンとなってもおかしくはなかっただろう。

 今回のバトルは、いつもの路地裏ではない。寂れたバトルフィールドで、人払いがされた上での完全な一対一。

 相対するのは、黒いスーツ姿の強面の男。繰り出したのは、じめんタイプでありその背中に棘を背負った鋭い爪を持つサンドパン。

 今まで相手にしてきた下っ端とは比べ物にならない相手だ。それを相対した瞬間、カシワは理解していた。

 まず、速度が違い過ぎる。遠距離攻撃の手段であるヘドロこうげきは容易く躱された。距離にしたってほとんど一瞬で詰められた。反応できたのは、ほとんど奇跡だ。

 

 

「よく躱したな。だが、そろそろ息も切れてきたころか」

 

 

 サンドパンも、そして従える男の方も余裕の態度は崩れない。

 一方で、カシワは度重なる鋭い攻撃の処理に時間を食い、ベトベターもかなり消耗している。

 

 

「ッ……ベトベター、周りに『ヘドロこうげき』!」

 

 

 一か八か、カシワは賭けに出た。

 振り撒かれるヘドロたち。瞬く間にフィールドは毒に占拠されていく。

 この様子に頷くのは強面の男だ。

 

 

「ほう、不利とみて自分の得意なフィールドへと引きずり込むか。面白い。陳腐な手だが、だからこそ磨けば光るだろう」

 

 

 言いながら、男は一つ指を鳴らす。すると、サンドパンの前に星形のエネルギーがいくつも現れ放たれた。

 スピードスター。ノーマルタイプの技で、破壊力に秀でている訳ではないが特筆するべきはその必中性にある。

 要するに、逃げても追尾して当たるのだ。

 物理的な技の多いサンドパンの動きを封じるうえで、毒を含んだヘドロをまき散らして行動を制限するのは良い手だった。だが、動きを封じられたからといって攻撃手段がゼロになる訳ではないのだ。

 ただ、カシワだってこの場で常に成長している。

 

 

「ベトベター!『ヘドロこうげき』で迎撃!」

 

 

 星形弾とヘドロがぶつかり爆発する。

 そして、ここからが場を作った真骨頂。

 

 

「む……」

 

 

 煙が晴れたところで、男は眉間にしわを寄せる。

 煙が晴れると、ベトベターが消えた。少なくとも、見た範囲では分からずサンドパンも困惑しているのか首を傾げているではないか。

 逃げたわけではない。カシワの作戦は、遂行中だ。

 

 

「――――そこだ、ベトベター!」

 

 

 カシワが叫ぶと同時に、()()()()()()()ベトベター。その粘性の体を大きく広げてサンドパンの背後より襲い掛かっていた。

 ヘドロを撒いたのは、何もサンドパンの動きを阻害するためだけではない。

 ベトベターの体は、元々ヘドロだ。それは進化しても変わらない。

 要は己の体をとろけさせてヘドロと同化して移動することも出来るのだ。そこから元の形に戻る事だって当然できる。ついでに、消耗したヘドロを回復させることも可能。

 サンドパンは進化系といえども、その体格は決して大きくはない。ベトベターも同じくらいの大きさではあるが、こちらの方が重量はある。

 疑似的な『のしかかり』状態となり、サンドパンは動けない。

 

 

「そのまま『どくガス』だ!体力奪っちまえ!」

 

 

 攻め手を緩めないカシワ。えげつない事でも平気で命令する。

 サンドパンにのしかかった状態のベトベターの口より流れ始める紫のガス。それは、ゆっくりと漂いサンドパンを蝕んでいく。

 じめんタイプへのどくタイプの技の威力は半減されてしまう。しかし、ソレは毒状態にならない訳ではないのだ。

 超至近距離で毒の体に包まれながら、毒ガスを浴び続ければ効きづらくとも毒に侵される。

 追い込まれた()()()()()サンドパン。事実、その体には着実に毒が回り、体力をガリガリと削っていく。

 だが、ここでベトベターの搭載武器の少なさが裏目に出た。

 

 

「良い手だ。だが、悠長が過ぎるな。サンドパン、『じしん』だ」

 

「キューッ!」

 

「その体勢から……!?ッ、ベトベター!?」

 

 

 悲鳴のような声が飛び出すが、もう遅い。

 全力の地震が衝撃となって、ベトベターの体を揺らし、そして吹き飛ばす。

 相性の悪さと蓄積したダメージ。レベル差もこれに加えれば数え役満。ベトベターが耐えられる道理もなく、吹き飛ばされた体はフィールドに崩れ落ちていた。

 駆け寄ったカシワだが、そこから先どうすることも出来ない。せいぜいが、自分の小さな体を使ってベトベターを庇う事ぐらい。

 一方の男も、サンドパンにどくけしを使いボールへと戻しているところだった。

 

 

「良い腕だ。うちの部下を下っ端とはいえ、ベトベター一匹で下せるだけの事はある」

 

「……」

 

「お前、名前は?」

 

「……カシワ」

 

「そうか。では、カシワ。私と一緒に来い」

 

「アンタと?」

 

「それほどの腕、埋もれさせるには惜しい逸材だ。特に、ベトベターの体の特徴と技をミックスさせた奇襲は見事だった」

 

「……で?こんな汚い俺を拾うのか?」

 

「これは、未来への投資の話だ。私は、お前のバトルの腕を買い、お前は買われた腕を磨く。言うなれば道楽だ。何より――――」

 

 

 目の前に立つ男の目が、真っすぐにカシワを貫いた。

 

 

「――――お前は敗者で、私は勝者だ。バトルの世界で、敗者の権利は存在しない」

 

 

 勝負が紙一重であっても、その後に待っている結果は天と地ほどの溝がある。勝敗には、言葉以上の重みが確かにあるのだ。

 こう言われてしまえば、カシワには何も言えない。

 彼は敗者で、目の前の男は勝者。それも、()()()()()()()()()()()勝者である。

 分かりましたと返答代わりに、カシワは両手を上げた。

 その様子に満足げに頷く、男はニヒルに、悪辣にその口角を歪める。

 

 

「行くぞ、カシワ。私を失望させるなよ」

 

「……へいへい」

 

 

 先を行く男の背を追って、カシワはどうにかこうにか起き上がったベトベターを連れて行く。

 かくして、彼は悪の道へとその第一歩を踏み出すことになる。

 

 

 

 

「……おい、ベトベターはボールに入れろ。車が汚れるだろう」

 

「ボール、持ってない」

 

「……そうだったな。なら、この中から選べ」

 

「ベトベター、どれがいい?」

 

「ベェ?……ベェトォ」

 

「オッサン、これにする。この上下が白いボール」

 

「サカキだ」

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