さあ、悪はここにあるぞ   作:子悪党

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VSサイホーン

 ロケット団のボス、サカキにはいくつかの別の顔が存在している。

 その一つが、ここカントー地方における八つのジムバッジの内、その最後の関門を務めるジムリーダーとしての顔だ。

 マフィアのボスが、ジムリーダーなどおかしくも見えるが、ソレはソレ。粗を見せないことも、表の顔という奴であった。

 サカキのジムは、じめんタイプが主流。彼自身もじめんタイプのエキスパートであり、本気の手持ちもじめんタイプだ。

 

 

「『ころがる』だ、イシツブテ!的を絞らせんな!」

 

 

 カシワの指示に従って、イシツブテは転がり始める。

 相対するのは、頑丈な体を持つサイホーン。大型トレーラーも体当たりでぶっ飛ばせるようなパワーと頑健さを併せ持った脳筋の様なポケモンだ。

 サイホーン単体なら、カシワも警戒はそれほどしない。

 しかし、今回の相手は時間に余裕のあるサカキなのだ。

 

 

「機動力の無さを、技で補う。悪くは無いが、これにはどう対応する?サイホーン、『じしん』だ」

 

 

 的が動いて狙えないのならば、その動く範囲全てを攻撃すればいいだけの事。

 サイホーンの前足が持ち上げられ、振り下ろされると同時にビルそのものが震えるような衝撃がフィールドに伝播していく。

 こうなれば、逃げ道は限定されてしまう訳で、

 

 

「ジャンプだ!」

 

 

 上に逃げるしかない。転がっていたイシツブテは折りたたんでいた両腕をバネの様にして空中へと逃れていた。

 ただ、これは奇策でも何でもない苦し紛れの行動であり、そして対戦するサカキには読み易い行動でしかなかった。誘導されたとも言う。

 

 

「『ロックブラスト』だ。撃ち落としてやれ」

 

 

 放たれる岩の塊。いわタイプの技は、物理偏重の様に見えて、その実遠距離攻撃の手段が豊富なタイプでもあったりする。

 この技もそうで、岩を発射し相手にぶつける。命中率は然程よろしくないが、それでも空中で身動きの取れない相手を狙う程度ならば造作もない。

 炸裂した岩の塊に吹き飛ばされフィールドへと落とされるイシツブテ。こうかはいまひとつ、なのだが相手はサカキの育成したポケモンだ。そんじょそこらのトレーナーの手持ちとは格が違う。

 

 

「畳みかけろ、サイホーン。『とっしん』だ」

 

 

 そして、サカキ自身に容赦もない。目をかけている子供が相手であろうとも、否目をかけているからこそその手を緩めることは無い。

 ビルすら粉砕するサイホーンの突進。生半可なポケモンでは止める事はまず不可能。だが、躱すこともまた至難。

 

 

「『まるくなる』だ、イシツブテ!そのまま後ろに『ころがる』!」

 

 

 落下の衝撃で体勢を崩しているイシツブテでは、回避不可能と判断したカシワは、ダメージを最小限に抑える選択を採った。

 昨今の研究で、ポケモンの技を出す順番で後から出す技の威力が上がることが報告されている。

 その一つ、防御を上げる『まるくなる』と『ころがる』のコンボだ。

 突き刺さる、サイホーンの鼻先にある角。だがそれは、クリーンヒットとは言えない当たり方だった。

 丸くなることで防御を上げ、後方に転がる事で衝撃を逃がし加えてのタイプ相性。『とっしん』は、ノーマルタイプの技であるからいわタイプであるイシツブテは半減で受ける事が出来るのだ。

 もっとも、それでもレベル差加味して致命傷に届かない程度。ダメージがゼロになる訳ではなかった。

 

 

「大丈夫か、イシツブテ」

 

「ラ、ラッシャイ……!」

 

 

 ダメージは大きい。カシワの声にこたえるイシツブテに覇気は無い。

 追い込まれた。しかし、ここで諦めていてはこれからの生活に差し支える。

 

 

「イシツブテ!『どろあそび』だ!泥を撒け!」

 

 

 であるならば、足掻くしかない。カシワは、足場を奪う事を選択した。

 本来は、でんきタイプの技の威力を半減させる効果を持つ。だが、泥というのは存外足を取られ、踏めば滑りやすい代物であるのだ。

 少なくとも、サイホーンの動きを少しでも疎外できるのではないか。カシワはそう考えた。

 だが、甘い。既にサカキは、彼の手管を把握しつつある。

 

 

「泥濘で足を取り、突進の速度を殺す作戦か。だがな、フィールドを変えるお前の戦い方は、まだまだ甘い。止めだ、サイホーン。『つのドリル』」

 

「なっ、イシツブテ!」

 

 

 ポケモンの技には、理不尽なものが存在する。

 その一つが一撃必殺。当たれば一発で瀕死へと持っていかれる事になる。

 一応、格上には当たらなかったり、そもそも命中度の低い技ではある。だが、その命中度の低さを補うのもまたトレーナーとしての手腕というもの。

 オーバーキルではあったが、勝負あり。ダメージで真面に動けないイシツブテに、泥のぬかるみで足を取られて走りにくいサイホーンの攻撃を避ける術はなかった。

 倒れたイシツブテを労り、ボールへと収めたカシワ。そして始まるのは、指導だ。

 

 

「手の届かない相手へ奇策を弄するのは、及第点だ。だが、詰めが甘い。搦手を用いるならば、それに特化させるか、搦手を用いる必要がない程度に強くなれ。お前のイシツブテは、既に進化できるレベルだろう?」

 

「うっす……まあ、進化はポケモン達に任せてるし……」

 

「ふむ……トレーナーの中にも進化を遅らせる者は少なからず居る。何故だか分かるか?」

 

「へ?……あ、進化前のポケモンでも進化後と同じ技を速いレベルで覚えるから、だったっけ……」

 

「その通りだ。強力な技を低いレベルで取得できることは、それだけでアドバンテージとなる。だが、進化後の出力に比べれば、劣る事もまた事実だ」

 

 

 サカキの言葉に、カシワも頷きをもって肯定する。

 進化というのは、単に体が大きくなるだけではない。生物的に、より完成度の高い存在へと近づくことにも繋がるのだ。

 技の出力、効果、範囲。どれも、進化後の方が上回る。

 進化しない利点は、技の早期習得とその研鑽。後は、比較的小回りの利く体を活かしてのインファイトだろうか。

 

 

「時期を見誤らないことだな」

 

「へーい」

 

 

 ロケット団所属の人員であったならば、こんな態度をサカキに取った時点で恐ろしい目に遭う事だろう。

 だがしかし、カシワはロケット団のメンバーではない。そして、サカキ自身もその程度の事に目くじらを立てるほどの度量の狭い男ではなかった、

 もちろん、舐め腐った態度のまま自分を利用しようとするならばその限りではない。恥をかかせられれば折檻も辞さない。

 それでも、比較的甘いのはカシワの持つポテンシャルが将来的に役に立つと確信しているから。

 彼の野望は、止まることを知らない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、時は訪れる。

 

 

「食料良し、着替え良し、ボール含めた道具類良し……あ、きのみケースが少し心許ないか」

 

 

 出てから補充しよう。そんな事を考えながら、カシワは見た目よりも丈夫さと機能性で選んだ背負いカバンの中へと荷物を収納していく。

 あと数時間もしないうちに、彼は旅に出る。無論、ただの旅ではないのだが。その証拠に、旅に着ていく丈夫な黒の上着の裏ポケットの中には、赤いRのピンバッジが収められている。

 旅の目的は、二つ。

 一つはここカントー地方におけるジムバッジの獲得。一般的なトレーナーの目的と同じだ。

 問題なのはもう一つ。

 ロケット団への情報提供、並びに下準備。旅人としての立場を使った工作が主な任務となるだろう。

 更に付け加えるならば、表の立場というものをあくまでも壊すことなく、さり気無く行うというのもミソだったりする。

 一般トレーナーのカシワ。このスタンスを崩してはならないのだ。

 

 面倒だとは思う。だが、あの路地裏で燻り続けていた可能性を考慮すれば何の事は無い。

 悪の花道をただ進む。それだけだ。

















とりあえず、ここまでが前節ですね
ここからは、ガンガン進めていきます。元々、見切り発車の代物ですから
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